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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
46/134

2-14話 軍事演習1

 授業開始から半年後、ルーセントたちは初めての軍事演習の日を迎えた。

 軍事演習では、訓練生の全員が防具と一体となった制服を身に付けている。上半身には朱色と金属の灰色が光る首から胸部を守るためのプレートアーマーを、腰回りには腹部を守るためのY字の金属片が無数に取り付けられた腹甲を付けていた。

 その装備の上からは、裾が三つに分かれて膝下まで伸びる七分袖の赤と黒を基調としたロングコートのような制服を羽織る。この上着には肩から上腕部にかけてと、胸から背中、そして腰から下には大腿部の側面上部を守る朱色と金色の装飾が目を引くプレートが付けられていた。

 手首から前腕部には手甲が、下半身には防刃素材で作られたワインレッドの色をしたカーゴパンツを履く。膝から足首にかけては黒いレッグアーマーが足を守っていた。

 腰には刀を右手には槍を持って、いつでも実戦ができるフル装備で演習場に集まっていた。


 演習は王都内にある広大な演習場にて、王国軍の新兵たちと行われる。

 ルーセントを含む訓練学校の生徒らは、戦争が起これば部隊を束ね指揮する立場になるため隊長として演習を行う。しかし、中等部の間は一兵卒として新兵たちに混ざって経験を積む。この日は前日から外出禁止となって朝の五時に召集がかかる。訓練生と新兵を含む歩兵三五二〇名、全部隊に指示を出す中軍部隊が一〇〇〇名、遊兵の騎馬隊一三〇〇騎の総勢五千八百二十名が参加していた。


 八陣の訓練では四隊を一隊として、中軍にある将台の南北に四隊ずつ、二列に分かれて総勢十六隊が整列する。さらにその後方には、遊兵二十四陣が二列で並んでいた。

 中軍には騎兵が三十騎、大盾兵が二百八十五人、歩兵が六百八十五人の千名で構成されており、中央に大将が指示を出す将台が設置される。指示を出すための楽器類もそこに置かれている。訓練が始まれば、その将台を中心に八個の部隊が囲むように六華陣を展開することになる。

 待機中の八陣の一隊の広さは百二十歩四方で、七行七列で整列する。隊との間隔は十八歩の広さを取る。

 遊兵の二十四陣は、その後方に二列二層で並んで三陣で一号となり、一号から四号に分かれて待機する。


 八陣法の基本陣形は風陣八隊、雲陣八隊、天衡(てんこう)十六隊、天冲(てんちゅう)八隊、地冲(ちちゅう)十二隊、地軸(ちじく)十二隊で構成されている。それぞれが一号から八号に分かれて待機する。

 今回の演習での編成は北を背に布陣して一号が後衛、八号が前衛となる。

 基本陣形が完成すると前後に分かれて二種類の陣を形成し八陣の演習を行う。決まった方角、場所に中軍を中心に円を描くように次々と八つの陣を展開させていき、総勢九陣の壮観な演習風景を見ることができる。



 王国軍の新兵と訓練生が整列しつつも騒がしくなるなか、将台にいる男二人がルーセントのいる方向を見ていた。


「兄貴、見たか? 八号にいるあいつ。あれって」

「ああ、間違いないな。銀髪に金の瞳は世界中を探しても一人しかいない。まさか生きていたとはな」

「だよな。そう思って少し前にレイラに探らせたんだけど、名前が“ルーセント・スノー”っていうらしい」

「スノー? “エイリフト”じゃなくてか?」

「やっぱり別人か?」

「いや、間違いない。古代種の特徴を持つのは、俺たちの先祖の一族だけだ。あいつが探し続けていたルーセントだろ。俺が村に駆け付けたときには、すでにニアと旦那は殺されていた。おそらくそこで誰かに引き取られ……、そうか! それでガンツのやつ、急に王都(ここ)から田舎の村に移住しやがったのか。あの偏屈ジジイめ」

「ガンツって同じ村にいたあのおっかねぇ、おっちゃんか?」


 兄貴と呼ばれたのは、アンゲルヴェルク王国の前将軍(ぜんしょうぐん)、王国最強と(うた)われる『ディフィニクス・ローグ』であった。

 百九十センチメートルの高さから見下ろされる鋭い視線に、無駄のない鍛え抜かれた分厚い身体が近付くものに威圧感を与える。しかし、その端正な顔立ちから生まれる爽やかな笑顔もまた人々を魅了していた。

