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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
1 動き出す光と伏す竜
25/134

1-25話 動き始めた時間

 クドラ直轄特殊戦術部隊 エクリプス構成メンバー。


 司令総隊長   クドラ・レフィアータ

 軍師      ベイン・スティーグ

 政務長官    アイル・イズラリ

 第一特殊部隊長 バレット・デイ

 第二特殊部隊長 イル・サンダーラート

 第三特殊部隊長 グルヴェリカ・ロックローズ

 第一諜報部隊長 アクティール・クラウン

 第二諜報部隊長 カシー・ダーク

 第三諜報部隊長 ディクシアン・パール

 第四諜報部隊長 ジェラール・ミンサー

 第五諜報部隊長 アルガープ・ディアマント


 選ばれた十名が、発足初日に城の一室に作られた作戦本部室に召集された。

 縦に細長い机の頂点にルーインが座る。その両サイドに各部隊長がいた。

 まずはルーインから見て右手側に軍師のベインが、その正面に政務長官のアイルが座る。さらにベインの隣には第一諜報部隊長のアクティールが、アイルの隣に第一特殊部隊長のバレットが座っていた。以降には、第二から第五までの部隊長が席につく。しかし集まったメンバーは、皇子の点数稼ぎのために集められたとしか思ってはいなかった。


 一体なにをやらされるのか、と誰もがやる気を見せずに、渋々と若き皇子に従っていた。全員の顔を見渡すルーインもその気配には気づいてはいたが、これといって意に介さず威風堂々とした態度であいさつを始めた。


「今日はよく集まってくれた。お前たちは我の計画に最良だと思い選んだ。父上の管轄からは外れるが、今日より我が命により動いてもらう。これがその初日だ。それにともなって、お前たちには百人の部下が与えられる。しっかりと管理して従えて見せよ」


 ルーインが言い終わると、長い黒髪を揺らして立ち上がる者がいた。羽織る紺色のローブから伸びる白い手が机を押さえる。ルーインの前方に座っていた、軍師のベインである。


「クドラ様、この度は私どもを選んでいただき恐悦至極にございます。先ほど計画とおっしゃいましたが、それをお聞かせ願えますでしょうか?」


 ベインがふたたびイスに座ると、そのずる賢いイメージを与える鋭い切れ長の目が皇子に向けられた。


 生意気そうな軍師の態度に、ルーインの口がニヤリとゆがむ。


「ああ、いまから話す。だが、その前にお前たちに伝えておくべきことがある。我らの国が、近いうちにすべての戦中国と十年の停戦を結ぶこととなった」


 ルーインの言葉に、今度はバレットが身を乗り出す。


「お待ちくださいクドラ様。それがアンゲルヴェルクというのならわかりますが、ほかの国まで、というのは何かの間違いではござらんか? この国が、取るに足らない弱小国どもに屈するとでも言われるのか。ふん、陛下も落ちたものよ」

「無礼だぞ、バレット! 身分をわきまえよ」


 皇子の前で、その父親を罵倒するという不敬に対してベインがバレットを叱責(しっせき)する。バレットは階級こそ同じではあるが、自分よりもはるかに若い青年にイラ立つと「黙れひよっこ! 戦うことも知らぬ小僧が偉そうなことをほざくな!」と怒鳴りつけた。


「ほぉ、我もまだ十歳の子供で、戦も知らぬひよっこだが、貴様は我にも言っておるのか?」


 イスのヒジ置きで頬づえをつく少年が、歴戦の勇士でもある武将をにらみつける。その目から、全身からは、かつて邪竜王として君臨していた時の凍てつくような殺気を放っていた。

 そのケタ違いの威圧感が押しつぶさんばかりに部屋を支配する。ルーインは頬づえをついたまま

「答えよ、バレット」と低いながらも強い声を発した。

「そ、それは……」


 バレットが恐怖で引きつる顔をさらしていたが、それはこの男だけではなかった。その場にいた全員が、経験したこともない殺気に恐れて身体を震わせていた。


「どうした、言葉を忘れたか? 我は答えろと言ったはずだ。それとも、さっきの言葉を肯定ととっても良いのか? 貴様が一人消えたところで我には何の痛みもないぞ」ルーインがさらに殺気立って追い込んでいく。

