3-3話 楽しい食事会
テーブルの上には、ほぼ空になった皿が並んでいた。
五人は今後の実習についてや、それぞれの科でどんな授業をこなしているのか、で話が盛り上がっていた。
パックスは残り少なくなった料理を口に放り込み、今年から訓練学校で過ごすことになったティアに興味深そうな瞳を向けた。
「そう言えば、ティアはここでの生活は今日が初めてなんだろう? 今まで何してたんだ? 病気で来れなかったのか?」
ティアは追加で持ってきた鶏肉とボノドーラナッツ炒めを口いっぱいに頬張り、パックスに振り向くと飲み物で流し込んだ。
「違いますよ。私はそもそもこの国の人間じゃないかですからね、レギスタン聖騎士教会から来んです」
「えっ! この国の人間じゃないのか? ……というより、外国の人間ってここ入れんのか?」
パックスは骨付きアウグリーバ子羊のハーブクラスト焼きをかじろうとした所で止まり、ティアに聞き返した。
「入れないと思いますよ。私は特別に留学と言われて来てますから。それよりその肉いらないんですか、もったいないのでもらいますね」
「あ! おれの肉、今から食べるところだったんだぞ!」
「肉一つでセコイですね、モテませんよ」
「うるせぇ! 大きなお世話だ。大体自分のがまだ残ってるだろ、そっち食えよ」
パックスの言葉を聞いているのかいないのか、ティアはリスのように頬を膨らまし、一心不乱に肉を食べていると、突然パックスの方に視線を移した。
「……んぐ、これ美味しいですね、もう一個ください」
「……はぁ、もう好きにしてくれ」
パックスはため息をつきながら、降参とでも言うように両手を軽く上げ、首を左右に振った。
パックスとティアの攻防戦が繰り広げられていた横で、ルーセントとヴィラが会話を進めていた。
「錬金素材を取りに行くっていってたけど、買って作っちゃ駄目なの?」
「買ってもいいんだけど、作る数がそれなりにあると材料費も高いからさ。とてもじゃないけど、資金が心もとなくてね」
ヴィラの言葉にルーセントが納得したように頷くと、今度はフェリシアが会話に参加してきた。
「でもいいの? 私たちは砦の警護とか、傭兵派遣とかもあるんだよ?」
「そこは頑張るよ。一応は戦闘訓練の授業もあるし、いざとなったら錬金アイテムで支援もできるからさ。迷惑かけるかもしれないけど、多目に見てくれるとうれしいかな」
ヴィラは軽くほほ笑みながら、落ち着いた声でルーセントたちに答えた。
ルーセントは錬金アイテムに興味を引かれ、目を輝かせる。
「へぇ~、錬金アイテムってどんなのがあるの? 爆弾とか作ったりするんだよね」
「もちろん、それもあるよ。威力や範囲は調合次第だけどね。ただ、爆弾は材料を買うのにも作るのにも資格がいるから誰でも作れる訳じゃないよ。まぁ、僕はもう資格を取ってるから問題ないけどね」
ヴィラの言葉に、もの作りや錬金に興味があるルーセントは、その瞳をさらに輝かせていく。
「他にはどんなのがあるの? 昔、地元の露店商の人が風精霊の靴とか、精霊女王の耳飾りとか売ってたけど、そういう変わったやつもあったりするの?」
止まらない少年の質問は、その昔、ヒールガーデンで見たことのある錬金アイテムが頭に浮かんでいた。ところが、興味に溢れる目の前の銀髪の少年とは違って、ヴィラの顔は困惑したように眉を潜めていた。
「風精霊の靴に、精霊女王の耳飾り? なんだいそれ、そんなの守護者の知識には存在しないけど確かかい?」
精霊の名を冠するアイテム。その守護者の知識に存在しないアイテムに、ヴィラはテーブルにほおづえをついて考え込んでしまった。
そこに、パックスとの料理攻防戦を繰り広げていたティアが急に会話に割り込んできた。
「精霊のアイテムがあるなんて、やっぱり精霊契約者がいるんですね。ルーセントの故郷はどこですか? 見に行きたいです!」
「精霊契約者? 興味深いね。詳しく教えてもらえるかな?」
聞きなれない言葉にヴィラの瞳が一瞬だけ輝くと、ティアに逃がさないよと言わんばかりにゆっくりと視線を向け、知的好奇心と言う名の威圧感がティアに襲いかかった。
「あっ! ま、また言っちゃったぁ~、何でもな……」
「無理だね、さあ、早く教えてもらえるかな?」
ヴィラはティアのごまかそうとした言葉をさえぎり、腕をつかむと軽く詰め寄った。
その様子を見ていたフェリシアは、ティアに言い聞かせるように優しく話しかける。
「もう隠すのは無理なんじゃないかな? みんなに内緒にしてもらえばいいんだから、話しちゃえば?」
「う~、分かりました」
ティアは“無念!”と言うようにうなだれ、精霊契約者について話始めた。
「精霊契約者って言うのはですね、人類がまだ守護者を授かる前に受けていた恩恵なんだそうです。昔は世界のいたるところに精霊と妖精が存在していて、風、水、火、土の四大精霊と、その上に精霊女王がいるって言われてます。あとはすべてを束ねる精霊王がいるらしいんですけど、ルーインが来たときにいなくなっちゃったって本に書いてありました」
「きゅ? きゅっ、きゅう、きゅきゅう、きゅ?」
ティアの話に、きゅうちゃんが急に何かを語りかけるようにシリンイチゴをかじりながら鳴き出した。
「ん? きゅうちゃんどうしたの急に?」
「きゅ? きゅきゅっ」
ルーセントの言葉に、きゅうちゃんが首をかしげると、何でもないと言うかのように鳴き、再びイチゴにかじりつき始めた。
全員がきゅうちゃんから視線を戻すと、ティアが発した聞きなれない名前にヴィラが聞き返した。
「ところで、ルーインって誰?」
「えっ! えっと~……」
ティアは今にも泣きそうな困った表情で、ルーセントに顔を向けて助けを求めた。
「ルーインは……、おとぎ話に出てくる絶望の名前だよ。さっきこっちに来るときにおとぎ話の話になって伯爵から聞いたんだよ。ね、フェリシア」
「え! あ、うん、お父様がティアをここまで連れてきたんだけど、そのときにね」
ルーセントはとっさに伯爵の名をだして、フェリシアに話を振った。
伯爵の名にヴィラは深く追求できずに、諦めた様子で残念そうにうなずいた。
「へぇ~、絶望ってルーインって名前だったのか。それにしても興味深いね。君たちといると面白い話が聞ける、今日は来て良かったよ。それとルーセント君、できればでいいんだけど、話に出てきた露店商に会ってみたいから、君の故郷に行くことも検討してくれないか? ひょっとしたらすごい発見になるかもしれないよ」
「あ、私も! 私も見に行きたい!」
ティアが手を上げて主張すると全員が軽く笑い、ルーセントが「分かったよ」と答えた。
新しいメンバーが二人加わった歓迎会は、このあとも続いた雑談で終わりを向かえた。
そして、それぞれが寮に戻り、高等部に進級した五人の新たな生活が始まっていく。




