遭難ツリーハウス
これは、南の島に合宿にやってきた、5人の若者たちの話。
真夏のある日。
5人の若者たちが南の島に足を踏み入れた。
眼鏡の男子学生、軽薄そうな男子学生、体格が良い男子学生、
短髪の女子学生、長い髪の女子学生。
その5人の若者たちは同じ学校の同じサークル仲間。
気が合う者同士で、学校の内でも外でも一緒にいることが多い。
そんな5人の若者たちが、南の島で一週間の合宿をすることになった。
森の木の上に建てられた小屋、ツリーハウス。
そこが、その5人の若者たちの宿泊場所だった。
「・・・本当に、ここに泊まるの?」
案内役の村人に先導され、南の島の森の中を歩くこと数時間。
やっと目の前に現れたツリーハウスを前に、
短髪の女子学生は、そんな不満混じりの声を漏らした。
しかしそれも無理もない。
椰子の木のような樹木の上、
遥か高くに見上げるツリーハウスは、
遠目にも、とても人が住める小屋には見えなかった。
長い間使われていないのか、
外装には蔦が這っていて、壁に使われている材木はボロボロ。
そこへ至るために設置された木製の階段は腐ちかかっていて、
今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
軽薄そうな男子学生も、頭の後ろで手を組んで言う。
「おいおい、こんなボロ屋に泊まるのか?
やっぱりちゃんとしたホテルを取ったほうが良いって。」
そんな二人の文句に、眼鏡の男子学生が口を尖らせて反論する。
「ありきたりな場所は嫌だって言うから、
わざわざ曰く付きの場所を探したんだぞ。」
「曰くってなあに?」
長い髪の女子学生がキョトンとした顔で聞き返す。
話に乗ってもらえたのが嬉しくて、眼鏡の男子学生が得意げに話し始めた。
「実はね、このツリーハウスでは、過去に事件があったらしいんだ。」
すると、体格が良い男子学生が肩を小突くようにして加わってきた。
「事件って何だ?殺人事件か?」
殺人と聞いて、長い髪の女子学生は恐ろしそうな表情になった。
眼鏡の男子学生は小突かれた肩をさすりながら話を続ける。
「近所の村人に聞いた話では、どうもそうらしいんだ。
何でも、ツリーハウスに何人かが取り残されたことがあったらしい。
救助が遅れて、その間に食料が不足して奪い合いになって。
やっと救助がやってきた時、
残っていた人たちはみんな血塗れの状態だったそうだ。」
そんな説明に、短髪の女子学生も恐ろしそうな表情になる。
「まさか、食べ物が不足してお互いに?
そんな事件が起こったツリーハウスに泊まるのなんて・・・」
「恐ろしい?」
「ううん、楽しみ!
だってあたし、肝試し大好きだもん。」
予想と真逆の反応に、男子学生3人が転びそうになる。
ついさっきまで恐ろしそうにしていた、長い髪の女子学生も苦笑い。
短髪の女子学生の元気を分けてもらえたようだった。
「どっちにしても、もうここまで来たんだから。
これから一週間は、ここに泊まるしか無いんだけどね。」
眼鏡の男子学生の言葉に、
その5人の若者たちは揃ってツリーハウスを見上げた。
そうしてその5人の若者たちの合宿が始まったのだった。
ツリーハウスに到着したのも束の間。
案内役だった村人は、説明もそこそこに、
そそくさと村へと帰っていってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、その5人の若者たちが誰ともなく言う。
「あの人、随分あっさり帰っていったわね。」
「よほど、このツリーハウスには近付きたくないらしいな。」
「昔の事件のことが恐ろしいのでしょうね。
こんなところで一週間も生活するなんて、わたし不安だわ。」
まだ怖がっている長い髪の女子学生に、眼鏡の男子学生が元気付けるように話す。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
このツリーハウスは村からは離れた場所にあるけど、
何かあったら村人がすぐに来てくれることになってるんだ。
すぐ近くには海岸があって釣りも出来るし、
森の中には食べられる木の実が生ってる木も生えてるし、
食料が不足するなんてことは無いよ。」
「念の為に、非常用の缶詰も持ってきたしな。」