 金髪の長い髪がそよ風にさらさらと流れる。

 そのディフィニクスの視線の先には、弟の“ウォルビス・ローグ”がいた。兄よりは小さいが、百八十センチメートルの身長を持つ。

 同じ髪色をしているが兄とは違って思慮は浅く、物事を深く考えるのは苦手であった。

 武術の能力に関しては兄にはとうてい敵わないものの、王国の中ではトップクラスの才能を発揮している。

 そんな二人のうしろから近付く人物がいた。


「ガンツとは、ずいぶんと久しく懐かしい名を聞いたな。やつがどうかしたのか?」

左将軍(さしょうぐん)か。何でもない、あいつが王都(ここ)を出ていったおかげで武器の手入れが面倒で仕方がないと話していたところだ」


 二人に話しかけたのは、王国の左将軍“ビーレッド・オリヴェイラ”だった。六十歳を超えてもなお、今の立場を守り続けている。その見た目には、頭やヒゲに白髪の方が多くなっていた。

 長年に渡って国に貢献してきたこの男は、その人望も厚い。ディフィニクスが最初に所属した先がビーレッドの軍であったため「あいつを育てたのは、ワシだ」と、酒の席では必ずと言っていいほど話題に出し注目を集めていた。そんなビーレッドが、ウォルビスに視線を向ける。


「そうか? ウォルビスの顔を見た限りでは、何か悪巧みをしておるようにも見えたがな」

「あのジジイを相手にか? それこそ無謀だろう。ガチョウが首を捻られに向かっていくようなものだぞ。それより、いつまで将軍でいるつもりだ? そろそろ隠居を考えたらどうだ?」

