第1話:崖っぷちギャル、赤子に転生して天下取るわ
あー、マジでないわ。
目の前が真っ暗っていうか、文字通り真っ暗。 最後に覚えてるのは、ガコンっていう嫌な衝撃と、浮遊感。
30メートル下の崖の底。 車ごと落ちて、私の意識はそこでプツンと切れた。
お父さん、お母さん。 それに、まだ小っちゃい弟。 あいつら、無事かな……。
私はずっと「なんか違う」って思いながら生きてきた。 イケイケなノリに合わせて、ギャルやって、適当に笑って。 でも、あんな呆気ない最後が「正解」だったなんて思いたくない。
神様でも仏様でも、誰でもいい。 もし次があるなら、今度は納得いくまで——。
——その時。
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
……は? え、今の声、私?
急に全身が冷たい空気に触れて、めちゃくちゃ眩しい光が目に飛び込んできた。 体が重い。っていうか、自分の意思で全然動かない。
「……生まれた! 元気な女の子ですよ!」
耳に飛び込んできたのは、聞いたこともない言語。 なのに、なぜか意味がダイレクトに脳に伝わってくる。
「ああ……。私の、赤ちゃん……」
抱き上げられて、誰かの胸の中に収まる。 ミルクみたいな、お日様みたいな、すっごく温かい匂い。
必死に目を開けると、そこには泣きながら私を見て微笑む、絶世の美女がいた。 ……これ、もしかして、新しいママ?
「……名前は、レナ。レナ・アークライトよ」
レナ。 それが、私の新しい名前。
待って、マジか。 これ、巷で流行ってる「異世界転生」ってやつじゃん。 崖から落ちて即死からの、ニューゲーム?
正直、まだ頭が追いつかないけど。 でも、あの崖の底の絶望に比べたら、温かいベッドの上なんて天国っしょ。
すると、視界の端に何かが映り込んだ。
「ねえ、母様! 妹、見せて!」 「僕も! ほら、ユリスも来いよ!」
バタバタと騒がしい足音と一緒に、二人の顔が私の顔の横に並んだ。
一人は、透き通るような銀髪の美少女。 もう一人は、キリッとした眉毛のイケメン少年。
え、待って、レベル高すぎ。 この人たちが、私の姉貴と兄貴? 前世では姉貴やってたけど、今度は末っ子とか、マジでコスパ最強じゃん。
二人がキラキラした目で私を見つめてくる。 その視線が、なんだか「守らなきゃ」っていう熱を帯びていて、私の胸の奥が少しだけ熱くなった。
……おっけー。 家族を失った悲しみは、消えない。 でも、この人たちが私をこんなに歓迎してくれるなら。
今度は、死ぬまで全力で生きてやろうじゃないの。
そう決めた瞬間。 私の視界に、妙な「文字」が浮かんできた。
『——個体識別完了。固有スキル【鑑定眼】を展開します』
は? 鑑定眼? スマホのARアプリみたいな感じで、お兄ちゃんの頭の上にアイコンが出た。
気になって、それを意識して「タップ」する感覚で念じてみる。
【名前:アレン・アークライト(兄)】 【状態:極度の興奮・妹への過剰な愛】 【魔力適性:剣士(ランクB)】 【悩み:実は剣の才能に限界を感じてて、夜な夜な枕を濡らしている】
……え。 何これ、めちゃくちゃプライバシー侵害してくんじゃん。 しかもお兄ちゃん、メンタル弱すぎ。マジでぴえん通り越してぱおん。
続いて、お姉ちゃんの方。
【名前:フェリス・アークライト(姉)】 【状態:感激・将来妹を可愛がりすぎてダメにする予感】 【魔力適性:精霊魔法(潜在能力S/現在C)】 【バグ:魔力の回路が詰まってて、実力の10%も出せてない】
……はぁ!? お姉ちゃん、才能の無駄遣いすぎでしょ。 回路詰まってるとか、スマホのキャッシュ溜まりすぎて重くなってるようなもんじゃん。
私は、小さな手を力いっぱい握りしめた。
この「鑑定」があれば、二人のダメなところも、良いところも、全部まる分かり。 だったら、やることは一つ。
赤ん坊のふりして、この「詰まってる」お姉ちゃんの魔法を最適化してあげて。 ネガティブ全開のお兄ちゃんを、最強の騎士にプロデュースして。
ついでに私は、魔法の力で誰よりも可愛くなって、この世界で天下取る。
崖から落ちた時の根性見せてやんよ。 「あぅー!(よし、やってやんよ!)」
私が威勢よく声を上げると(赤ん坊だから「あぅ」だけど)、家族みんなが「笑ったわ!」「天使か!」って大騒ぎし始めた。
マジでチョロい。 でも、悪くない。
レナの第二の人生、爆誕。 前世の負け分、全部こっちで回収してやるから。 震えて待ってなさい、異世界!




