さっぱりしたいよね。
「う゛ぁー。小さいながらも風呂があるのはうれしいなあ。」
やはり寝る前にこうしてお湯につからないと一日が終わらない。
そうしていたらある日、
「そういえば、風呂があるのはうれしいって言っていたけど、マサキはこの学園に大浴場あるの知ってるの?」
「いや初耳。」
「場所渡しちゃるけ、行ってみそ。」
そんな流れで俺は今うっそうとした森の中を歩いている。
『イヤースゴイ森デスネ。』
「ものすごい棒読みだぞ。無理するなよ。」
『今、となりに真朱彌さん居ますし。やっとこさ来た仕事ですから。』
『ひとまず横になり。遥夢ちゃんは、神子ちゃんみたいに連続完徹できないんやから。』
通信が切られた。おお。失礼した。俺はマサキ。漢字で書くと正規だ。
この学園ではマルス・リーピスリーズィア・ランゲルハンスと名乗っている。
ハルナは、俺の文字通りの嫁になる。済まない嘘をついた。おれがハルナの家に婿入りした形だ。
因みにすでに出ているかどうかはわからないが、ハルナは漢字で書くと遥夢になる。
『済まんなあ、正規君。あれは完全なワーカーホリックや。』
再び通信が入る。
俺たち7人の王国最高権力者のうち、最も年上で、個性の強すぎる俺たちのまとめ役となってくれている、マスミさんだ。因みに漢字で書くと、さっき遥夢が言っていた、真朱彌という表記になる。
「そういえば、真朱彌さんは何か聞いていませんか?王家の長男が娶る予定の相手に遥夢が内定したという話について。」
『ああ、その件については、御山家が、一度、王城を更地にした上で、一月丸々こんこんと、しかも、王都中に響くほどの大声で説教を食らわせて、無効にしたって聞いてるけど。ああ、ちょうど良いところに当事者が来たから聞いてみて。』
流れだけ聞いたら安心した。
「当事者って。」
『陛下とあほのドボンクラを結婚させようとザイラ王家というか、王妃とその父親である宰相が企み実行して、国主側に知られた件ですね。
あの件でぼんくら王太子の後ろ盾だった王妃派貴族は軒並み王家の更に上に位置する国主家にけんか売って、次やらかしたら、死ぬ方がましな責め苦を課すと、国主府から通告されてますからね。それも一人一人名指しで。
この中には今学園に通う子供も含まれています。そういえば、最近ぼんくら王太子が陛下につきまとおうとして、姉の足技の餌食にさりげなくされていますね。
容赦なく。』
あー。神子の足癖は悪いどころじゃないからなあ。嫌いな相手にはすぐに蹴りが出る。神子の蹴りは、宇宙空間でボールを蹴ったら、それだけで我が国の。あ、ザイラじゃ無いぞ。ザイラを保有する王国の駆逐艦を一隻大破させたほどだ。
いくら手加減しても、人間の体で最も太いとされる、大腿骨をその衝撃だけで真っ二つにで切る威力がある。
そんな、蹴りを何度食らっても、遥夢をストーキングできるとはなるほど言い根性している。
その神子が、俺の前にいた。そしてぼへーっと立っていた。
「なにしてる?」
「なあ、この汚さどう思うよ。たしかこれってさあ。」
神子の指さした先には、ぬるぬるでろでろの窪地とそこにたまり悪臭すら漂わせる水。
「植物風呂と聞いてさ、楽しみにしてたんよ。でもさぁ、ちょいこれはなくないかい?」
「なんだこれ。ん?もうここが浴室なのか?」
「正しくは浴室の入り口。元々あった植物園を改装したのが、この建物。先に正規の懸念を封じておくと、きちんと男女分かれてたよ。今は跡形も無いけど。…正規、ひとまず、戻って、風呂入ろう。温泉行こう雛の杜。」
雛の杜は俺たちがお気に入りの温泉地だとだけ言っておく。
「事務局の施設部が管理してるんだけどねあのお風呂。
施設部は予算をポッケ無い無いして、すんごいはした金だけ業者に渡して、見た目だけ維持してるみたいね。
どうせ学園を視察する国王府のぼんくら役人なんて建物に外観しか見ないんだから合理的と言えば合理的だけどねえ。
