『転んでもタダでは起きませんわ② 〜元婿候補たちが復讐してきましたが、すでに対策済みです〜
転んでもタダでは起きませんわ 〜侯爵令嬢の三匹の婿候補〜から数ヶ月後のお話です。
「エリザベート!」
舞踏会場に怒鳴り声が響いた。
貴族たちが一斉に振り向く。
そこに立っていたのは――元騎士ガレス・バルド。
借金問題で騎士団を追放され、子爵家からも勘当された男。
つまり、私が断罪した元婿候補の一人だ。
「よくも俺の人生をめちゃくちゃにしてくれたな!」
彼は怒鳴る。
会場がざわめいた。
私は紅茶を一口飲む。
「久しぶりですわね」
「ふざけるな!」
ガレスは剣を抜こうとした。
しかし護衛がすぐに取り押さえる。
「離せ!」
彼は暴れる。
「全部こいつのせいだ!」
私は小さくため息をついた。
「セバスチャン」
「はい」
後ろに控える執事が一歩前に出る。
私は静かに言った。
「予定より少し早いですが」
「始まりましたわね」
セバスチャンは穏やかに微笑んだ。
「復讐劇が」
会場が静まり返る。
ガレスの顔が強張った。
私は扇子を閉じた。
「あなた方三人が結託していることくらい」
「とっくに知っていますもの」
ざわめきが広がる。
ガレスの額に汗が浮かんだ。
「な、何のことだ」
「レオン様」
私は言った。
「修道院から逃げ出しましたね」
貴族たちが息をのむ。
「アルヴィン様」
「あなたの商会は最近、妙な動きをしています」
ガレスの顔色が変わった。
私は微笑む。
「復讐計画」
「少々分かりやすすぎますわ」
その瞬間。
舞踏会場の扉が勢いよく開いた。
護衛に囲まれた男が引きずられてくる。
「離せ!」
金髪の青年。
伯爵家次男レオンだった。
会場が騒然となる。
「修道院から脱走」
「さらに誘拐未遂」
私は書類を掲げた。
「証拠です」
レオンが叫ぶ。
「違う! 全部あの女のせいだ!」
「残念ですわ」
私は肩をすくめた。
「あなたの誘拐計画は」
「最初から囮でした」
沈黙。
セバスチャンが静かに説明する。
「お嬢様の替え玉を使わせていただきました」
レオンの顔が真っ青になる。
護衛が彼を連れていく。
これで一人。
残るは二人。
私はガレスを見た。
「次はあなたですわね」
ガレスは必死に叫ぶ。
「証拠はあるのか!」
私は紅茶を飲む。
「もちろん」
セバスチャンが一枚の書類を出した。
「賭博組織との契約書です」
ガレスが固まる。
「あなたは侯爵家襲撃を依頼しました」
会場が騒然となる。
私は言った。
「でも残念」
「騎士団にはもう通報済みです」
その瞬間。
扉が開いた。
騎士団が入ってくる。
「ガレス・バルド」
「賭博組織との共謀で逮捕する」
ガレスは崩れ落ちた。
「そんな……」
護衛に連れていかれる。
残るは一人。
商会次男アルヴィン。
彼はゆっくり拍手した。
「さすが侯爵令嬢」
「でも僕は違う」
彼は微笑む。
「君を社交界から追放するだけさ」
ざわめきが広がる。
アルヴィンは続ける。
「うちの商会が取引を止めれば」
「侯爵家は困るだろう?」
私は首をかしげた。
「そうかしら?」
セバスチャンが静かに言う。
「もう遅いですよ」
アルヴィンが眉をひそめる。
「何?」
セバスチャンは一枚の書類を出した。
「あなたの商会の株」
「すでに過半数を取得しています」
沈黙。
アルヴィンの顔から血の気が引いた。
「な……」
「つまり」
私は微笑む。
「あなたの商会は」
「今、侯爵家のものです」
会場が騒然となった。
アルヴィンは膝をつく。
「そんな……」
私は静かに言う。
「嵐が来るなら」
「傘くらい準備しますわ」
こうして。
復讐劇は終わった。
――はずだった。
その夜。
父が書斎で言った。
「見事だったな」
私は紅茶を飲む。
「当然ですわ」
父は笑う。
「しかしセバスチャン」
執事が一礼する。
「はい」
父は言った。
「お前が全部準備したのだろう?」
セバスチャンは少し考えた。
そして静かに答えた。
「いいえ」
「半分です」
私は眉を上げる。
「半分?」
執事は私を見る。
「お嬢様」
「はい?」
「今回の件」
「本当に最初からご存じでしたか?」
沈黙。
父が目を丸くする。
私はゆっくり笑った。
「もちろん」
セバスチャンの目が少しだけ驚く。
私は言う。
「だって」
「あなたが調査していたでしょう?」
「なら」
「三人が動くことくらい分かりますわ」
執事はしばらく黙っていた。
そして笑う。
「さすがです」
父が呆れた声を出す。
「つまり」
「お互いに試していたのか」
私は肩をすくめる。
「転んでも」
そして言った。
「タダでは起きませんので」
セバスチャンが小さく笑った。
「では」
「次は私の番ですね」
私は頷く。
「ええ」
そして微笑んだ。
「嵐の時の顔」
「ちゃんと見せてくださいね」
その後。
社交界では新しい噂が広がった。
修道院脱走犯のレオンは再び収監。
ガレスは長期投獄。
アルヴィンの商会は侯爵家傘下。
そして。
侯爵令嬢と執事夫婦は。
社交界で最も恐れられる存在になった。
私は紅茶を飲みながら言う。
「男を見る目?」
セバスチャンが静かに立つ。
私は微笑む。
「簡単ですわ」
「嵐の時の顔を見ること」
転んでも。
タダでは起きない。
それが侯爵令嬢の流儀。




