【考察】ダンジョンに行こ……
セシーたちが来てくれたので夕食はごちそうだった。
にぎやかで嬉しいなぁ。
ドレン先生のうちの人たちも呼んだよ。
カイラさんってきりっとした長身の美人さんでかっこいいなぁ。
ミドリおねえちゃんは将来お母さんみたいな聖騎士になる予定だそうだ。
竜の赤ちゃん可愛いと悶えてたから竜騎士希望何かな?
「ミドリちゃんは……むちゃくちゃだ」
「ヒーちゃんはセオリー通りの動きしかしないよね」
「それが兄様のいいところだろうが」
リンお兄様とミドリおねえちゃんはチキンの薫り揚げを取り合いにヒルお兄様がため息をついて給仕に料理の追加を頼んだ。
「美味しい」
キラルお兄ちゃんが牛肉のパイ包をほおばった。
「本当だ」
ウララお兄ちゃんも同じように頬張ってドレン先生に行儀が悪いと二人揃っておこられた。
「いい酒だ、相変わらずボンだな、オルは」
カイラさんがシャンパングラスをあけた。
「カイにはもったいないか? 」
お父様が笑った。
「そうだな〜生ビールで充分かもな」
カイラさんがおかわり〜とグラスを差し出した。
給仕が優雅についだ。
「デイナちゃんは何が好きかしら? 」
お母様がデイナちゃんをお膝に乗せて嬉しそうだ。
女の子可愛いもんね。
「デイナね~お肉が好きなのー」
美味しそうな肉団子のチーズ焼きをキラキラした目で見た。
お兄ちゃんたちに取られる前にたくさん食べるの〜とデイナちゃんが言ったところでドレン先生が悲しい顔をした。
充分食べさせてるのに……とつぶやいてるに聞いちまった。
その目の前でお母様があーんと肉団子を食べさせてる。
女の子可愛い〜とお母様はデレデレだ。
どうせエセ娘ですよ。
文句はお父様の遺伝子に言ってください。
性別逆転しても違和感なさそうな容貌で悲しいぜ。
「兄弟多いといいなぁ」
一人っ子のセシーがしみじみみんなを見た。
そういやセシーは一人っ子だもんな。
ケイオスおじちゃんがセシーの頭を撫でた。
「ラナがいるじゃねぇか」
ケイオスおじちゃんがセシーの目を見て言葉を続けた。
「ラナはお前のお姫様だろう? 」
い、言うに事欠いてお姫様ですか?
「うん、ラナは俺のお姫様だ」
父ちゃんにとって母ちゃんがお姫様みたいにとセシーが笑った。
せめて親友とか王子さまとかにしてほしい。
「セシーは僕の親友なの」
俺はバンザーイして自己主張をした。
セシーが満面の笑みを浮かべた。
両思いで良かったなぁとケイオスおじちゃんが荒く俺とセシーの頭をなでた。
「護るべき子がいてこそ戦士だ」
カイラさんが少しろれつが回らない様子でドレン先生の肩を抱いた。
「僕はカイラのお姫さまじゃないからね」
ドレン先生がジュースを一口飲んでプイッと横を向いた。
「ドッ君は私の女王様だ」
カイラさんは腕を振り上げて叫んだ。
じょ、女王様?
恥ずかしい事叫ばないでよお母さんとウララお兄ちゃんがカイラさんをにらんだ。
愛を叫んで悪いか〜とカイラさんがわめいた。
あ~酔っ払いだよ。
「あんまり騒ぐな、ところでミドリ君は枯れたダンジョンに訓練に行く気はないかな? 」
「枯れたダンジョンかぁ~いいな」
ミドリおねえちゃんじゃなくカイラさんが反応した
「カイはさそってねぇよ、忙しいんじゃないか? 」
「うんにゃ、私もたまにはダンジョンもぐりたい〜」
カイラさんがアスパラフリッターをつまんだ。
「そうか、お前んとこのミドリ君も今度の連休に領地の深遠なる神苑という枯れたダンジョンに息子たちと兵士と行くから誘ってみたんだが……」
「行きたいです! 」
ミドリおねえちゃんが立ち上がった。
「俺も行きたいな」
鶏肉のもも焼きにかじりついていたティオラお兄ちゃんが手を上げた。
「相変わらず、お前は自由気ままだな」
ジァイオスおじちゃんがため息をついた。
「俺も行くーラナも行きたいよね」
セシーが俺の手を持って手を上げた。
「参加者が多くて俺は嬉しいが……ラナは……」
お父様が頬をかいた。
「僕も行きたい〜行きたいの〜仲間はずれ嫌なの〜」
「ラナも一緒がいいー」
俺の言葉にセシーもあわせて訴えた。
「セシー、ラナを守りきれるか? 」
ティオラお兄ちゃんが食事の手を止めて見極めるようにセシーを見た。
「絶対に護る」
セシーが俺の手を握ったまま宣言した。
見つめ合うティオラお兄ちゃんとセシーに注目してしばらく音が止まった。
「ジェアサーナさん、二人の参加を許可していただく」
「しかし……」
「セシー……巫女戦士セシリアが護れない時はその師匠であるティオラが護るとお約束する」
