【幕間】冒険者ギルドにお呼ばれされました……やったぜ
お久しぶりです。
ついに、ついに、ついに来たぜ〜。
あこがれの『冒険者ギルド』〜嬉しいぜ〜。
まあ、冒険者になれたわけじゃ無いんだけどね。
「ちい坊っちゃん本当に行くんですかい? 」
「行くんです」
渋るヤイリさんの問いかけに俺は両手を握った。
目の前に『帝都冒険者ギルド本部』の自動ドアがある。
俺はツバを飲み込んで開いたドアをくぐった。
ことの起こりは1週間ほど前の夕食時の話だ。
珍しくリン兄上が帰ってきた。
リン兄上は帝国軍の新人で忙しいとかでやっぱり帝国軍寮に入って帰ってこないんだよな。
「ラナ〜この間の『美味しい保存食』さ、冒険者ギルドの世話人がすごいって言ってたぜ」
リン兄上がローストビーフのタルティーヌを食べながら目を細めた。
「あなた、帝国軍に行ってるんじゃないの? 」
お母様が鋭い眼差しで兄上を見た。
「特殊任務だ」
事情を知ってるらしい父上が少しむせながら答えた。
なんか秘密の任務でリン兄上は冒険者ギルドとかいってるらしい。
羨ましいぜ。
「そ、それでな冒険者ギルドマスターも商品化できないかって話になってな、一度ギルドに出向いて欲しいってさ」
「なんで冒険者ギルドなんて怪しいところにラナが行かねばならんのだ」
すぐに戦だぁ〜アーマーを持て〜と叫んだところでお母様ににらまれて黙り込んだ父上……ちょっと情けないです。
「ラナはどうしたいの? 」
「行きたいです」
お母様が俺に目線を合わせたので即答した。
だって冒険者ギルドだぜ〜。
でも……生半可な覚悟で答えたらしめられそうな雰囲気だ。
「僕、僕の作った『美味しい保存食』をみんなの役に立てたいです」
ゴクリとツバを飲み込んだ。
「それならうちの私兵たちとお父様の役に立ってるわ」
お母様が真剣な眼差しで俺をみた。
これだけじゃダメか……
「身内だけじゃだめです、甘いのです、だから……冒険者ギルドでチャンスつかみたいです」
俺は怖いけどお母様を真剣な眼差しで見上げた。
しばらくの沈黙の後にお母様が口を開いた。
「精一杯おやりなさい」
「はい」
俺はニヤニヤを抑えて元気に答えた。
やったぜーついに、ついに、ついに『冒険ギルド』デビュー。
リン兄上を通して訪問日が決まった。
前の日寝られず美味しい保存食の魔法陣のさらなる改良を加えて、ゴエルティノ様にバナナケーキまだーと言われたぜ。
冒険者ギルドはおもったよりハイテクだった。
受付の綺麗な姉さんどこなのー。
タッチパネルの受付を前に俺は泣きそうだった。
本当にこの機械化っていうのは困るとベテラン冒険者らしい渋いじいさんコンビがタッチパネルを前にブツブツ言ってる。
ちなみに今日はリン兄上と待ち合わせてる。
まだ影も形もないけどな。
「ちい坊っちゃん、そこじゃありませんぜ」
ヤイリさんが視線を向けた先にインフォメーションと書かれたカウンターがあって……感じの良さそうなおばさんたちがにっこり微笑んだ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん何かご用かしら? 」
「あの、リンテス・ヴァラ・ジェアサーナの弟の……」
「ラナちゃん? ラナちゃんよね? 可愛い〜」
おばさんにさえぎられて俺は戸惑った。
