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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
3 王立べラム訓練学校 高等部1
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3-8話 借刀殺人3

 宿についたルーセントたちは、まずカウンターにいた受付の女性に将軍が帰ってきているかを尋ねた。

 女性は笑顔を絶やすことなく、質問に答える。


「ええ、少し前にお戻りになられましたよ」

「本当ですか! ありがとうございます。みんな、早く行こう」


 ルーセントたちは階段をかけ上がり、部屋のドアを乱暴にたたき将軍の偽名を叫んだ。


「ディアスさん、大変です! 開けてください! ディアスさん!」


 緊迫したルーセントの声に、扉を開けた将軍の顔は厳しさを漂わせていた。


「どうした? とにかく中に入れ」

「……そのヒゲ、どうしたんですか?」

「ああ、露店で買ってな、なかなか似合うだろう。それより早く中に入れ、何があった?」


 風貌が少し変わった前将軍に驚く訓練生一同は、促されるままに部屋へと入っていった。

 部屋の中はアルコールの匂いが漂っており、酒を飲んでいたことを伺わせる。そして、部屋のテーブルにはもう一人の男、将軍の弟ウォルビスが干し肉をかじりながらグラスを片手に座っていた。


「よお、ルーセント。そんなに急いでどした? 護衛の二人は?」

「ん、そう言えばいないな、どこへ行った?」

「それが……」


 ウォルビスの言葉に将軍が反応し、ルーセントから事情を聴き出す。

 ルーセントの話を聞いたウォルビスが最初に反応し、怒鳴りながらテーブルを強く叩き感情を爆発させる。


「なんだそりゃ、ふざけんな! 悪いのはあいつらじゃなくてその県令の息子だろが! 兄貴! さっさと助けに行くぞ」


 酔いが回っているウォルビスは感情を抑えきれず、今すぐにでも飛び出さんと、剣を手に取り出口へと向かって歩き出す。


「待て、ウォルビス! そんな状態で行ってもややこしくなるだけだ、少しは落ち着け!」

「早く助けてやらなきゃ、拷問されちまうだろうが! 県尉が邪魔するなら県尉ごとぶった切ってやる!」


 ウォルビスは剣を引き抜くと、呼吸を荒げて剣を降り下ろし空を切った。


「いい加減にしろ! そんなことして助け出せるわけがないだろうが! とにかく県尉府には今から行ってくる。お前はついてくるな、頭を冷やせ」

「何でだよ! クソ!」


 将軍に怒られたウォルビスは、再び椅子に座るとテーブルを強く叩き、グラスに入った酒を一口で飲み干した。

 それでも我慢できないのか、今度は酒の入った瓶をつかみ、そのまま口をつけて飲みだした。

 ルーセントは心配したように声をかけようとするが、将軍に阻まれ叶わなかった。


「大丈夫だ、今は放っておけ。それより早く県尉府へ行くぞ」


 将軍の言葉にルーセントたちは部屋をあとにすると、県尉府を目指して宿を出ていった。



 県尉府に向かって歩みを速めるルーセントらは、闇が深まり街灯のオレンジの光が濃くなる通りを進んでいた。少し進んだところで、将軍がルーセントに顔を向けた。


「ところでロイはどうした? あいつも一緒に捕まってんのか?」

「あ! 置いてきちゃった……」


 将軍以外の全員が同時に声をあげ、気まずそうに視線をフワフワと泳がせる。


「おいおい、いくら守護者があるからって、一般人と訓練された人間じゃ身体能力が桁違いなんだぞ、頼むぜ。まあ、あいつなら大丈夫だろうけどな。だが、これが護衛任務なら失格だな」

「すみません……」

「まぁいい、とにかく急ぐぞ」

「はい……」


 落ち込むルーセントを横目に先を急ぐ将軍たちは、十分ほど歩くと県尉府へとたどり着いた。

 県尉府は、広い敷地内に細長い三階建ての建屋が四棟あり、それが四角につながっている。その周囲には建物を囲う防護壁に守られていた。そして、広い敷地内に入り口は一カ所しか存在しない。さらには、その入り口の門に武官が二人、槍を持って立番しており、入る者、近付く者に警戒しながら見張りについていた。


