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侯爵家を継ぐ私、婿候補三人を試験したら全員クズだったのでざまぁしました  作者: 白昼夢


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1/1

転んでもタダでは起きませんわ 〜侯爵令嬢の三匹の婿候補〜



「では証拠をお見せしますわ」


 私は舞踏会場の中央で、書類を一枚掲げた。


 ざわり、と貴族たちが騒めく。


 目の前の男――伯爵家次男レオン・ヴァルディスの顔色が、みるみる青くなった。


「エリザベート嬢……それは」


「愛人名簿です」


 私はにっこり微笑む。


「全部で八名」


「うち三名は平民女性ですわね」


 会場が凍りついた。


 レオンの唇が震える。


「な、なぜそれを……」


「侯爵家ですもの」


 私は肩をすくめた。


「調査くらいしますわ」


 貴族たちの視線が一斉に彼へ向く。


 私は静かに告げた。


「レオン様」


「あなたは――婿候補失格です」


 どよめきが広がる。


 護衛が一歩前に出た。


「お待ちください!」


 レオンが叫ぶ。


「誤解です! これは罠――」


 私はもう一枚の紙を出す。


「こちらは被害証言」


 さらに一枚。


「こちらは賭博場の領収書」


「……!」


「平民女性への暴力」


「そして多額の借金」


 私は優雅に微笑んだ。


「残念ですわ」


「紳士だと思っていましたのに」


 レオンは完全に言葉を失った。


 護衛が彼の腕を取る。


「離せ!」


 そのまま舞踏会場から連れ出されていった。


 扉が閉まる。


 重い沈黙。


 そして父――グランディス侯爵が呟いた。


「……婿候補が一人消えたな」


「ええ」


 私は紅茶を一口飲む。


「残り二人ですわ」


 ここグランディス侯爵家では現在――


 婿候補の選別が行われている。


 侯爵家の跡取りである私は、婿を取らなければならない。


 父が用意した候補は三人。


 社交界でも評判の青年たちだった。


 伯爵家次男レオン。


 騎士団所属の子爵家三男ガレス。


 そして大商会の次男アルヴィン。


 誰を選んでも恥ずかしくない。


 ……そう父は言った。


 でも私は思ったのだ。


(家を見るのではなく)


(嵐の時を見るべきですわね)


