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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
3 王立べラム訓練学校 高等部1
86/134

3-24話 零宝山の攻防5

 ディフィニクスたちの部隊が進軍中に、ティアからの報告で伏兵の存在を知らされた。人知れずに始末すると、計画通りに布陣を完成させて南東門の前でジャフール山賊の大王の兄弟と対峙していた。

 門の上、見張り台の上に立つ山賊を率いる兄弟の一人、弟のロットが前将軍を煽る。


「まったく諦めの悪いチキン野郎どもだな! 前回無様に逃げ帰った事、もう忘れやがったのか? さっさと家に帰ってママに抱きついてろよ!」


 大声で話す男は、ずんぐりむっくりとした体格に金属鎧の上から毛皮を羽織っていた。その肌は日焼けのせいか黒い肌をしていた。

 四角い顔から黒いヒゲを大量に生やすロットが話し終えると、周囲からは大勢の嘲笑う声が響き渡る。

 将軍はニヤリと笑うと、右手に持っていた偃月刀(えんげつとう)を右肩に預けた。


「ああ、ふがいなくて腹立しい限りだ。だがな、別に俺が負けた訳じゃねぇ。前がどうだろうとどうでもいい。いま投降するのなら命の保証はしてやる。刃向かうなら殺す。選べ」


 手にする偃月刀で右肩を軽く何度かたたく将軍は、殺気を放ちながら余裕を浮かべる。

 そしてロットに警告すると答えを待った。

 将軍の殺気に気圧されるロット、その様子を見て兄のシアンテが入れ代わる。


「どうして俺らよりも“弱い”お前らに、俺が従わなければならん? 朝も早くに迷惑だ。見逃してやるからさっさとうせろ!」

「ほお、大したもんだな。お前はメーデル王国の軍人か? 名は何と言う?」

「勘違いするな『元』軍人だ。俺はシアンテ・ダカータ、こっちは弟のロットだ。王都に帰って刻んどけ! ダカータ兄弟に負けて(ひざまず)いたってな。毎月三億リーフと食い物を貢ぐなら襲わないでおいてやるぞ」


 あくまでも上に立ってディフィニクスを見下して話すシアンテ。弟のロットと同じような格好をしているが、弟よりは細身であった。

 二人の言葉に苛立ちを見せる将軍以下の兵士たち。

 一気に高まる緊張感にディフィニクスが笑い声を上げた。しかし、その目は笑ってはいなかった。


「面白い野郎だ。この俺にたかる気か? だが相手は選べよ。あぁそうだ、せっかくここまで来て手ぶらじゃ礼儀に反する。土産を持ってきた受け取れ」


 将軍の発する冷めた重低音の声が周囲を支配する。

 先ほどまで騒がしかった場所が一瞬で静まり返った。

 将軍が肩にかけていた偃月刀(えんげつとう)の刃先を地面に向けた。

 その瞬間に、手にする武器全体を紅蓮の炎がを包み込んだ。

 周囲の景色が揺らめくほどに燃え盛る偃月刀を、将軍は逆手に持ち変えて木門に向けて放った。

 突然の行動に門の上にいる兄弟の目が驚きに見開いた。


「くそっ! 全員下がれ! 門から離れろ!」


 将軍の行動を目にしたシアンテは、すぐに叫び声を上げて見張り台を飛び降りた。

 唸りを上げて高速で飛翔するディフィニクスの武器が木門に突き刺さると爆発を引き起こした。

 門を中心に半径数メートルを木っ端微塵に吹き飛ばす。

 将軍は土煙に覆われている門のあった場所に向けて言葉を発する。


「土産は気に入ってもらえたか? 逃亡兵ごときが調子に乗るな!」


 将軍の怒号が響いてそのまま剣を引き抜いた。そのまま部隊に向けて号令を飛ばす。


「第一部隊、進め!」


 将軍の命令を合図に、二部隊が前進して将軍を追い抜いた。ぽっかりと空いた門の手前で攻撃体勢にはいる。

 土煙が収まった門のあとには、爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた山賊がうめいていた。飛び散った瓦礫(がれき)の被害もあって数十人の死傷者が横たわる。

