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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
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2-8話 バスタルドの影5

 二人の周囲に熱気と火の粉が舞い踊る。

 ルーセントは、勢いよく吹き出る炎の壁に囲まれていた。

 炎の熱さか過去の恐怖心からか、顔を伝う一筋の汗に頭の中では、数年前に戦ったときのバスタルドの言葉が次々と浮かんでは消えていった。

 目の前で剣を構える少年とバスタルドの残像が重なる。

 当時の記憶がルーセントの身体を重くしていた。

 少しずつ間合いを詰めていたティベリウスがにらみつけながら足を止める。


「あの人を殺しておいて、お前だけのうのうと生きてるなんて許せない。さっさと構えろ、必ず仇を取る」

「僕だって、あいつに殺されそうになったんだぞ」

「知ったことか、あの人には返せないほどの恩がある。俺はお前を殺してその恩を返す。それだけだ」


 ティベリウスの自分勝手な言動に、ルーセントが初めて苛立った強いまなざしを目の前の少年に向けた。


「ふざけるな! 勝手に連れ去って殺そうとしてきたのは向こうだ。自分を守っただけなのに恨まれる理由なんてない! 許せないのはこっちだ!」

「だったら、ちょうどいいじゃないか。来いよ」


 互いの言い分がぶつかり平行線をたどる。それぞれの正義が新たな亀裂を生み出した。

 ティベリウスがにらみ付けたまま左手を敵に向けて“来い”とジェスチャーを送る。

 ルーセントはその理不尽な復讐心に苛立ち刀を構えた。そこにはさっきまであった恐怖心は消えていた。


 互いに間合いをはかり足を動かす。


 周囲から聞こえる小さくなった剣戟音を耳に、二人が人形にでもなったかのようにピタリと動きを止めた。

 燃え盛る炎の熱気に熱湯の汗を顔から流す。

 互いに出る息引く息の呼吸音を計って隙をうかがっている。一回、二回と呼気を数える。


 ルーセントの呼吸が一瞬だけ乱れたとき、ティベリウスが動いた。憎き銀色の頭をめがけて小振りに剣を振り下ろした。

 ルーセントもその動きに合わせて刀を切り上げて剣を弾く。それと同時に右足を下げた。

 そして、そのまま刀を切り下げ剣の上部をたたいて弾いた。

 ルーセントは左足を前に、半身となった身体の横で刀を下段に構える。その切先は地面に向けられていた。

 ティベリウスは止まることなく、さらに攻撃を続ける。右足を大きく一歩踏み込んで突きを放つ。

 しかし、その攻撃はルーセントの刀によって阻まれてしまった。

 再び間合いを取ってにらみ合う二人。

 ルーセントは湧き上がった一つの疑問を口にする。


「ところで、僕がバスタルドを殺したって誰から聞いたんだ?」

「気安くあの人の名を呼ぶな! 誰から聞いたかなんてどうでもいい。俺はお前を殺せればそれで十分だ!」


 再びティベリウスが動く。

 ルーセントの頭の中では、守護者のヴァンシエルが言っていた言葉が繰り返されていた。


『――ふははは、それでこそ我が選んだ男よ。我に間違いなどない! ルーインの匂いを漂わすあんな凡愚など、我らの敵ではないわ。がははははは』


 この言葉から、バスタルドがルーインと関わり合いがあることは間違いなかった。あの事件にルーセントが関わっていたことを知る者は多くない。

 ティベリウスにそれを伝えた人物は誰なのか。

 その人物をたどれば誰がルーインなのか判明するに違いない、とルーセントは思うものの、復讐にしか興味のないティベリウスに尋ねるのは困難だった。

 それどころか、ティベリウスのバスタルド仕込みの剣技に余計なことを考えている暇はなかった。

 数合打ち合っては離れて、を何度も繰り返していた。

 周囲では剣戟音が減ってきて、どちらかの勝負がつこうとしている。

 二人は何度目ともわからないにらみ合いを続けていた。


 ティベリウスが剣を肩に担ぐように構える。

 ルーセントは正面で刀を構えると、大きく開いた間合いを埋めるように、刀を前に突き出す形で詰め寄った。

 厄介そうに眉をひそめるティベリウスは、間合いを維持しようとルーセントが進む分だけうしろに下がる。

 数歩移動したところで、鋭さを増した金眼の少年が一気に間合いを詰めて左の肩を狙って突きを放った。

 ティベリウスは余裕をもってその切先を目で追いつつも、右前方に飛び退きながら首を狙った。

 しかし、この動きはすでにルーセントに予測されていた。腕が伸びきる刀を引き戻して左足を大きく下げる。

 そのまま身体を反転させると向かい来る刃を受け止めた。


 二人の視線が交差する。


 それと同時に金属がぶつかる鈍い音が、炎の音に紛れて響いた。

 ルーセントが瞬時にうしろに下がって間合いを取り直すが、ティベリウスの攻撃が止まることはなかった。

 次の瞬間には、右の内ももを狙って剣先が襲いかかってきていた。

 ルーセントは冷静な判断で刀で打ち払うが、そこには大きな隙が生まれていた。

 ティベリウスがそれを見逃すことなく無防備な銀色の頭に剣を振り下ろす。

 しかし、がら空きとなっていたのはルーセントの頭だけではなかった。

 ティベリウスの胴体もまた大きな隙をさらしていた。

