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4話 闇夜の襲撃

い、いつの間にかお気に入りが増えてました!


ありがとうございます!

 夜の闇を裂くように誰かの絶叫が木霊(こだま)した。

 シュウは飛び起きると、闇に慣れていない目を凝らしながら辺りを見渡す。

 もうとっくに日は落ち、一面を夜が支配していた。船長室の窓だけが、ぼんやりと人魂のように浮かんでいる。どのくらい眠っていたのか分からないまま、シュウは状況を確認すべく、甲板へ向かった。


「シュウ!」


 声がした方を振り向くと、二つの人影が見えた。時間が経つにつれて、その輪郭が明らかになっていく。息を潜めて立っている二人は、ゴウとカズだった。

 訓練を受けた者らしく、眠そうな様子は微塵も感じさせない。そのことからも、二人が相当の実力者であることが窺えた。


「今の声……聞いた?」


 息を殺したまま、ゴウに向かって問いかける。それの問いかけに対し、落ち着いた様子でゆっくりと頷いた。


「ああ、間違いなく人の声だ。それに、普通の声じゃなかった」

「何かあったのかな…」

「結構遠くから聞こえたような気がしたぜ。俺が寝てたのがあの……ん?」

「どうしたカズ」


 突然言葉を切ったことを不振に思い、視線を向ける。カズは目を瞑り、耳に神経を集中させているように見えた。それに釣られて、シュウとゴウも耳を澄ませる。


「別の……船?」


 カズがポツリと呟いた、その瞬間だった。

 ウォォー! という雄叫びと共に、何者かが船に乗り込んできた。剣をギラつかせ、目を欲望の色で燃え上がらせながら。


「賊だぁー!」


 船内が一瞬にしてパニック状態に陥る。誰もが我先にと、安全な場所を求めて逃げ始めた。

 しかし、ここは船の上。

 周りは海に囲まれているため、逃げ場などあるはずがない。必然的に、船客は階段で上に登り始めた。

 対照的に、シュウ達三人はそれぞれの武器を手に持つ。

 シュウはレイピアと呼ばれる細身の剣。カズは二本のダガーナイフ。ゴウは拳にはめるパワーナックル。

 彼等はその年齢に合わず、相当の訓練を積んだ者達だ。その力は、各校でもトップクラス。だからこそ、国外実習という危険な試験を認めて貰えたのだ。


「いくぜ!」


 格好良い台詞と共に(言うまでもなく皮肉である)カズが飛び出した。

 小さな体を(本人が聞いたら怒るだろうが)を生かして、風のように走り抜ける。

 賊が持つ剣の内側に潜り込み、先制の一撃を食らわした。


「な、なんだ!?」


 今度パニックに陥ったのは賊の方である。いきなりの攻撃、しかも疾風のような動きを、果たして何人が視認できただろうか。

 それでも、頭の回転が速くて冷静な数人が、カズを見つけるや否や、巨大な剣を振り回してきた。


「シッ!」


 後から追いついたゴウが、それを体ごと吹き飛ばす。

 カズに迫った剣を素手で叩き折り、反撃の隙を与えない。


「いきなり飛び出すな」

「こういうときは先手必勝なんだよ!」


 どつき合いながら、二人は次々と賊を倒していった。その連携は見事と言うより他はない。ついこの前出会ったばかりだというのが信じ難いほどだ。

 一方のシュウは……


「ほう…」


 その様子を見たゴウは、感嘆の声を漏らした。

 シュウの剣技は一流そのもの。賊を三人相手に、圧倒的な力を誇っている。相手の巨大な剣を、力で防ぐのではなく受け流し、それでいて隙があれば容赦なくレイピアを突き立てていた。その優美さは、例えるならば野を舞う蝶だろうか。(これもまた、本人が聞いたら嫌がりそうな表現だが)これを見たゴウとカズは、シュウという少年の認識を改めた。


「なんだコイツら!?」


 一人、また一人と、逃走を始めた。

 賊の人間は、確かに数で考えると圧倒的だが、逆に言えばそれだけだった。戦闘の腕は未熟なものである。そんな人間が、正規の訓練を積んだ彼等にかなうはずはなかった。

 確実に、賊を追いつめていったかに見えた。が……


 ドォォン!!


 激しい爆音が響いた。

 暗闇の中、場違いなオレンジ色が、やたらと鮮明に輝いている。


「おい、今の…ヤバいんじゃ…ねぇか?」


 カズの言葉に間違いはない。爆発は疑いようもなく、この船の動力室付近で起こっていた。賊が自分の船に逃げていく間、序々に船が傾き始める。どうやら、船底に大きな穴も空いたようだ。


「クソッ! あいつら…」

「待てカズ! 今はこの船から脱出するのが先だ!」

「脱出ったってどうすれば……」


 その間にも、船はどんどん傾き、沈んでいく。賊から逃れるために船の頂上付近にいた船客は、真っ先に落ちていった。

 そんな中、救命ボートに乗って脱出しようとしている人影があった。船長である。自分の財産や荷物だけしっかりと持ち、悠々と逃げ始めた。


「あの船長、自分だけ…」

「それよりあのボートだ! きっともうひとつあるはずだ!」

「待ってゴウ! あの子がまだ…」

「あの子? ああ、昼間のガキか。ほっとけ! それに、今はそれどころじゃない」


 すぐに反対され、シュウは口を閉ざした。それは、彼の言っているこてが正しいと思ったからである。自分達も助かるかどうか綱渡りの状態で、他人の心配などしている場合ではない。無理矢理自分を納得させて、シュウもボートを探した。


