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プロローグ〜運命の出会い〜

「はぁ、はぁ、はぁ、なんでこんなことに・・・」

日が沈み、夜の賑わいが徐々に大きくなってきた街中を、1人の少女が息を切らしながら走る。少女が走っているのは、煉瓦造りの同じような見た目の建物が所狭しと配置されている路地である。走る少女の目には光る物がたまっていた。


「いたぞ!あそこだ!」

少女の後ろでは、白い外套を身にまとった男たちが少女を追いかけながら、声を上げている。

その男たちの声を聞いた少女は、咄嗟に目の前の十字路の曲がり角を右へ曲がり、男達の視線から逃げようと試みる。そして、次の角を左へ、その次の角を右へ・・・。人混みをうまく躱しながら何度も同じような十字路を曲がった。しかし、少女を追う男たちの声は、なおも近くから聞こえているようで、少女の逃走が成功していないことを物語っていた。煉瓦造りの建物が密集するこの区画に逃げ込んだのは、同じような見た目の建物により追っての目を欺くことができると少女が考えたからであるが、その考えは完全に裏目に出ていた。少女は自分自身が今どこにいるのかもわからなくなり、また十字路を何度も曲がったせいで、自分が走ってきた順路もわからず、追手がどの方向から来るのかももうわからなくなってしまっていた。それでも、なんとか追っ手を撒くために人が多くいるところへと向かって走り続ける。

走り続ける少女は、おそらく飲食店と思われる店が軒を連ねる人が多く集まるエリアへと辿り着いた。追手の声が聞こえなくなると、店の路地裏にひっそりと入った。少女は建物に手をつき、思わず座り込んでしまう。自分の体が自分のものではないように重く自分の意思通りに動いてくれない。少女はもう限界であった。ここ数日間、逃げては隠れ見つかっては逃げの繰り返し。体は疲れ果て、精神も疲弊し捕まるのは時間の問題のように思われた。少女は、捕まる可能性が高いことは重々理解していたが、自分が捕まったらどのような運命を辿ることになるか、また、自分を逃すために奮闘してくれたみんなのことを考えると、決して諦めるということは考えられなかった。呼吸を整え、少女は自分の頬を両の手で軽く数度叩くと、「よしっ」と呟き、立ち上がる。そして、この迷路のような区画を抜け出し、この街から脱出するために再び足を動かした。次に止まったら、もう立つことができないほど体が疲れていることを自覚した少女は、最後の力を振り絞る。


もう何度曲がり角を曲がり、走り続けたのだろうか。運よく白い外套着ている男たちに遭遇することなく、走り続けていた少女は、自分が走っている道の直線上に、自分にまだ気がついていない追手の男の存在に気がついた。

自分の存在に男たちが気がつく前に隠れようと、次の曲がり角を左へ曲がった瞬間。

「きゃっ」

少女は、何かにぶつかり転びそうになった。

「おっと、大丈夫かい」

少女がぶつかったのは、身長が少女よりも30センチほどは高いであろう、フードを深く被り黒い外套を見に纏った、左肩には少女の身長ほどはあろうかという長い筒状のものを背負った男であった。男は自らにぶつかった少女が倒れないように優しく右の手を添え、支えている。黒い外套が夜の街に同化しており曲がる瞬間には見えず、ぶつかってしまったのだろう。少女はそう思いながら、追手の男達が白い外套で見えやすいということに感謝と疑問の気持ちを抱きつつ、ぶつかった男に言った。

「すみません。ありがとうございます。」

少女は、礼を言い、立ち去ろうとしたが、スッとその場に尻餅をついてしまった。立ち上がろうと思っても、足が震えて立ち上がることができない。遂に体のほうが先に限界を迎えてしまった。止まったらダメだと思いながらも、こんな形で体がいうことを聞かなくなってしまった。先ほど見えた白い外套を着た男たちは、この辺りを捜索しているのだろう。ここで立ち止まってしまうと、少女の元へと来るのは時間の問題であろう。

「探せ!必ず近くにいるはずだ!」

男の声がそう遠くないところから響いてくる。

少女は、もうダメだと思った。少女の瞳には涙が溜まっていた。それは、体の疲れによるものであろうか、逃してくれたものたちのことを思い出してであろうか、または、諦めの心からであろうか。

「ごめんなさい、みんな。ごめんなさい、お母様。私はみんなの思いを背負っていたのに、、」

少女は俯きながらそう呟く。そんな少女の頬を一筋の涙が流れた。必死に堪えていた涙は、その一筋を合図に、ダムが決壊したかのように流れ続ける。すると、少女の頬を流れる涙をハンカチが拭う。

「お嬢さん、あの男達から逃げているのかい?」

少女が涙で滲む視界を上にあげると、目の前の黒い外套を着た男が、ハンカチで少女の頬を拭きながら問いかけていた。自らのフードを捲り素顔を少女に見せたその男は、太陽のように赤く輝く短髪と燃え盛る炎のような瞳をした男であった。

少女にそう問いかけた男は、少女の答えを聞くこともなく急に、自分が持っていた筒状のものから大きな布のようなものを取り出すと少女が座り込んでいる後ろにその大きな布をカーテンでもかけるように大きく広げ、その上の両端を壁に固定した。少女の後ろには高さが3.4メートルにでもなろうかという暗幕のようなものが張られた。一見すると暗幕の向こう側から少女の姿を隠してくれるだろう。

しかし、

「ここら辺にいるはずだ。細い路地は全て隅々まで捜索しろ」

近くで、追手らしき男の声が聞こえた。

少女は、終わりを覚悟した。いくら大きな布で一時的に身を隠そうと、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ路地に急に黒い布が張られているところなど、いくらなんでも怪しすぎる。ここに隠し物がありますと宣伝しているようなものであり、子供がかくれんぼをするとしても、もう少しマシな隠れ場所を探すだろう。追手の男達がよほど無能でない限り、この布を捲らずに少女を取り逃すことなどないように思われた。赤い髪の男のしたことが理解できず、その男の方を見ると、男は人差し指を口に当て、静かにするようにと少女に微笑んでいた。その顔はなぜか自信に満ち溢れているようだった。赤髪の男は、自分達が見つかることはないと確信しているのだろうか。兵士たちの声が布越しに迫り、この布を捲られたら、いよいよ見つかることを覚悟し、少女は震えながら俯いた。

しかし、なぜなのか。兵士たちの声は布の向こう側、すぐそこから聞こえるのに、この大きな布を捲ってその中を覗こうとするものはいなかった。

しばらくすると、

「くそ!どこへ行った!路地にも見当たらないぞ。」

「必ずこの街にはいるはずだ。出入り口に張り込んで絶対に見つけろ!

必ず捕縛してカイリ様に報告するのだ!」

布のすぐ向こう側から男たちたちのそんな声がした後、その場から離れていく音が聞こえた。

「どうして・・・」

少女は困惑した。少女は間違いなく追手の男たちに見つかるはずだった。そして、捕縛され連れていかれる運命だったはずである。なのに、実際に起きた現実は、目の前の黒い外套を纏った男がただ急に広げただけの布が、追手たちの目を欺き自分を隠し通してくれたということである。少女は起きた現実を理解することができず、再び黒い外套を纏った男の方を見た。男は、震えたまま座り込んでいた少女に手を差し伸べフードを脱ぎながら、その燃えるような瞳を少女へ向け笑顔で言った。

「俺の名前は、トーラス。お嬢さん、君が望むのであれば、俺がこの街から逃してあげよう」


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