【考察】格闘士
冒険者になるなら冒険者ギルドとかいってみたいけど……俺はまだ幼児だしなぁ。
小さい手足をじっと見た。
昔はもっと大きかった。
これから成長すればお父様みたいに大きくなれるのかな?
「ラナちゃん疲れちゃったかな? 」
青い髪の優しい顔のエプロンをしたおじちゃんが俺をのぞき込んだ、新しい世話係さんだ。
保育士資格を持つ中年男性のドレン先生でお子さんは四人いて保育園や学校が休みの日とか帰り道に来てくれるんでにぎやかで楽しいんだ。
ドレン先生のうちの一番上のミドリおねえちゃんは12歳でヒルお兄様と同じ歳、ウララお兄ちゃんとキラルお兄ちゃんは10歳の双子でそっくりだ、最後のデイナちゃんは4歳で妹みたいで可愛いんだ。
早くも夕方にならないかな……
ドレン先生の奥さんがカイラさんは聖騎士団の竜騎士様でお父様のお友達らしいです。
ちなみにお父様よりつよくてエリートだそうです。ミドリおねえちゃんは帝立軍学校の初等科に通っててヒルお兄様の同級生だから今日の創立記念日はお休みのはずなんだよね。
まあ、休みまで来たくないか……
ドレン先生はお母様にその内に保育園にどうですかとすすめてくれてるみたいだし。
お友だちいっぱい作りたいな。
まだ昼間だし保育園は普通の日だからウララお兄ちゃんもキラルお兄ちゃんもデイナちゃんもきてない。
セシーはイレギュラーなんだけど……保育園とかいってないのかな? 今日は来てないみたいだけど。
ドレンさんとブランコ乗ってると向こうからソフトレザーの胸当てをつけたヒルナスお兄様とリンテスお兄様が足早に歩いていくのが見えた。
「お兄様たち訓練? 」
俺は可愛く見えるように小首をかしげた。
ついでに頭が重くて転びそうになったのはご愛嬌だ。
「ラナ大丈夫か? 」
リンお兄様が慌てて俺を抱き上げた。
「俺たちは体術の訓練に行くんだよ」
ヒルお兄様が笑って頭をなでた。
「僕も行きたいの」
俺はウルウル目で二人を見上げた。
うん、いいと思うよとヒルお兄様が軽く答えて俺はリンお兄様に抱えられたまま廊下を移動した。
ドレンさんが歩かせた方がと言いながらついてきた。
体術……いいよな、格闘家かっこいい〜。
身一つで敵に対峙する孤高の男……いい、すごくいい。
いつもの修練場の中庭には戦いの神エウリールの神官戦士がストレッチしていた。
おおーカッコいい。
無駄な肉の無いスラリとした肉体にエウリール神の象徴の赤の戦衣が似合っている。
エウリールの神官戦士もいいなぁ。
ってケイオスのおじちゃんじゃないですかー。
「おおーラナちゃん〜元気そうだな〜」
ケイオスのおじちゃんがストレッチを止めて手を振った。
「ケイオスのおじちゃん〜、セシーもいるの? 」
俺も手を振り返した、ケイオスおじちゃんがいるってことはもしかしたらいるかも。
お兄様たちがビックリしている。
あれ? お兄様たち俺の事件知ってるよね?
「……ケイオス神官戦士となんて……」
「セシリア巫女ちゃんとも知り合いっぽい」
ヒルお兄様とリンお兄様が俺を横目で羨ましそうに見た。
「この間助けてもらったの」
「あのエウリール関係者ってこの人たち? 」
俺の言葉にヒルお兄様がビックリしている。
そんなにすごい人たちなの?
「セシーもティオラもジァイオスも来てるぞ〜」
「わーいなの」
俺は大喜びした。
実はあの後セシーは何回も来てくれてて俺達は友だちなんだ。
つれてくるのはケイオスおじちゃんかティオラお兄ちゃんかジァイオスおじちゃんなんだけどね。
セシーの両親はオダーウエ聖騎士団看護師兼最高位の再生巫女で父親は皇族でエウリールの神官戦士で神官長していて忙しいらしく見たことはない。
最高位の再生巫女ってあの丸いやさしそうなおばちゃんだよね通称『肥巫女』様。
その夫君の神官長は……調べて見たことなけどセシーはそっち似のような気がする……
「ラナ〜」
向こうからすごい勢いで赤い髪に黒い目の美幼女が走ってくる。
将来氷の美貌とか言われそうだな……俺のハーレムには入らんだろうけど。
男装の麗人というより美男子と思われてて女ーとビックリイベントとかありそうだ。
まあ、セシーは俺の親友だしな。
今日は赤いVネックに袖無し長衣に緑のTシャツの巫女戦士の姿でさらに凛々しい。
「セシーいらっしゃいなの〜」
「ラナ〜遊ぼうぜ〜」
俺とセシーは両手をつないでぴょんぴょん飛び跳ねた。
元気がいいのが一番だねとドレンさんが見守り体制にはいった。
危険がなければ見守ってくれるドレン先生大好きだ、さすがベテラン保育士だよ。
ダメなときはきちんとわかるように叱ってくれるしね。
あ~可愛い子ちゃん二人でぴょんぴょん可愛いなぁと兵士の一人がつぶやいたとたん荒々しい足音とともにお父様がやって来た。
後ろにティオラお兄ちゃんとジァイオスおじちゃん……ジァイオスおじちゃんは赤紫の短髪とオリーブグリーン色の瞳の長身マッチョの巫子戦士だ……がついてきている。
二人共赤いVネックに袖無しの巫女戦士の長衣を着てるから武術訓練なのかな?