 ルーセントは一瞬の判断で復讐に燃える少年の懐に飛び込んだ。そして、そのまま相手の腹甲めがけて刀を振り抜く。

 ルーセントの耳には風を切る剣の音がかすめ、身体のギリギリを通り過ぎる。ティベリウスには腹甲に守られた金属の音と、打ち込まれた衝撃が身体を駆け抜けた。


「があっ! くそっ!」


 ティベリウスは痛みに耐えて左手だけで剣を持つと左に薙いで大きく振り回した。右手で腹部を押さえながらよろける足取りで間合いを取る。

 ルーセントもまた、長く大きく息をはき出すと、刀を正面で下段に構え直した。

 痛みが残る身体に顔を歪めるティベリウスは、またもや頭を狙う。

 ルーセントは切先を左に寝かせて受け止める。

 しかし、その次の瞬間にはティベリウスが左の胴を狙っていた。

 ルーセントはとっさに左足を一歩下げながら刀を振り下ろすとティベリウスの前腕部を狙った。

 胴を狙った剣先は空を切り、ルーセントの刀は見事に腕を打ち付けていた。


 ティベリウスの前腕骨にヒビが入る。鋭い痛みに顔を歪めて右手を剣から離す。そして身体に引き付けるように曲げた。

 その顔は下唇を噛みしめ、痛みに何度も歪めていた。

 すでに勝負がついた、とルーセントが終わらせようと歩みを早め迫っていく。

 だが、あと少しというところでルーセントに向かって炎の槍が射出された。

 突然現れた紅蓮の炎をまとった魔法攻撃。

 その火炎槍に、ルーセントの表情が驚きに固まる。

 しかし、あと数十センチメートルというところで、炎をまとわせた刀で無事にたたき落として相殺(そうさい)する。

 ぶつかる炎の刀と火炎槍が風を産み出して大量の落ち葉を空中に巻き上げた。

 視界を遮られるほんの少しの時間、ティベリウスが反撃に出た。まばらに視界を遮る落ち葉の影で、炎の矢が形成される。

 ルーセントは気づくのが遅れて後手を踏む。


 至近距離から迫る炎の矢、舞い散る落ち葉を一瞬で灰に変えていく。

 ルーセントはとっさに振り抜いた最初の一撃でしのいだが、そこまでだった。

 迫り来る無数の矢の雨が、次々とルーセントを襲う。魔法が被弾するたびにセンサーが反応して魔法障壁が発動する。


「くそっ! ぐがあぁぁぁ!」


 被弾するごとに苦悶(くもん)の声をもらすルーセント。緑色のヴェールが輝く。

 そして次々とペナルティーが与えられていく。

 一発受けるごとに重力が増幅して身体の動きを鈍らせる。

 そして、そのたびに身体中を痛みが走り抜けていった。

 苦痛に顔を歪めて顔をこわばらせるルーセントは、なんとか逃れようと必死でうしろに下がる。

 しかし、高速で飛翔する魔法からは逃れることができなかった。下がる最中も何発かは刀で相殺させていたが、状況が好転することはなかった。

 その時、ルーセントの背中に何かがぶつかって疲労困憊の身体にペナルティーが重くのし掛かった。


「があああああああああああああああ!」


 痛みに叫び何があったのか、とルーセントがとっさに振り替える。そこには、炎の壁がそびえていた。

 ルーセントは襲い来るティベリウスの魔法に意識を取られてしまい、炎の壁があったことをすっかり忘れていた。

 設定されていた体力は、すでに三分の一にまで減っている。


 ルーセントは地面に膝をつき、呼吸を荒げ、顔からは汗が滴り落ちていた。そして刀を杖がわりに地面に突き刺すとゆっくりと立ち上がった。

 一度発動したペナルティーは敗北を知らせる赤い光が発動しない限りは解除されない。

 ルーセントの身体は動くたびに痛みが走り、重りを背負っているのか、と思うほどに負荷が掛かっていた。

 しかし、条件としてはティベリウスも同じであった。

 何度か受けたルーセントからの攻撃によりペナルティーが発動している。おまけに右腕の前腕骨にはヒビまで入って十分には力が出せずにいた。


 互いにボロボロになりながらも、ゆっくりと向かい合い武器を構える。


 勝負の時が近づいていた。

 ティベリウスが走り出す。

 ルーセントは十歩ほど進んで止まった。

 ティベリウスが首の左を狙い斬りつければ、ルーセントが刀で受け止める。

 止められたティベリウスが、今度は右の胴を狙うと、ルーセントはさらに一歩下がりそれを止めた。

 流れるように繰り出される剣技、なおもティベリウスの攻撃は止まらなかった。

 胴の一撃が防がれれば、今度はルーセントの左足を狙って切りつけてくる。

 しかし、それさえルーセントに弾かれると、褐色の少年は剣を顔の横まで引き下げて突きの構えをとった。

 左足を大きく踏みだす。

 その剣先はルーセントの喉を狙っていた。


 ルーセントは防ごうと刀を切り上げるが、ティベリウスの突きは途中で止まった。そしてすぐに剣を振り上げると再び首を狙ったが、そこまでだった。

 ルーセントはバスタルドが編み出した剣技を予測して切り上げる刀を止めていた。そのまま斬り返す刀で受け止めた。

 ティベリウスは必勝の剣技を見切られたことに大いに驚き目を見開いた。

 ルーセントはこの動きの止まった一瞬を見逃さなかった。剣の下をくぐり抜けるように踏み込むと、胴を打ち抜いた。

 その瞬間、二人を囲っていた炎の壁が消失する。

 肩で息をするルーセントにティベリウスが膝をついた。

 その身体に付けるセンサーには赤い光が輝いていた。

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