表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

7(裏)

「呪文は知らせましたね。」デニスが、話している大河達をモニターの中に見ながら報告する。「だが、祭壇にある霊液をどうするかですけど。」

クリスが、頷いた。

「よし、ここで皆を入れよう。」デニスが振り返るのに、クリスは続けた。「急いで霊液の瓶を渡すことに気付くかもしれないだろう?ハリー、薬品は大丈夫か。」

ハリーは頷く。

「安定して投与中だ。皆の目には、かなりおどろおどろしい様が見えてるんじゃないかな。明るい普通の洞窟だが、映してる映像が本物にしか見えてないから。」

デニスがクリスと目で頷き合って、デニスは言った。

「皆さん、入場してください。」

『了解。』

要の声が返って来る。

わざと皆で話しながら入場を始めると、画面の中の弥生と美里が慌てた。

まだ、ティクオン霊液を渡せていないが、どうだろうか。

「行って!オレ達はオレ達で何とかする!奴が出て来たら、退散呪文を唱えるから!」

大河が叫ぶ。

美里と弥生の二人がおろおろしたが、しかしそのまま、霊液は祭壇に置かれたままで、二人は祭壇脇の岩影へと駆け込んで行った。

「ああ。」クリスが落胆した声で言った。「駄目だったか。まあ、まだあれが出て来ても正気で居られたら持って来ることも出来るし。」

ハリーが、顔をしかめてクリスを見た。

「ちょっと無理だと思うぞ?オレも出来てた画像を見たが、結構気持ち悪いヤツだった。それが映像じゃなくて目の前に居るように見えるわけだから、多分気を失うか発狂するかじゃないか。」

ハリーの自信は相当なものだ。

確かにそこにあると、しっかり見えると信じているのだ。

モニターの中では、アルバート達が事前に決められたセリフを演じている。

彰が、言った。

「…湊の覚醒は呪文の途中にしろ。」彰は、険しい顔で言った。「あいつは自分で皆をこんな場所に引き込んだと思ってるはずなのに、自分だけ逃げようとしたわけだろう。そういう奴はとことん怖がってもらわないとな。退散呪文を唱えられなかった時、あいつは後回しにしろ。とことん怖がらせてやりたい。」

