1556. 私の人生でと考えてしまうのが
「そうさね。この町を出たいという若者は、多いと思うけど……職人となると、難しいんじゃないかしら?」
「そうですか」
「一日二日で、おいそれとなれるものじゃないし、親方の元で修業を何年も積み重ねて、やっと、半人前だってきくからね」
私たちは、店主の話に耳を傾け、どこも職人となると、一人前になるまでに時間がかかることを再認識した。ダメ元で職人への接触をしたいと願い出ると、店主は店からでて、心当たりのありそうな職人の工房を教えてくれる。
「望む結果が出るとは思えないけど……この道を真っすぐ行って、坂道をのぼっていくと、大きな樫の木がある。そこの近くに人形工房があるよ。そこは、お弟子さんもいるから、話くらいは聞いてくれるかもしれないね」
店主が指さした道を私たちは見つめる。店主がいうに、大きな樫の木がというので、町並みの先にてっぺんだけ見える大きな木がある。あの木が、そうなのだろうか?と、店主に尋ねると頷いた。私たちは「ありがとう」とお礼を言って、雑貨屋を出る。もちろん、何も買わないというのも考え物なので、手近にあった飲み水を人数分買うことにした。
「こっちこそ、まいどあり」
手を振り、店主が見送ってくれるので、私も大きく手を振り、言われた道を進んでいく。
「……アンナリーゼ様、結構歩きますね?」
「そうね。樫の木がありそうな場所は、少し高台にも見えるし……下から見上げているからか、建物に遮られたりしているから、距離がわかりずらいわね」
セバスの歩調に合わせながら、護衛とともにゆっくりと散策していく。最初にこの町へ入ったときに感じたように、町の人を見る限り、とても住みやすそうな町で、羨ましく感じた。
「はぁ……」
「どうかしましたか?」
「んー、なんか、領主として、この町を見ていると、まだまだ、力不足だなって感じてしまうわね」
「アンナリーゼ様、この町は、アンバー領やコーコナ領の最終形態だと考えれば、まだまだ、2つの領地の発展が見込めるということですよ。焦らず、これまでも、地道に、改革をしてきたじゃないですか」
「そうなんだけどね……」
「まだまだ、これからです!焦る必要はありませんよ」
「うん……、ありがとう、セバス」
「でも、心が晴れませんか?」
「そうね。なるべく、いい形で、アンバー領もコーコナ領も子どもたちに引き継ぎたいと思っているの。私に残された時間が、あとどれくらいなのかわからないけど、その気持ちだけは、変わらないわ」
セバスに背中をポンポンと軽く叩かれる。実は、坂道に差し掛かり、体力のないセバスは、若干バテてきていたようだが、私のこぼした言葉に反応して、励ましてくれるようだ。
背中を叩かれれば、少し不安に思っていた気持ちが、晴れていくようだ。
「……アンナリーゼ様、いくら、一人で焦ってもうまくいかないことも、人を育てるには時間がかかることも、十分なほどわかっているではありませんか。僕たちは、今の僕たちができる最高の仕事をして、明日へ明後日へと繋いでいるのです。アンバー領の再興が目まぐるしく目に見えて改善したことで、『もっと早く』といつの間にか、焦っていませんか?」
「……そうかも」
「アンナリーゼ様だけでなく、僕もウィルもナタリーも、いつかは死にます。アンナリーゼ様は焦る気持ちは、きっと、夢のせいでもあるとは思いますが、歩調を合わせて進まないと、物事はうまくいかないこともわかっているはずですよ」
「そうね。そうなの。どうしても……私の人生でと考えてしまうのが、ダメね。私だけじゃなくて、アンジェラもジョージもいるもの。次の世代へ受け継ぐために、今できることをしなくちゃね。そうよね。そのために、今、人形職人の元へ行っているのもだもの」
坂道を歩いているので、セバスの息はだんだんとはぁはぁ……というふうになってきた。私は、そんなセバスの手を握って、少し先を歩く。
……もう少し、体力をつけないと、年を取ってくると大変になるわ。
「……アンナリーゼ様、少し、休みませんか?」
「いいけど……体力なさすぎない?」
「ぐぅのねも出ません。ナタリーにもダリアにも日ごろから運動をするようにと言われてはいるんですけど……」
「セバスは、事務仕事がどうしても多いからね。運動は元々、苦手だし」
一つ大きな息を吐いているセバス。息が整わなくて、苦しいようだ。
「少し先に座れそうなベンチがあるから、あそこまで、行きましょう。もうすぐよ!頑張りましょう!」
今度は、私がセバスを応援しながら、手を引いて歩く。その様子を護衛が見て、微笑ましそうにしているが、二人とも、セバスの面倒を見てもいいのではないだろうか?
私は、「あと少し、あと少し」とセバスを励まし、浅い呼吸で頑張っているセバスは、私に引きずられるようにして歩いていた。
「ほらっ!本当にあと少しだから、頑張りましょう。あのベンチについたら、休憩よ!」
息切れをして倒れるんじゃないかと言うほど、浅い呼吸のセバスを心配していると、護衛の一人が、セバスを後ろから支えてくれているので、どうにか、休憩するためのベンチにたどり着けそうであった。





