22 捜索開始
「――……というわけで、一緒にレイチェル様を探して欲しい。カーラだけ残って後は直ぐに捜索に出て。第三者には知られないようにこっそりね。もし信用できる知り合いが居るなら手伝って貰っていいから」
「かしこまりました」
レイチェルが攫われたことに気付いた私がまずしたことはカーラ達への協力要請だった。
事件を第三者に知らせてそれが内通者だったりしたら目も当てられないし、そうでなくても騒ぎを起こして犯人に知られた場合のリスクを考えると、身内以外に知らせることが出来なかったので、ここに戻ってきたのだ。
何せボッチだったしね、クロウツィア。
ウィルとシェイルに知らせたいところだけど、まだダンスは続いている状態で舞台に戻ってウィルにたどり着くまでにダンスを申し込まれたら困るし。
ここは招待客一家に一部屋ずつ与えられる休憩室だ。
いくら急いで追いたいといっても一人でドレスのまま昇降機のダクトに入るのは得策じゃないという判断力くらいはある。
「カーラはこの格好じゃ探せないから着替え手伝って、自分でもリボンとか解いて手伝うから」
他の面々が出ていった部屋でカーラに着替えを用意してもらおうとしたら、カーラが遠慮がちに口を開いた。
「お嬢様、私共で探しますので会場に戻られたほうが……」
「却下。今ならまだワインセラーの中に居るだろうけれど、早く助けないと何をされるか分からないんだから。こんな時に呑気にダンスやら歓談やらしてられないよ」
「……かしこまりました」
がっつり装飾されていた髪を解きながら言うと、カーラも諦めてくれたようで手伝ってくれた。髪についていた装飾品を適当に振り落としながら解いて、適当なリボンで一つにくくり直す。
「靴はこちらを。ドレスに関しては、ここをこうして」
「おおおっ」
驚いたことにドレスはスカートが取り外し式になっていた。腰のリボンを解くと細かい沢山のリボンが上半身部分とドレスをつないでいたのだ。それを解くだけで、上半身はそのままながら、下半身はシンプルなドレスに見えて実はズボンになっている。前世でいうスカンツのような状態になっていた。
そして靴はハイヒールパンプスからローヒールの編み上げミニブーツに履き替えるだけで一瞬で戦える格好になった。履き心地からしてつま先に鋼板が入っているので蹴り技だって使える。
カーラ用意周到すぎるわ。
「コルセットは窮屈でしょうが、装甲としての役割もありますので、どうかそのままで」
「マジか」
確かに固いと思っていたけどそこまで固いと思ってなかったよ。道理で重い筈だ。
「マナスールは使えそうですか?」
「駄目そう。とりあえずこの扇子を持っていくよ」
実は家からここまでの道程で、こっそり僅かにマナスールを変化させて実験していたのだけれど。会場どころか建物に入った瞬間に元に戻ってしまいそこからうんともすんとも言わなくなってしまったのだ。
「扇子をお貸し下さい。これをこうして……」
「え、これも何か。ぅわあぉ」
カーラが扇子の小さな金具を外すと、蛇腹状に折りたたまれていた金属部がバラっとほどけて、そこから更に組み立てることで竹刀と同程度の長さの棒になった。扇子としては重いと思っていたけれど、剣として考えるとかなり軽い。
竹刀よりも重いがなんとかなりそうだ。扇子の名残のレースが持ち手を保護してくれるので割と持ちやすいし。
「用意周到すぎますよカーラ様」
「ヴィラント侯爵家の侍女として、常識です」
どんな常識ですか。今度教えて下さい。今は忙しいからいいです。
「とにかく、急ごう」
「お嬢様、こちらから出ましょう。使用人専用の通用口なので今は人が少ない筈です。地下への通路は二か所あるので入れ違いを防ぐ為に、ミンネ達には一般通路側から捜索に行って貰っています。白装束を着たお嬢様は目立ってしまいますので、こちら側からです」
「分かった。……どうしたの? 早く行こう」
カーラが促してくれた扉に入ろうとしたら、神妙な顔を向けられていたので問い返すと。「実力行使は最終手段ですよ?」と、重々しく言われた。
「わっ分かってるよ」
ていうか、私を完全な戦闘態勢にしていおいて言われると納得いかないです。カーラさん。
一般用の通路に比べて、灯りこそついているものの装飾も無く簡素な通路には人っ子一人居なかった。
なるべく音を立てないように床に敷かれた絨毯の上を競歩のように速足で歩く。この突き当りに階段がある筈なのだ。
通路は一本道で、右側は何もない灯りだけが並んだ壁で、左側に時折扉があるだけだった。
階段が見えたところで、不意に扉が開いた。
ギョッとしてそちらを見ると、どこかの家の使用人らしき男性が出てきた。
まだ二十代前半くらいと若い。
明るめの茶髪に青い瞳がチャライケメン感がある。まぁこの世界ではあの髪は地毛なのでただの偏見になってしまうわけだけど。
「あれ? こっちにも部屋があるのかと思ったら通路だったんですね」
「……」
どうやら間違えて開けただけのようだ。カーラと目くばせしあう。この人物をどうするか。協力させるか、振り切るか。……とりあえず寝てて貰うか。
服を見ると、上質な侍従用の服に紋章が刺繍されている。
確かあの紋章はセイムリーア伯爵家の物だ。
「俺は、アグロシア男爵家次男のゼビルと申します。お久しぶりですね、クロウツィア嬢、カーラさん」
え、と二人で目を瞬かせる。顔を見合わせて、知り合い? いいえ。と目で会話していると、ゼビルが苦笑しながら割り込んだ。
「覚えていらっしゃらないようで残念です。先日騎士団でお会いしたんですが……」
「あ、あの時転んだカーラに手を貸してた騎士!」
言われて初めて気づいた。彼とは一度騎士団で会っていたことに。
以前はぼっさぼさの髪で顔に疲れも出ていたので、目の前の髪をきっちりと上げて清潔感のある男性と同一人物だとは全く気付かなかった。
「正確には騎士ではなく、セイムリーア家で侍従兼護衛を務めているので、時々訓練に参加させてもらっているだけなんですがね」
「部屋には貴方だけですか?」
「はい。もう一人は主人に頼まれて出ているので」
カーラが目配せしてきたので、それに頷いて応じる。
今は猫の手も借りたい事態なので、信用して手伝ってもらうことにした。我が家から連れてきたのは侍女だけなので、男手が欲しいと思っていたところだ。
レイチェルが気絶したりしてたら運んでもらわないといけないしね。
全くの初対面の人間よりは信用できるし、実力は未知数だけど護衛も務めているならそれなりに頼りになると思って良いだろう。
事情を話すと二つ返事で協力してくれることになった。
「分かりました。剣が無いのが心許無いですが、武器の持ち込みは禁止されていたのでしょうがないですね」
そういって、暖炉にあった火かき棒を武器として持って出てきた。
ちなみにカーラは格闘術が得意なので、鉄板の付いた指出し手袋をはめている。剣と違ってポケットに収まるので選んだらしい。




