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青春とはどんな味か。

掲載日:2026/06/26

『君よりおにぎりのが魅力的なんだよ!!』



 大炎上したマンガ『俺の食の道を邪魔するな』でヒロインが振られたセリフだ。メディアミックスというのは売れると判断すれば打診は来るのだろう。大炎上した翌年の夏にアニメが放送された。11話でヒロインがこのセリフで振られてエンドロールが流れた。12話はアニオリでヒロインが振られた腹いせにおにぎりを食べまわる回が放送された。


 もちろん、それはさらなる炎上を呼び、それは協賛したコンビニを含む関係業者の不買運動をオタクが始めようとしていた。それはほとんとが国産の農産物を使用しているのが売りの業者だった。


 オタクというものは推しに弱い。主演声優が『私達が必死に作りあげた作品の協賛企業の不買運動をしないでください。……もし、この作品で不買運動をしたいなら円盤やサブスクで視聴をしないことこそが最大の不買です。また国産のものを買わないと日本経済は衰退します』と注意喚起文を出した。


 僕はオタクと言うにはオタク文化がわからない。声優は声優。あくまでも、中の人でアニメのキャラじゃない。あくまでも、そのキャラのつもりで声を当てているだけだ。


「『俺の食の道を邪魔するな』なぁ。あれのアニメ2話で主人公がおにぎりとアイスコーヒーを飲んで『おにぎりはブラックコーヒーが1番合う』と言っていたなぁ」


 僕はコーヒーは普段飲まない。苦いのが苦手だからだ。苦いのを飲むならばシロップを多めでミルクはその半分くらい入れる。


 ピコンとスマートフォンの通知がきた。『アニメのせいの不買に負けない!』という記事のコンビニのコラムだった。普段はそんなもの気にしない。


 誤タップはいつでも起こるもので、通知のその下の連絡ツールを押したつもりだったが、そのコラムの通知を押していた。


 アニメ協賛の流れから裏事情を淡々と書いていた。急に文章の雰囲気が変わった。それまでは明確にビジネスの文章だったのに、急に平成ギャル感があふれる半分暗号文が始まった。暗号読解している気分で読み進めると最後にクーポンという文字があった。


 ——無料クーポンいるっしょ?


 その文字をタップすると5個の選択肢が出てきた。


『おにぎり』『コーヒー』『冷凍食品』『不要』『収納代行』


 無料クーポンならば収納代行にしようとした。よく見れば、選択肢が移動している。最後にはあちこちふらふらして裏返しになった。


 強欲にも僕は2つ選んだ。結果はアイスコーヒーとおにぎりだった。


 クーポン欄に勝手に保存された。使用期限は明日のこの時間。


 これからは半休明けの在宅勤務が始まる。在宅勤務というものは便利なもので指定の時間働けばいいというよりもこのノルマを指定時間数にこなせればいいという感じだ。


「ちょっと遅めに始めるか。コンビニまでは片道5分だし、このクーポン使おう」


 白いシャツを羽織ってショルダーバックに財布とスマホだけ持って出かけた。コンビニは緑地のランニングコースの中だ。


 コンビニに入ると、コーヒーマシンがあるのを確認しておにぎり売り場に向かった。普段はツナマヨやエビマヨなどのお惣菜系おにぎりを食べる。今日はもうお昼ご飯でカップ麺と冷凍唐揚げを食べている。


「下手に重いおにぎりより軽めのがいいな。あと、無料クーポンだけじゃ申し訳ないから208円の塩むすびも買うか」


 レジに向かい『このクーポン使います』というとレジの店員さんが『では、ギャルピースお願いします』と言われた。


 ギャルピースと言われて思いついたのは、ピースを下向けでする下向きダブルピースだ。


 それを恥ずかしながらした。


 カランカランとハンドベルを鳴らされて『無料クーポンに増量クーポン適用〜』ということでアイスコーヒーがSからMになった。


 Mのカップを受け取り、コーヒーマシンに向かった。コーヒーマシンを待ってる間にさっきのギャルピースを思い出して恥ずかしくて脳内で悶ていた。


 マシンからコーヒーを取り出してイヤホンで小説の朗読サービスを聞いていた。トテトテ、このあとの在宅勤務めんどくせぇなと思いつつ歩いていた。アイスコーヒーはまだ飲まない。シロップもミルクも入れるのを忘れたのだ。


 今、朗読されているのはラノベで戦闘シーンが雑なのに心理描写がうますぎると話題作だ。


 ——あげぽよ〜〜。


 ギャルの敵幹部が登場してきた回となった。あげぽよとさっきのレジで言えばもう少しサービスもらえたのかもしれないと思った。


 マンションのエレベーターで5階にあがり、部屋に入った。午後の勤務時間はすでに始まっていた。


 社用パソコンを立ち上げて午後の業務をはじめておにぎりを食べた。パリッとした海苔に、醤油が香ばしいかつお節が入り乱れておいしい。具が出てきたところで一旦手を止めた。新しい業務依頼だ。パソコンに向かってカタカタタイピングをした。


 今日は誤字脱字の修正の依頼業務だ。その依頼書自身誤字脱字から始まっていた。『誤字脱字チェックをお願いします』のはずなのに『だじごつじチェックお願いします』から始まってテキストファイルが3つ送られてきた。


 誤字脱字チェックというのは集中力がいる。ここはこだわりによる誤字脱字なのか、チェック用にあえて残す誤字脱字か、純粋な誤字脱字か、この3パターンの誤字脱字が多い。


 アイスコーヒーにシロップもミルクも入れずに飲んでしまった。苦い苦い。少し甘いかしょっぱいものがほしい。


 目の前にあるのは食べかけのおかかおにぎりだ。


「しょっぱいけど、合うのか……」


 不安を大いに抱いて恐る恐る口に運んだ。


「ん!!」


 口の中に広がるのはコーヒーの残りの苦味とおかかのしょっぱさが入り乱れてケンカをするかと思ったが、ケンカどころか口の中で僕の中の『俺の食の道を邪魔するな』の主人公が食レポしそうだ。


「これは……」


 大きな独り言を発したとと当時に社用パソコンに上司から通話が来た。社用パソコンは不思議なもので他社員からの通話は持ち主の意志関係なく自動でビデオで出る。


 ——苦味としょっぱさの融合!! まさに青春時代だ!!


「なにしてんの? 浜口(ハマグチ)くん」

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