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CHAPTER 02 防衛隊




「これがハデスの……パラディンの力……?」


 地上に降りたハデスを無我夢中で乗り回したリアムは今になって、その事実に気が付いた。

 自分と、敵とが戦って出来た街の傷跡を高精度のヘッドカメラで見せつけられる。モニターにでかでかと映し出されたそれに、リアムは打ちのめされた。


 育った街が火の手と煙に覆われるその光景になった事に、その片棒を担いだことに悔しさや気持ち悪さの混じった感情が自分の身体の中を暴れ回る。


 レバーから手を離すことも出来なかった。脱力するほどの考えが回っていない証拠だった。そんな彼を横で見ていたアランは肩にそっと手を置く。


「っ!」


 研ぎ澄まされた感覚は収まっておらず触れられた感触に敏感に反応し、ばっと振り向いてアランの顔を恐怖するように、そして恨むように見た。


「こういうのを生で見るのは初めてみたいだな」


 その表情を確認したアランはとことん悪役になったつもりでリアムを突き放す文言を叩きつける。


「お前が知らないだけで、世界にはこれに似た光景が幾つもある。今までの歴史にだってごまんとあった。パラディンを知っててパラディンに乗ることになるかもしれない学校にいるんだろう。なんでそんな顔する?」


「貴方が……俺を……」


「お前だって決心してやったんだろ。俺は操縦はからっきしで、すぐにやられてただろうな。だからお友達を護りたいんだったらお前がこれに乗るしか無かった。たまたま会ったお前がだ」


 偶然の産物によってリアムは死を免れた。しかし、コルトやエレナが生き延びた保証はまだ何処にもない。もしかしたら、この惨状に巻き込まれた可能性もある。


 二人の生存率を上げるために、自分自身が死なない為に。この二つを同時に完遂できる可能性があったのはこれだけだった。


「それにな、なにもお前だけがこれをやったんじゃない。元々ここは襲われる予定だった。お前が何もしなくたってこうなったんだよ。そう考えればお前はヒーローかもな」


「ヒーロー?」


「だと思わないか? 防衛隊の奴らが防ぎきれなかった襲撃をたった一機で阻止するなんて他の誰にも━━━━━━━━」



 その言葉を止めることが目的かのように、ハデスのセンサーはコックピットに鳴り響いた。


「なんだ?」


 左側モニターに表示されている、スキャンされた周辺地形の俯瞰地図に、センサーで見つかった何かを照らし合わせたマップをリアムは確認する。


「動いてる……敵パラディン!?」


 アランは臨戦態勢に入ろうとするリアムを落ち着かせるように、レバーを動かそうとするリアムの手に自らの左手を覆いかぶせた。


「待て、ここは動かない方がいい」



「どうして!」





「忘れんな、ここはお前の故郷だろ」




 そう言った数秒後、敵パラディン━━━━━━サンダルフォン防衛隊の隊長機と思しきパラディンから降伏勧告の放送が行われた。




「未確認のパラディンに告ぐ。お前には停止命令が出ている。ここはイリス・グループの領域内だ。直ちに投降しろ。繰り返し未確認のパラディンに告げる。君には…………」









━━━━━━━━━━━━━━━








「すいませんね。急いで来たんですが、間に合わなかったみたいで」


 頭をぽりぽりと掻きながらまるで謝罪する意志がないかのような薄っぺらに聞こえる謝り方をする男に、隊服を着た女は気にも留めていない様子だった。


「大丈夫。それで、彼らは?」


「そろそろヒュージ殿が尋問するみたいですが」


「私達も行きましょう」


「えぇ? 別に興味ないぜ?」


 よほど関心のない事なのか、砕けた口調で返事をする男を引っ張るように連れていく。


「あのパラディンの処理も必要なことよ」








━━━━━━━━━━━━━━━










「お疲れ様」


「お疲れ様です、レーナ隊長、リディオ隊長」


 サンダルフォン防衛隊のオペレーションを担う第一部隊隊長のレーナ・スピネージと、防衛隊のエースとも呼ばれる第四部隊隊長、リディオ・ロンゴは小声で部下に挨拶を済ませると、ミラーガラス越しに尋問を見届ける。



「君はトロスの学生だろ。なんでこんな事をした?」


「なんでって……それは……俺がやらないといけないって思ったので……」


「なんで君がやる必要がある? あの男に指示されたと言ったのは君だろう?」


「いや、でも……俺は、結局は自分で動かしたんです……あの、俺の友達はどうなったか分かりますか……?」


「困ったな……」



 ごもっともな正義と倫理を持った鏡越しの彼に、リディオは眩しささえ感じた。



「年端も行かない少年が使命感に駆られてパラディン乗って、傭兵をバッタバッタと薙ぎ倒して……これじゃなんの防衛隊だよって話だな」


 自虐の混じった発言はすぐにレーナにかき消される。


「もう一人の……指示した男の方は?」


 部下が頭を抱えるようにしてその問いに答える。


「そ、それがですね……」








「全部俺がやった」


「あのパラディンを見つけたのも動かしたのもか?」


「そうだ」


「あの少年と何故一緒に行動していた?」


「保護兼人質だ」


「人質?」


「アンタらとの交渉に使えるかもと思ってた」



 この様子を見れば誰でもすぐに分かる。その所感をリディオが素直に口に出した。


「下手な嘘だな」


「……そうね」


 リアムとの証言の食い違いもある。会話を重ねてリアムがこういった場で嘘をつけるような人間では無いこともなんとなく分かっている。


 それ故に、アランの証言が自分の身の安全のためでは無いこともわかる。



「アラン・スティング。君はズイールの技術者だと聞いたが何故サンダルフォンに来た?」


「おおよそわかってる癖に聞くんだな」


「そういう仕事なのでな」



 尋問しているのは第二部隊隊長、ヒュージ・クランク。あらゆる調査を担当する第二部隊の中でも相当な切れ者であり、リディオやレーナ、彼らの上官も彼の意見には必ず耳を傾ける。