体格が良い男子学生が、重そうなリュックを軽々と持ち上げてみせる。
それでも心配そうにしている長い髪の女子学生に、
短髪の女子学生が安心させるように身を寄せる。
「あんたはちょっと心配性なのよ。
あたしたちが一緒なんだから、安心して良いのよ。」
「天気予報でも、俺たちが滞在してる間は嵐もないみたいだしな。
何も心配することは無いさ。」
軽薄そうな男子学生が頭上を見上げながら言う。
森の木々に阻まれた先の空は、カンカン照りの日差しだった。
それからその5人の若者は、ツリーハウスに滞在する準備を始めた。
今にも崩れ落ちそうな木製の階段を上り、ツリーハウスがある場所まで登る。
ひしゃげて引っかかる扉を開けた中では、
虫や小動物たちが気持ち良さそうに涼んでいた。
換気のために窓を開けると、それらの先住民たちは慌てて外へ逃げ出していった。
ツリーハウスは五角形型をしていて、5人で寝泊まりするには丁度いい広さ。
案内役の村人の説明によれば、台所やトイレなどは地上の小屋にあるようだ。
古くくたびれているが、よくあるツリーハウス。
特筆すべき点があるとすれば、それは高さだった。
ツリーハウスが設置されているのは、椰子の木のような樹木の遥か上方で、
ちょっとしたビルくらいの高さがある。
遥か下の地面を見下ろしながら、軽薄そうな男子学生が苦笑いする。
「なあ。
ツリーハウスって、こんなに高所にあるものなのか?」
「いや、僕も初めてでよく知らないんだ。」
「俺は他所のツリーハウスを使ったことがあるけど、
こんなに高い場所のツリーハウスは初めてだ。」
眼鏡の男子学生と体格が良い男子学生はそう返事をすると、
遥か下の地面を見てゴクリと喉を鳴らした。
「ここから落ちたら、無事では済まないだろうね。
下には尖った岩や木の根がたくさんあるし。」
「あの階段がもし壊れたら大変だな。」
男子学生3人が言う通り、
もしも階段が使えなくなったり、ここから落ちるようなことがあったら、
無事では済まないだろう。
そう確信させるような高所に、そのツリーハウスは設置されていたのだった。
それからその5人の若者たちは食事の準備をすることにした。
初日から缶詰の食事では味気ないということで、食材から採ってくることにする。
まずは持ってきた荷物を地上の小屋へ仕舞う。
そして、男子学生3人は海へ釣りに、女子学生2人は森へ木の実を取りに、
各々道具を用意して出かけていったのだった。
夕飯は取れたての魚と木の実で南国の食を楽しむ。
そのはずだったのだが。
しかし、慣れない釣りに男子学生3人は四苦八苦。
結局、魚はほとんど釣り上げることができず、
女子学生2人が取ってきた僅かばかりの木の実だけの夕飯になったのだった。
それでもなお、合宿初日から缶詰には頼るまいと、
5人の若者たちは明日早起きをして再び食料を調達しにいくために、
初日の夜は空腹を抱えたまま早めに床についたのだった。
そんな初日の夜、深夜。
ツリーハウスの外で吹き荒れる風雨の音で、その5人の若者たちは目を覚ました。
軽薄そうな男子学生が、眠気眼を擦りながら尋ねる。
「なあ、ずいぶんと外が荒れてきたけど大丈夫か。」
「おかしいな。
予報では、嵐にはならないはずなんだけど。」
返事をした眼鏡の男子学生が、
テーブルの上に置いてあった眼鏡を掛けて窓の外を見る。
深夜の森の中は真っ暗でよく見えないが、
ツリーハウスの小さな明かりが照らす窓には、風雨が強く打ち付けていた。
外から聞こえる風の音はまるで台風で、嵐と言える状態。
何かが風で飛ばされてきたのか、
時折ツリーハウスの外壁に何かが当たる音がして、
その度にその5人の若者たちは身を震わせた。
そうしてその夜、
その5人の若者たちは空腹と嵐で眠れぬ夜を過ごした。
翌朝。
やっと嵐が収まって、
その5人の若者たちがツリーハウスの外に出ると、
そこには変わり果てた光景が広がっていた。
ツリーハウスの周囲の木々は、枝葉や幹が折れてしまっていた。
地上に設置されていたはずの小屋は滅茶苦茶で、
中に仕舞ってあった食料や荷物共々壊れて、
ほとんどがどこかに飛ばされてしまっていた。
「ねえ、あれを見て!」
長い髪の女子学生が悲鳴をあげて指で指し示した先。
