第1話 黄金の秘密を見る男
「13%……24%……」
廊下を適当に歩きながら、小さな声で呟く。
ここはアールヴァイス――所謂『悪の秘密結社』の本部。
そして俺は、その秘密結社に対し、我が母国が送り込んだスパイだ。
コイツらは、まだそれ程大きな事件は起こしてないんだが、とにかく謎が多いってことで、国も警戒してる。
で、俺みたいなスパイが何人か送り込まれたんだが……残念ながら、俺以外は潜り込む前に正体がバレて、全員やられちまった。
「31%……4%……」
俺は人相の悪さと、スラム出身で表の戸籍がなかったことが上手く働いたらしい。
何とか警備員として、本部に入り込むことができたんだ。
『悪の秘密結社に警備員?』とか思ったろ?
別に悪の組織だからって、どいつもこいつもヤクザみたいな奴らってわけじゃない。
むしろ本部には、研究スタッフだの、医療スタッフだの、料理や洗濯とかのお手伝いさんだの、非戦闘員のスタッフが多い。
彼らの安全を守り、日々の業務を円滑に進められるようにするのが、この組織の警備員の仕事だ。
戦闘員のトラブル? それは無理、ノータッチ。
そうゆう奴らがやらかしたら、幹部の皆様に潰してもらうしかない。
「19%……26%」
ん? さっきから何を数えてるのかって?
勿論スパイの仕事の一環……というのは嘘。特殊能力を使った暇つぶしさ。
ここに潜入して暫く経ってから、突如目覚めた特殊能力。
『他人の尿意が可視化できる能力』だ。
……くだらねぇと思った奴。お前とは気が合いそうだ。
実際くだらねぇ。
別に相手をどうこうできる能力でもないし、こうゆう暇つぶしの人間観察のお供くらいにしか、使い道のない能力さ。
「31%……27%……お、あれは……」
前から歩いてくる、水色の髪を内巻きボブにした女性。
この組織の幹部の1人、『氷華』のイングリッド様だ。
氷のように無表情な美人さんなのだが、その出立ちは顔に似合わず刺激的。
両手脚の水色の甲冑はいいとして、上半身は胸元までしか装甲がなく、豊かなお山が溢れそうになっている。
正面からだと見えないが、背中の方は、夜会用のドレスみたいにぱっくりと開いてる。
そしてスカートは、女学生が穿くような白いプリーツスカートなんだが、股下1cmあるか、っていう、とんでもないミニ丈。
今も歩くたびに、チラチラと中の縞パンが見えている。
別に、イングリッド様は痴女じゃない。
むしろ悪の秘密結社にいるのが不思議なくらい、真面目な常識人だ。
人当たりは冷たいが、実は俺達下っ端のこともよく考えてくれている。
そんなお人が、こんなエロ装備で彷徨いているのは、これが先史文明時代の強力な戦闘服だからだ。
真面目なイングリッド様は、有事の際にすぐ動けるようにと、就業時間中は常にこれを身に纏っているらしい。
俺としては、目の保養になるので非常にありがたいところだ。
「お疲れ様です!」
「ああ、見回りご苦労」
挨拶をすれば、労いの言葉をかけてくれるイングリッド様。
因みに他の幹部の奴らは、俺みたいな下っ端は無視だ。
ほんと、なんでこんな人が悪の組織にいるのやら……。
「あ、そうだ……」
俺はすれ違ったイングリッド様に目を向ける。
まぁ、ほら……『人間観察』って奴だよ。
「おっ……68%」
結構溜まってるな。
イングリッド様は真面目さが災いして、本来他の幹部がやるべき仕事まで手伝っていたりするのだ。
正直、他がそうゆうのダメすぎて、イングリッド様がいないと組織が回らない状態になってる。
そのせいで常に多忙で、トイレに行く暇もないんだろう。
俺にそっちの趣味はなかったのだが、イングリッド様ほどの美人が、無表情の奥でこれだけ溜め込んでいると思うと、中々に興奮するもんだ。
朝からいいものを拝ませてもらった。
俺は目と心の保養をさせてくれたイングリッド様に、本人に気付かれぬよう、もう一度小さく一礼した。