○○にそなえて
「却下。つかな、配備予定の装備が出している命中率8割だろ。衛星補助ついて。それから一番の問題は射程。」
「却下は織り込み済みです。防衛担当も理解しているのか西部管轄のザイラ海軍第1艦隊から、突撃戦許可の申請が。」
「何に突撃する気だ。その前にさっきから鳴ってるこの警報なんね。」
「先の無通告無申請航路航行でザイラに向かっていた船が懲りずに同じ事をしているようです。」
この腹の底に響く重低音を伴う警報はザイラ政府の使う、国境侵犯に関する警報ですが、我々主師の中で一番ザイラに来る機会が少ない姉は遭遇したことが無かったようです。
今回案内を担当しますリンクリスです。よろしくお願いします。
「それに関しての突撃戦か。その船出港地どこだ。西大陸のザイラ友邦だったら抗議ださんとね。」
私の元には私が王国外政の長をしている関係上、王国本国、属国、各次元世界にある全ザイラの外交関係にある国家情報が入ってきます。
これを王国属国を除く本国と全ザイラの内政を司る姉とともに従姉である王の補佐を行うという形です。
一般的に王国の首相には外政の長たる長相が就くとされていますが、正確には、内政の長を担う太宰の補佐を受けて外政の長たる長相が、首相として振る舞うとされています。
基本的に、外交関係は、王国本国、属国では王国本国の外務省、神政省、時空管制省が、緻密な連携を取りつつ仕上げた結果を基に、我々王族が持つ情報網と照らし合わせるだけなのです。
対する内政は、いくつにも渉る大量の情報を各省が精査しまとめ上げ仕上げてきたとはいえ、更にそれを精査し、国王執務の基礎情報として使える状態まで仕上げなければならないため、太宰の配偶者は王国政府の情報を統轄する組織の長として、太宰の執務補佐を担うことになっています。。
「リンがため息なんざ珍しか。」
「姉様達を見ていると、私が姉様の後を継いだときニールは涼子姉様の後を継げるのか若干不安になってきます。」
「……。」
姉のこういう思ったことはすぐ表情に出る性格は、地味にありがたかったりします。
「神子、遥夢にも伝えたんだけど、追召2。前回の召喚反応と同じ座標。」
「…アルバ管内か。在アルバ大使館には問い合わせ済み?」
アルバはこのザイラ大陸から見て西に位置する大陸の4分の1を占める大国です。
ザイラスほどではありませんが、魔科融合文明がある程度発展している国でもあるんです。
「1度目の召喚反応時の空間伝播波動識別パターンは2の3型。今回は4の1型。」
「一度目は後天性勇者活動用因子付加式の活動系か。それで直接的な活動が多かったからそれの補佐のために今回賢者式の書庫型を召喚したか。まあ、一度の活動で最大4人だから追召2だと、強帰1が発生するだろうなあ。」
先日アルバ帝国のとある座標にて、召喚反応圧453.66単位の異世界召喚がありました。当時召喚されたのは3名です。
我が国では異世界召喚を行うと空間伝播波動という物が発生することが知られておりそのパターンによって1から5式に別れ一つの式は更に2から4つの型に分かれます。
今回に当てはめると「2の3型」の2は後天性勇者活動用因子付加式を指し、3が活動タイプとなります。この2が1の場合先天性勇者活動用因子保持式となり、また3の部分を1とした場合後天性勇者活動用因子付加式の思考タイプに分類されます。
式を示す数字はそれぞれ、
1が先天性勇者活動用因子保持式。
2が後天性勇者活動用因子付加式。
3が従者式
4が賢者式
5が戦士式
となっています。
1と2には更に、
1.思考タイプ
2.混合タイプ
3.活動タイプ
が設定され、従者式など他式も複数のタイプを有しています。
話がそれましたが、アルバ帝国が国内活動を許可しているのは1組あたり最大4人まで。故に前回3人の今回2人となり許可数を超えるため、前回の召喚被害者から一人強制帰還が発生しているはずと言うのが姉の発言なのです。
「アルバ政府が意図して行っているのか、それともアルバの属国が独断で行ったことなのかは調べている途中だってさ。」
「アルバ本国政府が意図して行うことはまず無いかと。傍受した被召喚者への講習内容では東の魔王という言葉が散見されます。アルバ本国政府は、ザイラとの彼我の国力差が45兆3千万分の1であり如何に勇者を召喚、強化し挑んでもその差は埋まるどころか、例え相手が歩兵一人でも1個師団艦隊を投入する王国とザイラ政府の性格を十分に理解しており開く一方であるというのも理解しているところです。」
