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コーラルからの脱出

「そして、ミハエル事変後ここにいるアルマンドさんの協力のもと画家シャルルとして活動しながら資金と情報を調達していたのです。」

トーラスがアルマンドの方を向きながらみんなにあらためて紹介する。

「私は昔ミハエルに住んでおりまして、ミハエルを出てからはミハエルにさまざまな物資を輸出していたのです。そのためルナ様とも深い親交がございました。ミハエルで事件があったと知って、ミハエルへの地下通路から確認しに行こうと思っていたところトーラス様と出会ったのです。トーラス様の顔はもちろん知っておりましたので、そこで出会った少年がミハエル事変で逝去なされたと言われていたトーラス様だとすぐにわかり、そこにただならぬ事情があることを察しました。私の身分を打ち明け、事情を聞くと正体がバレると非常にまずいとわかりましたので、この街ではなくテラの大森林内に隠れ家を作りそこで暮らすように提案したのです。」

「そこからもたくさんのことがありましたが、話が長くなってしまったのでここら辺でやめにしましょう。」


トーラスが話を終えると部屋には沈黙が流れる。ミハエル事変の真実とトーラスがどれほどの犠牲の上に生き残ったかということをキースとセリーは認識する。当時のトーラスの心情を考えるとうまく言葉をかけることができなかった。

「私の命はルナさんやピナやキール、そしてミハエルの人々が繋いでくれた命なのです。ですので、私は彼らとの約束を果たさなければならない。そして、そのためにはあなたの力が必要なのです。セリー。」

トーラスはまっすぐな瞳でセリーの顔を見る。セリーは不意に自分の名前が出たことで少し驚きながらも答える。

「私ですか。私は特に何の力も持っていませんが、、、」

「私がこの8年していた情報収集の内容は主に生存している天使の末裔の調査でした。さすがに私とアルマンドさん、そしてもう1人の情報提供者だけでは神聖国の調査力には敵いませんでしたが。天使の末裔の方々を探し出し、やることがあると思ったため長年情報を集めました。私が何をやろうとしているかわかりますか?」

セリーはわからないと言った顔で顔を傾ける。すると、ずっと黙っていたキースが横から口を出す。

「なるほど。トーラス様は天使の国を建国しようと思っているのですね。それも、今までのように隠れた都市ではなく神聖国との対等な国として。ですが、それにはあまりにも多くの障害があるのでは。特にデロッサ王は絶対に認めずに滅ぼそうとすると思いますが。」

「そうですね。デロッサは必ず滅ぼそうとしてくるでしょう。なので、建国はすぐではありません。時期を見計らいある程度の協力者を得てからではないと無理でしょう。天使の国を建国することの目的は、主に三つあります。一つ目は天使の末裔が安心して暮らせる場所を作ることです。私は天使の末裔の生き残りはセリーの他にもまだ世界のどこかに存在していると思っています。そんな彼らの生活を保障する場所を作るということです。二つ目が、天使がこの世界にとって悪ではないということを世界の人々に知らしめるということです。私はミハエル様の手記に書かれている内容がこの世界の本当の歴史だと思っています。天使が悪ではないのなら隠れて暮らす必要はないのです。ですので、国を作り普通の暮らしをすることで世界の人々の印象を変えるのです。そして、三つ目がいざという時の対抗策としてです。神聖国と対等な国として建国し、国として神聖国と不可侵の条約を結びます。ルナ様が言っていた争わない世界を作るために。」

「それでも、今の神聖国がそんな条約を飲むとは考えられませんね。」

キースがトーラスに対して少し強い口調で反論する。

「キースさんのおっしゃることはごもっともです。私は、今の神聖国のあり方も否定します。今の神聖国ではどのようにしたとしても天使を認めることはないでしょうから。」

「それは、つまり。」

キースはトーラスの考えを察したかのようにトーラスへと問いかける。

「はい。神聖国の神王デロッサを倒します。」

トーラスは決意に満ちた瞳で宣言する。

「神聖国と戦争をすると。」

キースの言葉にセリーは動揺しながら、トーラスへと訴えかける。

「戦争だなんて。話し合いで平和的に解決することを目標とするのではないのですか。ルナさんもそれを望んでいたのでは。」

「セリー。私はミハエル事変で思い知りました。弱者の声は強者には届かないということを。被食者が助けを懇願したとしても捕食者は容赦無く捕食するでしょう。神聖国にとって天使はそのような存在なのです。自分達の方が優れていると思っている。そんな相手に話し合いを求めても応じることなどありません。神聖国と対等な位置に立つということは神聖国に天使たちが自分達と同等の存在であるということを理解させる必要があるのです。そのためには多少の武力は保持しなくてはなりません。」

「ですが、それだと先ほどの世界の人々に天使が悪ではないということを知ってもらうということに反するのではないのですか。神聖国にとっての脅威ということは世界の脅威ということになってしまうと思われますが。」

