alteration
まるで当然の様に。
認めたくない事実だけが私の前に、ご丁寧に並んでいく。
両親が離婚した。
私は父の元へ。
弟は母の元へ。
別に父でも母でも、正直どちらでも良かった。
ただ、今までの人生で、母よりも父と過ごした時間の方が圧倒的に短かったから。
弟と別れるのは少し寂しかった。
何かと私の後ろをついてきた、純粋な弟。
ちゃんと母の面倒を見てやれるのだろうか。いや、大丈夫だろう。ここで信じなくて、いつ信じるっていうんだ。
チクチクタクタク―――
時が経つ。
気付けば私は一人暮しを始めていた。
父とも離れてしまった。
私は独りだ。
会社に行って、仕事をこなして、上司のご機嫌を窺う日々。
変化のない、退屈な日々。
ゆっくりと、でも確実に過ぎていく時間が、私にとって気持ち悪かった。
その日、私は偶然にも弟に出会った。
一見し、目を疑う。
金髪で、派手なピアス。隣にはいかにも馬鹿っぽそうな女が一人。
時が人を変える。
環境が人を変える。
弟に何があったのかは知らないけど、弟は確実に変わっていた。
「よう、姉貴じゃんか。超久しぶりじゃね?」
吐き気のするような喋り方。一瞬身震いをしてしまう。
隣の女は「うっそー」とかほざいて私のことを見ている。
「姉貴、変わったな」
弟の言葉に、私は首を振った。
変わったのは弟だ。
私が私で居続けても、周りが周りのままで居続けてくれるわけじゃない。
そう痛感せざるを得ない状況だった。
結局、私と弟は五分も喋らずにその場を後にした。
母は元気らしい。
本当かどうかわからない。
それからすぐ、父が亡くなった。
交通事故だった。
バイクと歩行者の衝突。歩行者が無事で済むはずがない。
でも、死に顔は意外と綺麗だった。病気で死んだと言われてもわからないかもしれない。
病院で、加害者、バイクの運転手に会った。
―――弟だった。
私の周りは変わっていく。なのに、私だけは何も変わらない。
「まさか、親父だったなんて・・・・・・」
弟は泣いていた。ぼさぼさの金髪を、横に揺らしながら泣いていた。
そりゃ、自分の親を自分で殺してしまったのだから、涙の一粒も落ちてくるだろう。
あれ、私の涙はどこに行ったの?
父が死んだのに、私の目からは涙が零れなかった。
母が泣きながら来た。
離婚しておきながら、父の死は悲しいらしい。
そりゃそうか。人、一人死んでるんだから。
「―――あなた、変わったわね」
母の言葉に顔を上げた。
まるで私じゃないモノを見る目。
数年前まで家族だった人に、いや現在だって戸籍上母親である人に、「あなた」と言われた。
第三者に向けて言われている気分。気持ち悪い。
「あんなに感受性豊かだったのに、涙の一つも出なくなったの」
決め付けたような言い方。でも、事実なのかもしれない。
離婚をして母は変わった。
でも、もしかしたら、私も変わったのかもしれない。
いや、私は変わった。
自分では変わっていないつもりだった。
でも、母は私が変わったと言った。弟だってそう言った。
他人から見た自分。自分から見た他人。自分から見た自分。
私は変わったんだ。
時が、環境が、私を変えたんだ。
こんな非情な人間に。
違う、私だって悲しい。
悲しいはずなのに、涙が出ない。
どうして?
父に対しての愛情が少なかったから?
違う。
離婚した時を境に一度も涙を流していなかったから、涙を忘れてしまったの?
違う。
離婚した時に、涙を枯らしてしまったから?
違う。
私だって・・・。
一筋。
静寂と共に私の頬に伝う水滴。
たった今、私は変わった。
ほら、涙が出たよ。
離婚してから私は変わった。
変わらない日々で私は変わった。
父が死んで私は変わった。
日々変わっていく。時が、環境が、人を変える。
そして、私自身が、私を変えるんだ。
読んでくださってありがとうございます。
きっとこれであなたも些細な何かが変わったはずです。
世の中の、他人の、自分の変化を大切にしてください。