デニスは、クリスを見る。

クリスは、頷いた。

画面の中では、呪文が始まっていて、映像照射の班が構えて緊張気味にしていた。

クリスは、ふと彰の装備は大丈夫か、と思って彰を頭の先からつま先まで見て、ハッとした顔をした。

「ジョン。結婚指輪は外さないと。」

彰は、慌てて左手をひっこめた。

「何を言っている。これは紫貴と結婚式をしない代わりに縁結びの神社に参拝した時に、お互いに指にはめたのだぞ?一生外さないと約束した。」

クリスは、顔をしかめて言った。

「だから演じている間だけですから。終わったらはめたらいいですって。どこの世界に結婚指輪をしている邪神が居るんですか。」

彰は、ブンブンと首を振って後ろへ下がった。

「無理だ。それだけは絶対無理だ。紫貴を裏切るなんて出来ない。」

だから裏切るんじゃないだってば。

皆が思ったが、この様子だと説得出来るのは恐らく、妻の紫貴しかいない。

だが、紫貴は向こうの屋敷で夢の中だろう。

それを叩き起こしてまで、彰を説得してくれとは、クリスには言えなかった。

「だったら他にいっぱいはめたらどうですか?」デニスが、モニターを気にしながら言う。「誰か、指輪を持ってないか。」

全員が、ポケットを探っている。

だが、そんな所に簡単に指輪が入っているとは思えなかった。

「湊を覚醒させます!」

ハリーが、混乱し始めた地下室の中、声が通るように叫んだ。

「隣りの部屋を見て来い!アレックスが多分、小道具を持ちこんでるから何かあるはずだ!」

クリスが叫ぶ中、何も知らないモニターの中では、こちらの送り込んだフード集団が松明を囲んで呪文を唱えていた。


「湊が覚醒しました。」

ハリーが報告する。

モニターの中では、自分が置かれた状況を把握しきれていない湊が、半狂乱で叫んで暴れていた。

「あのゴムはかなり強固ですから。乾いて固まった今ではあれぐらいじゃビクともしません。」

デニスが言う。湊が叫んでいる。

「オレの…オレの荷物は?!」恐らく、中にあるエルダーサインや輪頭十字を手にしようとしているのだろう。「取ったのか!返せ!オレの…」

お前はそれを持って逃げたんだろうが。

皆が思いながら見ている中で、呪文が盛大に終わりを迎えた。

「画像を。」クリスが、冷静に言った。「さあ、ショーが始まるぞ。」

画面の中では、松明の灯りがパッと消え、祭壇の所からせり上がって来る、平面で見てもかなり気持ちの悪い物体が映し出されていた。

要とアルバート、それにアレックスや他の者達は、それを見た。

…これは確かに、ハラワタに来る。

要は、それが映像だと分かっているのに総毛立つのを感じた。

隣りに立っている、アルバートは放心状態で真っ青な顔をしていた。アレックスは、その画像を楽しむように半笑いで見上げている。

その顔が、あまりにも狂気じみていて、要は大丈夫かと心配になった。

博正が、横で小さく言った。

「…うえ…駄目だ、知っててもこりゃ吐き気がする。」

真司も、フードの中で青い顔をしながら頷く。

「なんか命の危機を感じてるのか、変化(へんげ)しそうなんだけど。」

要は、慌てて言った。

「こんな所で変化したら…」と言ってから、ハッとした。そうだ、そういう世界だった。「いや、別にいいか。無理そうだったら、遠慮なく狼になってくれ。」

「ああああ!!」

弥生が金切り声を上げている。

隠れていることも分からなくなってしまったようだ。

「弥生!」

美里が止めようとしたが、弥生は叫ぶのをやめなかった。

美里は咄嗟に目を閉じて見てはいなかったのだが、弥生の叫びに目を開き、その姿を見てしまった。

「きゃあああああ!」

美里も、叫んだ。

「居たぞ!」要が、咄嗟にセリフを叫んだ。本当ならアルバートのセリフだったが、アルバートは放心状態で無理そうなのだ。「女だ!二人居る!」

「呪文、呪文を…!」大河が必死に言う。「理久、理久…輪頭十字…。」

だが、理久はあいにく、失神していた。

「…駄目だな。霊液どころか、呪文もままならない。」クリスが、残念そうに言った。「ロストルートで。ええっと、ジョンが言うように、こっちの四人を先に。」

映像班の者達が頷き、操作された化け物の画像は四人を次々にその黒い体の中へと飲み込んで行く。

こちらは画像だけなので中が透けて見ているが、あちらでは正味訳の分からない怪物に、人が食われているように見えているだろう。

湊はその様子に慄いて、金切り声を上げて暴れていた。

要は、さすがにそれが本物に見えているので、吐き気に襲われて洞窟の隙間にしこたま吐いた。

それほどに、その姿は醜悪だった。

デニスが、言う。

「では、最後の検体に。ジョン、出ますか。」

ここで、彰が出て行って散々に罵倒してくれたら皆、胸がすくんだが。

そう思っていると、彰は首を振った。

「いや…」と、ジャラジャラと指にある限りの指輪をはめられた手で顎に触れながら、言った。「待て。あいつが化け物相手に何を言うのか見てみたい。私の指示に従って動かせ。」

彰は、もう足にあの、エア・パッドを装着していたが、出て行こうとはせず、そう言った。

デニスが肩をすくめて映像班を見ると、映像班は化け物を湊へとグンと寄せた。

湊は、闇雲に叫んだ。

「やめろ、やめてくれ!」湊は叫んだ。「オレはニャル…ニャルラトホテプの、しもべだぞ!」

彰は、手を上げた。

映像班が、サッとキーボードから手を放す。

彰は、言った。

「なるほど狡猾なヤツ。それが切り札になると思っているのか。思っているのなら仲間が食われて行くのをなぜ黙って見ていたのだ。気に食わない。」と、クリスを見た。「化け物に湊を調べるような動きをさせた後、要達を攻撃させろ。あいつらは、ここで戻って来たらいい。要、上手くやれよ。」

要は、それを聞いて顔をしかめた。簡単に言ってくれちゃってもう。

映像班が、化け物をこちらへ向けた。

途端に、傍のアルバートが悲鳴を上げて逃げ出した。

まあ、無理だよね。

要は思った。

博正と真司が、堪え切れずに人狼へと変化して走り去って行く。

要は、最大限に努力をして、演じようと叫んだ。

「し、知らなかったのです!」要は、ジリジリと後ろへと下がりながら、叫んだ。「他の神の僕が居たなど…!」

アレックスが、ハッと我に返って叫んだ。

「退散呪文を!」

だが、ここで食われろって彰さんが。

要は思いながら、わざと映像に飲まれるように倒れた。アレックスも、ここは食われる一択だからと思いながらふと、祭壇のゴブレットのような蓋のある瓶に目を止めた。

…これがあったら、あいつが逃れるかもしれない。

アレックスは、咄嗟にそれに手を伸ばして、掴んだ。

それは倒れるアレックスと共に吹き飛び、中が周囲に撒き散らされて、そうしてアレックスは画像の中で動かなくなった。

「…アレックス、要、他の者達も。もう大丈夫だ、向こうからは邪神の体で君達は見えてない。退場しろ。」

クリスの声がイヤホンから言う。

何やらもっちりむっちりとした感覚の中、フードを被った一団として出ていた皆は、のそのそと這いながら退場した。

その感覚でさえ、脳が作り上げたものなのだと思うと、本当に認知機能というのは大切なのだと改めて要は思った。

「さて」彰が、皆が退場するのを見てから、スッと立ち上がった。「行くか。ハリー、指示通りにな。あいつには、楽に死なせてやるつもりはない。デニス、クリス、しっかりやれよ。」

彰は、エア・パッドの体重移動だけで、スーッとそこを移動して行く。

その後ろ姿は、邪神そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