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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
59/134

2-27話 再び、そして……2

 雷鳴が空を、空間を駆け巡る度に音が二人に近づいていく。

 何度目とも分からない打ち合いを続けるルーセントとティベリウス。互角と言ってもいい状況に、呼吸を乱す二人が間合いを開けた。

 肩で軽く息をするルーセントが何度か大きく深呼吸を繰り返すと、刀を正面に向けてから数秒だけ目を閉じて心を落ち着かせた。

 ティベリウスも呼吸を整えると剣を正面に構えた。

 二人の間に、もはや言葉は存在しなかった。

 風はさらに強くなり、土ぼこりを巻き上げ、木々の葉を飛ばしていた。流れる雲はどんどんと黒く染まっていき、空を窮屈にしていく。

 互いに、じっとにらみ合ったまま数分が続いた。

 その時、空が一瞬だけ光り輝いた。全力で飛び出すルーセントとティベリウス。刀と剣がぶつかった瞬間、頭上で大音量の雷鳴が轟いた。


 切り上げるルーセントの刀をティベリウスが押さえ込む。そのまま下から巻き上げつつ刀の持ち手側に流すティベリウスの剣が、ルーセントの胴を横凪ぎに狙った。

 迫り来る刃に金の瞳が苦しげに歪む銀髪の少年は、うしろへ飛びのくと同時に、身体の正面で持ち手を頭側に刀を立てて盾として防ぐ。掠める剣が制服の一部を切り裂いた。ルーセントは後方に伸びる右足を踏み込み、すぐに反撃へと移る。間合いを詰めつつ首を狙って左へ右へと刀を振るうが、詰め寄った分だけうしろへ下がるティベリウスの剣がそれをことごとく防いでいった。

 三撃目、首を狙うと見せかけたルーセントの刀は、ティベリウスの剣とぶつかると、そのまま腰の高さまで押し下げた。がら空きとなったティベリウスの上半身に切り上げるルーセントの刀が襲いかかる。

 しかし、ティベリウスはとっさの判断で横に飛びのきながらも、ルーセントの身体めがけて剣を振るった。

 二人の刃が右へと抜ける。

 ルーセントの刃は、ティベリウスの制服の腕を掠めるに止まり、ティベリウスの長い刃がルーセントの上腕部分を深く切り裂いた。


 流れ出る血でルーセントの制服が赤く染まっていく。その顔は苦痛に歪んでいた。ルーセントはとっさに右手で持つ刀を振るい正面に構え距離を取る。

 ティベリウスは赤く染まる剣先を見て、大きく息を吐き出した。

 その時、再び雷鳴が何度か鳴り響き、どしゃ降りの雨を連れてきた。視界が白く霞む。雷が何度も何度も空を駆け巡り鳴り始めた。その度に雨が強くなる。

 雨に濡れるルーセントの傷口付近の制服が、雨ににじんでさらに広がっていく。その度に制服が傷口に張り付き鋭い痛みを与える。熱を持つその痛みに、ルーセントの集中力は少しずつ削られていった。


 再びにらみ合う二人。


 左腕を気にするルーセントに、ティベリウスが剣を突きだし向かっていく。

 傷に気をとられていたルーセントは、うしろへ下がりながらなんとか切り抜けると、力が入らない左腕で刀をつかみ直し頭を狙って刀を振り下ろした。

 しかし、すぐにティベリウスが剣で受け止める。

 金属のぶつかる小気味良い音が響いた。

 そして、すぐさま反撃に移る褐色の少年。

 ルーセントも瞬時に攻撃を受け止めるが、続けて流れるように繰り出された横凪ぎの一撃に、今度は腹部を斬られてしまう。

 幸いにも、革製のベストのおかげで致命傷とはならなかったが、軽傷ともいかなかった。


 思い通りにいかず苛立ち始めるルーセント、動かす度に斬られた傷が痛み、その動きを鈍らせる。少しずつ劣勢に陥るルーセント、その顔には焦りが浮かんでいた。

 強風にあおられ、横殴りの雨に打たれながら二人は何度も打ち合い、隙を見ては一撃を加えていく。

 少しずつ傷を増やし、すでに満身創痍な二人。しかし、互いに決定打と言える一撃はなかった。雷は鳴り続け、雨は弱まる気配がなかった。


 左腕の傷が足を引っ張るルーセントは限界を感じていた。そろそろ決着をつけようと、一度だけ大きく深呼吸して刀を構える。痛みも、雨の音もその感触も、雷の音さえ消え去っていた。