キースがもっともなことをトーラスに問いかける。しかし、トーラスはその質問はすでに想定内だと言わんばかりにすぐさま答える。

「そうですね。それほど今の神聖国の力は世界中に広まっています。悔しいことですが、ミハエル事変の偽りの内容が天使をより悪者にしてしまっているのも事実です。ですから私がいるのです。」

トーラスは自身の胸に手を当てながらキースの方を向く。

「なるほど。トーラス様が存命であるということを周知させミハエル事変の真実を世界に広めるのですね。そうすれば、神聖国の信用も落ちるということですか。」

キースは納得したように顎に手を当てながら、トーラスのいう天使の国について考えを巡らす。

「キースさん。あなたには全てを話さずともお見通しのようですね。あなたは一体、、、?」

トーラスが当然の質問を投げかける。キースは先ほどからトーラスが全てを話さずともその意図を理解している。その推理力はトーラスの想像を超えていた。だが、未だにキースがなぜ手を貸そうとしてくれているのかを聞いていなかった。すでに怪しいものではないと思っていながらも、その理由をしっかりと聞いておきたいと思った。

「あら、そういえばまだ言っておりませんでしたね。トーラス様であればもうお気づきかと思いましたが。」

キースのその言葉にトーラスは考え込む。今までの話の中でキースの正体に関することがあったか。そういえば、キースはミハエル事変の内容をある筋から聞いたと話していた。とはいえ、ミハエル事変の内容を知っているのは生き残っているトーラスとアルマンド、そして情報提供者の3人だけのはずでは。いや、もう1人いる可能性を見落としていた。あの男の最後の願いに答え出した手紙。あの中身が天使の末裔ないしミハエルに関することだったとすれば、キースの推理力を持ってすれば容易にミハエル事変のことを推測できているのではないか。

「キースさん。あなたはキールの?」

「そうです。ミハエル事変でトーラス様と行動をご一緒していたキールの弟でございます。いつか気づいてもらえるかもと考えてわざわざ名前を似せていたんですがね。」

キースは頭をかきながら、苦笑いする。

「でも、キールとはあまり顔が似ていないように思うのですが。」

「まあ、よく言われていましたな。兄とは歳が離れていたので。」

キースは照れているような表情で話す。トーラスもキースの顔を見ながら記憶の中のキールと見比べる。やはりあまり似ていないように思える。しかも、キースはキールの弟にしては歳がそう離れていないように感じるが、、、ここでトーラスの頭に先ほどのキースの発言に対して疑問が浮かぶ。

「ん?キースさん。先ほどわざわざ名前を似せたと言っていましたが、どういうことですか?」

「ああ、キースというのは偽名というか愛称のようなものなんですよ。では、改めまして。私の名前はキリシュタリア・ホーンと申します。実年齢よりも高く見られがちなのですが、歳は31でございます。兄であるキルマリアからの手紙を受け取り、密かにトーラス様を探しておりました。実はこの都市の関所の役人を始めたのはトーラス様とお近づきになるためだったのですよ。」

キースは改まって姿勢を正し自らの本名を名乗る。そして、衝撃的な発言をした。その発言に耳を疑う。

「え、キースさんはさっき私の正体には確証があったわけではないと言っていませんでしたか?」

あっけに取られた表情でトーラスがキースへと尋ねる。キースは笑いながら答える。

「確証があったわけだはないというのは本当ですよ。ですが十中八九トーラス様本人であると思って近づいたのです。先ほど、こんなことを言ってしまえばまだ正体のわからなかった私はますます怪しい存在になってしまいますからね。ミハエル事変の詳細をトーラス様が語ってからの方が都合が良かったのですよ。」

そこまで考えていたのかとトーラスはあっけに取られながらも感心する。キースという男は数手先まで見通して行動していたのだと。

「だが、その話はおかしいですぞ。」

トーラスの横にいたアルマンドがキースの話に割って入り口を挟む。その顔は謎に満ちていると言わんばかりの不思議顔だ。

「私の仕事柄、キース殿の関所の役人としての個人調書を見たことがありますが、名前や出身地などは違っておりましたぞ?」

「ああ、それは偽装調書ですよ。一応私も正体を隠していた方が良い身だと思っていましたので。」

キースは平然と答える。その答えにアルマンドは絶句する。あまりにも飄々と語ったその内容が信じられないと言った表情だ。

「そんなことが、、」

「私はそういうような偽装工作や裏工作が得意なのです。だからこそ今回お役に立てると思ってきたのですが。」

そう言いながらキースはトーラスの表情を伺う。トーラスの計画についても、もうお見通しであるというような表情を向けている。トーラスはそれに笑顔で返し、続けて話す。

「キースさん、いやキリシュタリアさん。あなたのそのお力を貸してください。」

「もちろんお任せください。私はこれからあなたの配下となり、この力を使っていただきたいと思っていますので。ですが私のことはこれまで通りキースとお呼びください。キリシュタリアでは呼びにくいでしょうから。」

