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月影の砂  作者: 鷹岩良帝
1 動き出す光と伏す竜
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1-24話 エクリプス

 クドラが守護者を解放してから、身も心もルーインに支配されて二カ月が経過する。最初の一カ月は人の身になれることに、残りはクドラとの違和感を消すために記憶を探って第一皇子を演じることに心血を注いでいた。

 そこからさらに一カ月が経過して、今や完璧にクドラを再現していた。


「竜となって久しいが、人の身もまた懐かしいな」


 ルーインは自分の部屋のテラスに出ると、左手を握ったり開いたりを繰り返して満足そうに眼下に広がる城下町を眺める。大きく息を吸うと、ふたたび左手へと視線を映した。


「さすがに、ほとんどの魂が封印された状態ではたいした力は使えぬか。さて、封印のクリスタルはどこにあるか」


 ルーインが目を閉じると、意識を己の魂の波長へと合わせる。湧き上がる黒い霧が少年の身体を包み込むと、ルーインの頭の中にさまざまな風景と時間の流れが駆け巡った。しかし、封印の力が邪魔をしてイメージにノイズが走る。それは不鮮明な映像となって展開された。


「クソッ! うっとうしいな。ここまで抗えぬか、忌々しい!」


 ルーインは封印される前と違って、抑圧された力に屈する己の能力の低さに苛立ちを隠せないでいた。

 握りしめた右手を手すりへとたたきつける。その後も何度も繰り返しながら、やっとのことでクリスタルのありかを探り当てた。


「さすがに疲れるな。守護者に変換した能力も、レベルで抑えられていて満足に使えん」


 魔力のほとんどを使い切ったルーインは、気だるさにふらつく足取りで部屋に戻ると、そのままソファーに座って横になった。


「なんとか場所を探れたのは僥倖(ぎょうこう)か。ひとつはこの国、ほかにはアンゲルヴェルクとパトロデルメス教皇国。あとは、北にあるサラージに南西にあるネベリバリ帝国か。みごとに四方にバラけているな。さて、どうしたものか……」


 目を閉じるルーイン、そこに扉をたたく音が響いた。


「なんだ?」


 いつの間にか眠っていたルーインは、ぼんやりとした様子で気だるそうに立ち上がった。

 ふたたびたたかれる扉の音に「いま行く」と声をかける。

 あくびをしたまま扉を開けると、使用人が立っていた。


「お休み中でしたか、失礼いたしました」

「かまわん。で、何の用だ?」

「はい、皇帝陛下がクドラ様をお呼びです。執務室までお越しください」

「クク……、父上が? いったい我に何の用か?」

「そこまではお聞きしていませんが、今後のことで大事な話がある、と申しておりました」

「今後? わかったすぐに伺う」

「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 使用人が去っていくと、ルーインが考え込む。


「今度は何を思いついたのか、あの戦バカは」


 ルーインは憂鬱(ゆううつ)に思いながらも、眠気の残る身体で皇帝の執務室へと向かっていった。



 現在、レフィアータ帝国は三カ国と戦争状態にある。アンゲルヴェルク王国と、その北にあるメーデル王国、そして海を越えたネベリバリ帝国と一進一退の攻防を繰り広げていた。



「父上、クドラです」ルーインが執務室の扉をノックする。

「おお、よく来た。早く中に入れ」

「失礼いたします」ルーインが扉を開けると一礼する。


 部屋の主が息子の姿を見て、つり上がった目を柔らかくゆがめる。一般の人間であったのなら、その身にまとう風格に耐えがたいほどの恐怖を覚えるだろうが、ルーインはものともせずに促されたソファーへと座る。ククーラもまた座りなおすと、嬉々(きき)とした表情で息子に向かい合った。


「クドラよ。今すぐにとはいかないが、我が国はすべての国と停戦しようと考えている」

「どうされたのですか、何か不都合でも?」


 ルーインが今の立場が危うくなるのは都合が悪い、と眉をひそめた。


「そんなに深刻な顔をせずともよい。別にこの国が傾いたわけではない」

「それなら停戦をする必要がないのでは?」


 予想通りの反応に、ククーラがニヤリと表情を崩す。


「すべてはお前と、その守護者のためだ。このまま戦を続けていては、いざというときに疲弊して動けなくなるだろう。今はおとなしく蓄えることが肝要だ。お前の力が育った暁には、すべての国を飲み込んで見せようではないか」


 ルーインは、ククーラの話に感心する。どうせ軍師の提案であろうが、こいつもたまには頭が使えるのだなと。


「なるほど、さすがは父上ですね。しかし、そんなすぐには育ちませんよ」

「わかっておる。とりあえずは十年だ、それまでは国力を蓄える。お前は十年でできるところまで育てるがよい。そこから先は様子を見てから決める。よいな、つらい時もあるだあろうが、決して折れるでないぞ」

「かしこまりました。必ずや父上の期待に応えて見せましょう」


 自信に満ちた息子の返事に、ククーラが満足げにうなずく。そして、思い出したように本題へと移った。


「ああ、それに伴ってお前に部下をつけようと思う。あとでリストを渡しておくから、そこから十人を選べ。それぞれの部下に兵士を百人、お前にも百人を与える。クドラよ、お前は我の後を継ぐものだ。必ず率いて見せよ」

「ありがたき幸せ、このクドラが必ずや報いて見せましょう」ルーインは与えられた境遇にほくそ笑む。

「よくぞ申した! それでこそ我が息子だ」


 ククーラが最後に「期待している」それだけを伝えると会話が終わる。ルーインは自室に戻る途中でも笑いをこらえられなかった。


「ククク、人の世とはかくも面白いものか! 時は我に味方した。今度こそ女神どもを滅ぼし、我が手中に収めてくれるわ」


 光月暦 一〇〇〇年 九月


 月が変わると、ルーインから選出された十名が一室に集められる。そこで、ルーインの口から希望の光を喰らう、そんな意味を込めて“特殊戦術部隊 エクリプス”と部隊の名が告げられる。構成メンバーは隠密、諜報に特化した五名、それに戦闘に特化した三名、ほかには内政と軍師として一名ずつ、上級守護者を持つ十名が選ばれた。

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