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さるがみさま

これは東方projectの二次創作になります。

 ある朝、穣子が部屋でぼんやりしていると目の前が突然明るくなる。狼狽える彼女の目の前に光背と共に現れたそれは、布をまとった人間のような姿をしていたが、首から上は猿のそれだった。頭に烏帽子をかぶったその人間のような猿は、穣子に話しかける。


「そこのおめぇよ」

「……あんた誰よ」

「おれぁ猿だ。名前ぇは、まさるだ」

「名前なんか聞いてないわよ」

「おめぇ、このままだと悪いこと起きっぞ」

「え……?」

「おめぇんとこにある猿石のかけら。戻さねぇと悪いこと起きっぞ」

「は? 猿石のかけらって何よ」

「早く戻すんだぞ……」

「答えなさいよ! おいこら! 待ちなさい! 消えるな!」


 猿が姿を消すと同時に、穣子は目を覚ます。どうやら寝てしまっていたらしい。それにしても変な夢だった。猿が出てきた夢だから、猿夢って奴か。と、彼女がぼんやり思っていると、突然何か大きなものが倒れるような音が響く。部屋を見回すと戸棚が倒れている。

 慌てて穣子が起きると、目の前を何かが横切る。その正体は猿だった。しかし夢に出てきた猿ではなく獣の猿だ。

 猿は飛び跳ねるように穣子の部屋の奥へと入っていく。


「こら! 私の部屋で何してんのよ! この猿ーーー!!」


 穣子は、小さい弾幕を猿に放つが、あっけなくかわされる。


「……ぐぬぬ。ならこれならどーよ!」


 穣子は、大きなサツマイモ型の弾幕を放つ。猿は天井へ飛び上がって避けるが、弾幕が着弾するや否や、その場で爆発が起きる。


「……ふっ、勝ったわね!」


 穣子が一人で勝ち誇っていると、煙の中から固いものが剛速球で飛んできて、穣子の眉間に直撃する。

「おんぎゃー」という情けない声を上げ穣子は撃沈する。飛んできたのは大粒の胡桃だった。


「まったく、朝から騒々しいわね」


 騒ぎを聞きつけた静葉がやってくる。

 床に這いつくばったままの穣子はうめくように告げる。


「ね、姉さん……猿が強いの……」

「猿?」


 静葉が辺りを見回すと、猿が目の前に飛び降りてくる。

 猿と目が合った静葉が「あら、どうも」と、お辞儀をすると、猿も律儀にお辞儀を返す。静葉が思わずふっと笑みを浮かべると、猿も笑うように歯を見せる。


「ちょっと姉さん! 何、戯れてるのよ!」

「なかなかかわいいじゃない。この子」

「そんなこと言ってる場合じゃないのよ! ちょっと聞いてよ!」


 穣子から夢の内容を聞いた静葉は、頷きながら彼女に告げる。


「……きっとそれは猿神様でしょうね」

「猿神様? なんで猿の神なんかが私の夢に……?」

「忠告するためでしょ」

「知らないわよ? 猿石のかけらなんて……」


 と、その時、再び穣子の部屋で猿が暴れ始め、今度はタンスを倒す。

「こらぁー! このエテ公! やめろって言ってるでしょ!」


 穣子は弾幕を放つが、猿が手をかざすと、あろうことか弾幕が穣子の方へ反転する。


「うそでしょー!?」


 自分の弾幕を食らった穣子は、絶叫と共にもんどり打って吹っ飛ぶ。

 雨戸を突き破って外へ消えていく妹を尻目に、静葉は猿の方を見る。

 弾幕を跳ね返すということは当然普通の猿ではない。もしかして猿神様が言っていた悪いこととは、この猿なのだろうか。

 ほどなくして猿が再び動き出す。しかし、先ほどとは違って何かを探しているように見える。


 ――あら、この子、もしかして……。


 更に静葉が様子を見ていると、猿は倒れたタンス中から石のかけらのようなものを取り出し、きーきーと声を上げる。


「やっぱり。あなた猿石のかけらを探してくれていたのね」


 静葉は猿から石のかけらを受け取る。と、丁度その時、ぶつくさ言いながら穣子が戻ってくる。静葉は穣子に告げる。


「穣子。猿石のかけら見つけたわよ。あなたのタンスの奥にあったわ」

「えっマジで?」

「この子は猿石のかけらを探してくれていたのよ」

「へーそうだったんだ? ありがとね」


 と、穣子が手を差し出すと、猿は威嚇するように牙を向ける。


「ちょっ……なんでこいつ私にだけ当たり強いのよ!?」

「いいから早くこの石のかけらを元に戻しに行くわよ」


 二人は猿と共に外へ出る。


「……で、外に出たのはいいけど、猿石なんてどこにあんのよ」

「とりあえず幻想郷のどこかにはあるでしょ」

「そんなの探してたらそれこそきりがないわよ!」


 と、二人が戸惑っていると、猿が手を振り、きーきーと鳴きながら歩き出す。


「もしかしてこの子、場所知ってるんじゃないかしら」


 静葉の言葉に猿は頷く。


「やっぱりそうみたいね。じゃあ案内お願いするわね」


 二人は猿の案内で、冬山の中を歩いて進む。

 歩き出して暫くすると、薄気味悪い雰囲気の森が見えてくる。猿は森に入ろうとせず、その中を指さす。


