コレクター・コレクター
1
大型ショッピング・モールというのは、どこにあろうと似たような顔をしている。
それらは、アルファベットかカタカナで4、5文字くらいの名前で看板を出し、大きな駐車場を備えている。そして、スーパーを中心に、幾つものテナントが入った店内は、いつも小ぎれいだ。
さて、ここに、そんなどこにでもあるショッピング・モールがある。
その一角にカプセル・トイを売る機械が並んでいて、その周辺に子供たちが群がっていた。
そこまでは日常的によく見られる風景だ。
だが、今そこでは、そんな、"よく見られる"基準からは外れた場面が展開されていた。
子供たちは遠巻きに、しかも珍しそうに、それを眺めていた。
彼らの視線の先には、あるキャラクター・フィギュアに金をつぎ込んでいる大人の男がいた。ハンドルをガチャガチャと回しながら、出てきたカプセルの中身に一喜一憂しているその様子は、大人というよりも、大きな子供のようであった。
男の名は、佐田昌紀といった。
年齢は32歳。職業は地方公務員という堅い仕事で、普段は市役所の窓口を訪れる市民の応対をさせられていた。眼鏡をかけていて、どこの街の市役所にもいそうな、これぞ市役所職員、という類型的な容貌をしている。
だが、今の佐田は、そんな類型からはみ出すような熱心さを見せて、黙々と機械に小銭を投入していた。
大人の財力をつぎ込んで、佐田は、たちまち機械の中身を空にしてしまった。そして、手に入れた物の中から、自分が必要な物だけをより分けて、ダブった物は、周りで見ていた子供たちに、気前よくやってしまった。
子供たちは大喜びで散っていった。佐田も目的の物を手に入れたのか、満足そうな笑みを浮かべていた。
そんな日常から外れた光景を、じっと見つめている黒いスーツ姿の老人がいた。
スーツに合わせた黒い帽子を目深に被り、白いヒゲが顔を覆っているせいで、外見からは年齢を読みとることは難しいが、杖で体を支えている姿を見れば、まるで百歳を越えた仙人のように見えた。
老人は、特に佐田のことをじっと見ていた。だが、別にフィギュアを欲しがっているわけではなさそうだった。
一方の佐田は、そんな視線になど気付かぬ様子で、さっさとその場から去って行った。
あからさまに、自分の関心事にしか興味がない、といった態度であった。
2
佐田の自宅は、市内のマンションである。
「あら、どこに行っていたの?」
帰宅してドアを開けるなり、佐田の妻・早紀が出てきた。
「出かけるなら出かけるって言っておいてよね」
言葉の端には、非難がましさが滲んでいた。
「わかったわかった」
「もう」
夫の生返事に、早紀は呆れているようであった。職場結婚してから六年目。子供もいない二人の夫婦生活には、倦怠の影が忍び寄って来ているようであった。
「あら?」
そこで早紀は、佐田が提げている袋に気付いたようであった。
「あなた、またおもちゃを買い込んできたわけ?」
見咎めて、早紀は腰に手を当て、今度は全身で呆れているという態度を示した。
「コレクションもいい加減にしたら?」
「別にいいだろう。俺の趣味といったら、これくらいなんだから」
佐田はうんざりして、妻からの責めるような言葉と眼差しを跳ね返そうとした。どうにも妻というものは、夫の趣味を理解しない生き物のようであった。
「だって、もう置く場所がないでしょう。あなたが占領しているあの部屋だって、私、いろいろと置きたい物があるんだから。部屋の数だって多くないし、限りある空間は有効に使わなくちゃ」
佐田は無言で肩をすくめると、妻の脇をすり抜けて、自分が"占領"している部屋に入り、内側から鍵をかけてしまった。早紀がため息をつくような音が、ドア越しに漏れるようにして聞こえてきた。
佐田の逃げ込んだ先、五畳半ほどの広さがある一室は、彼が蒐集したキャラクター・フィギュアを保管している場所であった。
早紀が指摘したとおり、現在の住居は、決して部屋数が多いわけではなかった。それにも関わらず、佐田は自分のためだけにこの部屋を使っていた。