セシー君のお姫様よね~
こんなかわいい子だなんて
とおばさんたちは騒がしい。
奥からごつい栗色の短い髪の中年男性が歩いてきた。
顔に傷があって少し怖い。
「お嬢さんたち、少し騒がしいぞ」
顔に似合わぬ低い美声が響いた。
「あ、ギルドマスター、リン君の弟さんだそうです」
おばさんが振り返った。
「……君が……あの」
ギルドマスターが驚いた顔をして手を伸ばした。
ところでヤイリさんが俺を後ろにかばった。
「家のちい坊っちゃんになんか含むところでもあるんですかい? 」
明らかに闘気を出してるよ。
わーん待ち合わせてるリン兄上まだ〜。
「番犬君、俺は君の大事なお姫様に危害を加えたりしないぞ」
ギルドマスターがため息をついてカウンターから出てきてしゃがみこんだ。
怖くないぞ〜って招いてるよ。
俺は猫かい〜ハムスターかい。
ヤイリさんはなんか毒気を抜かれたような顔してるしさ。
どうすりゃいいのさ。
俺はヤイリさんの上着の裾をつかんで覗きながら小首をかしげた。
やーん可愛い〜とおばさんたちがさわいでる。
「悪い、遅れた」
後ろから声がして見上げるとリン兄上が帝国軍の軍服を着たまま少し荒い息で下を向いているんが見えた。
走ってきたんかい。
それ以前に冒険者ギルドに帝国軍の軍服で出入りしていいんかよ。
商売敵? じゃないんかい?
「リン君、弟ちゃん戸惑ってるわ」
「小動物好きのギルドマスターに回収されても知らないんだから」
「その前にいい男の護衛さんと戦闘じゃないの? 」
そうよね〜と口々に発言したおばさんたちが楽しそうにうなづいた。
ヤイリさんとギルドマスターの戦闘……見てみたい。
「ヤイリさん、ギルドマスター」
「坊っちゃん〜遅いぜ」
ヤイリさんがリン兄上に意識をそらした。
ギルドマスターが舌打ちして立ち上がった。
本当にギルドマスターって小動物好きね~とおばさんが笑った。
俺は小動物じゃねーよ。
「リン君も来たことだしさっそく『美味しい保存食』の話に移ろう」
ギルドマスターが手招きした。
冒険者ギルドの奥は会議室になっていた。
いわいる上座と言われる部屋の最奥に導かれた。
くっ椅子が高いぜ〜ヤイリさん、抱え上げて座らせてくれなくても大丈夫だ。
何で俺は小柄なんだろうな……成長期に期待だ。
楽しそうにギルドマスターが見てるのを感じた。
ギルドマスターの秘書らしいじいちゃんがお茶をいれてくれた。
ついでにギルドマスターのテーブルに箱をおいた。
秘書といえば綺麗なお姉さんでしょう〜、何で執事風のじいちゃんなの〜。
ヤイリさんが定位置の俺の後ろに立って、リン兄上が俺の隣に腰かけると向かい合わせに座ったギルドマスターが話しだした。
「この度はわざわざご足労かけて申し訳ない、俺が帝都冒険者ギルド本部のギルドマスターのハワード・イェリア・ウルゼアスだ」
よろしく頼むとギルドマスターが頭を下げた。
ミドルネームがあるということはギルドマスターは貴族階級出身らしい。
「君が美味しい保存食とか自浄作用のある調理保存用マグを作ったそうだね」
緩みきった表情を一変させ真面目な顔でギルドマスターがメシキューブを箱から取り出してテーブルに並べた。
ついでにスープの素の包みも取り出した。
どこから手に入れたんだろう?
