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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
3 王立べラム訓練学校 高等部1
81/134

3-19話 オルマンの街2

 ルーセントたちがオルマンの街について二日後、偵察に出掛けているティアを除いた四人は、街で情報を集めるために散策していた。

 外から店をのぞき、品物や値段などを確認していたフェリシアが振り向く。


「山賊の影響かな? あんまり品質の良さそうなのは見かけないね。その割りには値段も高いし」

「たしかに、そこの野菜なんてしおれているのに王都より三割くらい高い」


 フェリシアがこぼす言葉に反応するのはヴィラだった。

 錬金で使うアイテムには植物を使うものが多い。そのため、薬草や野菜類などの値段には詳しかった。

 歩きながら他の店をうかがうヴィラが続ける。


「野菜とか食品類はギルドじゃほとんど扱ってないから仕方ないね。それにしても、ここはずいぶんと辛気くさいところだね」


 ヴィラの言葉にみんなが周囲を見渡す。

 活気がないわけではなかったが、そこまであるともいえなかった。街には大きな道が中央部を貫いているが、その大通りには走る馬車も少なく人通りもまばら。すれ違う誰もがうつむきがちに歩いていた。

 ルーセントは、前日に前将軍から聞いた話を思い出す。


「将軍が言ってたけど、引っ越しする人が多いらしいよ。次に狙われるのはここなんじゃないかって、うわさになってるみたい」

「無理もないわね。私だって同じ立場なら逃げるもん。早く解決できたらいいのにね」


 ルーセントの言葉に反応するフェリシアが気の毒に感じて困った顔をする。

 ルーセントたちは早く解決ができるように、と少しでも多くの情報を集めるために歩みを進めた。

 そこで、通りがかった店から荒くれ者のような雰囲気の男が一人出てきた。


「よお、兄さんたち。その制服はドラグミス商会のだろ? 仕入れに来たのかい?」

「え? あ、はい。でも、仕入れじゃなくて納品です。山賊の影響で物資不足だって事らしいので」


 突然に話しかけられて困惑するルーセントだったが、若干だけ男に怪しさを感じながらも、なんとか話を会わせてそつなく答えていった。


「おぉ、そりゃあ助かるぜ。見ての通り、山賊が来るってうわさで閑散としちまってな。辛気くせぇったらありゃしねぇ。他からの商会の奴らもぱったり来なくなっちまって困ってたんだ」

「おじさんの店は家具屋ですか?」


 ルーセントは、男が出てきた建物を一瞥すると、そこに置かれていた商品を見て答えた。


「おうよ、日用品も少しだけど扱ってるぞ。まぁ、うちの商品はギルドから仕入れる物で作れるのがほとんどだし、他所の工場から買い付けてくるから問題はねぇんだけどな。だけど、問題は食いもんだな。しょうもねぇのしか置いてないし、高くてやってらんねぇよ」


 家具屋の男はルーセントの質問に答えると、街の現状について悲観に暮れていた。

 男と話し込んでいたとき、気づけば周囲にはむさ苦しい男たちが近くを歩いていた。

 ルーセントたちが周囲の人物に気を取られていると、店の男が話を戻してきた。


「ところで、あんたたちが今度来るのはいつなんだ? こんな状態だ、また来てくれるんだろ?」

「そう、ですね。詳しいことはまだ聞いてないので分かりませんが、今回持ってきたのが半月から持って一カ月ほどらしいのでそれ以降ですかね」


 ルーセントの言葉に店主が少し考え込むと、何かに納得したようにうなずいた。そして、再びルーセントに問いかける。


「まぁそんなもんか。にしても、やっぱり大商会ともなると護衛は強いんだろう? いつも何人くらい連れてくるんだ?」


 ルーセントが店主の質問にどう答えていいか迷っていると、横からヴィラが割り込んできた。


「申し訳ありません。護衛に関しては機密事項になっているので話せないんです。ただ、そこらの魔物では障害にすらならない、とだけ伝えておきます。もう少し相場を調べないといけないのでこれで失礼します」