ツリーハウスから地上へ降りるための階段は、
跡形もなく吹き飛ばされてしまっていた。
「階段が、無くなってる。」
「おい、どうする。
これじゃ地上に下りられないぜ。」
「木登りの要領で幹を伝っていくのもダメみたいだな。
この木、つるつるで掴む場所がほとんど無いぞ。
枝葉も嵐で飛ばされて、手がかりになるものがない。」
幹に手を伸ばしていた体格が良い男子学生が、首を横に振っている。
眼鏡の男子学生が恐る恐る下を覗き込む。
遥か下の地面には、岩だの折れた木だのが多数落ちていて、
飛び降りれば怪我では済まないであろうことが伺えた。
ツリーハウスから地上に降りる方法は無さそうだ。
さらに悪いことに、
持ち込んだ食料や道具は地上の小屋に仕舞ってあって、
小屋ごと吹き飛ばされてしまっている。
つまり、その5人の若者たちは、
食料も何もないツリーハウスで孤立してしまったのだった。
木の上遥か高所のツリーハウスに取り残されて。
それでもその5人の若者たちは努めて冷静さを保っていた。
事前の説明では、
何かあった時は村人が救助に来てくれることになっていた。
あの嵐を見たなら、きっと村人がすぐに救助に来てくれる。
そう思っていたので、まだ冷静さを保っていられた。
しかし、いくら待てども救助はやって来なかった。
その5人の若者たちには知る由もないことだが、
実は村からツリーハウスに通じる道が嵐で塞がれてしまい、
すぐには救助に来られない状態だった。
そうして救助を待っている間に時間は過ぎ去り、
太陽は頭上高くに上り、西に傾いていった。
昨夜の嵐による睡眠不足と、まともな夕食を用意できなかった空腹と、
睡魔と空腹がその5人の若者たちを苛む。
孤立した高所のツリーハウスから逃れる術は無く、
南の島の山の中では外部と連絡を取る手段も無く、
空腹に苦しめられながら寝ることくらいしか苦痛を和らげる方法は無かった。
それでも何とかこのツリーハウスから脱出しようと、
その5人の若者たちはあれこれ知恵を出し合って考えた。
避難用の梯子が用意されているはずと探したが、
それらしい物は既に腐って土台ごと外れて失くなっていた。
シーツやカーテンなどを繋いでロープを作ろうとしたが、
そもそもツリーハウスにはろくな寝具も用意されていなかった。
ならばツリーハウスの建材に使われている木材を剥がして、
梯子かそれに類する物を作ってしまおうとも考えた。
しかし、このツリーハウスは元々古く建材も損傷していて、
さらには工具類もまとめて地上の小屋の中だったということで、
諦めざるを得なかった。
そうして、
もうすぐ救助はやって来る。
もう間もなく必ず救助はやって来る。
それを待っている内に、数日が経過していった。
食料も何も無いツリーハウスで孤立して数日。
その5人の若者たちは、ツリーハウスの中でぐったりと横たわっていた。
空腹と、南の島の暑い気候は、
経過した日数以上にその5人の若者たちを消耗させていた。
衰弱したその5人の若者たちはもう動くことも出来ず、
ツリーハウスの中で雑魚寝の様相。
みんな目をつぶって眠っているようだった。
その中で、眼鏡の男子学生の瞼が静かに開かれた。
ツリーハウスの床に横になったままで視界だけが色を取り戻す。
すると唐突に、生々しく伸びる足が視界に飛び込んできた。
それは、目の前で横になって眠っている長い髪の女子学生の足。
雑魚寝をしている長い髪の女子学生の足が偶然、目の前にあったのだった。
キュロットスカートから覗く足は、間近で見ると生々しく魅力的に映る。
それに反応したのか、腹の虫がやかましく鳴き声をあげる。
邪な衝動が体の中を駆け巡る。
いやいや、そんなことをしてはいけない。
眼鏡の男子学生は思い直して、ゴロンと寝返りを打った。
仰向けになって天井を見上げる。
ツリーハウスの天井も屋根も穴だらけで、頭上には外の木の枝葉が覗いている。
椰子の木のような枝葉は嵐で傷ついたのか、樹液を滴らせていた。
樹液の雫がぽとりと落ちて鼻の頭を叩く。
その臭いを嗅ぐと妙な気分になってくる。
自分は今、何をしようとしたんだろう。
考えようとして、ふと気が付く。
今のこの状況は、
このツリーハウスで過去に起こったという事件と同じなのではないか?