「普段はそこまでなのに、こういう時は口達者ですなあヒュージ殿は」


「仕事熱心と言いなさいよ」


 リディオの場を和ませようと放った一言はレーナに封じられて仕事場としての緊張感を高める。鏡の向こう側の素性も知らぬ男が少し迷った顔を見せた末に話すことを決断する。



「……ハデスのデータに用があって来た」


「データ?」


「知ってるだろ、アンタらなら」


「……何をだ?」


「…………フッ、その顔。俺が何言ってるのか分からない、みたいな顔だ」



 その言葉でその場の空気は一気にアランの手の内となるようだった。

 リディオがその様子を憂いながらもレーナに気にかかっていたことを問いかけた。


「ハデスってのはあのパラディンの事だろ。アレは一体……」


「正直に言えば、私達も分からない。でも彼は……」


 アラン・スティングは確実に何かを知っている。

 途端、彼は自分の思うように進ませることが出来るはずの交渉の場に成り果てたその雰囲気をあえて自分から手放すような発言をする。



「いいさ、教える。アレは、カルノ・ケイノが作った最後のパラディンって話だ」


「カルノ・ケイノ!? パラディンを生み出したあの……」



 かつて世界にその名を轟かした企業、カルノ・ケイノ。彼らが創り、量産したパラディンによって『災禍』は激化し、そして沈黙した。

 今となっては影も形もない企業の名が出て、ズイール出身のアランがカルノ・ケイノのパラディンを追っているとなれば必然的に理由はいくつか思いつく。



「で、ここからが本題なんだが」



 保持している情報量はアランの方が上。ならばどれほどまで譲歩できるかはヒュージの腕にかかっていた。何を言い出すかは分からない彼の表情にレーナ達もまた翻弄されかけていた。



「ん……」


「あのガキと、俺を見逃せ。それかもしくは、ここで雇ってくれ」



「…………なんだと?」







━━━━━━━━━━━━━━━








「アランさん!」


「よう。お待たせ、リアム」


 長いようで短かった取調室での待機を終わらせるように、扉を開けてきたのはアランだった。彼に続くように防衛隊の人間も後ろからぞろぞろとやってくる。


「ど、どうなるんですか?」


 アランのすぐ後ろにいたヒュージが防衛隊の中で唯一の面識ある人間となっているリアムは、彼に自らとアランの処遇を聞いた。


「君が未確認のパラディンに乗ったことは間違いなく、またそれを使って市街内部に侵入、戦闘を行ったのも事実とした」


「…………」


 そこにはありのままの事実だけを述べるヒュージが居た。その口調は冷淡で人心が無いようにも思えて、リアムは掴んだ手を離されたような気持ちにさえなった。



「だが、敵パラディンを撃破し防衛に貢献したことも、また事実だ」


「……え?」


「あの機体……ハデスはイリス・グループの重要機密に指定した。よって君達二人は重要機密を知っている民間人と密航者となる。そこで……」


 それはアランとヒュージら防衛隊が結んだ小さな協定でもある。


「君達をサンダルフォン防衛隊として採用する、というのが我々の提案だ」


「防衛隊に……俺が?」



 ヒュージの背後から出てきたリディオが彼の肩を揉んで、文字通りほぐす。


「もう少し真心込めた説明は出来んのですか、ヒュージ殿」


「……これは、業務の報告ですので」


 少し乱れた眼鏡をかけ直しヒュージはリアムに細部の説明を行う。今度の言葉にはリディオに注意されたこともあってかほんの少し人間味を感じた。


「はっきり言ってしまえばリアム君、今の君をサンダルフォンの一般市民として扱うのは難しい。ハデスの中を見てしまい戦闘を行って敵の情報も知ってしまった以上、おいそれと返すことはできない」


「それは……理解できます」


「なので、防衛隊として採用すれば機密保持の誓約の他、防衛隊として君の立場を保証できる。君の経歴には問題もない。どこの配属にするかは君次第だが……どうだ?」



 脳の中がこんがらがっている。今日は特別濃厚な一日だ。リアムはそう考えながらも振り絞るように頭を回す。


 するとヒュージから注釈のようにとある報告がなされる。


「今の君に言うべきかは分からないが……君の友達……コルト・ピアース君とエレナ・コペルニクスさん。無事、確認が取れたよ」


「えっ、ホントですか!? よかった……っ!」


 その心から安堵した表情は彼がまだ未熟な若者であることを裏づけるものであり、周囲の大人は彼に重大な決断を迫っていることを少し悔いてしまった。


 しかし、そんな大人の考える事とは反対に、リアムは固まった意志の下に決断する。



「その……出来ることがあるかは分かりませんが……俺でよければよろしくお願いします」


「申し訳無いリアム君。厳しい選択を押し付けて……いや、これは脅迫だな」


「いえ、そちらの事はよく分かりませんけど、必要な事なんでしょう。仕方ないですよ」



 立場上、相手側に立たざるを得ないヒュージを責めることなく、リアム・リングドレーンはパラディン防衛隊の入隊を決断する。



「それで、アランさんは?」


「俺も防衛隊預かりだ。監視付きだがな」


「監視って……貴方、何者なんです?」


「まあ、訳ありでな……リアム」


「なんですか?」



 あの時は咄嗟に強い言葉ばかりを出し発破をかけるだけかけて、肝心な事をリアムに言い忘れていたと、後から思い出したアランは互いにとって大事な言葉をかけた。



「ありがとうな」





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