「おい、あったぜ! この横に掛かってるやつじゃねぇか!?」

「どれだ!? ……ああ、間違いない」


 カズが見つけたものは、先ほど船長が使っていたものと、同じボートだった。急いで運び、中を点検する。船の穴から噴き出た海水は、もう腰まで浸かっていた。


「急げ! 乗り込むぞ!」


 三人は一気にオールを漕ぎ始めた。船が沈むことによって生じる波が、ボートの自由を奪っていく。それでも懸命に、力強く漕ぎ続けた。

 さらに不幸が襲う。

 暖かい人肌を感じ、海の魔物が集まってきたのだ。人間の10倍近い大きさで、口が異様に大きなものもいれば、でっぷり太った気持ちの悪いものもいた。普段は海底近くで暮らしているのだが、落ちた船客達が呼び寄せてしまったらしい。新鮮な人肉を求めて血走った目は、背筋が凍りそうなほど冷たかった。


「こんな状況で戦うのは無理だ! 逃げろ!」


 ゴウが叫ぶまでもなく、全力でオールを漕ぐ。うまく動かせないが、今の奴等は落ちていった人間を貪ることで夢中だった。逃げるチャンスがあるとすれば今しかない。後ろから聞こえるおぞましい音に耳を塞ぎ、必死の思いで逃げ出した。


◆◇◆◇◆


 波の音が耳に心地よく響いた。

 服に海水が染み込んで、ひどく重たい。風が吹くと、寒さで体が震えた。


「助かっ……たのかな」


 横を見ると、ゴウもカズが自分と同じ格好で倒れている。一瞬、死んでいるように見えて焦ったが、呼吸がリズムを刻んでいることが分かって、ホッと胸を撫で下ろした。


「ようやく起きましたか」

「!?」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、ぶかぶかのローブに身を包み、フードを深く被った少年が立っていた。フードのせいで表情はよく見えないが、決して喜んでいるわけではないような口調だ。


「君が……助けてくれたの?」

「違います。あなた達が自力であの危機を乗り越えたんですよ。覚えてませんか?」

「……あんまり」


 正直、無我夢中だったため、よく覚えていなかった。ついさっきのことなのに、夢だったような気さえする。しかし、ずぶ濡れの衣服と痺れる両手両足、それに胸に刻まれた恐怖が、夢ではなかったと主張していた。


「ゴウ、カズ、起きて。大丈夫?」

「む……うっ」

「んあ?」


 シュウに体を揺すられ、気絶していた二人も目を覚ます。


「…シュウ」

「助かったよ。なんとか危機を脱出できたみたいだ」

「こ、ここはどこだ!? 船は……ってお前は!?」


 カズがローブの少年に気づくと、裏返ったような声を出した。ゴウも気付いて、訝しげな視線を送る。


「お前…無事だったのか」

「それはあなたが口にする台詞ですか?」


 よく見ると、自分達は全身びしょ濡れなのに対して、彼は全く濡れていなかった。それどころか、汚れ一つない。服は新品のように綺麗で、まさに最初に出会った時のままだった。


「一体どうやって…」

「それより! あの船はどうなったんだ? 乗客は?」


 ゴウの疑問は、カズの新たな疑問によって打ち消される。ローブの少年は一瞬、ムッとした空気を纏った。きっと、起きて早々、質問攻めに合っていることに不服なのだろう。どうやったか分からないが、彼もきっと命からがら逃げてきたのだ。(実際はまるで違うが、シュウ達が知るわけもない)


「乗客の人はみんな落ちて死にました。船長はうまく逃げたみたいですけど」

「畜生、あの船長! 自分だけ助かりやがって」

「全くだよ! 助けようともしてなかった」

「? 当然(・・)でしょう」

「「「なっ」」」


 三人は思わず目を見開いた。

 そんなことは構わず、まるで自分の言葉の正当性を信じて疑わないような口調で続ける。


「あの船長は、確かに『乗せてやる』とは言っていましたが、安全を保証するとは一言も言ってません。船に何人か勇者がいましたが、それでも『自分の身は自分で守れ』と言っていました。それを承知の上で、あの船に乗ったんじゃないんですか?」

「確かに正論だが、人間ならば『正義』を知るべきだ」

「ではあなたは知っていると? それでは聞きますが、あなた方はあの状況で、他の乗客が救えましたか? 自分のことだけで精一杯だったのではないですか?」


 指摘されて言葉に詰まる。

 確かに、彼らも余裕がなかったからだ。 


「いくら助けたいと思っても、実際に出来なければ何の意味もありません。そういう意味では、あなた方はあの船長と同じです」

「この野郎! 言わせておけば…」

「やめろ、カズ。その通りだ」


 カズをなだめたのは、意外にもゴウだった。

 その目に怒りはなく、いつもの冷静な色を宿していた。


「結局、力がなければ何の意味もない。大切なものは愚か、自分の身すら護れない。それが、今回のことでよく分かった」

「…そうだね。僕達はまだ未熟だ。だからこそ、この旅を通して、もっと成長しなきゃ」


 三人は、改めて自分のやるべきことを再認識した。

 互いに視線を重ね、何かを誓い合うように。


「ありがとう。君のおかげで目的がはっきりしたよ」

「別に何もやってません」

「それでもだよ。そう言えば、まだちゃんと自己紹介してなかったね。僕はシュウ」

「ゴウだ」

「俺はカズ。お前は?」

「ヒトミです」


「「「は?」」」


 素っ頓狂な声を出す彼等の前で、フードをとる。

 すると、息を呑むほど美しい、絶世の美少女が現れた。

汚い文章ですが、許して下さい~

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