過去の事件でも、このツリーハウスで宿泊客たちが孤立してしまったんだっけ。
食べ物が無くなった宿泊客たちは、
どうやってこの焼け付くような飢えを凌いだのだろう。
今なら、それが分かるような気がする。
眼鏡の男子学生は、カサカサに干上がった唇の間から、
絞り出すように小さな声を漏らした。
「今は非常事態なんだ、やるしかない。
とにかく誰か一人でも生き残らなければ。
このままでは、僕たち5人全員全滅してしまう。
それだけは避けなければ。」
そうして眼鏡の男子学生は、吸血鬼にように口を広げると、
目の前に横たわる長い髪の女子学生の生々しい足に手を伸ばした。
それからさらに数日が経過して。
村からツリーハウスに続く道がようやく復旧して、
案内役の村人がツリーハウスへ救助のために出発した。
あんな嵐に見舞われて、
さらには帰る予定の日になっても姿を現さなかったことで、
その5人の若者たちが何らかの事故に巻き込まれたことは明らかだった。
もしかしたら過去の事件と同様に、
ツリーハウスの中に取り残されているのかもしれない。
そんな予感を感じながら、村人はツリーハウスの場所までたどり着いた。
しかし、周囲に人の気配はなく、滅茶苦茶に壊れた小屋があるだけ。
用意した梯子をかけてツリーハウスのある高所まで登ることにする。
足場の悪い森の中、梯子を使って慎重に登っていく。
そうしてやっとたどり着いたツリーハウスは、
嵐で多少損傷していたが、それ以上の異常は見当たらなかった。
では中に?
村人は喉をひとつ鳴らして、それからツリーハウスの扉を開けた。
するとツリーハウスの中では、凄惨な光景が広がっていた。
ツリーハウスの中は、真っ赤な血塗れに染まっていた。
床には真っ赤な血の池が広がっていて、
部屋のあちこちに、体を真っ赤に染めた若者たちが横たわっていた。
何のものか分からない、食いちぎられた肉のようなものが散乱している。
そして部屋の真ん中には、眼鏡の男子学生が座り込んでいた。
眼鏡の男子学生は息があるようだが、
口の周りを真っ赤に染めていて、呆然としている。
「君、大丈夫か・・・?」
救助に来た村人が恐る恐る話しかける。
すると、眼鏡の男子学生は肩をピクリと反応させ、
それから何が可笑しいのかケタケタと笑い始めた。
その様子に村人は半歩後ろに下がりながら、もう一度呼びかける。
「君、何があったんだ?」
村人の再度の声に、眼鏡の男子学生の笑い声はピタリと止んだ。
そして、ゆっくりとこちらに振り向くと、
村人の方へヨロヨロと近付いて、肩を掴んでしがみついてきた。
口の周りを真っ赤に染めて襲いかかってくる様子はまるで獣のよう。
「や、止めろ!食べないでくれ!」
村人が錯乱して叫ぶ。
しかし、眼鏡の男子学生には危害を加える様子は無く。
それどころか、息も絶え絶えに言葉を吐き出したのだった。
「た、食べ物。食べ物をくれ・・・!」
それから眼鏡の男子学生は、村人から食べ物を受け取ると、
指ごと食い千切らんばかりに夢中で食べ散らかした。
そうして人心地ついて、ようやく村人の質問に応え始めた。
「食べ物に困って人を食べる?