 逃げ遅れて爆風に飛ばされたシアンテとロットは、身体中に傷を負っていた。肌の色を変えるほどのやけどが痛々しさを醸し出す。

 部下たちのポーションのおかげでなんとか身体を回復させると、怒りを込めた声で手下に命令を下す。


「くそっ……たれが! お前ら、あいつを殺せ!」


 命令を受けた山賊は剣や刀、朴刀(ぼくとう)や持ち手の長い身幅のある大桿刀(だいかんとう)など、多種多用な武器を手にディフィニクスの軍に向けて攻撃を開始する。

 将軍は向かってくる山賊に剣を降り下ろし「迎え撃て」と命を下した。



 光月暦一〇〇六年 六月 早朝五時四十分

 ディフィニクス前将軍が率いる王国軍と、ダカータ兄弟が率いるジャフール山賊との戦が始まった。

 門手前の開けた空間でぶつかり合う両軍は、一進一退の攻防を繰り広げる。

 王国軍が山賊を押し込めば、次から次へと現れる敵に押し戻されて拮抗した状態が続く。

 将軍は第三、第四部隊に魔法攻撃の指示を飛ばした。

 ぶつかり合う前線の後方、門があった奥を狙ってさまざまな属性の魔法の矢が尾を引き飛び去っていく。

 山賊側も負けじと魔法を放ち迎撃する。

 上級守護者が混じる中級守護者で固められ、統率の取れている将軍の軍とは違い、山賊軍は練度の低い下級守護者が六割近くを占めていた。


 圧倒的能力差によって、山賊側は被弾する数を増やしていく。敵拠点と門をつなぐ橋からは少なくない山賊たちが落下していく様子も見てとれた。

 魔法攻撃により山賊軍の流れが止まると、前線の王国軍が一気に攻め上げ押し込んでいく。

 勢いに飲まれた山賊軍は、耐えきれずに後退を始めた。

 徐々に後退する山賊軍を追い詰めていく王国軍。

 門のあった場所を過ぎてコロント河の支流が流れる崖を渡る橋を境に対峙する。

 山賊軍の後方、ダカータ兄弟が状況の確認と作戦を立てていた。

 弟のロットが兄のシアンテに状況を報告する。


「兄者、まずいぞ。こっちは七百近くがやられた。それに比べて、向こうは五十そこそこだぞ。このままじゃ……」

「くそ! あいつら強すぎだろう。あの軍旗の紋章、見たことある気がするんだが……何者だ? とにかく、このままじゃ駄目だ。北の陣営から援軍を呼んでこい。それと山中に隠したやつらも呼んで囲うぞ。いくらあいつが無敵だとしても千か二千が限界だろ。こっちはあと四千はいる。本営の近くまで下がって仕留めてやる」


 ロットは兄の指示に従って伝令を五人ほど見繕って各陣営へと走らせる。

 橋を挟み山賊軍とにらみ合う王国軍は、相手が動くのを待っていた。

 ロットが伝令を走らせ少したった頃、将軍の元へ諜報部隊の一人が報告に入る。


「前将軍、山賊軍が援軍の伝令を走らせたようです」

「分かった。下がれ」


 将軍は視線を変えることなく頷き答えると、それを聞いていたウォルビスが話しかけてきた。


「兄貴、ここまでは計画通りだが、このあとはどうする? 攻めてる最中に橋を落とされたらヤバイぞ」

「そうだな、橋に関しては土魔法を使えるやつで補強させておけば問題ないだろう。第一部隊の後方に付けておけ。あとは、相手の陣地まで攻めたら援軍が来るはずだ。退路を常に確保しておけ。援軍が来たら後退を始めるぞ。それと、第三部隊を櫓の対応に当てろ」