どうするんだろうねえ。」
神子が言うのは、来週予定されている、国主府と、ザイラ王国文部省、人材省、王国総務省文部庁の合同抜き打ち調査。
この4機関は国王府のようなぬるい調査はしない。隅から隅まで、それこそ茶道部が使う、畳一枚の目の数から、テニスコートの芝の本数まで人海戦術で隅から隅まで徹底的に調査し、教育を行うに足る場所かを調査する。
「楽しみなんだけど、正規、その前に一つ通達。」
いやーなよかんがする。
「ハルとうちが選定した、お・み・せのリスト。思いっきり楽しんできてね。
あ、例によって例のごとく、今回も君の好みに合った人を見繕って指名済みです。
いやさ、嫁が風俗推奨って言うか、風俗に行かせることが罰ゲームになるって言うのもおもしろいよねぇ。
ハルがかみつく度に結界張らずに大声出しすぎ。規定回数達したので罰ゲーム。因みにハルの場合はかみつきすぎによる罰ゲームで、全身をカタツムリ300匹がなめ回すという。あの子にとって節足動物じゃ無いだけ温情でしょ。」
確かにそうだが…俺にとってはその前の方がいやなんだが。
「なあ、そのリストってもうスケジュール組んであるんだよな。」
「一つの店に付き3回。移動は今回も爺におね「爺だけはやめてくれ。爺の運転だけはやめてくれ。」しゃーない。んならリンの運転で。」
リンの運転もかなり荒いが。爺こと遥夢専属執事の運転は、トラウマ物だ。
「実際問題、リンの方が荒いんだけどなあ。一般道で空いていたら飛ぶし、ドリフトは多用するし、急発進急加速は当たり前。爺は見た目の運転は荒いけど、必ず後部座席にしか人乗せないし、飛ばないし、ドリフトとかしても、それに伴うGは感じさせないし、車内静かなんだけん。」
「それでもまだ俺はリンの方が慣れがある。」
「さよか。ほな、これ、しおり。あと2時間で出発だから。」
ここだけ聞いておけば良かった。
視察当日、国王府のぼんくら役人と同じと考えていた事務局接遇部の物はそのねちねちと重箱の隅を竹串で何度も何度も何万回もつついて穴を開けるかのような細かさに、驚くとともに、感心していた。
接遇部と総務部は、事務局の中でも仕事に忠実で誠実な者しか居ない。施設部とは対極に位置する。
そんなこんなで、一行が例の植物園を改装した大浴場の前にさしかかった。
「ここは?」
「生徒、職員が使用する大浴場です。元々は植物園でしたが、せっかくならその植物が持つ癒やしの力をと改装しました。」
接遇部の説明を受けつつ詳しく説明を聞きたいと言うことで。施設部員が全員招集された。
俺らはいつもの服装。つまり、公務時に着ている服装で学園長室に集まり学園長とともにその様子を見ていた。
「では、その業者がずさんな工事を行っていると。あなた方はそうおっしゃるのですね。」
アカシックレコード。全ての真実、事実、事象が記録されたデータベースにアクセスできる種族がその半数を占める、この視察団にそんな嘘が通じるはずも無く、
「ところで事務局各部の予算表は総務で管理されているのでしたか?」
「いえ、財務部が管理している形です。学園長に提出する関係上毎回監査名目で閲覧していますが。」
結局視察団のお説教が始まる前に施設部員はみんなこっそり逃げた。というより、見逃してもらえた。
広大な運動及び魔法練習場に逃げた施設部員ある程度進んだところで息をついた。
すでにポッケ無い無いしているのが、視察団通じて、接遇部総務部にばれているとも知らずに。
「ひとまず捕まえるね。艦隊召還。駆逐艦で、奴らの動きを封じ巡洋艦以上の艦で主砲拘束弾装填発射。」
神子の持つ技能の一つである、艦隊召還。駆逐艦以上の艦艇6隻以上からなる艦隊を水陸空問わずどこでも自由に償還し意のままに操る能力。
自由度が高すぎるのが問題らしい。
「いくか?」
「「どこへ?」」
この夫婦は必ずと行って良いほどこういう返しをしてくる。
「しさつだんにごうりゅうするんだよ。」
[いつ?]