リン兄上を見上げるとニヤリとされた。
そういうことか〜
「まだ試作段階なのです」
俺は空間拡張ショルダーバッグからサンプルを取り出した。
エビピラフのメシキューブと新作バナナケーキの保存食だ。
バナナケーキを作るにあたり、レシピチャット『ラララ、レシピ掲示板』のチャット名『廃エルフ』さんにアドバイスをもらった。
あの掲示板楽しい。
廃エルフさんはもちろんだけどリア充小ドワーフさんとか酸味将軍でぃさんとか健康魔剣さんとか秘密のワンコさんとかといつかオフ会したいなぁ。
おれのチャット名は冒険者になれないだけどさ、自虐的だぜ。
バナナケーキは甘さ控えめで作ってみた。
保存紋章魔法の描かれたワックスペーパーに包んでステックケーキにしてある。
健康魔剣さんに味噌とか醤油の売ってるところ聞いたから、今度行ってみようかな、案外近くにあるんだよな〜。
『バナナケーキ作ってくれたんだね〜』
脳裏に聞きなれた声が響いた。
ご、ゴエルティノさま、ちょっと待ってくだせい。
帰ったらお供えしますんで。
『あ、ごめんね〜お邪魔して、今度はバナナプリンがいいなぁ』
頑張りますのでなにとぞ、今は開放してくだせー
本当にごめんねーと声が遠くでして気がつくと、心配そうなギルドマスターとヤイリさんの顔があった。
神様からのお言葉でいつも通り意識が飛んだらしい。
「ちい坊っちゃん、大丈夫ですかい? 」
「調子が悪いのか? 」
「大丈夫です、ヤイリさん、いつものです」
俺はヤイリさんに手を振った。
ああ、ゴエ……とヤイリさんが納得した顔をしてうなづいた。
いつでも一緒のヤイリさんは俺がゴエルティノ様から啓示を受けるとき意識が飛ぶのをよく見ているからすぐわかったみたいだ。
そういやリン兄上がいない。
ギルドマスターが調子が悪いなら次の機会にでもと言い出したので大丈夫ですと微笑んで、バッグからさらにクリームスープの素やスパイシースープの素を取り出して並べた。
スープ系はオブラートみたいな食べられる紙に食紅で保存の紋章魔法が書かれている。
もう一つ箱を取り出して、片手で食べられる干し果物いりの焼き菓子をワックスペーパーに保存の紋章魔法を書いたもので包み込んだものをおいた。
バタンと勢い良く扉が開いた。
「ラナはどうなった」
リン兄上がなんかをたわらだきにして入ってきた。
「リンテス君おろしてくれー」
白衣を着たおじいちゃんがジタバタしている。
「ハピエア医者か、よし見てもらってくれ」
「おう、先生、おろすぞ」
「あの」
ギルドマスターがよくやったみたいな顔でリン兄上を見た。
リン兄上は少し荒く先生をおろした。
俺は説明しようと声をかけた。
「いてて〜ひどい目にあった、患者はどこだ」
「弟を頼む」
「坊っちゃん」
医者さんがお腹をさすりながら視線を彷徨わせた。
俺に気がつくとしゃがみこんで穏やかに微笑んだ。
「お嬢ちゃんか、意識消失ははじめて? 」
「あの、僕……」
「坊っちゃん、ちい坊っちゃんは」
俺とヤイリさんが視線をかわそうとすると失礼と先生が俺の両目のしたまぶたに指を添えてアッカンベーみたいに下げた。
貧血は無いみたいだとつぶやいて指を外して、なんか石斧みたいな形のちっちゃい指揮棒サイズ見たいのを抱えてたカバンから取り出した。
ぶ、武器?