 だから私は決めた。


 三匹の子ぶた方式で試すと。


 藁の家。


 木の家。


 レンガの家。


 嵐が来た時に残る男を選ぶ。


 それだけの話だ。


 そして今。


 藁の家が一つ吹き飛んだ。


 残るは二つ。


 騎士ガレスと商会次男アルヴィン。


 私は扇子を閉じた。


「では次の試験に進みましょう」


 その言葉に、会場が再びざわめいた。


 騎士ガレスが腕を組む。


「試験、だと?」


「ええ」


「侯爵家の婿になる以上、必要ですわ」


 彼は鼻で笑う。


「面白い」


「受けて立とう」


 私は微笑んだ。


 嵐が来たらどうなるのか。


 見せてもらいましょう。


 まずは――


 木の家から。


 数日後。


 侯爵邸の書斎で、私はガレスと向かい合っていた。


「投資の話をしましょう」


 私が言うと、彼は眉をひそめる。


「投資?」


「侯爵家の資金運用です」


 私は書類を机に広げた。


「もしあなたが婿になれば、この判断にも関わることになります」


 ガレスは露骨に不機嫌な顔をした。


「そんな細かい話は部下に任せればいい」


「理解する気はないと?」


「女が金の話をする必要はない」


 私は紅茶を飲む。


 そしてカップを置いた。


「侯爵家を守るのは男の役目だ」


 ガレスが言う。


「女は家を守ればいい」


 私は静かに書類を一枚差し出した。


「借用証書です」


 彼の顔色が変わる。


「……なぜこれを」


「全部で七件」


「賭博場の記録もあります」


 沈黙。


 私は言った。


「あなたは借金まみれです」


「侯爵家の金を当てにしていました?」


「違う!」


 彼が立ち上がる。


 机を叩く音が響く。


 私は淡々と告げた。


「木の家ですわね」


「嵐が来たら崩れます」


 護衛が入ってくる。


「離せ!」


 ガレスは暴れたが、すぐに取り押さえられた。


 その翌日。


 騎士団から正式な通知が届いた。


 ガレス・バルド。


 借金問題により除名。


 さらに子爵家から勘当。


 私は報告書を閉じた。


「二匹目ですわね」


 後ろに控えていた執事セバスチャンが静かに答える。


「残るは一名です」


 私は窓の外を見た。


 青空が広がっている。


 だが嵐はまだ終わっていない。


 最後の男。


 商会次男アルヴィン。


 彼は果たして――


 レンガの家なのか。


 それとも。




--------



 庭園に現れたアルヴィンは、いつもの笑顔で手を振った。


「やあ、エリザベート嬢。僕は大丈夫だと思うよ」


 私は微笑みを返す。


「どうして?」


「優秀だからさ」


 迷いのない言葉だった。


 私はゆっくり歩く。


 そして、わざと足を滑らせた。


「きゃっ!」


 泥がドレスの裾を濡らす。


 アルヴィンが慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 私は一瞬安心した。


 だが次の言葉で、それは消えた。


「その服、高かったんじゃない?」


 笑顔が消え、眉をひそめる。


 私は静かに立ち上がった。


「アルヴィン様」


「はい?」


「あなたはレンガの家のように見えました」


 彼は自信満々に笑う。


「でしょ?」


「でも」


「中身が空洞でしたわ」


 アルヴィンの笑みが消える。


 私は泥を払う。


「侯爵家の婿は務まりません」


 彼はしばらく黙った。


 やがて肩をすくめる。


「手厳しいね……」


 私は淡々と言う。


「評価ですので」


 これで三人の婿候補はすべて消えた。


---


  


 その日の夕方、父が書斎で尋ねた。


「で、誰に決めた?」


 私は迷わず答えた。


「もう決まっております」


 後ろに控える影。


 セバスチャン――十年間私を支えてきた執事。


 父が目を見開く。


「まさか、執事か……?」


 私は微笑む。


「嵐の時、一番頼りになったのはこの人ですもの」


 セバスチャンは静かに頭を下げた。


「恐れ多いことです」


「いいえ」


 私は言う。


「この人は十年間」


「私が転んでも助けてくれました」


 父は驚き、ため息をつく。


「いつの間にそんなことを……」


 私は肩をすくめる。


「転んでも」


 微笑みながら言う。


「タダでは起きませんので」


 セバスチャンが小さく息を吐く。


「……覚悟はしておりました」


 私は頷いた。




---


 数か月後、社交界では噂が広がっていた。



- 伯爵次男レオンは女性問題により修道院送り

- 騎士ガレスは借金地獄

- 商会次男アルヴィンは縁談消滅


 そしてグランディス侯爵家では、新たな噂が。


「侯爵令嬢が執事と結婚したらしい」


 私は紅茶を飲みながら微笑む。


「男を見る目?」


 セバスチャンが静かに立つ。


「はい?」


「簡単ですわ」


 私は静かに答える。


「家を見るのではなく、嵐の時の顔を見ること」


 転んでも。


 タダでは起きないのだから。


---



 父がポツリと言った。


「しかしセバスチャン、お前はどうして最初から反対しなかった?」


 執事は穏やかに微笑む。


「もちろん、調査すればお嬢様を支えることは可能でした」


「ではなぜ?」


 セバスチャンは静かに言う。


「お嬢様がどんな方か、確かめたかったのです」


「……え?」


「侯爵家を背負う者が、男を試すように、自らも試されるべきかを」


 父が目を丸くする。


「つまり、エリザベート嬢も試されていたのか」


 私はしばらく沈黙した後、笑う。


「それで?」


 セバスチャンは静かに答えた。


「満点でした」


 私は肩をすくめる。


「光栄ですわ」


 そして言う。


「でも……」


「転んでもタダでは起きませんので」


 次に試されるのは、彼です。


 執事の目が少しだけ笑った。


---


 「男を見る目?」

 「簡単ですわ」

 「嵐の時の顔を見ることです」


 転んでも。

 タダでは起きない。

 それが侯爵令嬢の流儀。



最後までお読みくださり、ありがとうございます。


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