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2:転生少女


「さぁ、紙芝居『呪われた私を見つけて』は今日はここまでだ!明日はいよいよ魔王メリアの元へ行った大賢者ルーク・ハドワードの話しだぞ」


公園には紙芝居を読む一人の男性と、興奮抑えきれないといった様子で話し始める三人の少女がいた。


「わ~とうとうルークが魔王の所に行くんだねぇ!何回聞いても、ここからの二人の出会いが楽しみすぎるよぉ!」


「ケイティはルークとメリア推しだもんね。私は…幼馴染みのシェリーの言葉を聞かずに他の女の元へ行くこの場面あまり好きじゃないわ。だってここから先はルークが魔王に惹かれていってシェリーの勝ち目がなくなるのよ?悲しくなるじゃない!」


「ふふふ、でもポエミーは大丈夫よ。幼馴染みの彼はポエミーのこと好きだってちゃんと言ってたじゃない」


「へっ、イネス!?いや!私は別に自分とシェリーを重ねてるとかじゃなくてねっ…!?」


「うんうん、ポエミー心配いらないよぉ?でもよく考えてみるとさぁ、ルークはシェリーのことが好きだったのかなぁ?」


「もうケイティまで…!ゴホンッ…私は好きだったと思ってるわ。だってルークが『待っててほしい』って言ってるじゃない。

シェリーの元へ戻ってくると約束もしてたし、期待させること言うなんて恋人同士じゃなきゃ許されないでしょ!?」


「実際、そこの解釈が難しいとこよね。ルークは異性としてシェリーを見てたのか、それともただお互いを高め合う友達として好きだったのかは分からないじゃない?

この後の場面に、ルークと魔王の出会いは運命の恋の訪れだったって描写もあるぐらいだし、恋愛面でシェリーを意識してはなかったと思うのよ」


「わぁ。イネスの考察はやっぱり面白いねぇ!」


「でもでもっ、それならシェリーが報われないわ。

好きな人のために冒険者になって魔王を倒したというのに、想われ人のルークはその魔王が好きだなんて…」


「ところで君達、随分とこんな悪役のシェリーの気持ちまで考えて…」


「「「おじさんは黙ってて!!」」」


「ひぃっ…」


キッ!と目を光らせた少女達の威圧に驚き、紙芝居師の男性は年甲斐もなくシュンと縮こまった。

先ほどの少女三人は目の前で肩を落とす男性を全く気にする気配もなく、登場人物の今後について議論を重ねている。




そう、ここはそんな日常が当たり前な平和な世界。


物語に出てきたような冒険者や治癒者は、その時代、大陸で特に人気のある職業として名を馳せていた。しかし一方で、荒ぶる輩が各地で急増したことで治安が乱れ統制が取れなくなった国家は、【刀狩り】と呼ばれる冒険者たちの少数精鋭事業を行ったという。その後何百年も経った今では、冒険者は国家騎士に、治癒者は魔法医師として名を馳せている。


ではなぜ、彼らの職業がこんなにも廃れてしまったのか。その根源は【刀狩り】ではなく、冒険者の敵である魔王が消えたからだった。

より正確に言うとその昔、本当に存在したとされる魔王メリアに立ち向かった勇敢な大賢者ルークが葬ったからだと言われている。そしてその二人が登場する、今一番世間を賑わせている物語こそが『呪われた私を見つけて』なのだ。


この物語は全てが全て、作者の妄想を詰合せた話ではない。この国の文献として記録されている大賢者や魔王、そして領地の成り立ちを題材とし、そこに恋愛という新しいスパイスを加えたことで、新解釈物語として広まったのが始まりだった。


物語の主人公であるルークは、魔王メリアの生贄として捧げられたことがきっかけで出会い、彼女の心の美しさに触れ次第に守りたい存在として意識するようになる。一方の魔王メリアも、人間と仲良くなりたいのに裏切られた過去が傷となり怯えていたが、ひたむきに情熱的に愛情を注いでくるルークに少しずつ心を開いていく。


そうして徐々に心を通わせていく場面や、魔王メリアの恋敵(ライバル)の出現、種族の違いでお互いがすれ違う場面など、毎回ハラハラドキドキさせられる展開に読者の心は掴まれていった。そうして二人のくすぐったいような甘く儚い関係性に感情移入する人が大量に続出し、今や歴史好きの人達に限らず、歴代の大恋愛物語として各国にファンを作り続けていた。


そうして今日も、そんな物語への考察が止まらない熱烈ファンである少女達の横を通り過ぎ、私は紙芝居師の男性に話しかけた。




「お父さん、大丈夫?」


「…アナ、来てたのかい」


「うん、お父さんが紙芝居を話し終わるぐらいには」


「ははは。じゃあ、格好悪い所を見られちゃったんだね…」


そうだ。何を隠そう、先程まで幼い少女達に睨みつけられていた紙芝居師こそ、私のお父さんなのだ。


「えー、ゴホン!僕は次の仕事に行くけど、アナはどうする?この少女達と一緒にお話でもしていくかい?それともどこか遊びにいく途中なのかな?」


「ううん、お母さんがいつまでも家に引きこもってないで外に出なさいって言うから、とりあえず散歩してたの。

そしたらお父さんがいたから話しかけてみたのよ。」


「そうかいそうかい。声をかけてくれてありがとうね、アナ。

それなら帰りには気をつけるんだよ。もし知らない人に話しかけられたら前にも言ったように、何も聞こえなかった振りをしながら『あ、パパいたぁ』って言って、そっと人混みに紛れ込むんだ。それから…」


「全速力でパン屋のナタおばさんがいるお店に入って、事情を説明、必要があれば警備団を呼ぶ。その後は様子を見てから家に帰る、でしょ?

分かってるよ、心配してくれてありがとうお父さん。」


六歳の子供に伝えるには、少しばかり覚えるのが難しい逃亡策だなぁ…と思いながら、私はお父さんを心配させたくなくて早口に笑顔で応える。

お父さんは私の言葉に安心したのか、あまり遅くならないように帰ってくるんだよ、と一言を残し次の仕事に向かっていった。


父親の背中を見送りながら、アナは最近になって見た紙芝居を思い出していた。それは転生少女というジャンルで、逆境に追い込まれた幼気な少女達が知恵と勇気を絞り出し、最後には素敵な殿方との終焉を迎える、という私も好きな内容だった。


だがその中でアナが引っ掛かりを感じていたのは、その少女達の父親だった。それは皆、まるで何かの呪いに掛かっているかのように自分の子供を崇め奉え甘やかしすぎる人もいれば、侮辱したり人権否定をしたりと、とりあえず極端な人が多かったのだ。


もちろんそれは物語上の"設定"だから事実ではないが、自分の父を改めて見返してみると、善悪の分別はもちろん、娘の私を大切に、時には厳しく育ててくれたのだと感じられて嬉しかったのを覚えている。

なんだったら他の大人よりも健全な考え方を持っていて信頼ができるなぁなんて、ちょっと客観的にも考えてしまう。


でも齢六歳にして物語の父親役と自分の父親の違いを比べたり客観的に物事を考えてしまうのには、それはそれはどうしようにもない理由があるのだ。


え、理由は何かって?それは私も転生少女達のような、前世の記憶を持ったちょっぴりおマセな子供だからなのです。


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