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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
3 王立べラム訓練学校 高等部1
66/134

3-4話 初任務

 光月暦 一〇〇六年 五月 


 ルーセントと実習メンバーの一行は、実習登録をするため学生課兼ギルドべラム支部へとやって来た。

 ここは学校内の事務に係わる各種手続きや、制服などの支給品の申請受け取り、併設されているギルドにて依頼の受領、素材の買い取りなどが行われている。

 自動扉を抜けて左側が学生課、右側にはギルドが構える。

 広い空間は空調が効いた部屋で、焦げ茶色のフローリングに、天井にはシーリングファンが吊るされ空気を循環させていた。

 天井には他にも、シーリングライトが数多く設置され、室内をいつも明るく照らしている。

 また、部屋の所々には観葉植物も置かれ、焦げ茶色のフローリングに緑色がよく映えていた。

 ルーセントたちは学生課に実習メンバーを登録するために、五つある黒い木材で作られた窓口の一つへとやって来た。


「すみません、実習メンバーの登録に来たんですけど」

「はい。では、この紙にメンバーの名前と所属する科の記入をお願いします。それと、全員の学生証の提出もお願いします」


 紙を受け取ったルーセントは、メンバーの名前を書き終え、みんなから受け取った学生証を手渡す。


「ありがとうございます。それでは登録してきますので、しばらくお待ちください。その間にギルド証の発行をしてきてはいかがですか?」

「わかりました。ありがとうございます」


 ルーセントがギルドの方へと移動すると、あとに続くパックスとティア、そしてヴィラに話しかける。


「オレとフェリシアはギルド証持ってるけど、二人はまだなかったよね」

「おう、まだないな。いよいよ、おれも冒険者の仲間か~、稼ぎまくってやるぜ! 今年から、ご飯を食べるのにも金がかかるからな」


 パックスは目を輝かせ、両手で拳を軽く握りしめると、念願の冒険者になれることにやる気を溢れさせていた。


「私もこの国に来たばかりで、まだありませんね。こういうところは初めてなので、何だかワクワクします」


 ティアもパックスと手を打ち合い、期待を胸に秘めて楽しそうにはしゃいでいた。

 はしゃぐ二人を視界に収め、ヴィラが冷静な表情でルーセントとフェリシアに近づいていった。


「僕はもう持ってるから平気だよ。ギルド証があれば、素材が二割引で買えるからね。もちろん、一定の実績は必要だけどね」


 ヴィラはそう言って、袖をまくると右手首にはめられている腕輪をちらつかせた。


「あれ? ギルド証ってカードじゃないの? 腕輪なんて見たことないよ」ルーセントが不思議そうな表情を浮かべる。

「そうね、私もカードよ。その腕輪はどうしたの?」


 フェリシアもつられるようにルーセントに同調し、ヴィラの腕輪を見た。


「ああ、二人とも最近ギルドに行ってないんだね。なんでも紛失する人が多いからって、カードから腕輪に変わったんだよ。窓口で交換してくれるはずだよ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあフェリシア、一緒に交換してもらおうよ」

「おう、おれたちも行くぞ」


 ルーセント、フェリシア、パックス、ティアはギルド証の発行へと、それぞれが窓口へと向かっていった。


「じゃあ僕は買取表をもらってくるよ」

「わかった。ありがとう」


 ヴィラは一人別れて買取窓口へと歩いていく。


 しばらくして、ギルド証の発行を済ませた面々がヴィラの元へ合流すると、ギルドの入り口から一人の男が入ってきた。

 鍛え抜かれた身体に、異様な威圧感をまとった高身長の男、ルーセントはその姿に見覚えがあった。

 ルーセントは男に近付いていくと、恐れることなく声をかける。


「前将軍、お久しぶりです。どうしたんですか? こんなところへ」

「ん? おお、久しいな。確か……、ルーセントだったな。銀髪に金眼は覚えやすくて助かるな。今日はちょっと依頼にな」

「将軍が自ら、依頼ですか?」首をかしげるルーセント。

「不思議か?」


 ディフィニクスが軽く笑みを浮かべ、驚きを隠せないルーセントに、そして周りにいる四人を見回した。


「ルーセントの方こそ、ここで何をしている?」

「自分たちは実習の登録と、ギルド証の発行に来ました」

「おお、実習か。もうそんなにたつんだな。ああ、ちょうどいい、お前たちちょっといいか」


 将軍はルーセントの後ろにいる四人を一瞥(いちべつ)し、全員を呼び寄せる。

 そのままギルドの受け付けに話を通すと、商談室へと歩いていった。

 商談室には、ギルドの職員二人がすでに待機していて、ルーセントら五人とディフィニクス前将軍の八人がテーブルについていた。


「実はここの国より北にあるメーデル王国領内から、国内に大規模な山賊どもが流れてきてな。陛下が討伐軍を送り込んだんだが、なかなかキレる奴がいるようで負けて帰ってきやがった。で、俺の出番って訳だ。まぁ、せっかくだから、ここの生徒に戦の経験をさせてやろうと思って来たんだが、お前らどうだ?」


