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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
4 王立べラム訓練学校 高等部2
98/134

4-4話 精霊錬金術師5

「おいいい! 聞いてねぇぞ、魔法まで使ってくるなんてええええ! くそがあぁぁぁぁぁ!」


 地面から無数の岩のトゲが突き出して、逃げるパックスを追いかける。


 魔法を放つのは、広大な空間を縦横無尽にかけ巡るエインソーグ種の大型のクモの魔物。走るオレンジ色の髪の少年の前に次々とトゲが突き出る。パックスは器用に横に飛びよけるとクモに向かって氷の魔法を放った。


 槍を模した氷の攻撃。それが射出された瞬間に、魔物が高速で移動する。パックスの攻撃は、むなしくも壁面に刺さって氷のトゲを生み出しただけだった。

 魔物はパックスの攻撃を警戒してか、その動きを止めた。横に並ぶ四つの目が、ルーセントたちをとらえる。


 黒光りする漆黒の極細の体毛を動物のように長く伸ばす魔物は、体長はおよそ三メートル、伸びる脚の長さを合わせれば八メートルほどにもなった。

 黒い体毛の種族はコローレ・ベルッツァと呼ばれている。好物の石炭が多く存在する場所を住みかとして、時に山を崩落させることもある厄介な魔物であった。


 じっと動かず気配を探るクモ。


 ルーセントたちをとらえる四つの目の上にある小さな二つの目が光を放った。

 その目が光った瞬間、天井から土の魔法がルーセントたちを襲う。つららのように伸びる人間の足ほどの大きさのあるトゲが、少年たちをめがけて射出された。


 トゲは緩やかに追尾しながら五人を追い込む。


 全員が魔法や武器を使って回避すると、その隙をついてルーセントが間合いを詰めた。

 しかし、コローレ・ベルッツァはその見た目に反した機敏な動きで、猛追してくる少年との距離を開けた。そして、次の瞬間には糸をはき出してルーセントを絡め捕ろうとする。


「くそっ! 速い上に糸のせいで近寄れない。みんな、距離をとって回避に専念して!」

「もうやってるよ! それより、何でおればっかり狙われるんだよ!」


 コローレ・ベルッツァは、苦手な火の魔法を使うルーセント、フェリシア、ヴィラの三人を避けていた。本能的に強者だと認識するティアは最初から除外していて、執拗(しつよう)にパックスを狙っていた。

 ルーセントが矛先を変えようとフレイムアローを放つが、魔物は着弾寸前に身体を小刻みに動かして回避する。


「くそ! また避けられた。何で当たらないんだ?」

「まるで当たる場所が分かっているみたいね」


 不満をもらすルーセントに、フェリシアが回避行動をとるコローレ・ベルッツァを分析する。

 フェリシアの言葉に、ルーセントは「それなら」と、あきらめることなく、魔法の発動体勢をとる。


 片手をあげたルーセントの周囲に、青く燃えさかる大型の三本の槍が現れた。

 周りの景色をゆがめ、揺らめく高温の魔法槍、皇王火炎槍と名付けられた魔法が一本ずつ魔物に向かっていった。


 一直線にクモに向かっていく火炎槍、タイミングを見計らって魔物が避けようとしたが、その瞬間、火炎槍は六メートル手前で五つに分かれた。合計で十五発の火炎槍がコローレ・ベルッツァを襲う。回避不能な攻撃に、ルーセントの魔法は壁面を巻き込んでクモにダメージを与えた。


 魔物が「キシャァァァァァァ!」と声を出してもだえて地面へと落ちる。


 絶好な機会の到来にルーセント、ティアが瞬時に動いた。

 魔物に刀と二本の短刀が迫る。


 その気配に六個の目が光った。


 クモとルーセント、ティアの間に、地面を盛り上げたトゲの波が何重にも押し寄せる。

 予想外の攻撃に、二人の少年、少女の目が見開かれる。すでに速度に乗った身体では止まることができなかった。


 ルーセントは、とっさに空中に飛び上がりながら回転しつつも乗り越えようとする。ティアは風の魔法を使ってさらに上空へと上がると、手にする二本の短刀を魔物に向かって投げた。