まさか、そんなことをするわけがないでしょう。
ここにいるのは、僕の友達なんですよ。
お腹が空いて動けなかっただけです。
それよりも、他のみんなにも食べ物をあげてください。
倒れてるみんなも、もちろんちゃんと生きてますよ。
空腹で動けなくなっているだけです。」
ツリーハウスの中で倒れているその若者たちが死んでいるように見えたのは、
どうやら村人の早とちりだったようだ。
倒れているその若者たちを調べると、ちゃんと息をしていた。
その証拠に、食べ物を与えるとその若者たちは夢中で食べ始めたのだった。
ツリーハウスの中を見渡してその様子を確認すると、
眼鏡の男子学生はやっと事態の説明を始めた。
「あの嵐で、ツリーハウスの階段が壊れてしまったんです。
このツリーハウスはすごく高い場所にあるので、
地上に下りられなくなってしまって。」
体格が良い男子学生が、指についた食べ物を舐めながら言葉を継ぐ。
「そうそう。
このツリーハウスが設置されてる木はつるつるしてて、
掴まって降りることもできなかったんだよな。
周りの木に飛び移ろうにも、嵐で折れちゃってたし、
飛び降りるにも高すぎる。」
軽薄そうな男子学生が、手をひらひらさせながらおどける。
「缶詰とかの食料や工具を地上の小屋に入れてあったから、
階段が壊れて取りに下りられなくなったんだよな。
あれは大失敗だった。
いずれにせよ、小屋ごと風で飛ばされちゃってたんだけど。」
そして短髪の女子学生が、腕組みをしながら言った。
「だからあたしたち、考えたんです。
食べ物も無く、地上に下りることもできず、どうしようかって。」
「それで僕たち、上に登ることにしたんだよね。」
「・・・上?」
眼鏡の男子学生が示した結論に、村人は首を傾げた。
その様子に、眼鏡の男子学生がツリーハウスの天井を指しながら説明する。
「そう。
あの時、気がついたんです。
このツリーハウスの屋根の上に、何かがあるって。
調べてみたら、木の実がいくつも生ってたんです。
それを食料にして、救助が来るまで食い繋ぐことができました。」
「でも、その木の実を食べていたら、何だか変な気分になっちゃって。
みんなで大騒ぎして、
それからお腹が痛くなって倒れちゃったの。」
短髪の女子学生が、バツが悪そうに頭を掻いている。
つまり、その若者たちの説明によれば、
ツリーハウスの天井の上に生っていた木の実を食料にしていたが、
木の実の影響で酩酊状態になってしまい、
みんなで大騒ぎをした結果が、この惨状なのだという。
そこら中の真っ赤な血濡れの正体は、血ではなくて木の実の汁だったようだ。
それからその若者たちは、村人が用意した梯子を使って、
ツリーハウスからやっと地上に下りることができたのだった
そうして、その若者たちはツリーハウスから救助された。
今は案内役の村人に先導され、
まずは村へ戻る道を移動しているところだった。
村人が歩いている後ろで、その若者たちがコソコソと話をしている。
「まったく、大変な目に遭ったね。」
「ああ。
今は一刻も早く家に帰りたいよ。」
「俺も。とにかく疲れた。」
「そうね。
でも、何か足りないと思わない?」
その若者たちはお互いに顔を見合わせると、真っ赤な口をニイッと開いた。
「肉、もっと肉が食べたい!」
終わり。
この物語に出てくる木の実は、ビンロウという木の実をモチーフにしています。
ビンロウの実は齧ると真っ赤な汁が出て、軽い酩酊状態になるのだとか。
でも飲み込んでしまうと胃痛の原因になるそうで、
若者たちはそのせいで腹痛を起こしたのかもしれません。
危うく餓死しそうだった事を考えれば、腹痛で済んだのは幸運だったと言えます。
また、この物語は違う見方もできます。
救助が来た時、若者たちの人数が足りていないようにも思えるのです。
一人が何も喋っていないから、その場にいないように見えただけなのか、
それとも本当に一人欠けてしまっていたのか、
それによって違う見方もできると思います。
そもそも、本当にツリーハウスの屋根の上に木の実が生っていたのか、
劇中でそう主張しているのはその若者たちだけなのです。
お読み頂きありがとうございました。