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イエス JESUS!!!!!!

作者: ジョアンド

絶対無理だろうなって思いながら、思い切って言ってみたら予想外に相手が受け入れてくれたことはありませんか?それはきっと神様がこっそりとかなえてくれていたのかもしれません。

一生に一度しか使えないそんな不思議な力が僕たちの見えないところにあるのかもしれない。

イエス


 ヤッホー!神様だよ!最近ちょっと退屈だからさーなんか暇つぶしでもやろうかなって。元々、人間には言葉という特別な道具を持たせて生まれさせたんだ。互いに協力するため、人に思いを伝えるため。相手をけなすため、傷つけるため。まあどのように使おうが私の知ったことではないんだけどー、だれもが本音と建て前を駆使しながらうまーく生きているみたいだよ?できない人はみーんなに見捨てられて、それもまた影口とかさ、そういう嫌な言葉の使い方だけどさー、悪口とかによって見捨てられていくみたい!

 

 これだけでも十分におもしろいっちゃ面白いんだけどー、もう何千年も人類見てきたし、そろそろ新しい刺激が欲しいっていうか。もう一つ人間にスペシャルプレゼントをあげよっかなって。まあ一言でいえば思いつきなんだけどね。


「相手に必ずイエスと言わせる言葉」


 これを新しく一部の人にあげようと思うんだ。勘違いしないでほしいんだけど、この能力がずっと使えたらさすがに無敵すぎる。それはもうゲームでいえばチート状態だし、そんな人間無双とか見ててもなーんにも面白くない。


 だから一回に限定しようと思う。生まれてから死ぬまでにたった一回だけ相手にイエスと言わせる。そしてその承諾は口だけでなく、そう相手に思いこませて、本心が奥に潜んでいたとしても疑わせない。だれもこの能力を使われたことに気付けない。そういうことにしておこう!


考えるだけでもわくわくしちゃう。こんな能力を人間はどう使っちゃうのかな?

さっそくやらせてみようじゃないか。

さあ人生スタート!!



 はっと、うなり声をあげながら目を覚ました。何だったんだ今の夢は。すでにおぼろげになっていく夢の断片をかき集めながら俺は思い出そうとした。なんか特殊な力を与える?本当にそんな力があったら苦労しないけどな。昨日まで徹夜続きでイベントの企画書をまとめ上げていたから変な気持ちがでちゃったんだろうよ。


 ふらつく足で壁伝いに洗面所に向かう。顔を冷たい水で洗うとようやく目が覚めてきた。冷静に考えてみると変な恰好した人だったな…ていうか一言でいえばピエロだった。くるくるした赤茶色の髪に、真っ赤な丸い鼻。左目にちゃんと涙も描いてあった。妙にリアルだったし実は本当の神様だったりして。くくっ、思わず一人なのに笑ってしまった。俺も相当疲れてるな…。まあでもせっかく夢枕に立ってくれたんだし、そういう力があると思って過ごしてみるか。


 やべっ、もうこんな時間じゃん。変な夢なんかに気を取られていたせいで、朝の新聞の読み合わせに遅刻しちまう。白飯を卵と醤油でかき込んで、今日帰る時間をテーブルに置き書きだけして急いで仕事場に向かった。ぎりぎり定刻数分前には間に合った。


 「おや加藤くん、今日は休みかと思ってたよ。」と上司に軽い嫌味を言われつつもなんとか首の皮がつながった。それ以外午前中はいつも通りだった。作ってきた企画書を上に見せては、直すべき点を指摘され突き返される。これで何度目だったかは数えたくもないから分からないけど、いっそのことイエスって言わせて受け取らせてやろうかとふと思った。紙をバーンとあいつの机に叩きつけて受け取らせるというのも、疲れ切った寝不足の俺にはひどく爽快に思えた。