 ルーセントの方は高さが足りずに、左肩から腕をトゲに強打してしまう。体勢を崩した身体は、さらに襲いかかるトゲの波に飲み込まれてしまう。身につける鎧に次々と衝撃が加わる。全身に流れる鈍い痛みと鋭い痛みとともに地面へと転がった。足からは、軽くない傷に血が流れる。ティアの短刀はむなしくもコローレ・ベルッツァの身体に弾かれて金属音をたてるだけだった。


 魔物が体勢を整えると、横になっているルーセントに目標を定める。八本の脚が小気味良く動くと、銀髪の少年に迫った。

 ルーセントは、トゲに触れたときに刀を手放して丸腰だった。左手を地面に立ち上がろうとしたが間に合わない。


 金色の目がクモをにらむ。


 そのとき「させませんよ!」と風の刃が頭上から魔物に襲いかかった。ティアが放った魔法に、コローレ・ベルッツァが跳躍する。それと同時にすれ違う風の刃、何発かは被弾するも、二本の鋭い鎌のような鋼の前肢(ぜんし)が、ティアを斬り裂こうと振るわれた。


「ちっ!」ティアは舌打ちとともに空中から新しい短刀を取り出すと「これくらい!」といって受け止めた。


 しかし、巨体から繰り出される一撃に空中にいたティアが弾き飛ばされてしまった。

 魔物が天井にクモの糸をくっつけると方向転換してルーセントに向かう。


「このままじゃまずい!」


 ヴィラがルーセントから預かった弓を手にする。矢筒から灰色の金属の矢を取り出すとつがえて放った。


「ん? これは、ひょっとすると……」


 大きな弓を手にするヴィラが何かに気づくと、今度は黒い矢、カーリド合金鋼製の矢を取り出した。

 再び弓を構えるヴィラ、最初に放った矢が魔物の脚をかすめて切断する。その痛みにクモは攻撃をやめて回避行動をとる。再び壁面へと戻って天井へと駆けていく。そこをヴィラが狙っていた。


 ルーセントから預かった弓は、ヴィラの手で変化していた。二メートルもある黒い金属の弓は、持ち手の上部が開いていて、矢を通せるようになっていた。


 軽い音をたててヴィラの手から矢が放たれる。


 その矢は風の螺旋(らせん)を描いて白く輝いた。光にクモが怯むと、ついに矢がその巨体の一部を貫いて壁を粉砕する。


 傷口からあふれでる体液。


 そこに矢から七色に放たれる光の筋が、さらにクモの身体を焼いた。魔物はクモの糸でかろうじて身体を保つと壁に戻る。だが、そのダメージはひどく、機敏であった動きは愚鈍となっていた。


「おい、なんだその弓。すごすぎないか?」


 自分もあとで使わせてくれよ、と驚くパックスが弓に釘付けとなっていた。ルーセントも今までとは違う存在に驚きを隠せないでいた。


 それもそのはず、その昔にルーセントが拾った弓は、千年前に錬金王と呼ばれた男が、完全なる趣味によって七年もの歳月をかけて作り上げた究極の逸品だった。


 その名は『アルティメット・エレメンタル』精霊錬金術のすべてを使って作られている。もともとはエンペラー種の魔物を倒すために設計されていた。その威力は折り紙つきだ。ヴィラが使ったエレメンタルショットモードは、魔力を吸収して変性する特性を持つ“カーリド合金鋼製”の矢を使用するときにのみ、全属性の攻撃をまとった矢を発動することができる。


 ヴィラの一撃で劣性に傾いていた戦況が優勢に変わった。ルーセントは刀を拾うと、戦闘体勢に入った。クモに弾き飛ばされたティアも戻ってきた。


「大丈夫、ティア?」ルーセントが心配して声をかける。

「私は平気ですよ。それより、どう頑張ってもルーセントの方が重傷に見えますよ。結構な血が出てますが、足は平気ですか?」


 ルーセントの制服が赤く染まっている。誰が見ても痛々しいその姿にティアだけではなく、フェリシアも駆け寄ろうとする。だが、ルーセントが魔物から視線を外すことなく、片手を突きだして止めた。目だけを動かして平気だ、と伝える。