キースは右手を胸に当てトーラスに向けて礼をする。それに対してトーラスは笑顔を見せ軽く頷く。

「あの、お二人だけではなく、私とセリー様にもそのご計画をお話しいただけませんか。」

アルマンドが申し訳なさそうにトーラスへ質問する。セリーも縮こまりながらトーラスの方を向き頷いている。

「そうですね。ではこの街コーラルから脱出する方法を話しましょう。」


トーラスはアルマンドとセリーに向けてその計画の全容を説明する。

「簡単にいうと、私とセリーは白昼堂々関所からこの街を出ます。」

トーラスの言葉に2人は驚く。アルマンドはトーラスからどんな壮大な計画が話されるのかと期待していたのに肩透かしを食らったように口をあんぐり開け、セリーもトーラスのいうことを理解できず困惑して目を丸くしている。

「詳しくいうと、キースには関所で偽装書類を作ってもらいます。シャルルというのもまずいので違う名前の方がいいですね。その偽装書類を持って堂々と関所を通ります。もちろん私もセリーも私の権能を使って見た目は変えます。」

「なぜ、昼間なのでしょうか。」

アルマンドがトーラスに質問する。すると、キースがアルマンドに逆に問いかける。

「アルマンドさんが神聖国の兵士の立場であれば、天使の少女がこの街を抜け出そうとするならどの時間帯だと思いますか。」

「それは、人目が減り隠れやすい夜闇に紛れてでしょうか。あ、なるほど。」

「そうです、逃げているものが昼間に堂々と街を抜け出すということは普通ならば考えられないのです。その思考を逆に利用するのです。そして、関所が厳重であるというこの状況も、一度抜けてしまえば神聖国の目を欺けるという寸法です。」

トーラスがアルマンドに答えながらさらに話を続ける。

「ですが、セリーがこの街にいないということがわかるとその偽装書類もすぐに気づかれてしまうでしょう。そうなるとその偽装書類を作成したキースの身も危なくなってしまいますね。」

「そこに関しては心配無用ですよ。こんな時のための私の偽装個人調書です。これを機に長期出張に行ったことにしてそのまま行方をくらませてしまいましょう。」

「では、キースもテラの大森林の中にある私のアトリエで生活してもらうことにしましょうか。アルマンドさんの方は」

「私が急に行方をくらませるというわけにはいかないでしょうな。私はこの街での拠点兼情報収集をしなくてはなりませんから。」

「そうですね。今回の計画から神聖国の兵士がセリーとアルマンドさんとの繋がりを発見する可能性は低いでしょうからアルマンドさんにはこれまで通りにしていただきましょう。」

アルマンドはトーラスの言葉に頷く。トーラスがセリーの方を見るとセリーもこの計画について理解できているようだ。

「では、出発は明日にしましょう。今日はセリーは十分に休息をとり明日に備えるように。」

皆がトーラスの言葉に頷く。そして、キースは席から離れると部屋の扉に向かい、振り返り一礼する。

「では、私は明日のための準備をして参ります。トーラス様のアトリエに関しましてはアルマンドさんから伺って準備が出来次第向かわせていただきます。」


その後、セリーとトーラスはアルマンドが準備してくれた食事をとり、風呂に入り十分に疲れと汚れを落とし、それぞれに用意された寝室へと向かう。

トーラスが寝室に入り、明日の準備をしながら計画に穴がないかを再確認していると、

トントン

トーラスの部屋のドアがノックされる音がする。

「セリーです。」

少女の小さい声が聞こえ、それにトーラスも返事を返す。

「どうぞ。」

「失礼します。トーラス様。本日は助けていただきありがとうございました。久しぶりにお腹いっぱいご飯を食べることができました。先ほどはちゃんとお礼をしそびれましたので夜分に失礼いたしました。」

ドアを閉めその前でトーラスにお辞儀をしながらセリーがトーラスへと感謝の言葉を述べる。

「まだ安心はできないが、とりあえず神聖国よりも早く君を保護することができて良かった。君にはまだ聞きたいことがあったんだ。こっちにきてくれるかい。」

トーラスはセリーをベッドに手招きしながら座らせる。トーラスもその隣に腰をかけセリーに話しかける。

「少し酷なことを聞いてしまうかもしれないが、セリー。君以外には君の街の生き残りはいないのかい。」

セリーは俯きながら答える。

「母は街に残る決断をされていたのでもう生きてはいないと思います。私を逃すために護衛の騎士を数名連れてくれましたが、その方々も逃げる途中で神聖国の兵士を足止めするために私と離れ離れになりました。その方々が無事に逃げられているかどうかはわかりません。他の住民の方々に関しても同様です。」

「そうか。君に護衛の騎士をつけていたということは、君はその街では地位が高かったのかい?」

「私の母が街の長をしていました。」

「そうか。君にも天使の加護の力はあるのかい?」

「私も加護の力を有してはいるそうですが、私自身その実態は知りません。母にはその力を使うなと言われていました。とは言っても、その力の使い方自体がわからないのですが。」