「この森の中に猿石があるのね! よーし! ちゃちゃっと探して家に戻りましょ!」


 と、穣子が森の中に入った途端、突然目の前を黒い何かが横切る。

 何事かと穣子がひるんだ次の瞬間、辺りから次々と猿が現れて襲いかかってくる。


「でたーーー!?」


 穣子はまるで弾幕のように飛び交う大量の猿をグレイズしつつ、その場から逃げ出そうとするが、あっという間に猿の群れに囲まれてしまう。


「ちょっ! 絶体絶命なんだけど!?」


 その様子を静葉と猿は遠くで見守っている。


「ちょっと二人とも! そんなところにいないで助けてよ!? 猿が出たって言ってるでしょー!」

「ええ、そうみたいね。穣子。そのまま囮になっていなさい。その間に私たちで猿石を探してくるから」

「えっ……!? はっ……!? 嘘でしょ……!? ちょっとーー!?」


 静葉と猿は、慌てふためく穣子を残してその場を立ち去る。

 二人が場を離れ程なくして「猿強えーーーーーーー!!」という穣子の断末魔がこだまする。


 ……まったく、穣子ったら、もうやられちゃったのね。


 静葉はそう思いつつ内心舌打ちする。

 

「急がないとこっちにも猿が来るわ……」


 と、言った矢先に、二人はあっという間に黒猿の群れに取り囲まれてしまう。

 空に浮いて逃げようとしても、恐らく猿の動きの方が速いだろう。どうしたものかと考えていたその時だ。

 二人の前に誰かが飛び降りて来たかと思うと、携えた刀でその猿の群れを一気になぎ倒す。その正体は白狼天狗の犬走椛だった。


「静葉さん! 大丈夫ですか!」

「椛。助かったわ」

「ここは危険ですよ。早く逃げて下さい!」

「この森にある猿石に用事があるのよ」

「この森は妖怪猿の住処です。しかも最近妖力が強くなっていたので命令受けてずっと見張っていたんです。いくら静葉さんでもこれ以上進むのは危険ですよ」

「その原因、もしかしたらわかったかもしれないわ」

「え……?」


 静葉は、きょとんとしている椛に例の石を見せる。


「この石は猿石のかけららしいの。これを元に戻せば猿たちも落ち着くんじゃないかしら」


 椛はその石をしばらく見つめると、静葉に告げる。


「わかりました。警護するので、早くその猿石ってやつに向かいましょう」

「助かるわ」


 二人は猿の案内で森の奥へ進む。途中何度か妖怪猿に出くわしたが、全て椛がやっつけてくれた。

 やがて二人の目の前に苔むした猿の顔とも翁の顔ともとれるような石像が見えてくる。どうやらこれが猿石らしい。


 早速静葉は石の欠けているところを探し、かけらをはめ込む。すると、今まで案内してくれていた猿が突然光り出し、顔はそのままで人間のような身体の姿になる。


「あんがとさん。おかげで元の姿に戻れたわぃ」

「あなたが猿神様だったのね」

「んだ。まさるってんだ。これでやっとこいつらを静められっぞ」


 そう言うと、まさると名乗った猿神は両手を広げて叫ぶ。


「魔よ! 去れ!」


 すると薄暗かった森が明るくなり、妖怪猿の気配も無くなる。椛がぼそりとつぶやくように言う。


「……もしかして魔が去るで、まさるというわけですか」

「んだんだ。いい名だろ?」


 そう言って猿神は笑うように歯を見せる。

 二人もつられて思わず笑みをこぼす。


「……そんじゃありがとよ。この恩は忘れねよ」


 そう言って猿神は頭を下げると、光と共に姿を消す。

 静葉も一礼して、ふっと笑みを浮かべる。


「……どうやら猿石はこの猿神のご神体だったみたいね」

「石が欠けたことで力を失ってしまったんですね」

「それで妖の力が強くなって、猿たちが暴れ出したってとこかしらね」

「これでこの森も元に戻りますかね」

「ええ、きっとね。それじゃ私たちも帰りましょ……」


 と、その時だ。二人は背後からの殺気を感じとる。

 二人が振り返るとそこには、ボサボサの髪にぼろ布をまとった姿で鬼の表情を浮かべた穣子がいた。


「あんたらぁーー!! よくもやってくれたなぁーーーーーーっ!!?」

「出たぁーー!! 山姥だーー!!?」

「あら、大変。逃げるわよ。椛」

「まてぇーーーーーーい!! 呪ってやるぅーーーーー!! 食ってやるぅーーーー!!」


 冬山の中を駆け回る三人の様子を、猿神は温かい眼差しでいつまでも見守っていたという。


「で、穣子、結局なんであなたのタンスに石が入ってたの」

「そんなの私が知りたいわよ!」

「何か記憶無いの」

「うーん……あ、そういえば前、二人で山の様子見に散歩行ったわよね。そんときに姉さん何か拾ってなかった?」

「……そういえば、妖石みたいなの拾った覚えあるわね。ただならぬ気配を感じたから、なくしちゃといけないと思って穣子のタンスにしまったけど」

「オマエノシワザダタノカ……」

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