1568. 不真面目で、すみませんね
私たちの帰路の旅は順調であった。仲間が一人、増えはしたが、特に問題はない。何事もなく旅程は進み、1日程度で、ローズディア公国との境界に着くだろう。
「帰りは、順調すぎて、なんだか拍子抜けだな」
「そうね。でも、ウィルもケガをしているのだもの。このまま、何もない方が、私たちは助かるけど」
「まぁ、そうだよなぁ……」
馬車の中にいることが、よほど暇なのか、ウィルは小窓から上半身をダラリと出して、伸びていた。部下がいるというのに、情けない姿だったので、窘めようかと思ったが、本来の役目を果たせなくて、少し拗ねているようにも見える。
……ウィルにしては、珍しいこともあるのね。本当は、馬で並走したかったのでしょうけど、仕方がないわ。
「ウィル、公都に戻ったら、しばらく休みをもらうつもりなの?」
「いや、1日2日は、公都にいるつもりだけど、領地に戻ろうかと思ってる。レオやミアの顔も見たいしな。あぁ、そういえば……公との謁見があるんだっけ?」
「あるわよ。それには、ウィルも参加する予定だけど?」
「……行かないとダメ?そろそろ、可愛いミアに会いたいんだけど」
「あらあら……、なんだかんだと、ミアを溺愛しているのね」
「離れてみて、わかるもんだよ。親の愛ってやつさ」
「それなら、レオは?」
私は、レオの話をしてみたが、可愛いと思っていても、どうやら、ミアほどではないらしい。ウィルとレオもよい親子関係を築けてはいるけど、ミアへ向ける愛情は、少し違うのだと、私は心の中で呟く。
「レオは、もう、立派な男になったからなぁ。俺なんて、あっという間に、抜いてしまうかもしれないじゃん!」
「ウィルとしたことが、怖いの?」
「怖い?そうだなぁ……、怖いというより、どっちかっていうと、嬉しいかな。まだまだ、レオに負けるつもりはないけど、日々、目まぐるしく成長をしているレオがうらやましくもある」
「それは、私も感じるわね。大人になっても、まだまだ、学ぶことは多いけど、子どもたちの成長おに比べれば、私なんてって思うもの。アンジェラが、私以上の逸材になるとわかっていても、なんだかやるせなく思うこともあるわ」
「親なんて、まだまだ、自分の方が上だ!なんて思っていても、子どもの成長している姿が、眩しく見えるもんだ」
「そうね。ウィルとこんな話ができるとは、思ってもみなかったわ」
「俺もだよ」
私とウィルは、遠くはなれた場所にいる、それぞれの子どもたちのことを思った。今は、何をしているんだろう?ケンカしていないだろうか?今日も元気に1日を過ごせたかなんて、話しながら笑い合っている。
「そういえば、嬢ちゃんの護衛にって、姫さんが孤児院で助けた子らがいただろう?」
「えぇ、いるわよ」
「レオと嬢ちゃんの間くらいの子らばかりだったはずだけど、どうなの?」
「どうって……?」
「その、護衛としてどうかって話」
「護衛になるのは、二人の男の子と専属侍女になったマリアね」
「もう一人は、参謀役か。なんだかんだと、いい人材がそろっているって、イチアには聞いているけど、そうか。その子らも成長しているんだろうな」
「レオの稽古ついでに、みんなも見てあげて」
「わかった。まぁ、レオは、今のところ、姫さんに教えてもらったことを忠実にこなしてるみたいだけど」
「寂しい?」
「いいや、寂しくはない。俺じゃ、レオの潜在能力を底上げするのは難しかっただろうから、任せてよかったと思うよ。体は柔らかいから、ケガもしないし。成長にあった訓練だから、体を痛めることもないしなぁ……。あぁ、エリオットも、そろそろ、嬢ちゃんの剣の指南で、いろいろ考え始めたらしい」
私は、ウィルから、エリオットの相談事を聞いてくすっと笑う。まじめなエリオットは、女の子に剣を教えることに戸惑っているらしい。今は、男の子を相手に、剣術稽古をしながら、来るべき日に備えているという。うちの子は、そこらの男の子より強いから、エリオットに少々キツイ稽古でも大丈夫だと伝えてもらうことにした。
「第二王子の指南役にもなっているからなぁ……アイツ、ちゃんと、休めているのか?」
「ウィルの副隊長しているときよりかは、快適だって話を聞いたことがあるから、大丈夫じゃない?休むときは、きちんと休むように言ってあるし、無理をして、長期離脱される方が、迷惑だって話もしてあるから」
「……姫さんって、時々、えげつない感じだよな。俺でも、そこまで、はっきりは言わないけど」
「言わないとわからないから、言うのよ。言わなくてもわかっているウィルと、まじめに任務をこなすエリオットととは、違うのよ」
「へいへい。不真面目で、すみませんね。これでも、まじめに、警備兵たちの指導はしてるんだけどな」
「知っているわよ。それでも、ウィルは調整ができるでしょ?セバスやエリオットは、常に全身全霊だから、すり減ってしまわないか、心配なのよ」
「アンナリーゼ様、心配はないよ。僕だって、ちゃんと、そのあたりは、考えているから」
「そうじゃないと、ダリアに叱られるだけだろう?」
ウィルに、ダリアの名を出され、ごにょごにょと消え入りそうな声で抗議しているセバスに、私は肩を竦め、ウィルはセバスの肩をポンポンと叩いて、「長生きな!」と言っていた。