「ここだな、行くぞ」


 将軍が先頭に立ち県尉府の建物内に入ると、雑談が飛び交うほのぼのとした空間が広がっていた。

 将軍は入ってすぐにある長いカウンターにいる受付の男の前に立つ。


「ようこそ、ご用件はなんでしょうか?」

「今日連れてこられた二人に会いたいのだが?」

「えっと、少々お待ちください。……本日は七名ほど収監されていますが、どういった方ですか?」


 将軍の用件を聞いた受付の担当官は、端末を操作して情報に照合をかけていく。

 受付の男は複数の名前が表示される画面を見ながら、目の前に立つ屈強そうな男に、どの人物なのかと特徴を聞く。


「少し前に露店街で捕まった二人がいただろう。その二人に会いたいんだが」

「……ああ。申し訳ありませんが、面会は禁止されております。お引き取りください」


 将軍は受付の雑な返答に、少し苛立ったように詰め寄る。


「なぜだ? 面会は規制されないはずだろ」

「そうは仰られても、上からの指示ですから。どうぞ、お引き取りください」


 受付の男はうんざりしたような顔で、入り口に向かって腕を伸ばすと帰るように促した。


「じゃあ、県令の息子はどこだ? 話がある」

「県令……、ああフィグリオ様ですか。もう帰られましたよ。大体の事情聴取は終えたので」

「ふざけるな! あいつが全ての元凶だろうが! 大体、法に反してるやつを野放しにして何考えてんだ!」


 荒ぶる将軍の威圧感に当てられ、受付の男は怯え、目をそらし、身体を軽く震わせていた。

 周囲にいた人たちが突然の大声に驚き、将軍へと視線を向けた。今までにぎやかかった場所に沈黙が訪れる。


「そ、そう仰られましても、私が関知する所ではありませんので」

「騒がしいですね、どうしたのですか? 皆さん驚いているじゃないですか」


 完全に怯えてしまった受付の男の後ろからやって来たのは、周りとは違う身分を表す装飾が施された制服を着込んだ男だった。

 男の顔を見た受付は、安堵(あんど)したように事情を説明する。


「こちらの方がフィグリオ様に会わせろと仰られまして」

「フィグリオ……、一体どういったご用件でしょうか?」

「誰だ? お前は」

「これは失礼いたしました。私はここで県尉をしておりますコルプシオと申します。失礼ですが、あなたはどちら様ですかな?」


 将軍は装備を解除しており、端から見てもどんな立場の人物なのかは分からなかった。だが、後ろに控えるドラグミス商会の紋章の入った制服を着ているルーセントたちを見て、コルプシオは丁重な対応を選択する。

 勅命の最中に本名を明かせず、将軍はコルプシオに偽名を名乗った。


「俺はドラグミス商会の護衛をしているディアスだ。少し前に露店街から連れてきた二人がいただろう、返してもらいに来た。それと、県令の息子に話がある」

「ああ、あの二人は商会の護衛の方でしたか。しかし困りましたね、県令のご家族に危害を加えた以上、引き渡すわけにはいきません。お引き取りください。ですが……」


 コルプシオはドラグミス商会の威光を恐れてか、丁寧な口調は変わらないが、明らかに表情は嫌悪に満ちていた。そんなコルプシオが突如、表情を崩したかと思うと、将軍に歩み寄り口元を隠し耳元でささやく。


「もし、どうしてもと仰られるなら、誠意を示していただければ考えなくもありませんがね?」

「誠意だと? 賄賂を渡せと言ってるのか?」

「とんでもない。私は陛下に仕える身、賄賂など受け取れません。あくまでも“誠意”を示していただければよろしいのです」


 将軍は持ち掛けられた取引きに、苛立ちと嫌悪感を表しコルプシオをにらみ付けると、そのまま背を向け一言警告する。


「あいつらに危害を加えたら覚悟しておけ」

「それは残念です。いつでもお待ちしておりますよ」


 不適な笑みを浮かべるコルプシオを無視する将軍は、ルーセントたちを引き連れて県尉府を出た。

 県尉府を出ると少し歩いたところで立ち止まり、ルーセントが不安そうな顔を向ける。


「ディアスさん、どうしましょうか? 一層のこと正体を表して県令府に乗り込んだらダメですか?」


 ルーセントの言葉に、将軍は言い聞かせるように口を開く。


「……いいか、ルーセント。役職には決まりがある。確かに俺の身分はあいつらより遥かに上だが、太守でもなければ、監査役でもない。無理に乗り込めば、ただの越権行為になるだけだ。もしそれをすれば、罰せられるのはあいつじゃなくて俺の方だ」

「そんな……、じゃあどうしたらいいんですか?」


 無力な自分に苛立つ将軍は、気分を落ち着けるために深呼吸を行い考え込む。そして何か思い付いたのか、笑みを浮かべた。


「あぁ、そうだ。あれが使えそうだな。よし、お前ら一度戻るぞ。それとティア、お前の出番だ!」

「分かりました、暗殺ですね! あんなやつ、ケチョンとトッチメてやりますよ!」


 将軍に名を呼ばれたティアは、驚くほどねじ曲がった解釈をすると、身に付ける手甲から十七センチメートルほどの棒手裏剣を引き抜き目を輝かせた。


「違うわ、バカ者! 物騒な娘だな、とにかく一度戻るぞ。話しはそれからだ」


 将軍とルーセントらは急いで宿に戻ると、将軍から指示が出された。

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