「なるほど。ピナのように強力な力だから使用を禁じたのか?」

トーラスはセリーの話を興味深く聞いてさまざまな思考を巡らしていた。だが、ここである重大なことに気づき、そのことを質問する。

「セリー。さっきの私の話の内容は理解してくれたかい?」

「天使の末裔の国を建国するというお話しですか。」

「ああ。私はその国においては君に女王になってほしいと思っている。」

セリーは驚いたような表情をしトーラスに聞く。

「トーラス様ではないのですか。」

「天使の国なのに私が王となるのはおかしいだろう?」

トーラスの言葉に少し納得したかのようにセリーは軽く頷く。

「私は、争いは嫌いです。できれば戦闘を行わずに平穏な暮らしを送りたいと思っています。ですが、今回の私の街が神聖国に滅ぼされたことと、トーラス様の過去のお話を聞き、甘いことは言っていられないと自覚しました。私が王の器かどうかはわかりませんが、生きている天使の末裔のために私ができることはなんでもいたします。」

少女の言葉には覚悟の色が表れていた。そこには先刻まで神聖国の兵士に追われ怯えていた少女の顔はない。腹は括ったと言わんばかりの表情でトーラスを一心に見つめる。その表情を見たトーラスは安堵し少し表情を崩す。先ほどみんなの前で今後の計画を語ってはいたもののセリーに断られてしまっては全てが水泡に帰す。セリーから強い意志を感じことができ、これからのために一層心を引き締める。

「お任せください、セリー様。私、トーラス・ルベリウスはこの命をかけまして全霊でセリー様を支え続けます。必ず、すべての天使の末裔の人々が安心して暮らせる国を作りましょう。」

トーラスはベッドから降り、セリーの前にかしづく。そして、セリーの手を掴みその手を掲げ深く礼をする。窓からはちょうど月の光が差し込み、セリーとトーラスを映す。セリーはそんなトーラスのことを見て少し頬を赤らめながら、トーラスに答える。

「よろしくお願いします。」

笑顔でトーラスの顔を見ると、トーラスも察したかのように顔をあげ笑顔で返す。

そうして、夜は更けていった。


翌朝、コーラルの街は快晴。澄み切った空には太陽が燦々と輝いている。

トーラスは窓から入り込む日差しで目が覚める。ベッドの上で軽く伸び、起き上がる。顔を洗いに洗面所へ向かうため部屋を出ると、ちょうどセリーの部屋のドアも開きセリーが出てくる。少し寝ぼけ眼で目を擦りながら出てきたセリーにトーラスは声をかける。

「おはよう。よく寝られたかい?」

「トーラス様、おはようございます。久しぶりにぐっすり寝ることができました。」

「様はつけなくてもいいんだよ。これからは君が主人になるんだから。」

「では、トーラス、さん。」

少し照れながらトーラスの名前を呼ぶセリーにトーラスは笑顔を見せ2人で洗面所へ向かう。顔を洗った後、応接室の方へ向かう。部屋に入るとすでにアルマンドは起きており、朝食の準備は完了し椅子に座り朝の新聞を読んでいた。

「おはようございます。アルマンドさん。」

トーラスが挨拶をすると、読んでいた新聞を折りたたみセリーとトーラスの方を向くとアルマンドも挨拶を返す。

「おはようございます。お二人とも疲れは取れましたかな?先ほどキース殿が来て例の書類の作成が終わったのでいつでも準備はできていると書類を置いていきました。それと、関所を通るときはあえて自分のところを使わずに出て欲しいとの伝言を預かっております。」

トーラスはキースの仕事の速さに驚く。

「さすがの仕事の速さですね。キースのところを通らないで欲しい?

そうですね。彼との繋がりを勘ぐられないための策ですか。どこを通っても大丈夫だというくらい書類の偽装に自信があるということですね。お見事というほかありませんね。

では、朝食を食べ支度を整えたら出発するとしましょうか。アルマンドさん、昨日話しておいたセリーの服は用意できていますか?」

「もちろんでございます。白い服でございますね。隣の部屋に用意しております。」

「どうして白い服なのですか?」

トーラスとアルマンドの会話にセリーが割って入る。

「昨日までの服が汚れているということもあるけれど、一番の理由は私の権能が一番効果を発揮するのが白色だからかな。私の三原色は文字通り色の三原色を自由に操りさまざまな色を作り出すことができる。でも、白はもちろん完璧な黒色を作ることはできない。三原色を使う下地が黒い場合少し濁った色になってしまう。昨日セリーの髪にかけた時も濃い赤色になっていたろう?だから三原色を使うときは地が白色の方がやりやすいんだ。」

