第23話:アークライトの双璧、戦場にて。
レナが屋敷で「歩く魔力空白地帯」を育成している頃。 アレンとフェリスは、休暇を切り上げて隣国との国境付近、通称「嘆きの断崖」へと派遣されていた。
「……また教団の残党か。しつこいな」
アレンが紅蓮の槍を肩に担ぎ、目の前に広がる数千の魔導兵団を冷ややかに見下ろす。 普通の騎士なら絶望する軍勢だが、アレンにとっては「効率の悪い練習相手」に過ぎない。
「お兄様、あまり派手に焼かないでくださいね。後始末をするこちらの精霊たちが嫌がりますから」
フェリスが優雅に杖を掲げる。 彼女の周囲では、高密度の聖属性魔力が幾重もの幾何学模様を描き、空を埋め尽くすほどの光の弾幕が形成されていた。
「……ふん。レナに『無駄が多い』って怒られない程度に片付けるさ」
アレンが地を蹴った。 ドォォォォォンッ! という爆音と共に、彼の体が音速を超えて敵陣へ突っ込む。 かつてレナに「魔力の出口を絞れ」と言われたアレンの槍は、今や広範囲を焼く炎ではない。触れたもの全てを分子レベルで消し飛ばす、超高熱の「極細のレーザー」へと進化していた。
「な、なんだあの速さは……!? 防御障壁が、紙のように――ぎゃあああ!」
敵の最前線が一瞬で蒸発する。 一方で、後方の魔導部隊が放った一斉射撃は、フェリスが展開した『聖域』に触れた瞬間、パリンとガラスのように砕け散った。
「属性相性なんて、出力の差の前では意味をなしません。……そうでしょう?」
フェリスの瞳が冷たく光る。 彼女の魔法は、レナ直伝の「不純物の除去」を極めた純度100%の聖属性。 敵の魔法に干渉し、その構造を内部から崩壊させる。
周囲の兵士たちは、この二人を「救国の英雄」と崇めるが、同時に「人間ではない何か」として恐れていた。 だが、当の本人たちの頭の中にあるのは、別のことだった。
「……なぁ、フェリス。今の俺の突き、レナなら『まだ0.1秒遅い』って言うと思わないか?」 「ええ。お兄様の足運び、まだ魔力のロスがありますもの。……それにしても、レオの成長は異常ね。あの『消滅魔法』、もし完成したら……私たちの魔法すら、一方的に消されるわよ」
数千の軍勢を蹂躙しながら、二人は真面目な顔で「実家の妹と弟」の心配をしていた。
彼らは知っている。 自分たちがどれだけ「最高戦力」と持て囃されようと、あの屋敷でマドレーヌを齧っている妹の「無属性」という深淵には、未だに底が見えないことを。 そして、その妹が手塩にかけて育てている弟が、自分たちを追い越そうとしていることを。
「……報告しろ。教団が地下遺構から掘り出した『遺物』の正体はなんだ」
アレンが敵の指揮官の喉元に槍を突きつける。 「ひ、ひぃっ……! 『神の心臓』だ……! あれを起動すれば、属性魔法などという生ぬるい力は全て封殺される……!」
「……属性魔法を、封殺?」
アレンとフェリスが顔を見合わせた。 世界を揺るがす教団の切り札。 だが、二人の脳裏には、昨日見た「あらゆる魔法を無効化して走り回る6歳児」の姿が浮かんでいた。
「……フェリス。これ、レナとレオに言ったら『あ、それもう家でやってるよ』って言われそうじゃないか?」 「……おそらく、そうなるでしょうね」
戦場の中心で、最高戦力の二人は、世界の危機の先を行く「アークライト家の異常性」に、少しだけ遠い目をした。