いつもの休んでる百獣の王のような雰囲気を捨ててティオラお兄ちゃんはほんもんの巫子戦士の……いやほんもんだけどさ……ように凛々しく神々しく宣言した。
ティオラお兄ちゃんはエウリールの破壊面の最高位の巫子戦士ですごく強いらしい。
それに時折神さまの声を聞いてる様子があるんだよね。
「わかりました……絶対にラナテスをお護りいただけるなら許可します」
お父様がしぶしぶといった様子でため息をついた。
わーいダンジョンに行けるぞ〜。
「あ~いいなぁ、俺も行きたい〜」
「俺も俺も」
ウララお兄ちゃんとキラルお兄ちゃんが騒いでドレン先生にお前らはダメと怒られてブーブー言ってる。
ワハハ、私もミドリとついていくぞーとカイラさんがスパークリングワイン片手に笑った。
「デイナはそれ食べたいの」
甘いものはミドリおねえちゃんに取られる前に確保なの〜とチョコレートケーキを獲物を狙う目でデイナちゃんが見た。
はいはいと嬉しそうにお母様がチョコレートケーキに生クリームをトッピングしてデイナちゃんの口に運んだ。
ついでにおばちゃんのところに来ればお肉も甘いものも食べ放題よと囁いてるの聞いちまった。
口にチョコレートと生クリームをつけたデイナちゃんが小首をかしげた。
「私、デイナほど食い意地はってないもん」
ミドリおねえちゃんがぷーと膨れた。
「嘘つけ俺の昼めしをよく強奪するくせに」
「ヒーちゃんのバカ〜」
ヒルお兄様のニヤニヤした発言にミドリおねえちゃんがポカポカなぐった。
いてお前力ありすぎるというヒルお兄様の悲鳴を仲が良いわねと流すお母様ある意味すごいよ。
うちの子のマナーもう少し考えないと……とドレン先生が苦虫潰した顔をしてるのが印象的な食事会はとっても楽しく終わった。
わーいダンジョンだぁ〜。
俺の家の領地はかつて勇者が聖剣をあずけたと言われる生と死を司る地母神オーラダー様の神殿があるキノウエシを含む地方にある。
海岸があるんで海の幸が美味しいです。
かつて邪神が潜伏していた地域の一つといわれていて数多くの迷宮が存在している。
まあ、そのほとんどが枯れたと言われる探索しつくされた状態なんだけどね。
その一つである『深遠なる神苑』は深いところは海中まであると言われる広大なダンジョンだ。
もっとも人が探索できるところはしつくされていて海中も近年はダイバーや小型潜水艦なんかでかなり探索されてるけど。
「かつてのダンジョン探索は盗掘のように冒険者と称するものが根こそぎ奪っていきましたが、今はきちんとした発掘調査が主流なのですよ」
深遠なる神苑の研究者チームの博士が剥がされた壁をさわりながらうっとりと天井を見上げた。
かつて魔導水晶に覆われていた天井は剥がされ無骨な岩が見えている。
壮麗な壁の彫刻さええぐられて久しい。
そこかしこにある宝箱がおいてあったと思われる隠し部屋の扉は破壊されむき出しだ。
「名を忘れられた古代の神の彫像や象徴が飾られていたと神殿の記録にはあったそうです」
博士とともに来た研究者が柱にかつての栄光の影を見透かすように目を細めた。
「そうですか」
ダンジョン探索訓練のはずなのに勝手について来られたお父様は不機嫌そうに腕組みした。
「古代の神などいいものではない」
「そうだよな」
ティオラお兄ちゃんの言葉にケイオスおじちゃんとジァイオスおじちゃんがうなづいた。
セリカんとき苦労したよなぁと口々にいっている。
セリカ? 誰だろう? セシーと名前似てるけど……お母様はファリシア再生面最高位巫女だよね。
「ともかく行こうぜ」
セシーが歩き出すと研究者たちがダンジョンの環境を変えるといけないので靴カバーをと叫んだ。
お父様がそんなのでは戦えないと押し切ってカイラさんと前を歩いていった。
「ちい坊っちゃんは俺から離れないでくださいね」
「うんなの」
ヤイリさんが俺に目線をあわせた。
ゾロゾロと前方の隊列はお父様とカイラさんに引き連れられた兵士さんの半分と希望した聖騎士数人とミドリおねえちゃんとヒルお兄様。
真ん中に俺俺を護るヤイリさんとセシーとティオラお兄ちゃん。
その後ろがケイオスおじちゃんとジァイオスおじちゃんと残りの兵士さんたちで最後尾に勝手に研究者がついてきた。
「絶対に護るからね」
「うん……」
セシーが俺を後ろにかばってるんを微笑ましそうに見られた。
男女逆転だがセシーの方が強いんだから仕方ないじゃないかー。
枯れていてもダンジョンで魔物はどこからか湧いてくるので定期的に見回りは必要なんだけど研究者たちがダンジョンを傷つけるなとうるさい。