 将軍からの直々の依頼に、ルーセントはすぐに返事を返したがったが、仲間の意見を聞くために振り向く。


「どうかな? いきなり実戦って言うのも大変だと思うけど、オレは受けてもいいと思う」


 乗り気なルーセントと違い、パックスは不安そうに口を開く。


「おれたちで本当に大丈夫か? 一度は討伐軍を退けたやつらだぞ」

「そうですよ。僕なんて戦闘訓練はほとんど受けてないんですよ」


 ヴィラはさすがに戦は無理だと、ルーセントに自分たちの状況を伝えると、そのまま将軍に振り向き「失礼ですが、僕たちにできるとは到底思えないんですけど」とパックスの言葉に乗っかり、将軍に否定的な言葉を送った。

 将軍は、一人一人を軽く眺めると腕を組んだ。


「そうだな、ルーセントとそこの嬢ちゃん二人は問題ないだろうが、ツンツン頭は少し厳しいかもしれんな。安全って訳ではないが、後方部隊に入ってもらうことになるだろう。で、戦闘訓練を受けてないって、眼鏡の坊っちゃんは戦闘科じゃないのか?」


 状況を見て淡々と答える将軍に、ヴィラは錬金科の生徒だと伝えると、将軍が納得したようにうなずいた。


「錬金科か。さすがに前線には出せないな。でもまぁ、後方支援でやってもらうことはいくらでもある。ポーションや罠は作れるか?」

「高度なやつはまだ作れませんが、それなりのものなら問題なく作れます」

「だったら問題ないな。俺の軍にも錬金術師がいるから、いい勉強になるんじゃないか?」


 将軍はそれぞれの長所、短所、特性などを見抜き、次々と不安要素をつぶしていくように答えていく。それを聞いていたルーセントたちは、次第にやる気を見せ始める。

 そこに、フェリシアが山賊の情報を聞こうと将軍へ話しかけた。


「将軍、敵の情報はつかめているんでしょうか?」

「ああ、いい質問だ。敵の数はおよそ五千、錬金術師もそれなりにいるようでな、奴らの根城の山には罠も多いと聞く。山賊どもをまとめているのは兄弟の二人だそうだ。当然だが、すぐに攻め込むわけではないぞ。しばらくは情報を集めるのに時間を割く」


 返ってきた答えに、ルーセントたちはさすがに不安な表情を浮かべた。

 ヴィラがルーセントたちに視線を送る。


「僕は安全そうな場所で、錬金の勉強になりそうだから断る理由はないけど、みんなに従うよ」


 さっきとは打って変わって肯定的な意見を口にするヴィラ、戦場に出ないと安心したのか、問題は戦に向かうみんな次第だと意見を求めた。


「私は平気よ、だってルーセントがいればなんとかなるでしょ」


 フェリシアはなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく答えると、続いてティアが話す。


「私も平気ですよ。盗賊退治は得意です!」

「ま、まぁ、前線じゃないならまだましかな。怖いのは怖いけど、構わないぞ」


 パックスはどこか怯えるそぶりを見せつつも、みんなの意見に賛成していく。そして、気をまぎらわすようにティアへと顔を向けた。


「うん? おい、ちょっと待て。盗賊退治が得意って何だよ! 聞いたことねぇぞ、そんな特技」とツッコミを入れた。


 パックスの指摘に、ティアは自信を持って薄い胸を張る。


「ふっふっふ、まだまだ私の理解が浅いですね、パックス君。それはもう数々の盗賊を千切っては投げ、千切っては投げ、山のように積み上げてやりましたから」

「そりゃあ、頼もしいな」


 パックスの質問に答えるティアの軽口に、将軍はほほ笑ましい笑みを浮かべた。そして、全員の意見が出揃うと「決まりだな」とつぶやいた。

 出発は三日後、明日かあさってには指示が届くと伝えられる。

 将軍はその場でギルドの手続きを済ませると、正式にルーセントたちの依頼として受理される。

 それぞれが寮に戻ると、三日後の遠征に向けて準備を始めた。

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