アパートの住民
こちらは百物語三十六話になります。
山ン本怪談百物語↓
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学生時代。
色々あって、学生寮を追い出されたことがある。
知り合いのお父さんが不動産屋で、頭を下げて格安のアパートを紹介してもらったんだ。
学生寮へ戻ることが許されるまで、俺はその格安アパートに住んでいた。
半年くらい住んでいた。とても住みやすいアパートだったよ。
俺の部屋は2階の201号室で、住民とも仲良くやっていた。203号室のおじいさんは、よく晩御飯をご馳走してくれるし、204号室の女子大生と部屋で酒を飲んだこともあった。
205号室には賑やかな家族が住んでいるらしく、毎日楽しそうな会話が聞こえてきた。
202号室の住民だけは、一度も顔を見たことがなかった。たまに爆音でロック・ミュージックを聴いているが、それ以外は何も知らない。
ある日、このアパートを紹介してくれた知り合いのお父さんから電話がかかってきた。
「どうだい、〇〇君。アパートの生活に不自由はないか?」
「えぇ、大丈夫です。この前は203号室のおじいさんとご飯を食べたんです。そのおじいさんのカレーが美味しくて…それから、204号室の人と酒を飲みながら愚痴を聞いてもらったり…」
知り合いのお父さんは、笑いながら俺の話を聞いてくれている。楽しそうに話す俺の声を聞いて安心してくれたのだろう。
「楽しそうでよかったよ。とても面白い『冗談』だ」
知り合いのお父さんがよくわからないことを言い始めた。そして…
「君の住んでいるアパートに、ほかの住民はいないよ。そのアパートは改装中なんだ。君が住む201号室だけ工事が終わっているので、特別に住めるようにしたんだよ」
その言葉を聞いてから、ほかの住民が俺の前に姿を見せなくなった。
いや、見せなくなったというよりは…「消えてしまった」という方が正しいかもしれない。
俺は学生寮に戻るまで、静かなアパート生活を送ることになった。