ジァイオスおじちゃんはアンダーに黒いTシャツ着てるから胸筋は直接見えてないけど厚いのがよくわかる。
「セシリアちゃんとうちのラナが可愛いのは当たり前だがふらちな目で見るのは許せん」
「別にふらちな目で見てません」
兵士さんが言い訳したけど問答無用で十周走ってこいと命じられヒーと言いながら走りに行った。
うちの中庭は広くて起伏がそこそこあるんだ。
「さてと今日は体術だけどどっちの息子さんから行く? 大将」
ジァイオスおじちゃんがにっとわらった。
「ヒルナス、お前からお願いしろ」
「はい、よろしくお願い致します」
お父様の言葉にヒルお兄様が礼をして答えた。
少しふるえてる? まあ、あんだけの偉丈夫とたいじすれば武者震いくらいするよね。
「セシーご子息をお相手してやって? 」
ジァイオスおじちゃんがセシーを前に出した。
え、えーとセシーですか?
明らかに力がぬけるヒルお兄様。
ドレンさんが邪魔しないようにこっちにねと手招いたのでそばを離れた。
「了解ー」
セシーがかまえた。
ヒルお兄様が困った顔をした。
自分よりちっちゃい子に戦闘は仕掛けられないみたいなことを言ってる間にセシーがいや~と掛け声をかけてヒルお兄様の足に蹴りを入れた。
よろめくヒルお兄様に飛んだセシーの付きが眉間に入る。
それと同時に脇腹にも蹴りが入ってヒルお兄様は倒れた。
「う~」
「油断しすぎだ」
脇腹をなでてうなるヒルお兄様にお父様が冷たい視線を向けた。
「セシー次はあのお兄ちゃんにやってやんな」
ケイオスおじちゃんが呆然自失のリンお兄様を指差した。
「……よろめくお願い致します、油断しません」
リンお兄様がお辞儀をして構えた。
セシーが跳躍した。
リンお兄様がびっくりした次の瞬間背中に蹴りが入って前に倒れ込んだ。
リンお兄様が立ち上がる前に背中にセシーの足が乗った。
「……情けない……」
お父様がため息をついた。
「セシリア! このアホ娘〜ちゃんと手加減しろ! 」
ケイオスおじちゃんが怒鳴った。
あ~それ間違いなくケイオスおじちゃんがとどめ刺してるわー。
お兄様たちくずれおちたもん。
「だって弱すぎてさ」
セシーは困ったように頭をかいた。
「まったく……お前本当にセリカの娘か? 」
ジァイオスおじちゃんがため息をついた。
ティオラのお兄ちゃんは楽しそうに腕組みしながら見てる。
「おとうさんのこどもでもある」
セシーがそう言いながらもリンお兄様の頭に手を当てた。
リンお兄様がビクッとした。
コブがしゅるしゅると治っていった。
兵士さんとお兄様たちが息をのんだ。
「本当に再生面の巫女にみえんな」
「俺も破壊面の巫女の方がしっくりくるぜ」
ケイオスおじちゃんの苦笑いにセシーがニヤッとした。
「次はそっちのお兄ちゃんも治すぞ」
「お、俺は」
ヒルお兄様はたじろいだ。
痛い脇腹をさり気なくかばったのが見えた。
「遠慮するな〜」
セシーが脇に抱きついた。
その時緑の短い髪の少女が回廊からヒルお兄様に突撃した。
あぶねえとティオラお兄ちゃんがセシーを脇から引き離した。
ヒルお兄様はギュッと抱きつかれてイテーとうめいた。
「ヒー君、お言葉に甘えて遊びに来たよ~」
突撃少女はミドリおねえちゃんである。
「ミドリ、少しは人の迷惑を考えなさい」
ドレン先生が恐ろしい声で言った。
冷気を感じるよ。
「……おとうさんいたんだ……」
ミドリおねえちゃんが怯えてヒルお兄様に巻きついた腕に力をこめた。
「いたんだじゃないよ」
ドレン先生がミドリおねえちゃんを睨んだ。
「ごめんなさい」
「僕に謝るんじゃなくて」
ドレン先生がセシーとヒルお兄様を見た。
「ヒーちゃん、そこのこごめんなさい」
ミドリおねえちゃんが頭を下げた。
ごめんなさいはいいから離してくれ〜
すぐ手当するよー
ヒルお兄様のうめき声に慌ててセシーがミドリおねえちゃんがどいた脇腹に張り付いて治療をはじめたのを横目にお父様がこちらにやって来た。
「ミドリ君は素早いんだな」
あいつそっくりだとお父様が感心した。
「すっ飛び娘が申し訳ありません」
