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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
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2-24話 同盟1

 ルーインが現皇帝のククーラに、サラージ王国との同盟を提案してから二週間が経過した。

 サラージ王国の謁見の間にて、レフィアータ帝国から来た『ロスター・フェイス』が使者として国王の前に立つ。あいさつを終えたロスターは、護衛の兵士にククーラから受け取った書状を渡した。

 受けとるサラージ王国国王『アイザーグ・ガリード』がひととおり読み終えると、何度かうなずき使者へと顔を向けた。


「ここに書かれていることは誠か?」

「ええ、間違いはございません。今まで取引が禁止となっていた品目を解禁し、さらには一定の量を購入いただけるのであれば、関税を下げてもよいと仰せつかっております」

「なるほど。こちらとしてはご存じの通り、国土の三分の一が砂漠地帯となっており資源に乏しい。この申し出はとてもありがたい。しかしながら、すぐに返答するわけにもいかぬ。ロスター殿には部屋を用意させよう。そちらで過ごすがよかろう」


 丁重に受け答えをするアイザーグは、書状に書かれていた同盟に関しては秘匿して、あくまでも通商交渉としての交渉を進めていく。書状を見た限りでは、自国に利益の多い取引であった。

 ただし、取引量や品目、税率に関してはまだ詰めることも多く、すぐには返事を返せなかった。

 アイザーグは隣に立つ軍師のエルヴィン・ハデスと小声で話し合うと、ロスターに滞在することを進めた。

 アイザーグの提案に了承したロスターは頭を下げる。


「どうか“間違い”のないように」と『間違い』の部分を強調して威圧とも取れる言葉を送る。ロスターは軽く顔を上げ目を合わせると不敵な笑みを浮かべた。


 ロスターと目が合ったアイザーグは勢いに飲まれてのどをならす。


「熟慮して決めよう。本日は疲れたであろう。部屋に案内させるゆえ、我が家だと思って過ごされよ」

「感謝いたします」


 アイザーグは担当官を呼び寄せると、ロスターを部屋へと連れていかせた。使者が出ていったのを確認すると、再び書状に目を通し顔をしかめた。



 ロスターが訪れた日の夜、アイザーグは一人の男を寝室へと呼び寄せた。

 訪ねてきたのは赤髪を左に分けて前髪を下ろし、残りは後ろへ流している少年だった。自信に溢れる表情はプライドが高そうでありつつも、感情を押し殺したように無表情であった。その切れ長の大きな眼は、何者をも射抜くような鋭さと冷たさを宿している。

 白を基調にした衣を羽織るその姿は、訓練された体格の良さがシルエットからでも分かった。

 男はアイザーグの前まで来ると片膝をつく。


「陛下に拝謁いたします」

「楽にせよ」

「感謝いたします」男は一度頭を下げると立ち上がった。

「陛下、今日はどういった御用件でしょうか」

「お前も知っておろう。レフィアータ帝国から使者が来た。表向きは通商交渉としてだがな」


 アイザーグは使者が来たことを伝えると、手にしていた書状を男に手渡す。


「表向きは? これがなにか?」


 アイザーグの言葉に引っ掛かりを感じた少年が書状を読み始める。すべてを読み終えた少年は国王に顔を向けた。


「ヴェールよ、お前の意見が聞きたい」

「なるほど、こちらが本題ですか」


 ヴェールと呼ばれた少年は、わずか十五歳にして軍師に任命されてアイザーグに重用されていた。


「最上級守護者を持つお前の意見を聞かせよ。どう考えても、我が国とレフィアータ帝国が同盟を結んだところで向こうに利益があるとも思えん。交易の交渉に関しても報酬だと言わんばかりの好条件であるのにも気にかかる」眉を潜める国王が若き軍師に意見を求める。

「そうですね。恐らくは、陛下の思った通りかと。一つだけ分かることは“メーデル王国を攻めよ”と言うことでしょうか」


 アイザーグの疑問にためらうことなく答えるヴェールは、再び書状に視線を戻す。

 アイザーグは自分と同じ考えだったのがうれしかったのか、明るい表情を見せるもすぐに眉をひそめた。


「やはり、お前もそう思うか。しかし解せんな、レフィアータ帝国は長いことあの国を攻めていたはずだ。のどから手が出るほど欲しいに違いないであろうに、なぜこちらに攻めさせようとしておるのだ?」

