最終話:アークライトの逆鱗、あるいは世界の終わり
事件は、アレン兄様たちが「神の心臓」の情報を持ち帰るより早く起きた。
アークライト家の屋敷を、突如として漆黒の結界が覆う。 教団が遺構から掘り出した「神の心臓」を起動し、その余波で王都中の魔力を遮断。属性魔法を無効化する「沈黙の領域」を作り出したのだ。
「……なんだ、これ。魔力が、練れない……!?」 屋敷にいたエドワードやカイトたちが膝をつく。
その混乱を突き、教団の実行部隊が、特訓で疲弊して寝ていたレオを強襲した。 彼らがレオを連れ去ろうとしたその時——。
「……ねえ、それ。誰に許可取って触ってるの?」
屋敷の奥から、地鳴りのような声が響いた。 現れたのは、いつもならマドレーヌを齧ってニヤけているはずの、15歳の少女。 だが今のレナからは、一切の感情が消えていた。
「ハハッ、無属性の小娘か! この領域では属性魔法は無力! おとなしく——」
「……うるさいよ」
レナが指を鳴らした。 ただそれだけで、教団が絶対の自信を持っていた「神の心臓」の結界が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「な……馬鹿な! 神の遺物が、壊されただと!?」
「神? 遺物? そんなおもちゃで、私の弟を傷つけていい理由になると思ってんの?」
レナの瞳が、透き通った無色の輝きを放つ。 【無属性魔法:SSSランク——全リミッター解除】
それは、世界を構成する法則そのものを上書きする「純粋魔力」の顕現。 レナが一歩踏み出すたびに、周囲の空間が震え、暗殺者たちの肉体が「存在の重み」だけで地面にめり込んでいく。
「……待って。まだ壊さないで」
レナが虚空を掴むように手を伸ばすと、教団の本拠地があるはずの遠方の山脈が、まるで粘土のように歪み始めた。 距離も、遮蔽物も、レナの魔力の前では意味をなさない。
「あんたたちの組織、根っこから消しとくわ。……もう二度と、レオの視界に入らないようにね」
ドォォォォォォォォォォンッ!!
爆音すらなかった。 ただ、世界から「教団」という概念が消去された。 数千の信徒も、地下の神殿も、彼らが積み上げてきた歴史も。 レナの放った『無属性:概念消滅』の一撃によって、更地すら残さず、虚無へと還った。
静寂が戻った屋敷。 レナは冷たい目のまま、震えている生き残りの暗殺者たちを見下ろした。
「……あ。そうだ。あんたたち、レオに触ったよね」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
レナが指を向けようとした瞬間、目を覚ましたレオが、レナの服の裾をギュッと掴んだ。
「……姉様。もういいよ、僕、怖くないから。……姉様が怒ると、世界がなくなっちゃう」
「…………」
レオの温かい手の感触に、レナの瞳から無色の光が消えていく。 彼女は深いため息をつき、いつものギャル風の顔に戻ってレオを抱き上げた。
「……あー、ごめんごめん。ついカッとなっちゃった。……もう大丈夫。ゴミ掃除は終わったから」
駆けつけたアレンとフェリスが見たのは、地図から一つ、不穏な国家レベルの組織が丸ごと消え失せた痕跡と、弟を抱いて「今日のご飯、何?」と笑う妹の姿だった。
エピローグ
その後、アークライト家は「触れてはならない神域」として、世界中の国々から不可侵条約を結ばれることになった。
アレンとフェリスは、国を象徴する双璧として。 レオは、数年後に「全能の覇者」として歴史に名を刻むことになる。
そして、その中心にいるのは——。
「セルンさん、お菓子足りない。レオの特訓のあとの糖分、もっと高級なやつ頼んで」
15歳のまま、悠々自適に弟を愛で、世界を裏から作り変え続ける最強のニート。 崖っぷちギャルの転生ライフは、今度こそ、誰にも邪魔されない最高のハッピーエンドへと続いていく。
「……ま、レオが成人するまでは、隠居はお預けかな!」
最強の姉による、史上最強のプロデュース。 これにて、一旦、幕。
【崖っぷちギャル、転生してSSSランクの無属性魔法使いになる。】——完