 でもこんなことに使ったらもったいなさすぎる。ここでおれの人生が決まるわけでもないし。もちろん出世コースからすでにやや外れそうだからそこまでピリピリしてないっていうのはあるけれど。それよりきっともっと良い使いどころがあるはずだと思った。


 昼に同僚を連れて外へ食べに出ると、行きにすれ違いざまにちらりと一人の女性と目が合った。彼女の名前は里奈という。実を言うと俺たちは付き合っている。一方的な俺の一目惚れから始まったのだが、今なんともう5年も交際を続けている。しかも半年くらい前から同棲を始めた。同棲していることまでは社内ではまだあんまり知っている人はいないんだけど、人事の方には届け出ている住所が同じになっている時点で広まっていくのは時間の問題ではある。で肝心の結婚の話はというと、まだ出来てないけど、なんとなく相手がはぐらかしてるようにも感じていてやきもきしている。俺としてはもう彼女しかいないと思ってるんだけど。


 周りに変に勘繰られないように、彼女からすぐに視線を外すと連れの同僚と近くの定食屋に向かった。そこで偶然もう一人の部署は違うけど、同じ会社の同期に出くわした。


「あら加藤君!久しぶりー。」


 彼女はたまたま入社時の研修で同じ班になって以来、たまに連絡を取ったりしていた。あの研修をともに耐えた仲間意識というか、不平不満をぶち明ける飲み仲間というか。


 流れ的にこの三人で飯を食うことになり、俺は縞ホッケ定食を頼んだ。こってりとした肉系の料理とか脂っぽいものをすこしずつ受け付けなくなっているっていうのは自分では受け入れがたいけど、悲しくも現実だった。まあでもマンションに住んでいると魚はなかなか食べられないしな、と自分に言い聞かせて納得した。


「そういえばさあ。」


 食べ終わった後、隣を歩く彼女から突然切り出された。もう一人の連れは出回りに行かなければならないとかで、定食屋から出たら一足先に会社に戻っていった。だから結果的に彼女と二人で歩く形となっていた。


「佐藤さんと同棲してるんだって?」


 俺はどきっと心臓をつかまれたような気がした。佐藤とは里奈の苗字だ。もう情報が洩れて広がってやがった。流したやつ、いつかとっ捕まえてやる。


「うわーその顔を見る限り本当なんだ、ショックー。」


 こうやってすぐに考えていることがばれてしまうのだけは、人生を積み重ねてもなかなか克服できない。浮気なんかしたらすぐにばれてしまうに違いなかった。


「なんでお前がショックを受けるんだよ。」


「だって本来女性は若いうちに子供産んだほうがいいんだから、早く結婚適齢期が来るのにさ、先に同期の男が結婚間近かと思うと心が痛むわー。」


彼女は大げさに頭を振りながら手を大きく広げた。


「まあ確かに30を過ぎても結婚してない女っていうのは一つのラインではあるわな。」


「ひっどーい!まだ29よ、私は。30なんかのおばさんと一緒にしないで。」


「おまえそんなこと言ってると一年後本当に後悔してるぞ。」


 そもそもおれは男だからというのもあるんだろうけど、女の人よりは加齢に対して悪いイメージは少なかった。でもいつだったか一度テレビで聞いた言葉をよく思い出す。「もし老いが悪い事だとしたら、この先の人生にどんな意味があるのか。人生とは年齢とともに若さを失いながら転げ落ちていくだけなのか。それとも老いの中にも人生の価値を見出すのか。それは自分の考え方一つなのだということ。」