妻には散々そのことで文句を言われたが、いつもは優柔不断な佐田が、その時ばかりは屈しなかった。
そうやって勝ち取ったその部屋は、彼の聖域であった。ドアには鍵をとりつけて、妻には合鍵を渡さず、どんな名目があろうと、決して入らせたことはなかった。
佐田は、部屋の入口ドア付近と窓側を除いた壁いっぱいに、いくつも段のある棚を敷き詰めるように並べ、それらの一段一段に無数のフィギュアを配置していた。物を言わない小さなフィギュアも、それだけの数があると、無言で何かを物語って来るかのような趣があった。
それらが彼の自慢のコレクションであった。先ほどのように直接買ったものもあるし、ネットのオークション等で、倍以上の値段を払って手に入れた物もあった。
その中に、佐田は、先ほど手に入れたものも加えようとした。
マスクをし、手袋をはめてから包装を破り、一つ一つを丁寧にフィギュアを組み上げてから、棚の(かなり少なくなった)まだ空いているスペースに並べて行く。
佐田は、このフィギュアを並べる作業が一番好きだった。細かくフィギュアの配置を調整しては、一人で首を傾げたり、頷いたりする様子は、妻の相手をしている時や、市役所で仕事を捌いている時には決して見せない熱心さが伺えた。
ようやくレイアウトに満足が行くと、佐田は棚の前に立って、恍惚とした表情で、それらを隅から隅まで舐めるようにして眺め回した。
自分のコレクションは、掛け値なしに素晴らしいものであった。口を開けば彼に文句ばかり言う妻や、窓口で右往左往して大騒ぎする市民に比べると、何も言わずにじっとしているそれらは、佐田にとって、とても好ましいものであった。
職場の同僚たちは、酒だの煙草だのパチンコだの競輪・競馬だのを嗜好しているが、いったい、それのどこが良いのか。コレクターの偏狭さからか、妻が佐田の趣味に理解を示さないのと同じように、佐田もそれらに理解を示していなかった。
「ああ、もっと欲しい……」
その時の佐田の内面を覗いてみれば、そういうところだった。
集めれば集めるほど、乾くようにして欲しくなるのがコレクションの困った所であった。それでも集めるのを止めることはできない。彼のコレクションは、彼という人間の延長であり、既に、彼という存在の一部になっていた。それを突き詰めて行くことでしか、佐田は満たされないのであった。
3
それから数日が経過したある日、佐田は、また同じショッピング・モールの、同じカプセル・トイの機械の前にいた。
コレクターの熱心さで、佐田は、新作が出る日程を、ネットなどで毎日チェックしていた。加えて、自宅付近の店が平均してどのくらいで周期で新作を仕入れるか、という統計までつけていた。そして、このショッピング・モールが、市内で最も早く新シリーズを入荷する、ということさえ突き止めていた。
シリーズを全部揃えられるかどうかは、いかに早く行動するかにかかっていた。一つでも揃えられないということは、コレクションに重大な瑕疵がつくことを意味していた。
そのような事態を避けるため、新シリーズが入荷しそうだと予想された日、佐田は朝一番で店を訪れた。
予想は見事に大当たりで、佐田は、また以前と同じように、少なくない額をつぎ込んで、あっという間に機械を空にしてしまったのであった。
だが、それだけの熱心さで素早く行動したのにも関わらず、今回の成果は、大いに不満が残るものだった。
「シークレットが出てこない……」
この機械には入っていないのか? と佐田は訝った。そして、すぐに、そんなのインチキじゃないか、と、腹が立ってきた。自分の完璧なコレクションに、機械ごときにケチをつけられたような気分だった。
佐田は、どこかに自分のコレクションになるべき物を隠しているのではないか、とでも言いたげな目つきで、機械を睨みつけた。
そこへ、黒いスーツと帽子を身に着け、ステッキをついた老人が、すっと姿を現した。数日前に、佐田をじっと見ていたあの老人である。