「そうなのですね。トーラス様の髪の毛は白いからあんなに鮮やかに色が変わるのですね。」

納得したように呟きながらトーラスの顔を見るセリーは、トーラスが何か物言いたげな顔をしていることに気づき、また自分が様付けしてしまっていることに気がつく。

「トーラスさん。」

恥ずかしげに頬を赤くしながら小さい声で訂正する。トーラスもアルマンドもその可愛らしい様子に思わず笑ってしまう。

「さあ、食事をとりましょう。」

アルマンドが2人に着席を促し、3人は朝食をとる。

朝食をとりながら今後の動きについて詳しく話し合う。

「この街を無事に出られたとして、その後の動きはいかがするのですか。ずっとアトリエというわけにもいかないでしょう。」

アルマンドがトーラスへと質問する。

「それについては色々考えていました。昨日の夜セリーの話を聞いたところ、わずかな可能性ではありますがまだ他の天使の末裔がテラの大森林内で生存している可能性が出てきました。ぜひ捜索したい。」

トーラスのその言葉にセリーは目を輝かせる。もしかしたら護衛の騎士の方々が生きているかもしれないという可能性をトーラスが信じてくれているということが嬉しかったのだ。

「ですが、トーラス様。この街に神聖国の兵士たちがいる限りは難しいのではないのでしょうか。セリー様がこの街にいないとわかれば再び森林内を捜索する可能性が高いと思われます。」

アルマンドが冷静な分析をトーラスへと話す。

「それはわかっています。ですので、どうしたものか。」

トーラスは少し悩んでいるように腕を組み考える。

「でも。私は捜索したいです。彼女らが生きているのであれば助けたい。」

セリーが声を大きくしてトーラスへと訴えかける。その瞳は、仲間を助けたいという強い願いをトーラスへと訴えかけていた。

「そうですね。アルマンドさん、彼女はいつごろ帰ってきますか?」

「彼女というと、ナーガのことでございますか。彼女であればそろそろ周辺調査を終え定期連絡のためにこの街に来るはずですな。」

「では、彼女を私たちのアトリエの方へ来るようにさせてください。彼女の協力を仰ぎながらテラの大森林を捜索しましょう。」

初めて出る名前に疑問を抱きセリーが質問する。

「ナーガ、さん?とはどなたなのでしょうか?」

「昨日の話にチラッと出てきていたんだが、私の正体を知っている情報提供者だよ。アルマンドさんの姪にあたる存在で優れた諜報能力と潜伏力を持った人だよ。若干癖のある人だけど信頼のできる人だから。」

トーラスはナーガのことを思い浮かべながら苦笑いする。アルマンドも同様に自分の姪が申し訳ないといった表情で頭をかいている。

「神聖国の動きが落ち着いたら拠点を考えないといけません。神聖国がこの街に駐留するということは考えられませんから、できればこの街を拠点に活動したいのですがね。」

「それは問題ないとは思われますが、活動とは具体的には何をするのでしょうか?」

「そうですね、私が一番優先するべきだと思っていることは戦力を整えることだと思っています。いつ神聖国に襲撃されるかわからない状態では建国するなんてできません。我々にも神聖国に対抗するための戦力が必須でしょう。」

「確かに。ですが戦力といっても何か当てはあるのですか?」

「現状のところ確証のある当てはありません。ですが、あたるなら悪魔の末裔と称されている天魔族の方々かなと思っています。彼らは聖戦後、神聖国に冷遇されているという話を聞きました。そんな彼らなら私たちの話を聞いてくれるのではないかと。ただ、彼らは排他的な思考の方々だという話も聞いているので一筋縄ではいかないでしょうが。」

「その悪魔の末裔の方々というのはどのような方達なのですか?」

セリーが口に含んでいた料理を飲み込みながら、トーラスへと質問する。

「昨日の話の時に出たけれど、悪魔の末裔と呼称されて入るけれども本当に悪魔の末裔というわけではないよ。彼らは魔法に対する高い適性を有している、天魔族と称される人たちだ。今は各属性の種族に分かれて国を作り生活していて、全体では魔導連合国としているはずだ。」

「各属性って?」

「魔法には四大元素と言われる4つの属性がある。火・水・土・風の4つだ。それぞれの属性には相性があったりするんだが、それについてはまた今度詳しく教えるよ。」

セリーは理解したようで軽く頷きトーラスに答える。

「悪魔の末裔ですか。彼らは信用できるのでしょうか。聖戦では彼らの裏切りにより神が勝利したのですよね。そんな彼らを味方に引き込めるのでしょうか。」

アルマンドが苦い顔をしながらトーラスに訴える。聖戦の内容が偽史であったとしてもミハエルの手記にも悪魔の裏切りが記してあったことから、どちらにしろ悪魔による天使への裏切りはあったと解釈できるだろう。そんな歴史を持っている悪魔を信用できるのかどうかについてアルマンドは懐疑的であった。

「まだ、わかりません。聖戦の際、悪魔の裏切りがあったということが事実でも、それが真実だとは限りませんから。」

セリーは何をいっているのかわからないとばかりに首を捻っている。

「悪魔がなぜ裏切ったのか、そこにどのような理由があるのかわからない限り彼らが敵であるのか味方になり得るのかを判断することはできないということだよ。まあ、これからについての話はキースとも相談して決めないといけないですから。」