 ウォルビスは将軍の指示を実行するため、一度下がって指示を与えていく。

 数十分にも及ぶにらみ合いが続いたあと、相手の援軍が本営と北側陣営を隔てる防御壁に着いた頃を見計らってディフィニクスが動いた。


「第一部隊、前へ! 第四部隊は魔法攻撃の用意!」


 将軍の命により、第一部隊が橋の前に布陣して間隔を開けて第四部隊が位置に着いた。

 第二部隊は隊の東側を第一、第四部隊をつなぐように縦に長く布陣する。第三部隊は西側を第二部隊と同じように布陣し、櫓からの魔法攻撃に備える。

 山賊軍は王国軍の動きを見て迎撃の体勢をとる。

 両軍が再び静けさを取り戻すと、将軍の声が響き渡った。


「第四部隊! 魔法攻撃開始!」

「迎撃しろ!」


 前将軍の声とともにシアンテの迎撃命令もコロント河支流に響き渡った。

 両軍から放たれる魔法の光跡が、橋の中央上空で衝突し爆発を起こす。その周囲をさまざまな色に染まる。

 爆風が橋を、両軍を吹き抜けていく。

 撃ち合いが終わると、再び将軍の短い声が響き渡る。


「全軍突撃!」

「押し返せ!」


 将軍の声に答えるようにシアンテの声が響く。

 声を上げながら進む両軍が再び橋の上で衝突する。

 ディフィニクス、ウォルビスも前線に立って相手を倒していく。

 前将軍が二人を倒せばウォルビスが競うように二人、三人と斬り倒していく。山賊軍は将軍に狙いを定めて攻撃を重ねていく。

 複数の敵を相手にする将軍は一人の敵から大桿刀(だいかんとう)を奪う。そして、舞い散る落ち葉を払うかのように、踊るように死体の山を築いていく。

 立ちはだかる悪魔のごとき将軍を目の前にした山賊軍は恐れ怯え、戦意をなくして自然と後退を始めた。

 それを見たシアンテは、イラつきとともに部隊を後退させた。

 シアンテは苛立ちを抑えながらも、無事に計画通りに本営の近くまで王国軍をおびき寄せた。

 そして、合図を送り伏兵と援軍を参戦させる。

 しかし、伏兵はすでにディフィニクスの軍によって排除されていて現れることがなかった。


 錯綜する山賊軍は、援軍のみで持ちこたえていた。

 対応する王国軍は、辛うじて退路を残し応戦していた。

 戦力差は三百対四千、徐々に劣勢になっていく王国軍。

 ディフィニクスは早めに後退の指示を出して橋を戻っていく。そのまま門のあった場所まで押し返されていった。

 追撃をかける山賊軍だが、橋を渡れる人数にも限界があってうまくはいかなかった。

 相手がまごついている間に軍を立て直す王国軍だったが、多勢に無勢でさらに後退を余儀なくされていった。

 王国軍は後退に後退を繰り返してついに二手に分かれる山道まで追い詰められる。

 千人ほどの隊列が縦に長く延びきり密集する山賊軍、被害を出しながらも敵の勢いをかわしていく王国軍。


 対応に限界を迎えつつあったディフィニクスは信号弾を二発打ち上げる。

 信号弾を打ち上げた瞬間、河の斜面に置いた伏兵が二手に別れて山賊軍後方と敵の拠点側を襲撃する。

 山賊軍後方に混乱が生じると、それに答えるように将軍がいる前線の後方の山から無数の魔法攻撃が山賊軍を襲撃した。

 混乱を極める山賊軍は指揮系統がまひして烏合の衆と成り下がった。その集団のなかでは、武器を捨てて投降する者、逃げ出す者が相次いだ。

 山中の伏兵と合流したディフィニクスはすぐに進軍を命ずる。

 五百ほどいる山中の伏兵から、二百人が投降する山賊の捕縛に充てられた。

 そのあとに河の伏兵と合流した将軍は、付き従っていた諜報部隊の兵に指示を送る。

 指示を受けた諜報部隊兵はすぐに移動を開始して信号弾を打ち上げた。

 甲高い音とともに煙を上げて昇っていく信号弾は、炸裂音(さくれつおん)と同時にまばゆい光を発光させた。

 ゆっくり落ちていく光の球体を確認すると、北側の部隊が動き出した。

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