老人は、そのシークレットというのは、これのことですか、と彼が求めているものを差し出してきた。
まるで、金の斧と銀の斧の話みたいだった。正直者は得をして、欲張りは損をする、というあの話だ。
それを見た佐田は、それを倍、いや、三倍の値段で譲ってくれ、と必死な面持ちで、なおかつ、老人を拝むようにして頼んだ。
老人は笑って、
「タダで差し上げますよ。その代わり、私の話を聞いてくれませんか?」
と逆に頼んで来た。
話を聞くだけで目的の物が手に入るのであれば、佐田にとっては願ってもない話だった。仕事柄、彼は熱心なふりをして人の話を聞くことに慣れていた。
モール内のフードコートで茶を飲みながら、佐田は彼の話を聞いてやったのであった。
老人は竹ノ内と名乗った。昔は会社を経営していたが、今は引退して、年金暮らしをしているという。
「実は、私もある物を集めているコレクターでして……」
「ははあ」
それを聞いて、仲間意識とでもいうのだろうか、佐田は、急に老人に親近感を覚えた。
「ただ、コレクションを集めることにこだわりすぎて、妻は子供を連れて出て行ってしまいましてねえ」
「それはそれは……」
さては、あなたもコレクションには気をつけなさいよ、という年寄り特有の説教を始める気か、と佐田は警戒した。
「しかし、誰に言われても、コレクションは止められませんな。解るでしょう?」
「え、ええ、解りますとも」
佐田は共感した。老人は彼と同類のようであった。
「ところで、あなたはどのくらいフィギュアを集めているんですか?」
実にいいタイミングで老人は訊いて来た。
「見たいですか?」
「ええ、是非とも。きっと、凄いものなのでしょうなぁ」
「当然ですよ。今から見に来て下さい」
蒐集品を見せびらかしたくなるのは、コレクターの性であった。それを老人に刺激された佐田は、彼を家に招待して、大いに自分のコレクションを披露してやることにしたのであった。
夫が見知らぬ老人を連れているのを見て、妻は怪訝そうな顔をした。
「その人、だぁれ?」
「ああ、ついさっき、友達になった人だよ」
彼女の疑問にいい加減に答えて、佐田は老人を自分の部屋に導いた。コレクションを納めた部屋を他人に見せるのは、実を言うと初めてだった。
部屋いっぱいに並べられたフィギュアの群を見ると、老人はさすがに驚いた様子を見せた。
「実に素晴しいですなぁ」
それを聞いて、佐田は大きな優越感を覚えた。
老人は、彼のコレクションについて一通り褒めると、やがて、ぽつりと言った。
「これだけあると、置き場に困るでしょう」
「わかりますか」
老人の言葉に、佐田は思わず頷いた。
妻にも指摘されていたが、それは切実な悩みだった。やはりコレクター同士というものは、同類が抱えている悩みに敏感なようであった。
「それならば、どうでしょう。私はマンションを持っているんですが、部屋が余っているから、その部屋にあなたのコレクションを置いてはいかがですか。もちろん、お金は頂きませんよ」
「ええ?」
知り合ったばかりの人間にしては、あまりにも親切すぎる申し出だった。さすがに佐田も疑いを抱いた。
(さては、俺のコレクションを掠め取るつもりでは……)
自分のコレクションを基準にして物を考えてしまうのが、コレクターの悪い癖であった。
佐田の態度は相当に露骨であったが、老人はそれを見ても、特に気分を害した様子は見せなかった。
「あなたの他にも声をかけているんですよ。私もコレクターでしたから、物を置く場所が無い悩みは良く解りますからね。一度、場所を見に来て下さい」
そう言って老人は、住所を記した名刺サイズの紙を佐田に渡した。そして、それを入口にいる守衛に見せればいい、と言って、帰って行った。
老人が帰るなり、妻が言った。
「変なおじいさんね」
妻にそう言われると、佐田は、かえって老人を信じたい、という気持ちが起こってきた。彼のコレクションに理解を示さない妻に対して、彼のコレクションを褒めた老人の方が好ましいように思えるのは、当然のことだった。