「バカを言え、そこまで老いぼれてはおらんわ! これでもまだ、そこらの鼻たれよりピンピンしておるわ」ビーレッドが自分の胸を叩いてその丈夫さをアピールする。

「そうかよ。孫だって生まれたんだろ? もうおとなしくしてもいいんじゃないか?」

「ふん、余計なお世話だ。孫に自慢のジジイでいるためには今のままが手っ取り早いわ」

「だがな、戦場で腰を痛めて負けました、じゃ何の自慢にもならんぞ」

「貴様! 口の減らないやつだ。少しは年寄りを敬わんか」

「そこらの鼻たれより若いんじゃなかったか?」

「……まったく、貴様と言うやつは。とにかく、有望な訓練生を見つけたらワシにも教えよ。毎年、貴様ばかり優秀な訓練生を取りおって」

「あれは俺が選んでいるんじゃなくて、向こうから勝手に来るだけだ」

「ふん、どこまでも憎たらしいやつよ。最近の若者ときたら……」ビーレッドがぼやきつつ、きびすを返して離れていく。


 ウォルビスが数回だけ手を振ってうしろ姿を見送ると、顔を左右に動かし周囲を確認する。そして、声を落として兄に話しかける。


「それにしても、これからどうするんだ? 生きていたとなったら、村の掟であいつを命がけで守ってやらないといけないんだろ?」

「ああ、それは絶対だ。だが、堂々と動くわけにもいかない。救世の光のこともあるからな」

「それだよ。結局のところ“救世の光”って何だろうな。知ってるか?」

「俺も詳しくは知らん。千年前から村に伝わる詩ってこと以外はな。うわさでは、世界を救う力や、支配できる宝とも言われてるな」

「あいつがそれを持っていると? 小さい頃にニアさんの家には何度も遊びにいってたけど、それらしいものは何もなかったぞ」

「物ではないだろう。誰にも見つからず千年も維持できる武器や兵器なんぞあるとは思えん」

「じゃあ、兄貴はなんだと思う?」

「そうだな。村に残った詩になぞるなら、特殊な力と言ったところか。それなら、古代種の特徴を持っていても不思議ではないだろう」

「言われてみれば。ところで、兄貴は詩って全部覚えてるか?」

「もちろんだ。だが、この詩は誰にも知られてはならない。特に王族にはな。あの村の出身者は皆、ルーセントの一族を守護するためだけに存在するのだからな」


 ディフィニクスが弟ウォルビスに念を押すと、周囲を警戒しながら耳元に顔を近づける。



『空が黒く染まるとき、希望の光が世界を救う。

 五つの光が集うとき、黒き灯火(ともしび)はその力を失う。

 悠久の英雄とともに希望の光は詩を奏でる。

 炎雷の王が姿を現し、王は天を貫き世界を走る。

 聖浄なる光が世界を包み、純なる黒を連れていく。

 黒き灯火(ともしび)が消えかけたとき、白き審判者が最後の裁きを下す』



 すべてを聞き終えたとき、ウォルビスの顔は困惑を極めた顔をしていた。兄の発した言葉を何一つ理解できなかったからだ。


「何語しゃべってんだ、それ? まったく意味が分からん」

「残念だな。今度、五歳児が言葉を学ぶための辞書を買ってやろう」

「そういう意味じゃねぇよ! 兄貴は分かるのか?」

「さすがに全部は分からんな。だが、希望の光がルーセントの一族だとすると、同じような存在がルーセント以外に四人はいるということだ」

「五つの光ってところか。五つの光ねぇ、おとぎ話に出てくる最初の英雄も五人だけど、関係あるのか?」

「たぶんな。むかし村長に聞いたことがあったが、あの一族に生まれる最初の子供は必ず銀髪に金の瞳を持っていたらしい。そして、今まで守護者は必ず中級だったと」

「ん? ちょっと待った。もしそれが本当なら、なんであいつが訓練学校にいるんだ? 今もむかしも上級以上じゃないと入れないだろ?」

「そういうことだ」

「いや、どういうことだよ? ……もしかして、最上っ!」ウォルビスの口を、ディフィニクスが瞬時にふさいだ。

「それ以上は言うな、王子が来る。いいか、絶対に誰にも言うな。もし、王族がルーセントに危害を加えると言うのなら、王家は俺たちの敵になる。それを忘れるな」


 無言でうなずくウォルビスを見て、ディフィニクスが手を離す。そこへ、第一王子の“アルガンザ・レイオールド”がやって来た。


「相変わらず仲が良いな。私もお前たちを見習いたいところだ。今日はよろしく頼むぞ」

「お任せください、殿下」

「今日のお前たちは、八号隊を任せる」

「かしこまりました」


 アルガンザはそれだけを伝えると立ち去っていった。

 ディフィニクス、ウォルビスの二人は無言でうなずくと、八号隊へと移動していった。


 初めての軍事演習に緊張を隠せないルーセントは、不安そうな顔で周囲を見渡していた。そこにうしろから声が届く。


「小動物に転職でもするか? 失敗したところで首を取られるわけじゃないんだぞ、ビビリ過ぎだろ。訓練なんて失敗を重ねるためにある。そんな調子では最後まで持たないぞ」


 声がした方向にルーセントが振り向くと、その目に映ったのは、偃月刀(えんげつとう)を肩に掛けるディフィニクスであった。

 戦う者の憧れにして軍神とも称えられるディフィニクスに、見習いルーセントの緊張はさらに増していた。

 ルーセントがぎこちない笑みを前将軍に送る。


「は、はい。あり、がとうございます」

「固いな、一度深呼吸でもしてみろ。それにしても、変わった髪色だな。名前は何と言う?」


 ルーセントはディフィニクスに言われるがままに、深呼吸を何度か繰り返し心を落ち着ける。そして将軍の質問に「ルーセント・スノーです」と答えた。

 ディフィニクスが本当にニアの息子か、と確認するための質問が続いていくと最後に核心をついていく。


「ところで、生まれはどこだ?」

「生まれ、ですか? えっと、今はもうなくなっちゃいましたが、スラープ村というところらしいです」

「らしい? 覚えてないのか?」

「いえ、全部ではないですけど、少しなら覚えています。でも、小さい頃に盗賊に襲われたらしくて……」ルーセントは過去を思い出して視線を落とす。

「そうか、悪いことを聞いたな」

「い、いえ、大丈夫です」


 ディフィニクスは間違いない、とずっと探し続けていた少年を見つけた。今度は必ず守り抜いて見せる、とルーセントの母でもあり、村の幼なじみでもあったニアに誓うように心の中でつぶやいた。