「カイみたいに竜騎士を目指すのだろうな」
お父様の言葉にどうでしょうとドレン先生がため息をついた。
竜騎士は竜に選ばれないとなれん希少職業だよな。
あこがれるが……さすがに竜騎士で冒険者は無理だよな。
しばらくして指導が再開された。
セシーが兵士のお兄ちゃんにつきの入れ方教えてる。
ミドリおねえちゃんはじーっとティアラお兄ちゃんに足技を指導されてるヒルお兄様リンお兄様をみている。
ティアラお兄ちゃんの足技は確実に的人形にあたり倒れた。
すごいなぁ、でも俺は……無理だな。
「おいお嬢ちゃん、気になるんなら俺とやるか? 」
ジァイオスのおじちゃんが格闘の指導をされてるヒルお兄様を羨ましそうにみているのを声をかけた。
今日のミドリおねえちゃんは帝立軍学校のマークが入った訓練着の半袖ズボンに手甲でやる気満々だよね。
ミドリおねえちゃんがちらっとドレン先生を見た。
「……ミドリ、いい機会だ、胸を貸してもらいなさい」
ドレン先生がうなづいた。
わーいとミドリおねえちゃんは喜んでジァイオスおじちゃんにお願いしますとお辞儀をした。
その後は……ミドリおねえちゃん一瞬で負けたよ。
ジァイオスおじちゃん流石だ。
エウリール神の破壊面の巫子戦士って本能で戦う感じだからよっぽど強くないと裏をかけないらしい。
特に容貌にエウリール神の寵愛の赤が現れるほどの巫子はね。
ジァイオスおじちゃんは赤紫の髪だし……
そうすると真っ赤な髪のセシーへのエウリール神の寵愛は並大抵のものじゃないって言うことだよね。
「ラナ〜遊んできていいって言われたぞ」
俺の右腕にセシーがピトっとくっついた。
エウリール神最愛の巫女はセシーのお母様ファリシア様でその娘のセシーも愛されてるということか?
ファリシア様は赤茶色の髪と赤紫の瞳のダブルで寵愛が出ている方だよな。
せ、セシーは髪だけだし……。
でもいずれ最高位の再生面の巫女戦士になるかもしれない。
「おいかけっこは捕まらないから嫌なの」
「ラナが好きなことでいいぞ」
セシーが顔をよせてきた。
相変わらず綺麗な顔してるなぁ。
「お絵描きとか折り紙」
「うん、そうしよう」
ラナが手をつないきたのでつなぎかえした。
ドレン先生がお父様に会釈をしてついてきた。
「つみ木とかブロックもありますよ」
数字並べとかも楽しいですよとドレン先生がもうかたっぽの手をつないだ。
それも面白そうだな。
ブロックでお家とか作っても楽しいかも。
それが終わったらおやつにしましょうとドレン先生が笑った。
わーいおやつ、おやつ、セシーとおやつ嬉しいな。
ドレン先生と二人だと少しさびしい。
やっぱり保育園行きたいなぁ。
歌とかリズムとか力を入れてて裸足教育とかしてるところないかな?
地面に裸足って気持ちいいんだよな。
竹馬とかも教えててさ、昔は結構の高さまで乗れたんだけどなぁ。
セシーに唯一勝てそう……いや習えば負けるか?
運動神経良さそうだもんな。
「セシーは保育園行ってるの? 」
「ほいくえん? なんだそれ? 」
俺の問いかけにセシーが小首を傾げた。
ええーここにもセレブリティショックがぁとドレン先生がおもわず言った。
「そういえばセシーのお父様、皇族……」
「神殿行けば誰かいるしね」
神官や巫子のおっちゃんたちとか兄ちゃんたち姉ちゃんたちがいっぱいいるしでんかも遊びに来るしなとセシーがニコニコした。
大人ばかりの社会じゃ……とドレン先生がつぶやいた。
俺はそれよりでんかが気になるよ。
神聖皇帝陛下の愛息子らしいけど流石にあったことないしなぁ。
神聖皇宮に行ける身分じゃないし……幼児だしな。
殿下にセシーを取られたような気になるのは友達が少ないからだよね。
保育園行けばたくさん友達できるかな?
うしろで大きな音がしたので振り向くと兵士の一人がティオラお兄ちゃんに蹴り飛ばされたの見ちゃったよ。
ひいー怖いよー。
【結論】俺、絶対に体術なんて無理ー。
特にエウリールの神官戦士との対決なんて絶対に無理だよ~。
読んでいただきありがとうございます(*´∀`*)