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第二話 ~解放『リベラツィオ』~

 ルーチェ王国の崩壊より三十年、ディッタトゥーラ王国が大陸統治して七年になる。それに伴い元号も光暦から帝暦へと変わった。



「行ってきます!」


 勢いよく家から飛び出した。

 朝日が眩しくて、思わずしかめ面になりながら学校へ急ぐ。


 俺はルカ・コーウェル。この小さな港町に住んでいる十八歳の学生だ。

 毎朝遅刻ぎりぎりで、走るのが日課となっている。



 バシッ!!


 頭に重い痛みを覚えた。

 ……アイツだ。

 殴られた方へ振り返ると、朝日の眩しさに負けないくらいの笑顔でこっちを見ている。


「また遅刻だなっ。親友」

 

 こう言うコイツはクラスメートのアレク・マクレイアー。とにかく図体がデカくて力が強い。親友と言えば聞こえが良いが、ただの腐れ縁とも言える。

 また遅刻、という言葉からわかる通り彼も遅刻の常習犯だ。

 脇腹に一発、さっきのお返しをしてまた学校へと走りだした。




 キーンコーンカーンコーン




「ギリギリセーフ!」


 アレクお決まりのセリフで教室に飛び込む。

 俺は息を切らしながら席に着くと、隣席の主が声をかけてくる。


「ほんと仲良しね、あなた達」


 皮肉まじりで話しかけてきた彼女はティア──ティア・バレンタイン。

 成績優秀・運動神経抜群の典型的なお嬢様……ではないが、俺の知る限りでは大陸一の美人だ。


「うるさい。ただの偶然だって」


 いつものように軽めにあしらう。

 一言二言ティアと言葉を交わしたあと待っているのは、毎朝のお決まりの締めくくり。


「ティア~~~!今日も美人だにゃ~♪」


 ほら来た。

 ティアの幼なじみで、いつも行動を共にしているレジーナ・ワイアット。

 ティアと比べたら女性としての魅力は劣るが、可愛い。本人曰く、背が低くて真っ白な肌がウリらしい。

 そこにアレクも混ざってきて朝からワイワイ会話するこの日常が、くだらなくても俺の好きな時間でもある。



~七時間後~



「今日はここまで、気をつけて帰れよ~」


 ふぅ。やっと授業が終わった。

 椅子に座りっぱなしで固まった体を、目一杯伸ばしてストレッチをしていると、アレクが肩を叩く。

 目をキラキラ輝かせながら早く行こうと急かしてくる。

 (そうか、今日は訓練の日だったな)

 そそくさと教科書たちを鞄に詰め、今し方そこにいたはずのアレクの後を追った。



 着いた場所は学校から離れた港にある倉庫のひとつ。古びているがとても大きい。

 中に入ると三、四十人の人たちが集まっていた。


「ティア待って~」

「レジーナこっち!早く」


 少し離れたところにあの二人もいる。

 あくまでも日替わりで訓練日程なので、訓練者はこれで全員というわけではない。実際にはこの何倍もいるらしい。細かくいえば性別だけでなく、年齢や職業も違う多種多様な人が集まっている。

 そんな人たちが一同に会して、ただ体を鍛えようというわけじゃない。

 俺たちは、反逆者コスピラトーレなのだ。何に対して反逆しようとしているかと言うと、それは────


タッタッタッタッタ

ドンッ!!!!

………ガチャ…


「み、みんな集まっていますね。本日の訓練を開始します」


 鼻を赤くし、涙目で話すこの人は教官であり反逆者連合軍のミネルバ・クラーク第二部隊長。

 普段から相当な天然で、押すタイプの扉を引き続けてそのまま引き抜いてしまうというパワーボケをかましてしまう程だ。そしてみんなには陰で“てんコワ系”美人教官と呼ばれている。なぜかは後でわかる。

 とにかくまずは基礎体力のトレーニング。ここでいつも目立つのはやっぱりアレク。訓練にきて半年だが、初日の体力測定時にはほとんどの数値で現役隊員を上回っていた。それからトレーニングをこなしていくにつれ、化け物じみていった。

