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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
2 王立べラム訓練学校 中等部
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2-4話 バスタルドの影1

 ルーセントとパックスは、大きなモニターにいくつもの映像が映し出されている部屋にたどり着いた。

 天井の高い部屋には、何枚も設置されているモニターがあった。その下には横に長い大掛かりな端末が設置されている。

 このオペレーター室は、横に十五メートル、縦に五メートルほどの広さがあり、控室も兼ねているようだった。部屋の中には四十人ほどの生徒がモニターを食い入るように見ていた。

 その時、小さな物音に気づいた教官が振り返る。その視線の先に立っていた見知らぬ二人を捉えた。太い首に厳つい顔の教官が眉間にシワを寄せる。


「なんだお前らは?」


 教官がルーセントたちの左腕に目を移す。そこに引かれた黄色のラインを見て表情を和らげた。


「ああ、今年の新入生か。おいお前ら、新入生が見学に来たぞ。カッコ悪いところを見せんじゃないぞ!」


 教官が生徒に煽りながらほほ笑えんだ。


「あの、ここは何をするところなんですか?」ルーセントがおそるおそる聞く。

「ここか? ここはな、分隊行動の練習をするためにある施設だ。フィールドは四種類、山、森林、丘陵地、市街地がある。その中でひとつを選んで、お互いが決められた領地を一定時間確保し続ける。三戦して先に二勝した部隊の勝ちだ。簡単に言えば陣取り合戦だな。あとは初期の行軍練習でも使う」


 説明を終えた教官が大型モニターに指をさすと「見てみろ」と二人を誘導する。

 そこには森林で戦っている様子が映し出されていた。

 二つの部隊がたった一つの拠点を取り合いながら、いろいろな方向から魔法を撃ち合っている。

 モニターには戦況以外にも、参加している生徒の名前や人型の絵とメーターが表示されていた。


「あそこの人型のやつはなんですか?」


 ルーセントは初めて見る装置に、映像に興味が尽きることなく教官にたずねた。


「ん? あぁ、あれは体力メーターだ」

 ルーセントの質問に、教官は「見た方が早い」と近くにいた生徒を一人呼ぶ。


 呼ばれた生徒は、モニターを気にしながらも教官の元までやって来た。


「こいつの首、両腕、両足に輪っかがあるだろ? これには、それぞれにセンサーがついている。このセンサーに専用の武器や魔法が当たると、メーターが減るようにできている。それが、あそこに表示されているやつだ。ちなみに、体力がなくなれば輪っかが赤く光って戦闘不能と見なされる。だが、時間内に自陣に戻りさえすれば、何回でも復活して戦闘に参加できる」

「魔法って危なくないんですか?」

「このドーム全体には魔法の威力を弱める装置がついてるから問題ない。それに、輪っかには魔法障壁の効果が付いてるから一定の威力以下ならカットする」


「それじゃあ魔法を使っても意味がないんじゃないですか?」

「まあ、普通はそう思うだろうな。だがこいつのすごいところは、魔法障壁が発動したらセンサーが働くようになっている。それと同時に、一定の痛みと重力負荷が身体にかかる。だから、無駄に被弾すると動けなくなって狩られちまう。うまくできてるだろ?」


 ルーセントは面白そうだなと思う反面、こんな技術は見たことがないと驚愕していた。

 パックスにいたっては、口を半開きにしたまま言葉を失っていた。ただひたすらにモニターに釘付けになっている。


「こいつにはバトルフィールドシミュレーターって名前がついてる。詳しいことは分からんが、千年前の技術を使って作られたみたいだな。これでも材料が失伝しているのが多くて未完成らしいぞ。まあ、この施設だけじゃなくて、この学校全体が千年前の技術で作られてるみたいだがな」


 教官の言葉にルーセントが驚く。

 これで未完成と聞いて、千年前は一体どんな世界だったのだろうか、とルーセントは興味が尽きなかった。


「あぁ、忘れてた。基本的に、この授業は週に二回ほど行うんだが、勝つと三万リーフの小遣いがもらえるぞ」


 映し出される映像に釘付けになっていたルーセントとパックスは、教官の最後の言葉に「おお」と声をもらした。


 しばらくして、森林で戦っていた部隊が戻ってくる。先頭を歩く二人、首筋に汗で張り付く青髪をうっとうしそうに手で払う黒目の少女と、その隣を歩く黒髪の少年が、先ほどの戦いについて意見を交わしていた。