 ヴィラの会話を最後に、ルーセントたちは家具屋を離れた。

 ある程度離れると、ルーセントはヴィラに礼を言う。

 ヴィラは爽やかな笑顔で「構わないよ」と答えるも、すぐに冴えない表情に戻った。

 そこにパックスが割り込む。


「なぁ、あのおっさん、なんか変じゃなかったか? どこがって聞かれると困るけどよ」

「ははは、パックスらしいね。でもたぶん“あの人”じゃなくて“あの人たち”かな」


 笑いながら答えるルーセントに、パックスは疑問に満ちあふれた顔を浮かべた。


「あの人たち? あの店にはおっさんしか居なかっただろ?」

「気付かなかったの? 店の回りにいた人たちよ。こっちをうかがうように見てたでしょ? 殺気立たせてね」


 パックスに答えたのはフェリシアだった。栗色の髪をなびかせるフェリシアは、やれやれといった感じでパックスに教えた。

 パックスは頭を掻きながらヴィラの方を向いた。


「気付いたか?」

「いや、まったく。さすがは戦闘科だね」


 ヴィラが二人を褒めると、それを聞いたパックスが、顔を掻きながらボソッとつぶやく。


「おれも戦闘科なんだけどな……」

「あ~、うん。さて、今日はもう宿に戻ろうか? ブービーだからってそんなに落ち込むことはないよ」

「おい! 誰だよ、こいつにブービーって教えたやつ!」


 ヴィラが自分に向いた矛先をうまく交わすと、いまだに怒るパックスをルーセントとフェリシアがなだめた。

 そして、しんみりとした街の雰囲気を壊すように騒がしく宿へと戻っていった。


 次の日、レイラとティアが偵察を終えて将軍に報告を行っていた。将軍は二人をねぎらった。


「ご苦労だったな。で、砦は見付けたか?」

「はい、ここより北へ十キロ、零宝山の中腹に根城を構えていました」


 将軍はレイラの報告を聞いて、一度だけ大きく息を吸ってはき出した。そして、何があったかを思い出そうと顔をしかめる。


「零宝山か……。あそこはたしか、金山が発見されて街が一つあったはずだな」

「はい、今は廃坑になって無人になっているかと。恐らくそこを利用しているのでしょう。ティア、見取り図を」


 ティアが待ってました、と言わんばかりに机の上に布を広げた。そこに書かれている砦の見取り図を三人が見おろす。その詳細に、精密に描かれている地図を見て、将軍が思わず感嘆の声を漏らした。


「おお! これは見事な地図だな。ティアが描いたのか?」

「ふっふっふ、もちろんですよ。絵は昔から得意でしたから」


 見取り図を眺める将軍に、レイラが偵察してきた情報を伝えていく。


「まず、砦はコロント河本流のすぐ西に位置しております。敷地は北から南方向に二キロほどで、東西は最大で一キロあるかどうかと言ったところです」

「思ったより広いな。ちなみに、この河を渡って東からは攻められそうか?」


 将軍は見取り図を見ながら指を差しつつ、レイラの報告に一つ一つ反応していく。

 レイラは思い出しながら、聞かれたことに淡々と答える。


「いえ、恐らく不可能かと。砦から河は丸見えです。それに、河と砦には急斜面があります。どうやっても登っている最中に奇襲を受けてしまうでしょう。それに、もし登れたとしても三メートルほどの高さがある防護壁が邪魔をするので、どちらにしても侵入は不可能です」

「そうか。この黒い太い線で描かれてるのが防護壁だな。これはどんな構造をしている?」

「はい。恐らくですが、杭を打ち込み土を盛った上から、丸太を縦に半分にした物を打ち付けているかと。防護壁の上は人がすれ違えるほどの広さがあります。城壁と言っても差し支えがありません」

