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プロローグ

どうも、ただの行商人と申します~

「お嬢ちゃん、旅人かい」

「ええ、まあ」

「その年で旅とは珍しいね」

「人嫌いでして」

「そいつは残念だね。お嬢ちゃんくらいのべっぴんさんなら、言い寄ってくる男もわんさかいるだろうに」

「興味ないんです。いいから早く船を出して下さい」


 男は苦笑いすると船を出した。

 そんな男を、少女は興味なさそうに見る。


「しかしまぁ… 人嫌いなのに何で町なんかに行くんだい?」

「聞きたいですか?」


 少女の壮絶な笑みに気押されて、男は冷や汗をかいた。その笑みからははっきりと拒絶の意志が含まれている。人嫌いと言うくらいだ。きっと男と話すのも嫌なのだろう。


 しばらくの間、お互い無言のまま時が過ぎた。


「……着いたぞ」


 男はそう言うと、代金を受け取る。

 少女は男の方に顔を向けることすらせずに船から降り、スタスタと歩きだした。


「…最後にひとついいかい?」


 男の声で、一瞬足を止める。


「お嬢ちゃん……いくつだ?」

「15ですけど」


 少女の答えに、男は驚きを露わにした。大人っぽい仕草や態度から、20歳くらいかと思っていたからだ。違和感を感じたから聞いてみたものの、未だに少女の答えは信じられない。

 驚く男には目もくれず、少女は再び歩き出した。


 漆黒の髪が風になびく様は、幻想のように美しかった。






 賑やかな町だ。

 どんな名前の町だったか覚えてないし、興味もないのだが、鳴り響く楽器の音はやかましくて腹が立った。

 別に音楽が嫌いなわけではない。どちらかというと好きな方だ。

 ただ、それを奏でているのが人だというのが気に入らない。


「ローゼル公爵のお通りだー!」


 一際大きな声が響いた。

 振り向くと、豪華な馬車がゆっくり近づいてくる。

 その馬車は少女の手前まで来ると止まり、中から使いの者と思われる人間が出てきた。


「む……女か」


 その人物は、少女の美しさに一瞬目を奪われるものの、事務的な口調で命令した。


「そこをどけ。公爵様のお通りだ」

「…………」

「おい、聞いているのか!」「よい。下がりなさい」


 嘆美な声と共に、一人の青年が馬車の中から現れた。その顔立ちは、世の全て女性を虜にすると思わせるほど美しい。

 町中に女性達の悲鳴が響いた。


「君のような美しい女性までもが僕の到着を待っていたかと思うと嬉しいよ」


 そう言って少女の手を取ろうとする。

 少女はその手を勢いよく払った。


 街中が静まり返る。

 青年は何が起きたかわからないというような顔をした。今まで女性に手を払われた経験などないためだろう。


「触らないで下さい」

「なっ……」

「私はあなたを知りませんし、知りたくもありません」


 その瞬間、何人もの護衛兵が少女を取り囲んだ。

 先ほどの男が一歩前へ出る。


「貴様、誰に向かって口を聞いてるかわかっているのか?」

「………」

「少し一緒に来て貰おう」


 そう言って少女の手を掴んだ時だった。

 男の体が突然浮き上がり、激しい音と共に数十メートル先に吹き飛んでいった。

 続いて護衛兵達の剣、盾、鎧が分解され、みるみる粒子状になっていく。


「「ひいぃぃっ!」」


 その光景を見た人全員が、悲鳴を上げて逃げ出した。


 少女は、再び興味がなさそうに歩きだした。


◆◇◆◇◆


「すみません。この宿に、スイ・ミランという方はいらっしゃいますか?」

「おう、いるぜ! 何だ、お嬢ちゃんはアイツのファンか?」

「ええ…まあ」

「か~ いいね、勇者様ってのは! こんなかわいい嬢ちゃんにまでモテモテだもんな!」

「……」

「いいぜ、教えてやるよ。本当はいけねぇんだが、嬢ちゃんはかわいいからサービスだ。209号室に行ってみな。嬢ちゃんなら、きっと喜んで迎えてくれるはずだぜ」

「ありがとうございます」


 宿屋の主人の言うとおり、209号室へ向かった。


◆◇◆◇◆


 ノックするとドアが開いた。

 中からがっちりした体格の男が現れる。


「む…何者だ?」

「勇者のスイ・ミラン様ですか? 私、ファンの者です!」

 少女が先程とは別人のような笑顔で話しかけた。

 その笑顔はまるでヒマワリのように明るく、同時にバラのような妖艶さを持っている。


 スイと呼ばれた勇者は、あっと言う間に少女の笑顔に引き込まれた。


「ちょっとお話したいことがあるんですけど、いいですか?」

「…ああ、構わない」


 スイは少女の体をなめ回すように見ると、部屋に入れて鍵をかけた。

 目が序々に赤みを帯び、呼吸が激しくなる。


「実はお願いがあるんです」

「あ、ああ なんだい?」


 期待したように、いやらしい笑いを浮かべた。

 少女はそれに、この世のものとは思えないほど、美しい笑顔で答える。



「死んで下さい」



 そのまま、手をスイへ伸ばした。


◆◇◆◇◆


 その日、一人の勇者が帰らぬ人となった。


 背中はパックリと割れ、中の臓器は原型がわからないほどメチャメチャだったという。

 聞いた話によると、今までいくつもの死体を見てきた検死医が、その場で嘔吐したとか。



 宿屋の主人は、別に怪しい者は来なかったと証言し、事件は謎に包まれた。




こちらの更新はゆっくりになると思います~

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