「やっぱり、あそこは攻めた方がよかったのよ」

「そうは言っても、奇襲も受けたんだし、結果的には守っててよかっただろ?」


 攻めか守りか、平行線をたどる言い合いもそこそこに、戻ってきたそれぞれの生徒たちが教官の前に十人ずつに分かれて並んだ。


「森林チーム、二対一でアルファの勝利です」

「よくやった。特にアルファの最後の戦術は良かったな。うまく誘い込んでからの隙を付いた良い作戦だった」

「ありがとうございます」


 教官に褒められたアルファチームの部隊長が、うれしそうに汗を流した顔に笑顔を浮かべた。

 それとは引き換えに、負けたベータチームの面々は悔しそうに顔をしかめていた。

 教官がアルファチームからベータチームへと視線を移す。


「お前たちは連携もうまく取れず、攻めるべき時にまで守って攻めなかった。それが敗因だ。特にアーク、部隊を指揮するお前があんなに臆病でどうする! 戦況なんてものは常に変わる。それに合わせられないなら命を無駄に捨てるだけだ! もしこれが一万の軍だったなら、お前の行動のせいで数千人の命が無駄になっていたんだぞ。お前の背中には、常に部下の命がのし掛かっている。それを忘れるな」

「……はい。申し訳ありません」


 教官の叱責(しっせき)に、先ほど少女と言い合っていたアークと呼ばれた少年が、悔しそうに目を伏せて拳を握る。

 教官はしかめた顔をそのままに、もう一人の青髪の少女を見た。


「レイシア、お前はお前で自分勝手に動きすぎだ。たとえ指揮に不満があったとしても指揮官には従え。お前が無駄に動く分だけ、他のメンバーがそのカバーをしなくちゃならない。その分だけ守りが手薄になるんだぞ。さらには行動も制限される。仲間をほったらかしにする自分勝手なやつに、誰が背中を預けられる。自分と仲間の命を捨てるだけだぞ」

「ですが、あのままじゃ……」

「口答えをするな! お前の行動が仲間を危険にさらしてるんだぞ! それにここが軍だったのなら、お前はとっくに首を斬られてる。命令違反は死罪だ、分かってるのか?」


 教官の注意に、レイシアは納得いかない、とでも言いたそうに下を向く。

 そこに、教官が短いため息をついた。


「だがまぁ、お前の気持ちもわからない訳じゃない。だけどな、指揮官を説得できなかった以上は何があっても従え」

「分かりました。……すみませんでした」


 レイシアと呼ばれた少女は、悔しそうに下唇を噛んで短い返事を返した。

 教官が壁に掛けられた時計を見る。そのまま時間を数えながら指を動かした。


「あと一回はできそうだな」時計を見ながらつぶやく教官が新入生に振り向いた。

「せっかく来たんだ、お前らも試しにやってみろ」

「えっ! でも、足を引っ張るだけじゃ……」

「気にするな。指揮だろうがなんだろうが、何も知らないやつに教えられてこそ、初めて身に付いたと言える。それに、この時期に新入生が見学に来れば、人数にもよるが参加させている。まだ何も知らないんだ、結果は気にするな。ゲームだと思って楽しんでこい」


 笑みを浮かべて腕を組む教官の言葉に、ルーセントとパックスは「どうする?」と小声で相談を始めた。

 その時、もう一人の少年がオペレーター室に入ってきた。

 褐色の肌に短い黒髪の少年、ティベリウスだった。

 自分の部屋の窓から、ルーセントとパックスが施設の方向に歩いていくのを見て、こっそりと追跡していた。

 両手剣を左手に持ったまま視線が部屋のなかを動き回る。

 そしてルーセントに視線を合わせると、軽くにらみ付けた。


「もう一人来たな。お前もやってみるか?」教官が両手を腰に当ててあごを軽くしゃくる。

「ここは?」


 教官がルーセントたちにしたような説明を軽く済ませると、再び「どうだ?」と問いかけた。

 ティベリウスがルーセントに顔を向ける。


「ルーセント、だったな。お前もやるのか?」

「え? 僕の名前知ってるの?」

「目立つから」ティベリウスが人差し指で自分の頭を数回たたいてルーセントの髪色を示す。

「あぁ、だよね」

「で? やるの?」


 ルーセントは、どこか殺気のこもる口数の少ない少年の言葉に、苦笑いとともに困惑した顔を浮かべる。


「うん。せっかくだし、パックスと一緒にやってみようかと思う」ルーセントが隣の少年に親指を差す。

「そうか」うなずくティベリウスが教官に顔を向けて言う。

「自分もやります」

「よし、決まりだな。そっちに更衣室と装備があるから準備してこい」


 三人が教官に返事を返すと更衣室へと歩いていった。

 こうして、ルーセントと復讐に燃えるティベリウスの最初の戦いが始まった。

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