ついでに、老人は彼の同類でもあることだし、佐田は、話半分でもいい、という程度の気持ちで、教えられた住所を訪ねてみることにしたのであった。
4
それから数日後。佐田は妻に黙って、老人に教えられた住所を探しに出かけた。
「おお、凄いなぁ」
探し当てて、佐田は思わず声を上げた。目の前には大きなマンションがそびえるように建っていた。
それが老人の言葉通り、彼の持ち物だとすると、彼は佐田のコレクションなど、片手間で揃えられる人物のように思えた。そこで佐田は軽い嫉妬を覚えた。
入口には守衛詰所があって、何となく老人と似た雰囲気の守衛がいた。
老人に貰った紙を見せると、守衛は頷いて、インターフォンで誰かを呼んだ。
「旦那様がすぐにお会いになるそうで。しばらくお待ちになっていて下さい」
旦那様、などと呼ばれているとなると、やはり老人は相当な金持ちのようであった。
(物好きな金持ち、という奴だろうか? まあ、コレクションをしているらしいから、きっとそうだろうな)
佐田は、詰所で待たされている間、ぼんやりとそんなことを思っていた。
しばらくして、老人が現れた。
「いやあ、来てくれて嬉しいですよ」
佐田を出迎えるために急いで出て来たのか、老人は呼吸が荒く、興奮しているようにも見えた。
老人は佐田の手を握って、熱烈に彼を歓迎していることを表現した。彼の言葉にも態度にも、自分の来訪を心から喜んでいる様子が溢れていて、佐田は、また老人に対する好感が戻ってくるのを感じた。
佐田の老人に対する印象の天秤は、先ほどから些細なことをきっかけに、優柔不断に右に行ったり左に行ったりしていた。それは今のところ、まだどこに落ち着くのかは解らなかった。
老人は部屋を見せると言って、佐田をマンションの中に招じ入れた。
そこはマンションと言うよりは、ホテルといった造りで、廊下の両側に並んだ扉の間隔から、それぞれの部屋は相当大きいようだ、と佐田は思った。それが最低でも十階は積み重なっている……。それをタダで貸すとなると、また話がうますぎるように思えてきた。
無数に並んだ扉の前には、名前が書いてあるものもあった。そして、名前の下には、それぞれ『切手』だとか『鉄道模型』などという札が下がっていた。
「その下にある札が、その部屋の人がコレクションしているものですよ」
「はぁ」
「そのうち、会う機会もあるでしょう」
だが、佐田は、他人のコレクションを見ることには、あまり興味がない方だった。おそらく、それらの部屋を訪れる機会は、永久にあるまい、という予感がしていた。
やがて、老人は、何の札もかかっていない扉の前で止まった。
「こんな部屋を貸しているんですよ」
そう言って扉を開くと、老人は脇にどいた。
促されて中を見るなり、佐田は、目を瞠った。
そこは一間しかない、長方形の箱のような部屋であった。家具などは置いておらず、広さは佐田の部屋の三倍はあろうか? 今以上のコレクションでさえも置くことができそうな、理想的な空間であった。
「本当に、こんないい場所を無料で貸してくれるんですか?」
あまりにもうますぎる話に、佐田は警戒を強くした。うまい話には裏がある、というのは世の常だ。
「なんなら、契約書を見せましょうか?」
老人はそう言って、契約書を出して来た。それがいかにも準備が良すぎるように思えた。
しかし、それでも、佐田はそれを確認せずにはいられなかった。毒饅頭だって、食ってみるまでは毒が入っているとは解るまい、そんな気持ちに似ていた。
仕事の習い性で、佐田は、契約書を何度も読み込んだ。何度読んでも、下から上に読んでみても、一切、曖昧な文言もなく、あまりにも良い条件だった。
(このおじいさんは、本当に親切な人かもしれないぞ)
彼の心の天秤は、今、大きく老人を信じる方へ傾き始めていた。
(こんなうまい話を断る手はないな。単に、金持ちだから気前がいいのかもしれない)