 ただならぬ仇の気配に、ティベリウスも終わりの時を悟る。

 戦い始めた時のように、再び二人の動きは止まった。

 呼吸をするときの小さな動きだけが、二人の身体を動かす。何粒もの雫がルーセントの銀髪を伝い地面に落ちていく。ゴロゴロと鈍く鳴る雷鳴、まるで二人を見守るかのように鳴りを潜めていた。


 幾度となく低く鳴り響く雷鳴が、合図を出したかのように落雷の強い光りとともに大きな音を轟かせた。

 動き出すルーセントとティベリウスだったが、突如後方より飛来した棒手裏剣がルーセントの左肩甲骨付近に刺さり、刀を地面に突き刺し膝をついて崩れた。


「ぐっがああっあぁぁぁ」痛みにうめくルーセント。

「誰だ!」ティベリウスが、ルーセントを守るように立ちはだかった。


 視界が悪く、棒手裏剣が飛んできた方向を警戒するものの、その姿を確認することはできない。

 今度は違う方向からティベリウスに向かって棒手裏剣が飛来する。

 剣で弾く音が三度響いた。無機質な音を立てて地面に落ちる棒手裏剣、ティベリウスがうしろを向くと「引き抜くぞ」と、ルーセントに刺さる暗器を引き抜いた。


「ぐああああああああ!」拳を握りしめ、ルーセントが走る痛みに苦悶(くもん)の声を上げる。痛みがひどすぎて、もはや左腕を動かすことは叶わなかった。


 ルーセントがふらつきながらも立ち上がる。身体のどこを動かしても、突き抜ける痛みに呼吸が荒くなる。


「さっさと出てこい!」


 ティベリウスが決闘を邪魔されて怒りに叫ぶ。

 少しして、二人を取り囲むように周囲の木々の間から、黒い服を着た男たちが十人ほど現れた。


「おいおい、いつからそいつと仲良くなったんだ? それと、銀髪小僧、久しぶりだな」


 ルーセントを守るように立つティベリウスを見て、男がからかうように笑みを浮かべながら一歩、また一歩と近づいていく。黒服の男に呼ばれたルーセントが視線を上げると、そこにいたのは秋豊祭のときに襲撃してきた男だった。


「お前は……、あのときの」苦しそうに声を絞り出すルーセント。

「お前ら、なんのつもりだ!」ティベリウスが剣を向けて叫んだ。

「なんのつもりって、俺らは俺らの仕事をこなすだけだ。お前の役割はもう終わったんだよ。あとは、ゆっくり横たわるだけでいい。永遠にな、手間をかけさせんなよ。小僧」

「てめぇ、初めからそのつもりだったのか!」

「気づくのが遅せぇよ。あの方がお前なんかをまともに相手にするわけがないだろ」

「くそっ! ふざけやがって」


 男とティベリウスの会話。悪態をつくティベリウスがうしろに視線を送るが、立っているのもやっとな状態のルーセントを見て舌打ちとともに顔を歪めた。

 男はなおも下卑(げび)た顔でティベリウスに話しかける。


「最後に教えてやるよ。バスタルドを倒したのは確かにうしろにいる小僧だが、そもそも嫌がったあいつをお前の命と引き換えに、そいつとぶつけたのはあの方だぞ」

「あいつが……、おのれアクティール!」


 ティベリウスが黒幕の名前を叫ぶ瞬間に、近くの木に雷が落ち、その轟音のせいでルーセントの耳には届かなかった。

 怒りに身を任せ、ティベリウスは炎の矢を無数に生み出すと男たちに向けて放った。

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