1552. ……小鳥って、一人じゃないのか?
馬車に乗り込むウィルとセバス、ナタリーを見て、私は馬に跨る。最後まで、ウィルが馬車での移動に難色を示していたが、怪我がきちんと治らず、今後、近衛として活躍できないと困るという理由で、私はウィルを馬車に押し込んだ。渋々であったが、体が資本であるウィルにとって、怪我が完治しないことは困るようで、無理をしないと約束をしてくれた。
「たまには、のんびりと、旅を楽しみなさい。いつも、守る側なのだから、守られる側も体験するべきだわ!」
「……姫さんって、結構、意地悪だよね?」
「ウィルのことを思って言っているんだから、わかっているでしょ? あなたは、ローズディアに必要な人なのよ」
馬車の窓から小言をいうウィルに、私の気持ちがわかる機会よと言ってやる。宰相の本宅の前に向かい、軽く挨拶をする。今日、ローズディアへ立つことは、伝えてあるので、玄関の前で、待っていてくれた。
「馬の上から挨拶、失礼します」
「いいえ、大丈夫ですよ。今回は、訪問いただき、ありがとうございます。妻ともども、楽しい時間をすごさせていただきました」
「こちらこそ、貴重な時間をありがとうございました。今後は、このような機会は叶わないかもしれませんが、陛下を含め、宰相ご夫妻のご多幸を願っています」
「アンナリーゼ様たちの旅の安全、そして、みなさまのご多幸を願っています」
宰相と挨拶を交わし、私たちは、宰相の屋敷を後にした。今日、出立のことは、皇帝の耳にも入っていたようで、皇都を出るとき、空砲が空で大きく鳴り響いた。初めて聞いた私たちも馬もかなり驚いたが、皇帝が私たちを歓迎していてくれたことをこの皇都にいる民にも知らせたようだった。
「……もう、来ることはないとはいえ、素敵な場所でしたね」
「そうね。いつかは、敵国となるとはいえ、この国での収穫も多かったわ。もちろん、戦争の多い国だから、武器に関する情報がやはり多いようね」
「……姫さんさ?」
「ん?」
「そんな情報、どうやって手に入れたわけ?」
「小鳥が一緒にこの国に入ってきているのよ」
「……小鳥って、一人じゃないのか?」
「私がもらった小鳥は、元々一羽だったわよ。今は、そこかしこでの諜報活動があるから、私も把握しきれないほどの数になっているそうよ。この国にも、数羽、このまま、この国に住むことになると思うわ」
「……俺は、ときどき、姫さんの周りにいる小鳥について……ローズディアの諜報部より正確過ぎて、怖くなる」
「それは、褒めてもらっているって思っていいのよね?」
「もちろん」というウィルもセバスも苦笑いをしている。私からの情報を元に、動くことがある二人にとって、情報の正確さに加え、多くの情報が手に入ることは、国への多大な貢献に必要なことだった。その場合、二人だけでなく、私も動くことが多い。公であっても、知らない情報に、いつも頭を悩ませることになるのは、この二人だけでなく、公も宰相もだろう。
「さて、帰りは、私の我がままを聞いてもらうことにするわ」
「人形の町だったね。それって、結局、アンバー領の産業のひとつにするってことだよね」
「職人が付いてきてくれたらって条件があるけど……」
「私が何が何でも説得してみせますわ!」
馬車に乗り込んでから、ちくちくと人形用のドレスを作っているナタリーは、膝に人形を乗せている。名を付けたらしく「ナンシー」と呼んでいた。そうやって、人形と一緒にいると、『お嬢様』らしく、ナタリーも可愛らしい令嬢に見える。
「ナタリーは、よっぽど、その人形が気に入ったんだな」
「もちろんです。子ども向けの人形ではなく、大人向けだと思うのです。コレクターがつく品になるでしょう。ラズの作る『お姉さん』のようなね」
「……あれは、なぁ?」
ウィルがセバスに視線を向けると、そっぽを向てしまったセバス。ちょっと、刺激が強いものではあるので、セバスは好まない。ただ、公はコレクターとして、毎年、シリアル付の高級な『お姉さん』を買ってくれる。ガラスのワイン瓶ではあるが、その艶めかしい造りに、魅了されているものは多い。
「ある程度の利益は、物珍しさで確保できると思いますが、さすがに、継続的な収入としては、難しいのではないですか?」
「そうでもないと思うわ。世界に1つしかないものですからね。大量生産できるものはなく、親が子の成長を願って子に似せた人形を造るのだから。今、ローズディアは、年々人口が増えていっている。貴族階級は、安定的な人数がいるし、富裕層も多くなっている」
「そのぶん、農民などとの格差もありますが……」
「そうね。アンバー領では、その格差も考えながら、収益を優先しているけど……他の領地では、かなり開きがあることは、聞いている。今回の人形は、貴族および富裕層を狙った品ではあるから……」
「富裕層が多くなっていているという話は、聞いていますから、何かしらのチャンスではありますね」
私たちは、領地のことは、いつも話し合う中で、領民が手にする利益をいつも考えている。飢えのない暮らしや生活が厳しくない程度の少し余裕ができるくらいを目指して領地運営をしているつもりだ。領民が富めば、領地も富み、その領地を治める私たち貴族も富む。その仕組みを常に考えながら、伝統だけでなく新しいものも取り入れていく政策は、常にセバスたちとともに考えられているのである。