「あの、僕、巫子なんです」
「それで? 」
先生が俺の足を持った。
「ご啓示をいただくときは意識が飛ぶのは当たり前とゴエルティノ神様の最高位の巫女様から聞いております」
護衛らしい口調でヤイリさんが告げたところで一瞬部屋の動きがとまった。
「ああ、巫女ちゃんなら意識消失ありうるよね」
のんびりと医者が俺の靴と靴下を脱がせて石斧みたいので足の裏をなでた。
反応よーしとつぶやいて靴はいていいよと医者は笑った。
「ラナが……巫子? 」
「ゴエルティノ神様の巫子なのです」
なんでそんなことここで教えにゃならんのや〜と思いながら目を丸くしたギルドマスターとリン兄上に告げた。
わしは帰るぞ、冒険者共が怪我して駆け込むとまずいからなとハピエア医師は立ち上がった。
ギルド所属医らしい、カッコイイ〜。
「送っていきましょうか? 」
「リン坊、わしを逆流性食道炎でもさせる予定でもあるのか? 」
大丈夫だと手を振って先生は部屋から出ていった。
と、とりあえず仕切り直しだ。
「まだ試作段階なので大量生産の段階まで行かないのです」
「………………大量生産に関しては工場を確保してある、クエストでのコネがあるんでな」
しかし、巫子様かぁ〜とギルドマスターが頭を掻いた。
「資料でございます」
秘書さんが紙を配った。
俺の分には御丁寧にもふりがながついてる。
難しい言い回しには解説付きだ。
俺、こういうの一応チートよ。
頭良いんだ。
この国の言葉は日本語みたいに色々な表示文字があって、漢字じゃないけどそんなのでいくつも読み方があったりするんだよね。
ひらがな、カタカナみたいのから神聖文字、魔法文字みたいのもあってさ。
この世界で一番難しい言語の一つらしいです。
要は俺が『美味しい保存食』の特許をとってそれを受けてギルドのコネのある工場が特許料を払って生産するらしい。
今後、自浄作用のある調理用マグカップとか空間拡張バッグ等も契約したいという話だ。
「わかったのです」
冒険者になれなくてもサポートできると嬉しいぜ。
「帝国軍でも使用したいという話が出ている、独占はしないな」
戻ってきて、椅子に腰掛けたリン兄上が腕組みをして、ギルドマスターを鋭い眼差しでみた。
あーだから今日は軍服なんだ。
「独占する予定は無い、それにジェアサーナ様の私兵軍も採用予定と聞いている、素晴らしい技術の独占は許されるものではない」
ギルドマスターはリン兄上に視線を返した。
素晴らしい技術だなんて嬉しい〜嬉しいぜー。
「あの、僕開発頑張ります!! 」
どんなのがいいですか〜と思わず叫んだ。
ちい坊っちゃん、落ち着いてくだせいとヤイリさんが俺の肩を叩いた。
「あ、ああ……よろしくお願いする、それで申し訳ないのだがラナ君」
「はい」
「別に活動しなくて良いので冒険者ギルドに登録してもらえないだろうか? 」
ギルドマスターが机の上で指を組んだ。
ぼ、冒険者ギルド登録。
「ラナを冒険者だと」
「そんなヤクザな職にちい坊っちゃんを……」
リン兄上とヤイリさんの不穏な言葉がきこえた。
ダメだ、邪魔させないの。
「喜んで登録させてもらうの〜」
俺は立ち上がって拳を振り上げた。
「お、おう……保護者共が怖いが代金受け渡しはギルド銀行振込が安全だしな」
それだけで他意はねぇぞとギルドマスターが両手を前に出して振った。
リン兄上とヤイリさんは渋々闘気を抑えた。
わーい冒険者になれるぞ〜。
まあ、冒険はいけないんだけどさ。
冒険者登録したら案の定戦闘能力は全くなかった。
生産は白銀クラスでしたよー。
冒険者クラスは最低の銅だったけどな。
ヤイリさんとリン兄上が苦虫つぶした顔してた。
ちなみに血を取らなくても紋章魔法の描かれた不思議金属に手を合わせるだけで登録されました。
カードじゃなくて五角形に星の鎖付きのドッグタグカッコイイよ。
今度、セシーとみせあいっこしよっと。
なくしても再発行可能なんだってさ。
【結論? 】
冒険できない冒険者だけど冒険者? になれた気分になれたぜ。
まあ、絶対に冒険させない条件を保護者ズがつけてたけどよ。
でも登録だけでも嬉しい。
もっと開発頑張るぞー。
文中の巫女と巫子の混在は間違えではございません。
ラナを男の子と知ってるものは巫子
女の子と勘違いしてるものは巫女と思い浮かべて喋っております。
混乱させてすみません。
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ




