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2012年 3月24日

総勢20人で創作しました(._.)

つたない文章ではありますが、お目にかけていただければ幸いと存じます。いつの世代の人々も愛せる、ただ真っ直ぐな純愛を描きました。

その日は、永柔の時ーーーーー



2012年


3月、24日。


その日は、約束の日。




「もう二度と」


「手を離したり、繋いだりしないから、約束するからだから」


「行かないで、、、そばにいてよ、、、嘘つきにならないでよ、、、この先、

ずっと一緒に、、、」


俺が台風の中に小さな花弁を見つけ出したのは、桜の散りゆく季節の真っ只中だった。


その日は異常に雨が強かった。トラックが大きく転倒事故を引き起こすほどに強かった。ーーーー予報は大きく外れた。思い描いていた未来予想図はいとも簡単に、誰もが予想だにしない未来へと書き換えられる。神の弄遊であると比喩しても間違いだとは思わない。

不慮の事故とは、元来そういうものなのだろう。


「ーーー笑えよ。俄然景気わりぃぞ」



その日ーーーー一人の学生が、息を引き取った。


その日ーーーー一人の学生が笑顔を忘れた。


その日ーーーー一人の学生が、十字架を背負って歩き始めた。



3月、24日。


いささか天候が悪くなるとは聞いていたが、まさかこうもどしゃ降りになるなんて、だれが想像しただろうか。


絶望の雨は、彼のもっとも近くにいた「彼女」の身、心に遠慮なく降り注ぎ、掛け値ない慈愛の心は、当然のようにもたれかかる場所を失う。


「大好きだもん、、、、だから離れたり、しない」


「離れたり、しないんだ」


彼女の瞳は形容しがたい歪な輝きを帯びている様に思えた。張り裂けそうな胸の痛みをひた隠しにして俺は、その肩を抱くことすら許されず、ただ、時間が解決することを見守ってーーーーーー


「なあ、立てよっ、詩音」


いることが出来たのなら、とっくの昔に捨てられていた。


「誰、、、、?」


「お前の家族だ、バカ女」


「、、、っ」


だって、時間は何も解決してくれないから。一直線に進みゆく時は幸も不幸も我関せずと無鉄砲に。悲しみも喜びも、時間が流れれば薄れゆくものだとして、消えるなんてことは有り得ない。戸惑うより進むしか道はないというのに。


彼女は、俺の手をひっぱたいて。


「なに、をっ、ふざけてるのっ!!?」


人畜無害だったその瞳は、れっきとした怒りに変貌した。俺の胸ぐらに掴みかかり、道路沿いの壁に押し付けて怒りを白実のもとにさらけ出す。


「渡は死んだのっ!!!私の大切な人はもう誰一人としていないのっ!!!私は手が、届かなくなって、、、もう二度と、、、、わかってる、、、わかってるから苦しいのにっ!!」


「とても、嫌味言うんだ、、、!どう、してっ!!!」


こんなに近くで触れあえて、心音がしきりに鳴り響いて、繋がっていると実感出来る。それが自己満足であることは百も承知であるがゆえに、幸せな勘違いを幸せと感じてしまう。


「ーーーー渡、か」


ついさっきまで隣で笑いあっていた友の名前を呼んでみるも、残ったのは懇願と悲哀。残酷だ。触れていた手を離してしまった彼女の悔いは、俺のそれとは比べ物にならないだろう。


血濡れた大地は泣いている。彼女の代わりに吠えている。雨でかきけされてしまった涙はもうどこにもありはしないーーーー。


彼女の心はグシャグシャだ。

それを見て含み笑う俺は、他者視点で焦点を絞られれば悪魔に見えるし、はては天使に捉えられるかもしれない。


短い沈黙のあとーーーなにを思ったか、俺は、


「ーーー風が、淡く吹いている」


そっと彼の仕草を真似てみる。


車イスがここにはないから、完璧に彼を再現することはもう不可能だから、あんな冷涼な真似はしかねるけどーーー男の俺でも惚れてしまうほど、彼の仕草は人を惹き付けた。


「ーーーあれ?ワタル!?」


俺から手を離し、様子を窺うように上目遣いでこちらを見やる。その瞳は、光に溢れていた。希望に震えていた。先程までは似ても似つかない表情で、ーーー俺を苛んでく。


ーーーあぁ、とてもとても見苦しい。


幻影でも見ているのだろうか。

その瞳は、溶けた氷みたいに純真で、濁りがなくて、そしてーーー軽く指先で触れれば壊れてしまうと思えてしまうほど脆い。


「ワタルぅっ......」


胸に、彼女から溢れだした温かいものが溜まっていく。冷えたぎった空気も幾分かぬるま湯に変わって。


「そう、そうだよ。間違うはず、ない。こんな一本道の坂、迷うことなんて...私、なにいってたんだろ、、、」


ーーー時間は、なにも解決してくれないから。


「ーーーーー違う。この香り」


「なんだ、駆なの...」


「ーーーーーっ」


瞳孔から光が失われる。そのたびに、心が締め付けられて。


こころの何処かで密かに喜んで。


そして代わりになれない己に、彼を投射してしまう。


「どうしてそこにいるの、、、紛らわしいんだ」


彼女はそっと耳に蓋をして、殻に閉じ籠り、外の世界と妄想を繋ぎあわせるかのように破顔し、、、


「まだ、声が聞こえてる」


ーーーそう言った。


帰らぬ人を惜しむことはしなかった。認めずにいたのだから。


俺だって認められない。親友が目の前で死に行く様なんて、誰が易々と容認できるだろうか。ーーーいっそ頭をかちわりたい気分だ。


でも、彼女は生涯彼の死を意識することはないように思う。それだけ二人は強い絆で結ばれていただろうから。


ーーー15分前の約束が、変わらず俺達の心を繋ぎ止めていた。


「渡?渡?呼んでるんだよね?誘ってくれてるんだよ、、、ね?見えないよ、かくれんぼはやだよ?ねぇ、ねぇ、ねぇ」


傷付いた心は雨に打たれ風に伐られボロボロになり、いつしか都合のいい境遇へと自らを誘う。

後にやってくる畏怖など、物ともせずに。


ならば、この悲しみはどこへ昇華されゆくのだろうか。


ストレスなどと同等の色を持つ痛みや苦しみ、負の感情ーーーー喩えば刹那的価値観の人間の遠吠えに、永遠主義者の反発。行き場のない葛藤。それらは何かにぶち当たり砕けて舞い散る。


二度とは繰り返さない時の中、互いにいがみあい、多くの損失を得て手にしたものは、それこそ悲壮感。


抑え込むことや逃げ出すことは容易くても、無かったことにはならない。手離すことなんて敵わない。


ならば、ならば今、俺ができることはーーーーーー



たった、ひとつ。




「ーーーーーなぁ、詩音」

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