「それはここに書いてある皇太子のことが原因でしょう」

「政に不安が残る故、か。字面通りに受け取ってもよいものか?」

「いえ、むしろ逆だと。あの国の目標は恐らくポセタ大陸の統一です。それゆえに同盟を持ちかけたのは、アンゲルヴェルク王国を落とすためでしょう」

「それなら、なおさら我々にメーデルを取られるのを嫌がるのではないのか?」


 ポセタ大陸の統一を目指しているはずなのに、別の国に領土を取らせれば、統一がさらに遠くなる。それにも関わらず我が国に攻めさせるのはどういうことか、とアイザーグは首をかしげた。

 沈黙が支配する室内、ヴェールは再び書状を読み直しては思い付く解釈を複数想定する。そして何通りかのシミュレーションを重ねたあとに一番しっくりくる結果を導き出す。


「例えば、レフィアータにアンゲルヴェルクを落とせる能力があったとして、我らにメーデルを取られても問題がない、としたらどうでしょうか。そもそもが他国に後継ぎに不安があるなどと伝えること、それ事態が異常なのです。これは警告と取るのが無難ではないでしょうか」

「警告だと? どう言うことだ?」


 アイザーグは何をもって警告だと解釈したのか理解できずにとっさに聞き返した。ヴェールはもう一度だけ書状に目を通すと、帝国が皇太子を卑下する理由に仮説を立てる。


「試しているのでしょう。これに気づかないのならば協力する価値はなく、侮ればつぶすだけだと。よほど皇太子の能力が秀でているのだと思われます」

「なるほど、そういうことか。それならこの話は断った方が良いのではないか? どのみちアンゲルヴェルク王国を落とせたのなら、次に牙を向くのは我々の方であろう」

「いえ、受けた方がよいでしょう。むしろ、我らに断ると言う選択肢は用意されておりません。これは遠回しに脅迫もしているのです。断ったのなら、恐らくこの国はレフィアータ帝国に変わるだけです」

「なんだと! やつらを富ませると分かっていて乗らなければならんのか。戦うにしても水軍なら向こうと互角なのだぞ!」


 レフィアータ帝国と同等の戦力を持つ水軍を盾に、負けはしないと激昂するアイザーグ。ヴェールは冷静に自国とレフィアータ帝国の戦力を分析していく。


「たしかに、水軍の戦力なら互角でしょう。しかし、国力が圧倒的に違います。互いに百の戦力を持っていたとしましょう。ここに国力の差を加味すれば、こちらは一に対して、向こうは八はあるでしょう。一度や二度は防げたとしてもそのあとはどうでしょうか? 到底持ちません」

「……どうやっても受けるしかないのか」


 頭の中でレフィアータ帝国と戦う映像を浮かべるアイザーグ、自分たちが待ち構えて守るだけならば何度かは凌げようが、波状攻撃を受ければ一溜まりもない、とあらためて気付かされる。

 受けようが断ろうが、たどる結末が同じであることにアイザーグは力なくうなだれた。


「陛下、ご安心ください。まだまだ時間はあります。これを見るに、皇太子に変わってからとも受け取れます。現皇帝が存命のうちは問題ないでしょう。それまでに対策を考えればよいのです。それに、今すぐにメーデルを落とせるわけでもありませんから」

「そうか。ヴェールよ、やはりお前に話してよかった。あとは交易交渉だけであるな」

「ああ、お待ちください陛下。思い付いたことがあります。せっかくなので、こちらから条件をひとつ付け足しましょう」

「大丈夫なのか?」

「問題ありません。どちらにも利のあることですから。明日中にはまとめておきます」

「そうか、任せた」

「それでは失礼いたします」


 ヴェールはとある作戦を思い付く。メーデル王国を攻めれば必ず援軍として現れるであろうアンゲルヴェルク王国。もたついていたら領土を取ることさえ難しくなってしまう。

 ふがいない状況を見せていては、いつレフィアータ帝国が自国に牙を向くか分からない。それを回避するためにヴェールはレフィアータ帝国を利用した戦略を提案することにした。

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