 ディフィニクスとの会話が一段落したとき、中軍から甲高い笛の音が響き渡る。

 笛の音を聴くと、各隊の隊長が中軍へと駆けていった。

 しばらくして隊長が戻ってくると、私語の禁止と隊列を乱してはならないとの禁止事項が伝えられる。

 ルーセントの隊の軍旗には『八号』と記され、左前天冲(さぜんてんちゅう)に割り振られていた。


 隊列は中軍を境に南北に分かれる。北を背に南が前線となっていた。

 隊はそれぞれの号につき二隊がある。各隊は十八歩の距離で並んでいた。

 北から南へ中軍に向かって『一号』『二号』『三号』『四号』となる。残りはそこから離れるように南へ『五号』『六号』『七号』『八号』と整列して合図を待っていた。

 伝令が行き渡り沈黙が支配すると、中軍から第一声の角笛の音が鳴り響いた。

 歩兵が隊列を整えて騎兵が馬を用意する。

 第二声の角笛が響くと歩兵が旗を掲げた。騎兵が馬に騎乗する。

 第三の角笛の音とともに、空に赤い火球が一発打ち上がり爆発音が響く。

 角笛の音と赤い火球が進軍の合図となって太鼓がゆっくりと一定の間隔で打ち鳴らされる。

 太鼓の一音が一歩の歩みとなって部隊が動き始めた。

 最初に『一号』『二号』『五号』『六号』の部隊が東西に十八歩進む。

 十八歩進んだ所で青い火球が一発打ち上がる。その爆発音とともに中軍の大旗が三度振られた。


 進軍部隊は「オー」「オー」「オー」と(とき)の声を上げると、それを合図に角笛の音が響く。

 今度は早いリズムで太鼓を打ち始めた。

 進軍部隊は太鼓の音に合わせて急いで十八歩進むと、今度は鐘の音が響いて進軍を停止させた。

 そのまま鐘の音が鳴っている間に攻撃展開へと移っていく。

 展開を終えると鐘が止む。そのあとに銅鑼(ドラ)の音と一緒に青と赤の火球が空に打ち上げられた。盾、槍、魔法兵が攻撃態勢に入る。

 別の合図で攻撃行動を取ったのちに、合図の笛が鳴ると、再び「オー」と声を上げる。そこにシンバルの音が響いた。攻撃態勢から四隊に分かれて八陣の基本陣形の隊形をもって第一陣となった。


 次は二連打の太鼓のあとに『三号』『四号』『七号』『八号』が同じ動作を繰り返す。

 進軍中、ディフィニクスは少し離れたところで全体を見ながら遅れや乱れなどを矯正していく。


「ルーセント! 太鼓の音に合わせて動け! 他のやつも隣ばかりではなく、全体を見ながら動け!」


 何度も同じ動作を繰り返していくと、自然と歩調が合いはじめて奇麗な隊列へと変わっていく。

 定位置まで来ると鐘が鳴り響いて再び攻撃展開に移行する。

 長方形の外周に大盾兵がつき、その中に槍と魔法兵が二列に並ぶ。

 攻撃の合図が出ると、ルーセントは前にいる盾兵の間から槍を突きを出したり、浮かせた盾の下から槍を突き出しては攻撃を開始する。

 シンバルの合図とともに隊列を分かれると、それぞれの隊形へと変わり第二陣が完成した。

 次は三連打の太鼓のあとに第一陣の『五号』『六号』が四号の第二陣の方へと進軍して三十六歩進んだ所で攻撃展開に移行する。

 攻撃が終わると隊形を戻し第三陣となる。

 さらに次は四連打の太鼓のあとに、前方第二陣の『七号』『八号』が第三陣の方へ進軍を開始して三十六歩進んだ所で攻撃展開に移行。

 攻撃を終えると元の隊形に戻し第四陣の完成となった。

 そこまで終えると、再び中軍が赤い火球を打ち上げ太鼓を打ち始める。

『一号』『三号』『五号』『七号』はその場で待機する。『二号』『四号』『六号』『八号』が十八歩南へ移動した。

 移動が完了すると鐘の音が響いて前後左右、縦横と隊列をそろえていく。

 隊列がそろい全員が外を向いたところで、八陣の基本隊形が完成した。

 そして八陣の基本隊形が完成すると、今度は遊兵の移動のために火球と太鼓、鐘がならされ陣形を整えていく。遊兵が北側後方を弧を描くように布陣すると、すべての陣形が完成した。

 その後も何度か場所を入れ替えては基本隊形を組み立てる演習が続いた。一号から八号すべての演習が終わると、再び元の位置に戻って基本隊形を形成する。

 続いて八陣法の鳥陣と折陣の編成へと移っていった。

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