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片思い同士の初恋  作者: 釧路太郎
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第十九話

 学校祭がもうすぐ始まるので衣装制作にも力が入ってくるのだが、それとは別の問題も徐々にその姿を現していた。愛莉ちゃんはすでに進学が決まっているので問題はないのだが、私と信寛君は大学へ進むのか専門学校へ進むのか就職するのかがまだ決めかねている。高校の時のように三人で仲良く勉強をして同じ大学に入ろう。なんて考えはとうの昔に捨ててある。なぜなら、私と信寛君では愛莉ちゃんの受験する大学の試験すら受けることは出来ないのだ。受けることは出来るのかもしれないが、今のままでは私達の合計点が受験生の平均点よりも下回る可能性の方が高いのだ。高校受験の時は勉強も頑張れてはいたのだけれど、今ではその努力の貯金も使い果たし、試験を受けるたびに学年順位が下がっているという悲しい状況に追い込まれているのだ。これは自分たちのせいではあるのだけれど、今更勉強しておけば良かったと思ってももう遅いというのは知っている。せめて、このまま三年間赤点は取らずに過ごすことが出来れば満足出来るのだとは思う。


「愛莉ちゃんってさ、なんで私達と違って勉強が出来るの?」

「どうしてって、先生の言ってることを理解しているかどうかの違いじゃないかな」

「それはあるかも。私は先生が何を言っているのかわからない時もあるし、教科書を見ても意味を理解するまでに時間がかかってる。その辺が私と愛莉ちゃんの違いだったりするのかな?」

「どうだろうね。私と泉の違いなんて身長と胸の大きさくらいだと思うけどさ、もしかしたら、胸の大きさと頭脳は比例するのかもしれないよ」

「いや、逆でしょ。とは言いにくいんだよな。愛莉ちゃんの方が胸も大きいのは事実だし、勉強が出来るっていうのも事実だからね。それにさ、信寛君も私とそんなに成績が変わらないからあんまり無理に勉強しない方が良かったりするのかもね」

「あ、残念なお知らせになっちゃうかもしれなけど、奥谷って美春ちゃんと一緒に高卒認定試験の勉強をしてるみたいだよ。奥谷は高校生で卒業も出来るんだからする必要は無いんだけど、一緒の大学に行くために勉強してるんじゃないかって私は思ってるんだけど、それだったら泉にも言ってるはずだしどうなんだろうね?」

「私はそんな話を聞いてないんだけど、それって本当の事なのかな?」

「大学を受験するかは私の想像だけど、奥谷が美春ちゃんと一緒に勉強しているってのは事実だよ。この前の打ち合わせで、妹と高卒認定試験の勉強をするから遅くまで残れない時もあるって言ってたからね。ま、奥谷は授業にも若干ついてこれていないところもあるみたいだから勉強するに越したことは無いけどさ、三人の中で一人だけ赤点をとるのとかやめてくれよ。そういうので目立つのって良くないからな」

「そこで一つ提案があるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」

「変な事じゃなかったら聞くけど、どんな提案なのさ」

「それはね、私も愛莉ちゃんの勉強会に加えてもらえないかな?」

「私は良いけどさ、勉強会って言っても梓と二人でやってるだけだからな。それでもいいなら私は気にしないけど、泉はそれでも大丈夫か?」

「もちろん。私は梓ちゃんとも友達だし、きっと勉強もはかどるはずだよ」


 そう思っていた時も確かにあったのだけれど、愛莉ちゃんと梓ちゃんは本当に勉強をしているのだろうかと思えるような位置で問題を解いていた。


「個々の問題がよくわからないんだけど、どうしてこれがこういう意味になるの?」

「それはね、ここの問題文を覚えて注目していれば意味が見えてくると思うよ。一見すると関係無いように見えるものでも、よくよく注目してみるとそれは物凄く関連性の高い者だったりするからね。それに、この問題が解けるようにあったらあとは応用ばかりだから楽になると思うよ」

「そうなんだ。ウチは問題文を見ただけで思考が停止してたみたいなんだけど、これからはちゃんと問題も読むことにするよ。それでもわからないときはあるかもしれないけど、ウチはウチなりに頑張ってみることにするよ」

「うん、そのまま問題が解けるようになったら後半も楽に解けるようになると思うからね。梓ならちゃんと理解しているみたいだしそのまま問題を解いていれば大丈夫だと思うよ」

「そうならいいんだけどさ、ウチはどうも新しい事を覚えたら古い事は忘れちゃうみたいでさ、愛莉みたいに上手いこと行かないんだよな」

「それはおいおい考えることとして、泉はもっと問題に集中した方がいいと思うよ」

「そうだよ。泉が一人だけ赤点とるとか勘弁してね。ウチは皆と一緒に笑顔で卒業したいからさ」

「いや、赤点でも補習を受ければ卒業は出来るでしょ。問題は進路がまだ決まってないことだと思うんだよね」

「そうは言ってもさ、さすがに私だって赤点は取りたくないよ。でも、最近は授業にもちゃんと集中できてないから難しいかも。難しいと言えばさ、なんでそんな体勢で勉強が出来るの?」


 私は愛莉ちゃんと梓ちゃんに思っていたことを素直に聞いてみた。本当だったらもっと早く聞くべきだったんだろうとは思うのだけれど、なかなかタイミングが無くてこんな変な時に聞いてしまったのだが、何も聞かないで過ごしているよりはいいだろう。


「なんでって言われてもさ、私達はもうずっとこの体勢で勉強しているからね。これが一番楽になったって事なのかな」

「どうしてこうなったのかは覚えていないけど、これが一番楽といえば楽かもね」


 愛莉ちゃんと梓ちゃんは同じソファに座っているのだけれど、対面の席に座っている私を見ることは無く、お互いの方を向いてお互いの足が絡み合っている。それだけでも勉強はしずらいと思うのだけれど、ペンを持っていないあいている手はお互いの足を優しく触っているのだ。

 それを見て少しだけドキドキして目を逸らしてしまったのだけれど、愛莉ちゃんはそんな私の姿を見逃すはずはなく、余計な詮索までしてきたのだった。


「もしかして、泉って私達みたいなことを奥谷としてみたかった?」

「いや、そんな過激なのは心臓が持たないかも。もう少しマイルドな感じだったら良かったんだけど、私には刺激が強すぎるかもしれないよ」

「刺激が強いって、服の一枚も脱いでないのにそれは考えすぎだと思うな。それにさ、あんなのって刺激が強いってわけでもないと思うけどね」

「そうは言うけどさ、私は他の人の肌に触れたことが無いからそう思ってしまうってだけなんだよね」

「え、泉って奥谷と手を繋いだこともないの?」

「うん、多分小さい時から合わせても一回も信寛君に触れたことってないかも。手を繋いでみたいなって思うことはあってもさ、どのタイミングで手を繋げばいいのか全然わからないんだよね」

「あんまり深く考えないで自分が繋ぎたいって思った時に繋いでみたらいいんじゃないかな?」

「そうだよ。ウチラだって手を繋ぐときは特に何か言うわけじゃないし、自然に手を繋いでいると思うよ」

「その自然ってのがよくわからないんだよね」


 私は信寛君とやりたいことやってみたいことはたくさんあるのだけれど、そのどれもが自分からきっかけを作ることが出来ない。もちろん、信寛君を誘導して私のして欲しい事をさせるなんてことも出来ないんだから、私は何も出来ないまま時間だけが過ぎていってしまうんだろうな。

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