そういうとトーラスは残り一口となっていた朝食を口に頬張り飲み込む。セリーも食べ終わっているのを確認して、

「ごちそうさまでした。では、準備していよいよ出発するとしましょうか。」

セリーも頷き、席を立ち上がり部屋を出る。


その後、トーラスは昨日セリーを助けた時と同じように赤髪、赤眼の見た目に変装し、セリーの見た目も変化させる。セリーの髪は昨日と同じように薄暗く濃い赤色に変化させた。服については色々なデザインを考えて当てはめてみたが、結局普通の方が目立たないという結論に至り白を基調としたワンピースのデザインで落ち着いた。

「セリー。キースが作成してくれた書類に基づいて、これから街を出るまでは君の名前はロゼだ。そして私の名前は、スカーレットと。いいね。決して本当の名前で呼んではいけないよ。そして、何かあったとしても私の話に合わせるんだ。」

トーラスがセリーに注意事項を確認すると、セリーもそれに答え頷く。少し緊張しているような面持ちをしているが、トーラスの笑顔を見て緊張を少しほぐす。

「では、俺たちは出発します。アルマンドさん。後のことはお任せします。」

「かしこまりました。トーラス様もセリー様もお気をつけくださいませ。ナーガは何事もなければ明日か明後日には着くと思います。」

トーラスはアルマンドに頷き、セリーは感謝の言葉を送り、お辞儀する。

そして、トーラスが手を差し出すとその手をセリーが握り、関所に向かって出発した。


関所に着くと、昨日と同じように多くの人が並んでいた。当然ではあるが街に入る人よりも街から出る人の方が手続きに時間がかかっているようで、なかなかの長さの列を作っていた。トーラスはその中の適当な列の最後尾へと並ぶ。

「早く出発したつもりだったがもうこんなに列ができているとはね。それに、関所には役人だけではなく神聖国の兵士も常駐しているようだ。」

トーラスは関所の周りに昨日よりも多くの神聖国の兵士がいることを確認して呟く。その数はおよそ10人ほど。各関所の窓口に2人ずついて通る人の顔や書類を役人と一緒に確認しているのだろう。昨日街の中でセリーの姿を確認していながら、取り逃してしまったため街の入り口である関所に人員を多く割いているのだろう。

「関所以外にも兵士を配置していると思うがまだこれほどの人数がコーラルに常駐していたんだな。」

「大丈夫でしょうか。」

不安げな顔でセリーがトーラスの顔を見る。

「大丈夫だよ。これくらいは想定内だ。ロゼは堂々としていればいいんだよ。」

トーラスは笑顔でセリーへと返答する。

少し時間が経ち、いよいよトーラスたちの番がくる。

「次。」

関所の役人がトーラスとセリーを呼ぶ。それに応じてトーラスとセリーは歩を進める。

「では、入った時の書類を提示してください。」

関所の役人は書類の提出を求めながら、2人の顔をまじまじと見つめる。隣にいる神聖国の兵士も2人をじっと観察する。

「えーと。スカーレットさんとロゼさんか。この街には商談できたと。」

「はい。雑貨類の取引のために参りました。妹に商売を学ばせるために2人で。」

「商談はうまくいったんですか。」

関所の役人は雑談を交えながら、トーラスの話と書類の齟齬がないかを確認する。世間話をしながら相手のことを伺う非常に仕事ができるタイプだなとトーラスは感心する。しかし、キースが作った書類上のスカーレットの情報は既に頭に叩き込んでいるし、会話からトーラスがボロを出すということは決してない。

「ええ。今回はいい契約を結ぶことができました。これでしばらくの間は食いぶちに困ることはないでしょうね。」

「それはよかったですね。雑貨類ということはナンシーさんのところとの商談だったのですか?」

「いえ、ナンシーさんの扱う日用雑貨ではなく、我々が今回持ってきたのはアクセサリー雑貨ですので、パズさんのところにお世話になりました。」

役人の問いかけに対しても正確に淡々と答える。書類の入街事項にはアクセサリー雑貨の商談ということも記入されているが、本当に商談をしていたのかどうかカマを掛けるためにあえてナンシーという名前を出し、受け答えを確認していたのだろう。