「じゃあ、属国か。」
姉の言葉足らずは我々主師の中では補完が出来るのですが。これを他者が認識するにはかなり補助語が不足しているのです。
「現在、神政が、アルバ本国に対して調査を強硬に要請していますから近日中に結果は出ると断言できましょう。」
「失礼します。先日の無断航行船にあった勇者活動用因子をたどったところ、召喚反応があった場所に行き着いたため、当該座標をアルバに問い合わせたところ、急進的属国であり、また、現実が見えていない馬鹿であるとの回答が。」
「でしょうねえ。こないな声明を内外に対して出してるよ。アルバ本国が海を挟んだ東にあるのは、世界を何度も無に帰しては再構築できる力を有するにもかかわらず温厚な政策をとる超大国だって言ってるのにね。」
「いかがされますか?」
「エリシアを呼んで。」
ザイラの爵位を王国と同じく、12階に細分化した時に唯一高爵に除せられた旧ラングレー公爵家の当主エリシア・G・ラングレーが入ってきます。
「フェリペシオ法爵子息、ヴォルフ・グァン・フェリペシオ君。及び同嫡子アマレット・ヴェン・フェリペシオ君に伝えといて。『ヴォルフ・グァン・フェリペシオを士官促成養成課程に突っ込み少尉候補生として、来週開始予定のアルバ帝国より認可要請のあった、―王国懲罰戦線参加時の前線指揮を執る、姉のアマレット・ヴェン・フェリペシオ大尉にたいして副官としてつける』と。]
エリシアは無言で頷いて退室しました。
「緊急出動要請。当該座標で追召31。観測された生体波動とARとの照合結果はどこぞの学校から一クラス拉致ったっぽい。」
[はぁ。余計な仕事を。リーを呼びなさい。今回は近衛連を全艦投入します。]
「2.7兆隻を全力投入できるのはうちの国のすごいところだよ。」
数分でリーが来てすぐに我々は旗艦の艦橋に。
「全砲門質量実体弾、重力縮退弾装填。主砲のみ衝撃榴散弾装填。主砲、副砲身内に魔力妨害呪の刻印完了。」
艦橋員である、戦術局長の報告が入ります。我々が乗る旗艦コーウェリアは、その巨体故に、局という大きなくくりでまず分類されます。
今回は話の流れから外れるため説明は省きます。
アルバが、国内全土に触れ回っていくれたおかげで我が艦隊が、アルバの空を埋め尽くしてもたいした騒動は起きませんでした。
「城内完全無人化完了」
「対衝撃結界展開完了」
[これ以上の追召を防ぐ。艦隊全艦へ通達。砲撃対象、王城地下異世界拉致型召喚魔法陣。…放て。]
この日急進的属国は完全に地図上から消え去りました。王族はアルバ帝都で拘留後、王国の意向で振動固めの上で国内を巡回という社会的に抹殺される結果に。
追加召喚された31名は因果を含めて元の場所元の時間に時管省が戻しましたが、あそこ一度人員入れ替えないと、どこぞの映画に出てくる巨人みたいな歩き方してるのばかりなので。
[さーて、残りの来邦を楽しみに待ってみますか。]
「胸糞悪くならなきゃうちゃなんだっていいよ。」
こういうのをフラグと言うのでしょう。
西部にある、港の入国管理局から不法入国しようとした者を4名捕縛しようとしたが、大いに暴れて、逃亡したという報告があり、ザイラ警察と陸軍が検問を敷き、担当管理官が撮影した、顔写真を検問に投入された全員に配布。
またその写真を元にAR照合を行い確認した生体波動パターンも配布して、まあ、街道は抜けられないでしょう。
「緊急配備完了。」
「せっかくだから、ここまで来させましょうか。
何目的に来てるのか本人に聞いてみようや。
各検問に、対象通過時間と、健康状態を報告させ、悪そうなら、直近の街に留め置き、状態回復をさせてから出発させること。」
姉の提案と指示に部屋の中にいた全員が頷き担当部局に指示を出します。
一人だけぽかーんとしているのが、あの後罪滅ぼしとして、生徒会の仕事を手伝わせたら、思いの外事務処理能力が高く下手な官僚より有能なことが判明した、アルテッシア子爵令嬢サレミア・N・アルテミア。まあ、国家首脳部の会話に弱冠17歳の一般人に近い女子学生がついて行けるわけもなく。
こういうときは、
「サレミアさんはこちらの計算をお願いします。」
「はい!」
本当にこの子事務処理好きですね。