確かに貴重だけど……命のほうが大事だよね。
複雑に入り組むダンジョンの壁に古代の壁画の痕跡と襲撃の爪痕が残っている。
「こちらの壁画は古代の祭祀の方法を描いてると……」
研究者の女がティオラお兄ちゃんに話しかけた。
ティオラお兄ちゃんかっこいいし今日も巫子戦士の格好してるから神殿関係者まるわかりだしな。
ティオラお兄ちゃんは無視した……あたりに気を配ってるから反応しないのか。
研究者の女は気にせず話し続けている。
「貴重な資料をヤイバで傷つけるなんて信じられませんよね」
「うるさい……だまれ」
ティオラお兄ちゃんが研究者の女をにらんだ。
とたんダンジョンが揺れた。
「怖いの」
俺はヤイリさんにしがみついた。
壁から下から何か長いものがはい出してくる。
迷宮ミミズだと誰かが叫んだ。
ダンジョンワームとはその名の通り水気のあるダンジョンにすむミミズである。
普段は土に住む小さな生き物やダンジョンに紛れ込む生き物の水分を吸い取って生活しているが自分のテリトリーを冒されると集団で襲って来る恐ろしいミミズだって書庫のダンジョン生き物事典でみたよ。
ベテラン冒険者だって多過ぎると全滅するって書いてあった。
キャーキャーと騒いでうるさい研究者の女と他の研究者たちを押しのけてお父様たち戦士たちが動き出した。
陣をかまえてなかを守る姿勢をとる。
邪魔にならないようにしなくちゃ。
「ちゃんと護るから」
セシーがかまえた。
俺は震えながらセシーの後ろに隠れた。
邪魔しちゃいけない……だって現実だし。
ヤイリさんが俺の背後に回って剣引き抜く。
次々と飛び出すダンジョンワームに冷静に対応するベテラン戦士たち、やや慌て気味ながらも剣で的確に攻撃するお兄様たちとミドリおねえちゃん、まるでムダのない動きのエウリールの巫子戦士と神官戦士。
間には邪魔する研究者たち……
逃げる技術って必要だね。
近くに例の研究者の女が逃げてきた。
陣の中央からダンジョンワームがはい出てくる。
「キャー」
研究者の女が混乱してダンジョンワームの方へ俺を押した。
迫りくるダンジョンワームに俺は転んだ。
体長2メートルはあろうかと言うダンジョンワームが歯のない口を開ける。
食べられる〜目をつぶった。
キャーキャーと押した女の声が遠くに聞こえた。
鈍い音がして目を開けるとティオラ巫子戦士が無表情にダンジョンワームを蹴ってダンジョンの壁に叩きつけてた。
ティオラお兄ちゃんが研究者の女を冷たい目でみた……
ひっと研究者の女が縮み上がった。
「セシー護れ」
「うん、ごめん」
ティオラお兄ちゃんの言葉にセシーがもう一匹出てきた小さいダンジョンワームに付きを入れて謝った。
「ちい坊っちゃんこっちへ」
ヤイリさんが俺を抱き上げた。
「ヤイリさん怖かったの」
俺は恐怖にふるえた。
何時間? 何十分? 本当は十数分だったのかもしれない気がつくとダンジョンワームは全部倒されてた。
多量のダンジョンワームの死骸と粘液にみんな疲れ果てた顔をしていた。
「遺跡が……傷が……」
博士とやらが床に入った亀裂や壁の穴に呆然とつぶやいた。
「あなた方が遺跡としてダンジョンに来るのは良いがきちんとした対応を学んでからにしてくれ」
お父様が冷たく研究者たちに言い放った。
「子供を盾に使うなど最悪だな」
ティオラお兄ちゃんが氷のような雰囲気で研究者の女をみた。
女はふるえ始めた、大丈夫? ともう一人の研究者が慰める。
「な、なんですか、戦うのはあなた達の役目でしょう〜」
「我々は冒険者でない、あなた達の護衛を引き受けたわけではない」
せいぜい気をつけて帰ってくれとお父様が恐ろしい雰囲気で微笑んだ。
お父様の迫力に負けて研究者たちはもと来た道を去っていった。
「迷惑かけたな」
「便乗して護衛代をケチった奴らが悪い」
頭を下げるお父様にカイラさんが答えてみんなは口々に同意した。
その後はちょっとそらクラゲとかでたけど大きな襲撃もなくダンジョンから出られた。
俺はヤイリさんにだかれたままで全く役に立たなかった。
【結論】俺にダンジョン探索は向いてない……本当に戦闘能力なさすぎだよ。
しばらくして研究者グループが所属している大学から抗議がうちに来たそうだけどきちんとお母様が話したらわかってくれたらしい。
お母様……すごいよ、どうに説明したんだろう。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
幼児編はあと一話です♥