表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

マイノリティ・リスペクター

ペーニ・スクロール

作者: Monjiroh

 言葉は届かない。


 人は知りたいことしか知りたくないし、知っていることしか楽しめない。思うようにしか思えないし、思い通りにならないものからは、すぐ離れてしまう。


 新しい繋がりを求めて、新しい刺激を求めて、人は未知の物語を求める筈なのに、手に取るのはいつも見知った代わり映えのないものばかり。


 考えることを強要する、脳を酷使するような物語は娯楽ではないとして、拒否される。そんな中、どうやったら他人に求められる物語が描けるのだろう。


 人の興味を引くにはどうしたらいい?


 簡単だ。「おちんちん」とタイプすればいい。


 下ネタは手軽に、多くの人の興味を分かりやすく引いてくれる。大人も子供もお爺ちゃんも、みんなおちんちんが大好きだから。


 おちんちんという言葉は雄弁ではない。だが、ただひたすらに強力だ。そのものには二つの機能しかないはずなのに、僕らはおちんちんという言葉に様々な意味を見い出し、頭の中で夢想してしまう。ちな、ネタはもうギリギリだ。


 ちな、と言えば、コウサカ・チナちゃんはかわいい。


 黒田洋介さんの脚本は女の子が男の夢や心意気を理解し、背中を押してくれるところが最高だ。キララちゃんもヤジマ・キャロラインちゃんも勿論最高だ。まず、声が最高だ。悠木碧さんと斎藤千和さんだから当たり前だ。一体何の話だ。


 ひとりじゃない。僕らは繋がっているから、未来(あす)へと踏み出したくなってしまう。それぞれの夢の色を繋いで、あの空に鮮やかな虹を架けようとしてしまう。つまりはそういう話だ。


 物語の中でおちんちんという言葉を一度見付けてしまうと、読み手はおちんちんに再び出会うため、おちんちんを求め、スワイプ、スクロールを繰り返す。


 そこから更に注意を引くのは簡単だ。人が人に近づくのと同じように、言葉の距離を縮めればいい。つまり、こういうことだ。


 おちんちんスワイプ。


 どういうことだ。何故こんなことに。よく分からないがしかし、人生には挑戦が必要だ。そう、これはトライだ。


 おちんちんスクロール。


 語呂がよろしくない。では、どうすべきか。


 おちんぽスクロール。


「ちん」を「ぽ」にするだけで、とても聞き心地が軽い言葉になる。トラック転生で与えられたチートがおちんぽスクロール。連想されるのは巻物おちんぽを媒体にした呪文詠唱。構築されるスペル。スペルという言葉はよろしくない。おちんぽとスペルが近づくだけで、とても危険な香りが強まってしまう。聞くだに強大な能力を備えていそうなこの言霊を揮い、異世界で無双する。小説家になろう。


 改行のないこのクソ長い段落の文章は、おそらく読まれてしまうのだろう。普段なら読み飛ばされてしまうはずの情報量が、おちんちんの内訳であるというだけで、いとも簡単に摂取されてしまう。


 言葉の原理。物語の機能。その制限の中で生まれる微かな化学反応。他人の中にある共通の既知に働きかけ、面白さを認知させること。


 これが、今の僕の限界だ。


 限界なんて無い。君の言葉に憧れて、この手を伸ばしたんだ。全開出して、泣いて笑って、また曇りのない空の下に踏み出したんだ。そう、あの場所へ向かって。違う、これはトライだ。


 しかし、おちんちんという言葉に秘められた引力は凄まじい。これは最早、魔力と言ってもいい。


 当然、僕もその力には抗えない。おちんちんという言葉を目にしたら、僕の論理は途端に破壊され、蹂躙される。思考の平野にはおちんちんという印象だけが佇み、他には何も残らない。


 それでも、と思う。


 おちんちんに負けないように。この言葉が届きますように。毎日毎秒そう願いながら、僕は言葉を紡いでいる。


 朝早く起きて、外に出る。薄い水色の空を仰ぎ、桃色に染まる雲を探す。瞼を閉じて、今度は橙色の夕焼けを思い描く。その中で、紫色に染まる雲を探す。


 そして、僕は目を開く。


 虚空に向かい、言葉を投げる。宙に放たれたそれは、シャボン玉のようにぱちんと弾け、消えていく。


 ほら、言葉は届かない。

 だから、僕は今日も絶望する。




 おちんちん……。(通算十九回目)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おちんちんの偉大さを知れた。否、思い知らされました。 [一言] こういう真面目な文章で全力でふざけてるのホント好きです。
[良い点] 言葉は分からないけど…おちんちんにカケる情熱は届きました! 本来、私はうんこのほうが好きなのですが…作者様の熱いおちんちん力(ちから)に参ってしまいました。 読み進む毎に(理由は分からな…
[一言] しかし、「御夢安股」には及びますまいてwwwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