自分にとって都合のいい方向に、佐田の考えはどんどん傾いて行った。
「ぜひ、契約させて下さい」
そして、ついに、彼の秤は疑いを振り切って、信じる方向に落ち着いた。
佐田の言葉を聞くなり、老人は笑みを浮かべた。本当に、満面の笑み、と表現するのにふさわしい笑顔だった。それを見た佐田は、彼が親切な人物だという確信を深めたのであった。
それから数日後、佐田は老人のマンションに、自分のコレクションを全部運び込んだ。いつものように、早紀には特に断らなかった。
引越しのために、コレクションを全部、一度バラバラして箱に詰めなければならなかったが、それを取り出して、また改めて並べ直すのも楽しい作業だった。
佐田は、そこからさらに数日をかけて作業を終わらせて、大いに悦に入った。まだまだ空間はあるし、この部屋を埋め尽くすまでコレクションできるかと思うと、これから先の期待に、夢は膨らむばかりだった。ふと、あまりの感激に、心臓が止まったらどうしようか、などと佐田は思った。
「ああ、やっと終わった……」
全てが終わった佐田がそう呟くと、タイミングよく老人が現れた。
彼は手に、湯呑を載せた盆を持っていた。
「お疲れ様。お茶でもどうです?」
「やあ、これはどうも」
彼に勧められるままに、佐田はお茶を口にした。金持ちなのに、いつもちゃんと自分で客をもてなす老人の態度に、佐田はすっかり警戒を解いていた。
「そう言えば、竹ノ内さんは、何のコレクターなんですか?」
ふと、佐田はそう訊ねてみた。実に失礼な話だったが、迂闊にも、今の今までそれを聞くのを忘れていたものであった。
老人は笑って答えなかった。もし、ここに鏡があれば、きっと、佐田は、老人が自分と同じ種類の笑顔を浮かべていることに気付いたことだろう。
佐田はさらに訊こうとした。だが、突然、急激な眠気に襲われた。
老人が茶に一服盛ったのか? と思う暇もなく、佐田は、深く、暗い眠りに落ち込んで行った……。
5
それからしばらくして……。佐田の妻である早紀が、老人のマンション入口にある守衛詰所を訪れていた。
「夫が行方不明なんです。知りませんか?」
彼女は夫を捜して、ようやくこのマンションを突き止めたところであった。
「いいや、知りませんね」
必死の形相の早紀に向かって、老人は首を横に振って見せた。
「旦那さんは、確かにここを出ましたよ。間違いありません」
守衛も(当然のことだが)老人に味方してそう証言した。その態度に不審なものを感じつつも、早紀はすごすごと帰るしかなかった。
帰り際に、早紀は竹ノ内のマンションを振り返ってみた。
よく見ると、そこにはベランダの類がまったく存在していなかった。
白い無機質な壁に、部屋のガラス窓だけが等間隔に並んでいる様子は、まるで何かの標本箱のようにも見えた。
早紀が帰った後、老人は、佐田に貸していた部屋に向かった。
部屋の扉には、佐田の名前と一緒に、『キャラクターフィギュア』という札が新しく下がっていた。
ドアを開けると、佐田はそこにいた。
「やあ」
老人は陽気に声をかけた。
呼びかけられても、佐田は何の反応も示さなかった。彼の動きは、自分のコレクションを並べた棚の前で、不自然に固まっていた。そう、まるで、彼の愛するフィギュアのように……。
佐田は?製にされていたのだ。
老人は嬉しそうな顔で、佐田の剥製の位置をあちこち変えては、頷いたり、首を振ったりした。その様子は、佐田がフィギュアを並べ替えていた時と、寸分の違いもなかった。
「わしは、コレクターをコレクションするコレクター。つまり、コレクター・コレクターなのさ」
老人は、そう呟いて、不気味に笑った。
佐田も、嬉しそうな顔で、永遠に笑っていた。
〈終〉
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは、いっさい関係がございません。
※ロアルド・ダールと阿刀田高の作品に、大いに影響を受けました(ネタばれになるので、どの作品かは書きませんが)。