「そうですね。アクセサリーならパズさんのところで間違い無いでしょうね。妹さん、ロゼさんは今回の商談を見ていてどうでしたか?」

役人の質問がセリーにまで飛ぶ。セリーは突然の質問に少し驚きながらも、冷静に答える。

「はい。お兄様のお仕事を近くで見て、とても勉強になりました。」

セリーの冷静な反応に満足したのか役人は2人に笑顔を見せる。

「いいですね。書類の不備もありませんし、お話もしっかりしていらっしゃる。私は通っても大丈夫だと思いますが、あなたもよろしいですね。」

隣にいる神聖国の兵士に対して問いかける。神聖国の兵士は、役人の言葉に軽く頷く。直接何かを2人に問いかけてくるということはないようだ。

「では。商談お疲れ様でした。またこの街にいらしてくださいませ。それでは、道中お気をつけてお帰りください。」

役人はトーラスとセリーに対して軽く頭を下げながら2人を通す。トーラスもセリーも役人に会釈しながら、通行料を置き関所を通る。

トーラスはひとまず最初の難関は抜けたかと安堵し深く息を吐く。セリーも緊張していたのが溶けて軽くため息をつく。冷静に対応できたとはいえ急な質問に内心ドキドキを抑えられなかったのだろう。


「ちょっと待ちな。」

関所を通過し、テラの大森林の方へと歩みを進めようとしていた2人の背後から引き止める声が聞こえる。トーラスが声の方を向くと、神聖国の兵士ではあるが、他の者と違い、白銀の鎧を身につけた女が2人を呼び止めていた。

「なんですか?」

トーラスはその女に向かって話す。その女は2人に近づきながら2人の顔をまじまじと眺める。

「このお嬢ちゃんの背丈が俺らが追っているやつと同じくらいだからな。ちょっとよく確認させてくれよ。」

そう言いながら、その女はより顔をセリーに近づける。そして、セリーの匂いをクンクンと嗅ぎ始める。セリーはドキドキしながら、その女の行動に黙って立ちすくむ。

「お嬢ちゃん、いい匂いだな。」

女が急にそんなことを言い出す。その顔は笑っている。セリーは女の言葉に呆気に取られる。すると、急に鋭い目つきになり、女がセリーに再び顔を近づけて言う。

「でも、変な汗をかいているな。どうした。」

口は笑っていながら、目は真剣な眼差しでセリーの目を見ている。

「いきなりそんなことをされればびっくりするのも当然だと思いますが。」

トーラスが女に向かって言う。

「ま、それもそうか。」

女は豪快に笑いながらセリーから目線を離す。すると、後ろから神聖国の兵士が走って女の元に寄ってくる。

「カイリ様。」

「どうした。」

カイリと呼ばれたその女が、兵士の方を向くと兵士は緊急でお伝えしたいことがございますとカイリへ話し、その後何やらカイリへと耳打ちする。すると、カイリは真剣な表情になる。

「何?そうか。では、今いる全兵士を至急集めろ。」

兵士にそう指示を出すと、カイリは2人の方を振り返り笑顔を見せる

「いやー。時間をとってすまんな。どうやら人違いだったようだ。森は今ちょっと危険だから帰るときは気をつけろよ。」

そう言って、すぐさま関所の方へと戻っていった。

流石のトーラスも予想外の出来事に少し呆気に取られている。が、セリーの方を見てもっと呆然としている姿を見て、声をかける。

「なんとかなったみたいですね。一瞬ひやっとしましたよ。」

「私も心臓が止まるかと思いました。」

セリーがそう言いながら今度は大きなため息をつく。

「では、急いでアトリエに向かいましょう。」

トーラスの言葉に頷くと再びトーラスの手をとり2人は早足でテラの大森林へと歩みを進めた。


数十分後、トーラスとセリーはトーラスが暮らすアトリエへと到着した。

「ここがアトリエです。」

トーラスはセリーを手招きしながら、アトリエへと入る。

「思っていたよりも広いのですね。」

トーラスのアトリエは、普段トーラスが衣食住を送る居住スペースとしてキッチンとダイニング、トーラスの寝室があり、さらに作業部屋や画材などをしまう倉庫と完成した作品を保管する保管庫と部屋の数が多い。また、アルマンドがいざという時のためにと、地下室も用意しており、2、3人で暮らすのも余裕と思われる広さを誇っている。

「アルマンドさんが色々手配してくれていたんですよ。さて、セリー様の部屋を作らなければなりませんね。」

トーラスは、セリーへとそう語り倉庫に使っていた部屋の中に入り掃除を始める。セリーは後ろからついていって、掃除をしているトーラスへと話しかける。

「どうして急に敬語で話しているのですか?」

トーラスは少し微笑みながら答える。

「これから天使の国を建国する上でセリーは女王という立場につくからね。その予行練習をしてみたのさ。王には敬意を示さなければならない。」

「すごくむず痒いです。2人の時はいつも通り話してください。」

恥ずかしがりながらセリーはトーラスへと訴えかける。

「セリーも王となるからには王としての振る舞いも学ばないといけないね。」

トーラスは部屋の整理をすると、セリーに家の中のどこに何があるのかを一通り説明する。


セリーの荷物に整理が一段落つくとトーラスはお茶を淹れ、セリーに休憩しないかと提案する。2人はダイニングにある食卓に着くとトーラスの入れたお茶を飲みながら今後について話す。

