父親クエスト
洞窟の最深部へと進む。
「この先に宝物だね。大丈夫、お父さんは私が守るから」
巨大な石扉の前でティラが気丈に笑う。父思いの優しい娘だ。
異世界に召喚された俺は全てを憎んでいた。特殊スキルがお粗末すぎると追放されたからだ。
辺境で暮らして10年、捨てられている小さなティラに出会った時、俺はここに来た理由を悟った。
たった3年、こんなに逞しく育ってくれたことに満足していた。
進むと広い鍾乳洞に出た。奥には巨大な影――万物の恐怖の対象として頂点に立つ神にも等しい存在――竜が居た。
「待っていた。人間と、そして」竜の金色の目が光る。
「我が娘よ」
「おとーさん! なんか変なこと言ってる!」
慌てふためいてふり返るティラ。反動で迫る尻尾を間一髪で避ける俺。
地鳴りと共に俺の後ろに隠れるティラだが、人間の俺に収まりきる訳がない。ティナの顔の半分も隠せればいい方だ。さっきの威勢のよさはどうした。
「だって――あれが宝物、なの?」
声も体も震えている。油断してると鼻息で吹き飛びそうだ。
しかし、何も間違っていない。鱗、尻尾、細い手に太い後脚、そして血の繋がりを感じずにはおれない金色の目を持つお前は竜の娘だ。
といっても、これまで自分の姿を見てこなかったティラが納得するとは思えない。俺は竜に話を向けた。
「恐ろしき竜よ。娘を拾わせたのは、進むべき道は自分で決めさせたかったから、だろう?」
竜は天を見上げて目を細める。彼にはその先に広がる青空が見えているのかもしれない。
「我が竜族は人の繁栄と引き換えに滅びるが定め。我は飛ぶ翼を持たずに生まれ、我が娘は翼も魔法も持たなかった。だからこそ、だ」
そして向き直ると、
「混乱させてすまぬ、人の娘よ。最後にお前を見たいと頼んだのだ」
竜は頭を垂れたが、ティラはまだ俺の後ろから離れない。それが少し寂しい。いつか理解できるようになったら今日の事は必ず話さなければならない。
「感謝する」ふと、そんな言葉が聞こえた気がした。
※
『お父さんを苦しめた人間は許さないから!』
そう息巻くティラを宥めながら俺たちは旅をしていた。
もうこの世界に恨みはない。むしろティラとこの世界を見て回るのが楽しい。
ティラはまだ自分を分かっていないが今はそれでいい。いつか理解した時、絶望と共に選択しなければならないのだから。
俺のスキル『1人だけ人間にする』は彼女が旅の果てを見つけてから伝えようと思っている。
ここまでお読み頂き本当にありがとうございます。
ティラは竜と人間のどちらを選択するのか? ふたりのお父さんはきっとハラハラだと思います。
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