「まだここに移り住んで半年そこそこだろ? どうやって造り上げたんだ? これを見る限り、砦の敷地を全部囲ってるんだぞ?」


 将軍の言葉に、レイラとティアは気まずそうにお互いの顔を見た。

 そして、ティアが調べて見たままを話す。


「山賊以外にも、さらわれたと思われる一般人がいっぱいいました」

「襲撃した村から連れてきたのだと思われますが、ざっと見ただけでも千人近くはいるかと」


 ティアの言葉に、レイラが補足を加えた。

 将軍は感心したようにうなずくと、素朴な疑問を口にする。


「短期間でよく数えられたな、どうやったんだ?」

「それが、五十人単位で分けて管理しているようでしたので、そんなに難しくはありませんでした」

「なるほど、そいつはゴロツキの仕業ではないな。おそらくは元軍人と言ったところか。人質だけでも厄介だって言うのに、面倒臭いな」


 将軍はうんざりした様子で机に両手をついた。さらに、地図に指をはわせてなぞる。


「それで、この見取り図の防護壁と通路の上を通る空白の部分はなんだ?」

「それは、門扉ですね。丸太を組み合わせて作られているので重さもあり頑丈です。北に二カ所、北西に三カ所、南西に二カ所、南東に一カ所、さらにこの本営と隔てられた中央南側にも二カ所あります。いずれも門の近くには陣営があって、常に交代で哨戒しています」

「砦と言うよりは、これはもはや城だな。陣は全部で本営を含めて六カ所か。南から攻めれば南東から逃げられる。北へ二手に別れて逃げられた場合、追撃すれば伏兵がお出迎えってところか。おまけに周辺を高い山々に囲まれていて、侵入経路は山道がある四カ所か。ここにも伏兵を置かれたらどうにもならんな。天然の要害にして難攻不落か」


 将軍は厄介な任務を与えられたな、と苦慮をする。

 大軍での進軍はまず不可能。少数で向かわなければならずに見取り図をにらみつけた。

 将軍は南に流れる砦の一部を分断しているコロント河の支流に目をつけるも、たいして期待をしていなさそうな目で問いかける。


「で、この南に流れる川からは侵入できそうか?」

「無理ですね。垂直の切り立った崖が三十メートルほどの高さでそびえ立っています。それに、川に沿って伸びる通路には、一定間隔で(やぐら)が立ち並んでいるため見つかってしまいます」

「どうやって落とせばいいんだよ? いっそ南の山から魔法をぶっぱなして燃やすか?」

「一般人まで焦がしてもいいなら否定はしませんが」

「言ってみただけだ」


 ため息をはきながら、見取り図から目を離せずに苦悶(くもん)の表情を浮かべる将軍が不意に顔をあげる。


「忘れてた。昨日ルーセントたちから報告があったが、どうやらこの街に山賊の一部が侵入して生活をしているようだ。言動行動には気を付けろよ」

「それは、たしかですか?」


 将軍は軽くうなずいて肯定とする。

 続けて二人に話しかける。


「間違いないな、他のやつにも調べさせた。家具屋のやつが、山賊から商品を乗せた馬車を受け取っているのを確認している。食い物を乗せた馬車と引き換えにな」

「そう言えば畑の他にも、さらわれた人の一部が家具や食器類を作らされているのを見ましたね。どうしてでしょうか?」


 ティアが将軍の言葉を聞いて疑問を口にする。

 将軍は、ティアを見ながら椅子に座った。


「簡単だ。賊と捕虜を会わせれば六千人はいる。そんな大量の食料を確保するために、その都度村や街を襲ってはいられないだろ。だから農業やら細工などをさせて、その稼ぎからまかなわせているんだろう。もちろんどこぞで商隊を襲ってもいるだろうがな。それに、情報を得るためには、やつらにも都合がいい」


 説明を聞いたティアは「なるほど」と納得する。

 ひととおりの報告が終わると、将軍が二人に今後の予定を伝える。


「今後だが、昨日の夜に別動隊からの書状が届いた。向こうもこっちと同じような状況だそうだ。よって、これ以上ここにいても無駄だ。明日、王都に戻るから準備をしておけ。そのあとのことは作戦が決まり次第伝える。以上だ」


 将軍の言葉を最後に、二人が部屋を出ていく。

 この日は、夜まで攻略に悩む将軍のため息が聞こえたと言う。

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