第22話:消滅の衣と、地獄の筋トレ
アレン兄様たちにボコられた翌日から、レオの日常は「地獄」に変わった。
「いい、レオ。今のあんたに足りないのは、攻撃のバリエーションじゃない。相手の攻撃を『無視』して、自分の拳を『叩き込む』ための地力だよ」
私は演習場の真ん中で、レオに新しい術式を提示した。 【鑑定】で見抜いた「終焉」の根源を、1000分の1の出力まで無理やり落とし、安定させたもの。
「名付けて『消滅魔法』。これは物を消すんじゃなくて、触れた魔力や物質の結合を『一時的にバラバラにする』だけの力。これをね……体の表面で常に薄く、絶え間なく循環させな」
「……えっ、ずっと? 魔法を使いっぱなしってこと?」
「そう。寝てる時も、ご飯食べてる時も。あんたの全属性Aの魔力量ならできるでしょ。これができれば、お姉様の聖域も、お兄ちゃんの槍の熱も、触れた瞬間に『ただの空気』に変わる」
横でセルンさんが「……なんと。防御魔法ではなく、防御という『現象』そのものを消去して無効化する……。まさに逆説的防御!」と、鼻血が出そうな勢いで記録している。
「で、その状態でこれ持って」
私が無属性魔法で作り出したのは、一個数トンはある「魔力重化」された鉄下駄とリストバンド。
「ええええ! 重い! 姉様、動けないよ!」
「動くの。その重りすら『消滅魔法』で少しずつ削りながら、自分の筋力で強制的に動かす。……さあ、アークライト家100周、行ってきな!」
ここからが本当の「しごき」だった。 レオは常に「消滅」の衣を維持し、魔法を無効化するエネルギーを使いながら、物理的な重負荷に耐えて走り続ける。
一週間も経つと、レオの体つきが変わってきた。 見た目はまだ可愛い6歳児だけど、その密度がバグってる。 走るたびに地面が「消滅」の影響で少しずつ砂になり、彼が触れる訓練用の木剣は、一振りで分子崩壊を起こして消えていく。
「……レナ。あいつ、マジで何なんだ?」 遠巻きに見ていたアレン兄様が、引きつった顔で近寄ってきた。 「今日、レオの頭を撫でようとしたら、俺の魔力強化が指先から霧散したぞ。……俺を、本気で防壁なしの生身にしようとしてるのか?」
「お兄ちゃん、正解。レオのコンセプトはね、『触れたら終わり』の歩く魔力空白地帯。……これなら、地力の差なんて関係ないでしょ?」
私は、ボロボロになりながらも目を爛々と輝かせて走り続けるレオを見て、ニヤリと笑った。 15歳の私が守れなかった、あの日の弟。 でも、今のレオは、世界で一番「硬くて」「危険な」6歳児になりつつある。
「……よし、レオ! 休憩10分! その間にマドレーヌ三つ食べて、糖分補給しな!」
プロデューサーレナの育成計画、第二段階「物理で解決する虚無の騎士」編。 順調すぎて、そろそろパパが「うちの庭が砂漠になってるんだが?」って怒鳴り込んできそう。




