私の匂い
私の闇を見てあげて下さいな((
家のドアを開ける時はできるだけ物音をたてずゆっくりと、閉めるときはもっと慎重に。玄関から続く廊下は、右側にお母さんの部屋、左側に水場が並んである。その突き当たりにあるドアを開けるとリビングがある。
足音をたてずに部屋に足をはこぶ。ドアを開けるとむっとたばこの臭いがこもっていた。西向きに大きくつくられた窓から西陽が差し、私は少し目を細めながら鼻をおさえる。
自分には少し大きすぎる赤いカバンを背中から下ろすと、まだそんなに使い込まれてないランドセルは西陽に綺麗に反射した。
私は1度廊下に出ておもむろにお母さんの部屋を覗き、べッドの掛け布団が盛り上がってる事を確認した。
お母さんは何の仕事をしているのか分からないけど、いつも夜働きに行っている。だから、この時間はいつも寝ている。
メイク道具の散らかった机の上。服やら下着やらで足の踏み場もないこの部屋はお世辞にも綺麗とは言いたがかった。
起こさないように、そっとお母さんに寄り添ってみた。お酒とたばこと香水と、臭いが鼻にきつい。それでも、昔から嗅ぎなれたお母さんの匂いだった。
朝、学校に行く前に必ず行う私の日課。部屋の中の鍵を確認して、最後はなんとなくお母さんの部屋を覗く。いるわけないと分かっていても毎日淡い期待を抱いてしまう自分が好きではなかった。
靴を履いて、誰もいない部屋にぼそっと「行ってきます」を言ってみても「いってらっしゃい」は返ってこない。
今度はちゃんと笑顔で、明るい声音で「いってきます」と言う。すぐにきゅっと唇を噛み締め、真顔に戻ってしまうのは仕方がない。
ちゃんと鍵がかかったのを確認して、また笑顔をつくる。
「お母さん、行ってくるね。」
私なら大丈夫。
秘密の呪文を唱えて今日も1日がはじまった。
もっと綺麗な表現できるようになんないかな