そんなようなことを彼女にも言ったら、「そんな綺麗ごとを聞きたいわけじゃないわよ」と彼女はフンと鼻を鳴らした。


「そんなことより、一つ話があるの。私が今から言うことをちゃんと聞いてよね。」


なんだ急に改まって、そんな言いかたされたら俺も「はい」というしかないじゃないか。


「これは友達から聞いた話なんだけど、どうも佐藤さんが結婚に乗り気じゃないみたいなのよね…」


もしかしたらそうなんじゃないかって思っていた事をいざ目の前ではっきりと言われるとショックが大きかった。


「同棲してみて、どうも気になる事があるみたいな相談を友達にしているらしいの。」


「おれもなんとなくそんな感じがしてたんだけど…」


先ほどのインパクトからまだ立ち直れず、うなだれたまま俺は正直に言った。


「じゃあやっぱりそうなんだ。でも私達はまだうまくいきそうもない相手と急いで結婚を焦るような時期ではないじゃない。ゆっくりもう一度考えたら?それにもし別れちゃって一人暮らし寂しいなんていうなら私が拾ってあげるわよー。」


おどけながら彼女は最後の一文を付け加えた。


「そうだな…」


 俺は結構思いっきり悩んでいた。自分ではそれなり同棲がうまくいっていると思っていたんだ。里奈となら結婚してもうまくやっていけると思ってた。それでも相手はやっぱりそれほど乗り気ではないという事実をどう考えたらよいのか分からなかった。


「そうよ、だからさー今夜飲みにいこ?金曜日だし、なんにも考えずにぱあーっと飲もうよ!外で言いにくい事あったらわたしんちで宅のみでもいいからさ。」


 彼女の言葉をぼんやり聞きながらも、考えても分からないことが多すぎた。それでもなんとか答えを見出そうとした結果、なんとなく一番シンプルな答えにたどり着いた。


「とりあえずおれプロポーズしてみるわ。」

「ええ?!どこからそんな話になった?!」


言葉にすると不思議とがっしり俺の心は定まった。プロポーズしてそれでもはぐらされたらきっぱり諦めよう。


「ありがとう、誘ってくれて。おかげで心が楽になった。俺今日思い切って切り出してみるわ。」


そう言って俺は軽く手を振ると、一心に会社に向かって走り出した。


置いていかれた彼女はそこで一人になった。


「…せっかく相手に、肯定させたって、今のじゃ全然意味ないじゃん。」

誰にも聞こえないように彼女はつぶやいた。


「『そうだな。』って言いながら完全に違うこと言い出すやついるか、普通?あーあ、使い損しちゃったなあ。」

 そう言って彼女もゆっくりと彼に追いついてしまわないように会社に戻っていった。


 仕事を早めに切り上げて俺は急いで家に戻った。里奈は俺たちよりも帰る時間は早いからすでに家にいるはずだ。でも自分の帰る時間が近づくにつれてなんて切り出すかを考えるのにいっぱいいっぱいで、それからはもう何も仕事が手につかなかった。そこでふと思い出した。あの力を今使わずにいつ使うんだ。そうだ、それなら必ず結婚してくれるに違いない。今は神の力でもなんでもいいからうまくいくという自信が欲しかった。


 急いで電車に乗って家に向かった。電車がホームに入ってから、ドアが開くまでの時間さえもどかしかった。我先にとホームに出て、エスカレーターも駆け上がった。最寄りの駅口を勢いよく飛び出して、俺は近道の路地に入った。


 でもその路地にはいつもあれ系の高級車がよく止まっていることをすっかり忘れていた。しかも急ぎで前のボタンをろくに止めていないスーツのジャケットが走りながら風を受けてスーパーマンのマントように横いっぱいに広がっていた。それでもうまくよけたつもりだったけど、ベンツとのすれ違いざまにぱりーんっと高い音が路地に響いた。


「おい、にーちゃんちょっと待てや!」


 慌てて振り返るとごっついサングラスをしたおっさんが車から出てきた。


「どうしてくれんねん、このミラー。ばっきばっきになってしまったやないかい!」

「すいません、ほんとすいません。」


 俺はひたすら頭を下げた。本当にどうしよう。法外な金をひったくられるのか俺。いや、でも今そんな金もってないし…。でも断ってどこかに沈められたりしたり、指詰めさせられるとかついつい考えてしまう。


「そうだな、どんくらい払ってもらおうかのう。」


「すいません、ほんと申し訳ないんですが、これだけしか手持ちがないんです!これで許してください!」


その時財布の中には3000円しかなかった。相手がヤクザじゃなくたって壊したミラー代にもならない3000円では納得しないだろう。でも俺は願った。人生で一番願ったかもしれない。お願いだ…これで見逃してくれ…!


 「これからは気をつけろよ。ったく。」


 そういうと相手は車に乗ってそのままどこかへ消えた。あまりに思いがけない結果にポカーンとしばらく呆然としていたが、はっと我に返ると急いで家に向かった。今日はたまたま相手の機嫌が良かったのかもしれない。本当にラッキーだった。


「ただいま!」


 俺はいつになく上ずった声で声をかけながら勢いよくドアを開けて中に飛び込んだ。


「お帰りーどうしたのそんなに息を切らせて?」

「里奈!結婚してくれ!」


もうおれの頭の中にはそれしかなかった。

「え?!どうしたの急に?」


 彼女が戸惑うのも当然だった。突然同棲相手が息を切らせながら、玄関先で大声でプロポーズしてるんだ。あとから思い出すと顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。


「俺は本当にお前と結婚したいんだ。お前としか結婚したくない。だから結婚してくれ。」


 俺は崖から飛び降りる気持ちでもう一度はっきりと言った。ちらっと里奈の顔を見ると怒っているようにも見える。返事がもらえるまでの時間が重たく俺にのしかかっていた。


「言うのが遅い。私だっていい加減待ちくたびれてたんだからね。」


「本当か?!でも噂で俺との同棲でなんか気に入らないことがあるって…」


「そりゃあたくさんあるわよー。相変わらず洗濯物を裏返したまんま洗濯機に突っ込むわ、自分の部屋もろくに掃除しないわ。私はあなたの家政婦じゃないのよ?」


「ならなんで…?」

「好きだからに決まってるじゃない。」


 まだ不安を拭いきれていない俺に彼女はあたかも当たり前かのように言った。


「それに最初はもっとたくさんあったのよ。でも言えばちゃんと直そうとしてくれたし。今では買い物だって頼めばしてくれるし、料理も手伝ってくれる。家事だけじゃなくて、仕事で行き詰って落ち込んでいる時には、気遣ってくれるし、外に連れ出してくれたりする。そんな優しいあなたが私は好きなのよ。」


 人生で一番幸せだった。俺は勢いよく彼女に抱きついて、情けなくおいおい泣いた。かっこ悪くても、許してくれと心の中で謝った。これまでずっと心配していたことがようやくなくなったんだ、今日くらい泣かせてくれよな。これからは恰好良い旦那になれるように努力するからさ。



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やあ!再び神様だよ!


 どうだった?たまたまこのケースはハッピーエンドだったけど、人生そんなにうまくいくことばかりじゃあない。言葉をどう使うかはぜーんぶあなた次第。


それに実はあなたがちゃんと覚えてないだけで、もうすでに私が与えた力を使っちゃったのかもしれないよ?今までになかった?絶対無理だと思いながら投げやりでお願いしたのに、相手にすんなりと認めてもらえたこと。たぶんそれはうっかりあなたの力を使っちゃったんだよ。今後そんなラッキーなことはないから気を付けて行動していってね!


まだそんな経験はないっていう人。気づいたらもう死ぬ直前でしたぁ、なーんてことがないようにね?大事にとっておきすぎた美味しいものが、「いざ食べようとしたら腐っちゃってた!」みたいなことにたくさんの人がなっちゃってるんだから。言いたいことは思った時にちゃーんと言わなきゃ、相手から良い返事なんてもらえないよー。


以上神様からのアドバイスでした!何千年後になるかわからないけど、またなんか思いついたら実行していくね!じゃあ、みなさんごきげんよう!


読んでくださってありがとうございます。

ジョアンドといいます。

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