そう言うとき遥夢も必ずと言って良いほど乗る。
「いまから。総員起立。」
「うわー、だるんだるんのおっさんとお局婆のきっこうしばりはきったねーな。これ誰がやったんだ?」
「これ?涼子んとこ。」
「空官か~。」
「うんにゃ。」
空官は我が国独自の行政組織で、中央省庁を監督する7つの官庁の一つだ。
「神政かぁ。」
神政というのは空官の監督下にある、宗教、魔法、霊能などを司る王国に11ある省のうちの一つ。神政省のこと。
ぶっ飛んでる国官こと王国国家公務員数京人の中でも更にぶっ飛んでるのがこいつら。
「おっさん、その状態でふるふるしない。……!」
神子が、王とで二番目に広い広場でぷるぷるしてるおっさん婆どもの後ろにラジカセを置くと、とある消臭剤のCM音声がエンドレスで流れ始めた。
「あ?」
「よっしゃ姉御の腹筋ストライク。」
この爺婆どもはあの施設部の旧職員だ。
着服した金は全て、今後2年以内に返済すること。
でろでろぼろぼろのこの浴場施設をこのじじばばだけで修復することを定めて、それが終わった最後の罰として、この広場で、見世物にされていた。
見世物がおもしろかったと観客が感じたときに支払われる一番安い額の貨幣の総額が着服した額に達するまで、続けられることになった。
「ふぃー。なんかどっと疲れたな。」
「そうやんねえ。正規ぃ、あんた今回いろいろ裏工作したべ。」
「したなぁ。なあ、神子一つ聞きたいんだが。」
浴場の修復に尽力したとして、その報酬に俺たち七人は貸し切り入浴を許可されていた。
のは良いのだが、
「すまん正規、ハルがそっち行ったっぽい。うちら離れるわ。」
そう言いながら声が仕切りから遠ざかる。
「まて。ちょ。な。お…ふぅ…。」
神子の言葉通り遥夢が湯の中から現れる。
[ん…正規さん。]
「なんだ。」
[今日はちょっと堅めですね。最近ご無沙汰でしたし、我慢されなくとも。]
あの罰ゲームから2ヶ月は経っている。あのときは本気で枯れるかと思った。
[ひとまずもう一度。]
そう言って遥夢は再び潜る。
俺たちは人間と同じ姿形をしてるが、そもそも人間では無い。それどころか霊長類はおろか、ほ乳類ですら無い。脊椎動物か無脊椎動物かも議論の的だ。
そして、無空気空間。つまり水中や、土中、宇宙空間においても体内で二酸化炭素を還元し酸素を生成することができるので無呼吸で長時間の活動が可能である。
それを今悪用してるのが遥夢だが。
「な。おい。は…るな…さんよ…それは、反則だ…ぞ。」
『こういうときにはかなり有効な武器ですので。』
確かにこいつの物は武器になるが、これは反則だ。
「ひどい目に遭った。」
「で、のぼせたと。」
神子が男性体で助けに来てくれて助かった。
遥夢も神子も、自分の性別を自分の意思で自由に変更できる両生変換随意個体と呼ばれるタイプだ。
「ハルは液体を自分の支配下におけるからなぁ。」
こいつは言動や行動、思考パターンが独特で自他共に認める変人だが、常識はある。おそらく真朱彌さんとその妹のミランダさんに次ぐだろう。
まあ、風呂が綺麗になって、魔法練習でぼろぼろになったり、運動で汗をかいたりしてさっぱりしたい奴らがこぞって使っている。遥夢も起き抜け1時半に入っている。同室の神子も一緒に。
「でもまあ、日式入浴マナーが俺にはしっくりくるなあ。」
「ほれ。」
ようやく起きれるようになった俺に神子が瓶ラムネを差し出してくれる。
「おうおありがとうな。」
ポンッ!
シューッ!
ゴッゴッゴッゴッ!
「「プハーッ。…ヴェェェェェエエエエエ。」」
やはり炭酸は飲み終えてから盛大に音を立ててゲップまでが一つの流れだと思う。まあ、マナー違反だから身内でしかやらないし。まして、盛大に音を立ててゲップできるのは実のところ神子の前だけだが。
「「アハハハハハハハ。ガフ。」」
やはりこいつが俺の親友と言っても差し支えないともであってくれて良かったと思う。
「まさき、あまり盛大にゲップしてるとそのイケメンが台無しやど。」
「ほっとけ。」
遥夢は現在、女性陣が泣いていやがるシュレックの刑に処されている。どういう刑かは、いずれ。
風呂と食。元々、私室に関しては文句なしの手入れがなされておりトイレは清潔そのものだったので、これで、私生活を支える用素が整った。あとは。授業内容のちゃちさをどうにかすれば最高学府を名乗るにふさわしいすばらしい学園になるはずだ。まあ、それに関してはあいつらがどうにかするだろう。俺が口出しすることでも無いか。