 同じ十八歳の男としては自分が逆におかしいんじゃないかと思うほどだ。


 アレクの体力モンスターぶりを存分に楽しんだあとは、少し実戦に近い対人トレーニングだ。これは訓練初日から三カ月、素手による基礎体術を学んだ後、各自好きな武器を選びその腕を向上させる為のものだ。


 ちなみに俺は刀。父親が刀鍛冶なので一番身近だからだ。

 アレクは武器を持たず素手。男らしいからだと…。

 ティアは弓。元弓道部というもっともらしい理由だ。トレーニングの際は、矢の先に特製ゴムを付けている。

 レジーナは短剣の二刀流。両利きなのでそれを生かした戦い方ができるとか。


 対人というが基本的にその日の担当教官との対戦方法となる。

 そして今日はミネルバさんだ。始める前からみんなゲッソリして、帰りたいと呟く人もいる。

 なにせいつも天然の彼女がいざ真剣モードに入ってしまうと……


セイッ!「ウッ」

ハーッ!!「ヒィッ」

ヤーッ!!!「ギャァァ」

オリャー!!!!「…………ッ」


 ……ものすごく恐ろしい。これが“てんコワ系”美人教官のコワの部分というわけだ。

 全員なんとか無事?これを乗り越えた。


「よし、じゃあ休憩にしましょう♪」


 ミネルバさんの号令でほとんどの人がその場に座り込んだ。

 実戦に出たことがないからわからないが、こっちの方が遥かにしんどいんじゃないかと思うくらい今日はヤバかった。

 しかしそう言いつつも、反逆者(コスピラトーレ)としてやっていけるのかと一抹の不安は感じる。


ドンッ!!!!……ガチャ…


 また涙目で入ってきたミネルバさんの後ろについて誰か入ってきた。


「(……ん?!?!?!?!な、なんだアイツ!)」


 布のマスクにサングラス、手には杖を持ち、マントまでしている。


「(怪しい、怪しすぎる。絶対変態だ!間違いない!!周りのみんなもそういう目をしているじゃないか。女の人に至ってはもはや見ようとしていない!)」


 さすがのミネルバさんでも空気を察してか、説明をし始めた。


「これまで半年の間、みんなには基礎体力と対人戦闘の基本及び、武器使用時のスキルアップに励んでもらいました。一般人の方とならまず負けないくらい強くなっています。ですが、本来私たちが戦う相手はこのままでは勝てません。そこで……」


 変態が一歩前に出て自己紹介をしだした。


「はじめまして。これから諸君を指導するアル・バデリーと言います」

「(嘘だろ?こんなふざけた奴からいったい何を教わるんだ?)」

「あ~。初対面ということも手伝ってか、諸君との距離が遠く思えるので…」

「(違う!初対面とか関係ない!あんたの姿そのものが怪しいから!)」

「アルと呼び捨てにしてくれ。どうだ?これでグッと距離感が縮まる気がするな。はははっ」

「(そんなことくらいじゃ無理!!まず見た目をどうにかしなきゃ!)」

「何か聞きだいことはあるかな?遠慮せずにどうぞ」


 ひとりの男性が恐る恐る手を挙げ、無難に年齢を聞いてみた。


「キミ……年齢とか!初対面の人に聞くのは失礼だ!」

「(はっ?!)」

「いるんだよね、そういう人。他にもさ、結婚してますか~?とか、趣味は何ですか~?とか……」

「(これは…絵に描いたような面倒くささだな!)」

「ということで、プライベートな事は言いたくありません。質問コーナーは終わります………あっ、先に言っておく事があります」

「(?)」

「血液型はO型です♪ではでは早速、訓練に入ります。皆さん周りと距離をとって広がってください」

「(…………………えぇ~っ?!今言ったよね?プライベートな事!!嘘だろ?ここにいる全員ドン引きだよ!しかもサラッと訓練に入ろうとしたし!)」

「広がりきったら両の掌を上にして、水を受けるような姿勢をとってください」


 もう何が何やら理解不能なままだが、一応、訓練を始めると言ったのでしぶしぶ広がっていった。

 全員が広がり、言われたとおりの姿勢をとるのを見たところでアルが壇上に上がった。何をするつもりなのか。

 ────と、次の瞬間、アルは杖をかざし叫んだ!!!!



『リベラツィオ!』




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