「来るぞ」ルーセントが刀を魔物に向けた。


 落ち着きを取り戻したコローレ・ベルッツァの目が赤く光る。


 洞窟全体から、五人に向けて波打つように突き出る細く鋭い岩のトゲ。地面から壁から突き出る止まる気配がないそのトゲに、全員が回避行動に移る。


 迫る岩を処理するために、フェリシアが水の魔法で広範囲をカバーする。四方から突き伸びるトゲを器用によけると、その足元から水があふれだす。行雲流水と名付けられた魔法は、足元で渦を巻く四本の水が地面を走った。その水が柱を立てると球体へと変わった。そこから次から次へと水の刃が生まれでて、洞窟全体を駆け巡る。刃は吸い込まれるように魔物が放ったトゲを粉砕して消滅していく。それを見た魔物がさらに魔法を放つ。


 どんどんと増えていくトゲの数に、フェリシアの魔法では対処できなくなっていった。


 それでも、ルーセント、ティアは難なくよけてはいたが、ヴィラがついに捕まってしまう。地面から突き出るトゲに右の太ももを、さらに伸びるトゲに腕を、その肉体を(えぐ)っていった。

 左手で腕を押さえて倒れるようにうずくまるヴィラ。にじみ出てくる深紅の血液がその手を染める。


 しかし、餌食となったのはヴィラだけではなかった。


「ぐぁああああああああああああああああああ!」


 悲痛な叫び声が洞窟に響き渡る。


「パックス!」声に反応したルーセントが叫ぶ。


 予測不能な不規則な魔法に、足がもつれて逃げ遅れたパックスが犠牲となる。

 響き渡る大絶叫に、全員の目がパックスに向けられた。

 そこには壁から突き出たトゲが左肩を貫通していた。それだけではなく、地面から前後に腹部に二本、壁からはさらに二本、それはふくらはぎと太ももにも突き刺さっていた。


 全身が串刺しになったパックスが、ぐったりと顔を垂れる。役目を終えたトゲが消えると、滑り落ちるように倒れた。大量の血液が身体からあふれだす。

 激痛に呻き続けるパックスを見て、ルーセントが顔をゆがませた。魔物をにらみ付けると、その怒りをコローレベルッツァにぶつける。


「おまえぇぇぇぇぇぇぇ!」


 叫ぶと同時に、ルーセントの刀が炎と雷に包まれる。


 踏み込む地面が破砕すると、視認できる速度を越えてコローレベルッツァへと迫る。その速度に反応できなかった魔物が左の前肢を切断されてしまう。さらに止まることなく、左足を軸に反転すると、そのままの勢いを利用して右脚も切断した。


 コローレベルッツァは、たえがたい激痛に脚をばたつかせると、天井に向かって跳躍した。糸をはき出すと弾かれるように壁へと逃げる。

 そこに、空洞内に風が巻き起こる。いつの間にかかけ出していたティアが壁を蹴ると、着地体勢に入っていたコローレベルッツァとすれ違う。


「許しませんよ」


 怒りを帯びた低い声が、刺すような鋭いまなざしが、普段のにこやかな表情を一変させる。

 脚の間をすり抜けて両手に構える短刀を胴体側面に一刀する。しかし、斬りつける刃はコローレ・ベルッツァの身体に触れた瞬間、甲高い音を立てて折れてしまう。


 ティアは舌打ちとともに身体を反転させると、もう一本の短刀を投げた。


 目を狙った一撃は、身体を反転させるコローレベルッツァの左脚の外郭に刺さるが外れてしまう。

 丸腰となって深追いをさけたティアは、風の魔法で足場を作ると、空中で二度ほど後方へバク転しながら空洞内の中央へと降り立った。


「ティア、下がって、武器が……」

「問題ありません」ティアのその目は、いまだに魔物をにらみつけていた。


 ルーセントは、武器をなくしたティアにうしろへ下がるように伝えるが、ティアがその言葉をさえぎった。

 両手を広げたティアが腕を後方に下げると、手の周辺の空間がゆがむ。何かをつかむように手を握ると、そのまま腕を前方に動かし交差させる。そこには、新たな短刀が逆手で握り締められていた。


「まだ行けますよ」

「とことん便利な能力だね。ところでティア? 試したいことがあるんだけど……」


 何かを思い付いたルーセントは、ティアに作戦を伝えるため耳元で何かをささやいた。

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