「この後はどうするんですか?」

「今日中にキースさんもここにくる手筈になっているから、その後セリーの護衛をしていた天使の末裔の人たちを捜索する方法について話し合おうかな。アルマンドさんの話ではナーガも明日にはここにくると言っていたから明日には行動に移せるんじゃないかな。今日すぐにとできずに申し訳ないが、今日はゆっくり休むことを考えてほしい。」

「わかりました。焦って動くのも危険ですし仕方がないですね。」

セリーは少し残念そうにしながら、トーラスの言葉に納得してお茶を啜る。

「それにしても、一つ引っかかるのが関所で会ったカイリと呼ばれていた神聖国の兵士だな。」

トーラスが思い出したかのように関所でのことを話す。

「確かに、あの時はびっくりしました。正体がバレてしまったのかと思いました。」

「彼女の目は最初完全に私たちを疑っている目だった。だが、兵士が耳打ちすると急に戻ってしまった。何を言われていたんだろうか。」

「彼女は何者なのでしょうか。」

「おそらく、今回の捜索隊兼討伐隊の隊長と言ったところかな。カイリという名前は聞いたことがある気がする。確か、神聖国第七師団の副師団長だったと思う。」

「副師団長。それは強いのでしょうね。」

「そうですね。ですが第七師団はそこまで武力派の部隊ではなかったはず。ここから一番近い神聖国領の国がテリジアという十二芒星神の幸運神カルテンシアが収める土地だから、そのカルテンシアの部隊である第七師団がきているんだろうね。」

「十二芒星神ですか。」

昨日の話を思い出しセリーが暗い表情を見せる。

「当代の幸運神、カルテンシアの権能はそこまで強力ではないはずだ。だからそこまで心配しなくてもいい。どちらかと言うと、その子供の方がとても強力な権能を有しているんだよ。」

「幸運神のご子息ですか?」

「ご子息というかご息女だね。」

「その方について詳しいのですか?」

「詳しいというより、幼なじみというか昔馴染みというか。彼女の権能についてはよく知っているんだ。だからこそ彼女がとても危険であるということは誰よりも知っているんだよ。」

トーラスは厳しい表情を浮かべる。

「そんなに強力なのですか?」

「ああ、下手をすれば神聖国内でも最強かもしれない。」

「どのような権能なのですか。」

「彼女は次期幸運神だからね。その権能は、」

トーラスが権能について話そうとした時、

トントン

アトリエの扉を叩く音が聞こえる。

「キースです。」

扉の向こうからそう名乗る声が聞こえると、トーラスは軽く返事をし扉を開けにいく。

「ようこそ。随分お早い到着ですね。あの関所の混み合いではまだまだ時間がかかると思っていましたよ。」

トーラスがキースをアトリエ内に招き入れながら予想よりも早い到着のキースへと語りかける。

「神聖国の兵士たちの大半がコーラルから出発していきましたからね。トーラス様たちが通った時よりもスムーズに手続きできたのですよ。」

「どうして。」

「私が神聖国側に対してある噂を流しておいたのです。昨日の夜中に、こっそり街を出てテラの大森林へと向かった少女らしき人影を見たものがいると。その噂が先ほど神聖国の兵士に届いたようで、兵士の大部分を連れてテラの大森林へと捜索に出発したのです。」

「なるほど、さっきのカイリが受けていた報告はその噂に関することだったのか。」

「人伝いに徐々に伝播させるのはなかなか時間がかかりましたが、うまくいったようでよかった。あ、ご安心ください。テラの大森林と言っても、逃げた方向はここから南東の離れた方角であるという情報を流しましたので、ここまでくるということはないでしょう。」

キースはお辞儀しながらセリーとトーラスへと報告する。

「さすがキースさんだ。お見事な手腕です。さあ、お疲れでしょう。お茶を淹れているので座って休んでください。」

トーラスがキースを食卓へと誘導し、お茶を淹れキースへ出そうとすると、


ドン


また、扉が叩かれ、今度はトーラスが開ける前に扉が開き、外からフードを被った女が入ってきた。

「トーラス様!大変です!」

その女はアトリエに入るとフードを脱ぎ、トーラスに向かって大声で叫ぶ。

その女は、茶髪のショートで後ろを肩先にかかるか、かからないかほどの長さで切り揃え、前髪が歯ブラシのように直線でその先が少し目にかかるくらいに綺麗に揃えられている。身長は160センチに少し届かないくらいで、華奢に見える体つきであったが、主張する部分は強く主張している、いかにも女性的な印象を覚える人であった。

突然の来訪に皆が扉の方を振り向き、トーラスもキッチンから顔を出す。

「あれ?ナーガ?君がくるのは明日のはずでは?」

トーラスも突然のナーガの登場に驚きの表情を見せる。

「トーラス様。大変なんです!テラの大森林内で天使の末裔と思われる人を発見しました!ですが、なぜかそこに向かって神聖国軍が進行しています!」

慌てた口調でトーラスへと状況を説明する。

「なんだって。」

トーラスたち3人はナーガの急な話に目を見開き驚く。


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