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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
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2-15話 軍事演習2

 基本陣形への移行が完了すると、次は順番に八個の陣を展開させていく。

 まずは下位将校の哨官(しょうかん)の二名が百名ずつ兵士を連れて楽器を操作するものに指示を与える旗を二対、鐘二口、銅鑼(どら)を二面、太鼓十二面、シンバル二個を整えに動く。

 そして、哨官の準備が終わると中軍より王家の紋章が描かれた旗と黄旗が掲げられる。それが第一変となり陣の編成が始まった。


 中軍より赤い火球が打ち上げられると、歩調をとるための太鼓が打たれる。

 最初は鳥陣が東北へ、それが終わると次は折陣が西南へとゆっくり移動して陣を組んでいく。

 鳥陣は基本陣形の右側前方の部隊と、左後方の部隊が動く。中央に左後天冲(さごてんちゅう)の二部隊が縦列に、そのうしろに距離を取って右前天冲(うぜんてんちゅう)が同じように縦列を組んで布陣する。

 ほぼ同時にすべての部隊が動いて“への字”のような隊形を組み上げる。その両翼には鳥の羽のようなジグザグした形を作り上げて完成する。

 最後に、その両翼を遊兵の騎馬隊二陣が囲むように展開して残りの二陣も基本陣形を取り囲むように動いた。


 次に中軍から赤旗と黒旗が振られると、続けて折陣の展開が始まった。

 左前地軸を中央に鳥陣と同じように縦列に展開する。

 陣中央に二十部隊で形成された縦長の六角形のような形で布陣すると、その両翼側から縦列に並んだ部隊が横並びで三部隊が展開していた。

 そして鳥陣と同じように遊兵の騎馬隊が取り囲む。そのまま鳥陣と折陣の騎馬隊がつながって陣の両サイドを遊兵の騎馬隊が守る形となった。

 ルーセントはキョロキョロと顔を左右に動かしながら不安そうに自分が動く動線を確認する。左前天冲にいるルーセントが動くのは折陣を展開するとき、不安そうな顔がさらに極まって心臓の鼓動がこれ以上ないほどに速い速度で脈を打つ。その様子を見ていたディフィニクスは、自分の若い頃を思い出して軽い笑みを浮かべていた。


「ルーセントも、他のやつらもしっかり部隊長に合わせればいい。旗を見て動け。太鼓の音に合わせるのも忘れるなよ」


 不安そうな顔をしていたのはルーセントだけではなかった。辺りを見渡せば、他の兵士や訓練生も不安げな顔をしていた。

しかしそれぞれの部隊にディフィニクスの部下が散らばって、その時々の状況に合わせて面倒を見ていた。

 二陣の展開が完了すると鐘がならされて攻撃展開に移っていく。銅鑼が鳴らされると全部隊が攻撃態勢に入った。


 大盾兵の盾の上から槍を刺したり、浮かした盾の下から突き出したりと、仮想の敵の兵士や騎馬を倒した想定の元で動く。攻撃行動を終えると盾兵が盾を半身にそらして槍兵、魔法兵がさらに攻撃を加える。

 そして合図の角笛が響けば(とき)の声をあげて、シンバルが響けば攻撃展開を解き集合する。

 中軍が赤い火球を三発上げれば、二つの陣が動いて元へと戻っていく。

すべての行動を終えると太鼓、角笛、号笛などすべての楽器の音が響き渡る。それを合図に、各陣が元の基本隊形へと戻っていった。

 この後も全ての八陣を展開しては戻り、再び展開しては、と何度か同じことを繰り返していた。

こうしてルーセントたちの始めての軍事演習が終了する。途中に休憩を挟みながらも一日がかりで演習は続けられた。すべての行程を終えたときには、夕方の六時を回っていた。

 ルーセントが疲労困憊(ひろうこんぱい)のふらついた足取りで学校へ戻ろうとしたとき、ディフィニクスが声をかけてきた。


「おう、ルーセント。どうだ? 始めての演習は」

「もうフラフラです。今日は何もしたくないです」


 ルーセントがうなだれるように疲れを示すと、ディフィニクスはルーセントの肩を叩き笑う。


「ハハハ、そうか。まだまだ戦場には立てんな。それよりもだ、ルーセントは訓練学校を出たらどうするんだ? 兵士になるなら俺の部隊に来い。どうだ? 悪い話じゃないと思うがな」


 ルーセントは王国最高戦力の一人にスカウトされてうれしそうな表情を浮かべるも、残り三人の仲間を探し出さなくてはならず、せっかくの機会を無下にすることに下唇を噛んで目を伏せた。


「申し訳ありません、将軍。誘ってもらえたことはこの上なくありがたいのですが、他にやらなければいけないことがあって、すぐには兵士になれないんです」

「……そうか、ならば仕方がないな。だが、訓練学校の卒業生はいつでも志願できる。戦が始まれば召集されるだろう。その時は俺の部隊に来い。いいな」

「分かりました。ありがとうございます」


 ルーセントが礼を述べて頭を下げると、ディフィニクスは残念そうに「じゃあな」と片手を軽く上げて去っていった。

 ルーセントが緊張をほぐすように大きく深呼吸をすると、うしろから声をかけてくる人物がいた。


「よお、ルーセント。さっき話してた人はディフィニクス将軍だろう? なに話してたんだ?」

「ん? あぁ、将軍に俺の部隊に来いって誘われてた」


 パックスは驚いた表情で目をパチリと何度かまばたきを繰り返した。


「……おいおい、マジかよ。すげぇじゃん! 王国最強の一人だぞ、大出世じゃないか。当然、誘いを受けたんだろ?」

「いや、他にやらなければいけないことがあるから断ったよ」

「嘘だろ? こんなチャンスもうないかもしれないんだぞ、いいのかよ」


 パックスの言葉にルーセントが心残りな表情を浮かべるも、世界の趨勢(すうせい)に関わる大事を見捨てるわけにもいかなかった。


「うん、どうしてもやらなきゃならないことがあるから冒険者になるよ。それに、将軍にはいつでも来いって言われてるからね。いつかはきっと……」

「そっか、俺も冒険者になる予定だからな。強くは言えねぇな。だったらよ、一緒に冒険者になろうぜ! お前とだったら楽して稼げそうだ。ははは」


 パックスは悪びれた様子もなく、心を披歴(ひれき)する。その言動に、ルーセントは少しあきれた様子でパックスに言葉を返す。


「じゃあ、パックスの取り分は二割ね」

「おい! そりゃねぇよ。もうちょっとなんとかならないか?」

「うーん、じゃあ一割」

「下がってんじゃねぇか! もういいよ! 訴えてやるからな!」


 拗ねるパックスにルーセントが笑うと、パックスもつられて笑い出す。


「ちゃんと働くから、しっかり報酬頼むぜリーダー」

「善処するよ」

「それ、遠回しに嫌だって言ってないか?」

「気のせい気のせい、早く戻ってご飯食べに行こうよ」

「本当かよ。まぁ、いいや。さっさと戻って飯食いまくるぞ。早く戻ってやらないと、きゅうちゃんが餓死しちまうからな」


 こうして、二人の始めての軍事演習は終わりを迎えた。

 このあとも、朝の鍛練から週二の行軍や軍事演習などを順調にこなし、二年の月日が流れていった――。

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