「さ、先ほどの言葉は、ベインに言ったのであって、ク、クドラ様に言ったのではありません」


 バレットが青ざめた顔で止まらぬ冷や汗を拭う。床に膝をつけると、震える身体を必死に押さえ込んでゆっくり答えた。


「同じ事であろう。貴様の言ったことは我にも当てはまる。次はないぞ、気をつけよ。それと……」


 ルーインが一度だけ言葉を止めると、射殺すような冷たい紫色の瞳が他のメンバーの顔を見渡した。ここで威圧をさらに強めていく。


「先ほどからほかの者もやる気がなさそうに見えたが、何か不満でもあったか? 今なら我が聞いてやろう」


 ルーインの言葉が全員におよぶと、一人残らず下を向いて身体を硬直させる。そこにベインが決死の思いで取り繕う。


「めっそうもございません。我ら一同、身命を賭して忠誠を誓います。この度のことは、なにとぞお許しください」


 ベインがすかさず床に膝をつく。それを見ていたほかのメンバーもそれに従った。

 窓から差し込む彩光が、ルーインにひざまずく十名に降りそそぐ。その姿は実に神秘的な光景を生み出した。


「そうか、ならば今回はその言葉を信じて不問とする。全員、楽にせよ」満足したルーインが笑みを浮かべた。

 部屋に平穏が戻ると、全員が落ち着いたところを見計らってルーインが話を続ける。


「先ほどの続きだが、停戦をするのは、なにも父上が他国に屈したわけではない。時にお前たちは我の守護者について知っておるか?」


 この皇子の言葉に、皆が顔を見合っては様子をうかがっている。そこにベインが身ぶりをつけて話し出す。


「いえ、私はクドラ様が倒れたとは聞いておりますが、それ以外については知らされておりません。おそらく、ここにいる者たちは皆同じかと思われます」


 ベインのこの言葉に、ほかの者たちが同意するようににぎやかさが増していく。そこにルーインが片手を上げて収めた。


「我が得た守護者は最上級であり、鑑定士の知識にも存在しない。その能力は他のものとは別格であり、闇に関わる魔法を使う。さらに覚醒後には、存在するほとんどの魔法を使うことができるようになる。召喚魔法にいたっては、一撃だけだが隕石を落とすことができる。これさえ使えれば、天門関など砂山の城より崩すのが容易い。それゆえに、今は国力を蓄えるために停戦をするのだ。十年後、我はこの力をもって世界に宣戦布告をする。そのためにお前たちがここにいる」

「なんと壮大な計画でありますか。しかも、我々がその一端を担えるとは、これは前世の徳に感謝せねばなりませんな」


 上機嫌に語るのは先ほどまで縮こまっていたバレットであった。皇子のその常識から外れた能力を聞いて、一瞬で虜にされてしまった。しかしベインは、目の前で目を輝かせているバレットとは対照的に、アゴに手を添えてその端正な顔をしかめた。


「たしかにそのケタ外れの能力があれば、どの国を相手にしても悲願を達成できるでしょう。しかし、クドラ様の守護者は最上級なのです。十年で覚醒までさせるには無理ではありませんか?」

「そこで、最初に言った計画が必要になるのだ。先ほどにも言ったが、この守護者は鑑定士の知識には存在しない。それがなぜかわかるか、ベインよ」


 ルーインに質問を返されてしまった若き軍師が、自分の知識を総動員して考えるものの、到底その答えにはたどり着けなかった。


「申し訳ありません。私には力不足のようで……」

「かまわぬ、これは我にしか知りえないことだからな。そもそもが、この守護者は他のものとは違って覚醒を必要とはしないのだ」

「信じられませんな。本当にそんなものが存在するのですか?」


 ここで初めて、今まで沈黙していた政務長官であるアイル・イズラリが口を開いた。

 今年で六十歳になる老齢な男は、女神が作り出した仕組みに穴があることが信じられなかった。


「ああ、現にここにある」ルーインがそう言って衣の袖をまくると、自身の左手を見せた。

「ではお聞きしますが、覚醒を必要としないのであれば、いったいどうやってその力を解放するのですかな?」


 不信感がぬぐえないアイルが、その疑問を解決させようとルーインに問いかける。その言葉を聞いて、邪悪な王である少年の口がニヤリと動いた。


「五大国にある“封印のクリスタル”の破壊、それが我々の最大の目標だ」

「なんと! あのクリスタルにその力が封印されていると?」

「あれは最初の英雄たちが封印したとされるもの、おとぎ話では月から落ちた魔物の王だとされていたはずではありませんか?」


 おどろくアイルに、バレットが引き継いで話に割り込んだ。


「しょせんは千年前の出来事だ。当時の権力者が、自分たちの都合のいいように書き換えることなど容易であろう。歴史とは、いつの時代も頂点に立つものが好き勝手に作り上げるものだ。今見ているものが正しいとは限らん。それに、この能力を解放したときにすべての記憶が流れ込んできたのだ。それを見れば、おとぎ話などうまく作り上げた戯言にすぎん」

「ほお、あのおとぎ話は好きで小さいころによく読みましたが、いったいどういうことで?」


 すでにルーインのことを疑うことすらしなくなったバレットの言葉に、ルーインの口が楽し気にゆがむ。そして、その口から古代の災厄が作り上げた話を紡ぎだした。



 ――その昔、女神の恩恵によって生み出された存在である邪竜王ルーイン。

 しかし、その存在は女神が創り出した失敗作であった。強大な力をもって生まれたルーインは、いつしか使役者の心を、その圧倒的な力によって酔わせてしまう。その力は、すぐにも抗いきれないほどの破壊衝動へと変わっていった。

 ついには、使役者が世界中を相手に暴れだしてしまう。すべての魔法を操る使役者は、どんな攻撃をも寄せ付けることなく、当時の文明を破壊し尽くしていく。その攻撃は、人類を絶滅近くにまで追い込むほどであった。

 女神は、ルーインを生み出した罪悪感と悲しみによって討伐を決意する。そこで、のちに最初の英雄と呼ばれる五人の人物を誕生させたのであった。

 女神に選ばれた五人には、特別な守護者が与えられた。その力は絶大で、魔王とまで呼ばれた使役者は、どんどんと追い込まれていった。

 結局最後には、メルト大陸で五人の英雄によってその力を封じられることになる。それが五大国に眠る封印のクリスタルとなり、今にいたっている――。



「……ということだ。今のままでは、どれだけレベルを上げようが真なる力を出すことはできない。そのままでも弱くはないが、本来の力を出せなければ意味がない」


 ルーインの口から語られた偽りの真実を疑うものは誰もいなかった。


「なるほど、クドラ様の持つ守護者が女神の災厄であり、何かの理由によって、ふたたびこの世に現れたということですか。たしかに、これが真実であるならば、書き換えられていても不思議ではありませんね」最初に口を開いたのはベインであった。

「まさか、あのおとぎ話にそのような事実があったとは、騙された気分ですな」


 小さいころに英雄を夢に見た男が、その純粋な心を傷つけられた事実に少しムッとする。ほかの者もバレットに同調するように騒がしくなった。


 ルーインがふたたび場を静めた。


「それゆえに、当面の最終目標はクリスタルの破壊だ。第一から第四の諜報部隊には、ここ以外の四カ国に潜入してもらう。第五のアルガープの部隊には、連結と連絡役を任せる」


 命令を受けた五人が返事を返す。それを聞いてルーインがさらに続ける。


「そして、おそらくは十年後となると思うが、我が国が再び侵攻するタイミングで内から攻撃、そしてクリスタルの破壊をしてほしい」

「なるほど、どの国も外からの攻撃には頑丈ですが、内側からは弱いもの。それも十年の年月をかければ、決して不審には思われますまい。国の大業と、自身の計画をも両立させる見事な計画です」ベインが感心して答えた。


 ルーインが軍師から褒められたことに得意げな表情を浮かべる。そこに、まだ指示を受けていないバレットが立ち上がる。


「某たちは何をすればよいですかな?」

「ああ、お前たちには我の戦闘訓練と、それぞれの部隊の訓練に充ててほしい。そして、この国一番の精鋭部隊となり、我が矛となれ」


 バレットたちがルーインの言葉に奮い立つ。

 まだ幼いながらも、次期皇帝に最も近い存在といわれるクドラから『我が矛となれ』と言われて、やる気を見せないものはいなかった。

 ルーインの口から出た言葉は、この国で最上位の能力を持っていると認められたに等しい。だれも声には出さなかったが、自分こそがこの国で一番の存在だ、と早くも視線を送り牽制(けんせい)していた。


「この国で一番の精鋭か。ふはは面白い。このバレット、必ずや成し遂げて見せましょうぞ」


 逸るバレットをしり目に、すべての部隊に指示が渡ると解散となった。それぞれが準備のために散っていく。そんななか、ルーインは第一諜報部隊のアクティールと、軍師のベインを呼び止める。


「アクティールよ、後で話がある。ベインも一緒に我の部屋に来てくれ」


 二人がうなずいて返事を返すと、作戦本部を出ていった。


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